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【連載実験】生命の灯が消える、その日まで。④Dernier épisode

皆さんこんにちは。ポンコツ河嶋桃です。
万年文学少女の連載実験、いよいよ最終回です。
第一回 https://king.mineo.jp/reports/157573
第二回 https://king.mineo.jp/reports/157578
第三回 https://king.mineo.jp/reports/157689

*必ずお読み下さい*
医療関係の描写がありますが、この物語は完全な『フィクション』です。現実と混同しないようにご注意下さい。実在の病気や病態とは一切関係ありませんよ。

【最終章・ありがとう】
一時間後、家族が病室に勢揃いした。
 
「今から私が言うことは、私個人の思い。私が逆の立場だったら『そんなこと認めない』って言うかもしれないけど、これは私の本当の思いだから最後まで聞いてほしい」
家族全員が、私の話を聞き逃すまいとして私の方を見る。
「本庄先生と話をしたんだけど、私の余命はあと一ヶ月、長く持っても二ヶ月くらいだと思うの」
家族全員が息を呑む。私以外の誰も口を開けない。
「でもね、私は『死ぬ』と言うことを『永遠の別れ』とか『悲しい出来事』だと思ってほしくない」
美歌が涙を流し始めた。
「美歌だってこの間『卒業証書』を貰ったでしょ?あの証書は人生の区切りであると同時に、新たな人生のスタートを証するものでもあると思うんだ。私はもうすぐ、人生の卒業証書を貰うことになる。美歌も三月に卒業証書を貰って『新たなスタートを切るんだ』とか思わなかった?」
「そりゃ思ったけど、進学するのと死んじゃうのは全然違う話じゃん」
私は、大きく息を吸い込むと家族に告げる。
「大して変わらないわ。要は身体がそこにあるか無いかだけの話でしょ?火葬したら身体は消えてなくなるけど、思い出とか、存在とかはいつまでも心に残るよね」
 何も言わない、言えない家族に私は畳みかけた。
「私は、形ある人間としてはもうすぐ卒業になると思う。でも、思い出なんかは君たちの心にこれからも残してもらえる」
「誰が忘れるもんかっ!」
優斗が珍しく声を荒げる。
「それが私の新たな人生のスタートなんだよ。だから、そのスタートをみんなで温かく見守ってほしいな」

次の日から、家族の目の色が変わった。調子のいい日に許可を貰って自宅へ戻ると、車椅子に乗る私は家族に家事のイロハを徹底的に叩き込んだ。
パパは家計のやりくりと二人の学校のこと、美歌はお掃除と洗濯、優斗はお料理と完全な分業体制が確立しつつあった。これで私は悔いなく逝ける。そう確信したころ、私の病状は急速に悪化した。
 
病室に家族が集まる。その頃、私は人工呼吸器が必要な程病状は悪化していた。もう卒業も時間の問題ね。
「おねがい…こきゅうきを…はずして…しゃべれないから…」
本庄先生に人工呼吸器を外してもらった私は、最後の言葉を口にする。
「かずくん…」
「みか…」
「ゆうと…」
「無理しなくていいからっ」
夫が私の言葉を遮ろうとする。
「わたし…みんなに…つたえたい…ことが…」
「え、何?」
家族全員が私の元に駆け寄る。

「みんな…ありがとね…」

私にもう喋る力はない、意識が薄れていくのを待つだけ。

「ママっ」
美歌が泣きながら私に抱きつく。
「私達もママにお願いがあるの。頑張って最後まで聞いてっ!お願いだから!」
夫が私に優しく語りかける。
「ママが、いや奈々美が『卒業』って言ってたじゃない?だから、僕たち三人で奈々美の卒業証書を作ったんだ。優斗が頑張ってくれたからかなりの出来栄えになったよ。ほら、よく見て」

 卒業証書
      中島奈々美 殿

  あなたは、永きにわたり中島和則の妻として、
  中島美歌と中島優斗の母親として、
  中島奈々美個人として、
  これまで一生懸命生きてきました
  私たちは、貴女の栄誉を称え、
  感謝の気持ちを込めて、
  大変優秀な成績でご卒業されることを証します
  
  ありがとう
  
  中島和則
  中島美歌
  中島優斗

立派な用紙に印刷された証書を見て、私は安堵した。
私はこの世に生まれて良かった。
この家族の一員になれて良かった。
私は、この為に生まれて来たんだ。
もう、私に何の悔いもない。みんな、ありがとう。
私の身体はここから消えて無くなるけど、心は皆の中にいられるんだよね。

「ねえ…」
「何?ママ」
「これって…」
私は微笑むと最後の力を振り絞った。

「そつぎょうしょうしょじゃなくて…かんしゃじょうじゃん…」

私の意識はそこで途切れた。ああ、私はついに死んじゃったんだ…

数年後。
新聞を読みながら、身なりもバッチリのパパが食卓にいる。隣の椅子には私の骨壺が鎮座している。『そこがママの居場所だから』なんだって。
高校生になった優斗が、学生服にエプロンといった少々珍妙な恰好でお弁当と朝食の準備をしている。
美歌は相変わらず料理は出来ないけれど、朝早くから洗濯に掃除にと大活躍。

「いただきま~す」
優雅にごはんを食べながら、美歌が一つ一つ確かめるように一日の行動予定を確認する。
「お弁当は優斗が用意してくれているから忘れずに持って行くこと!あと…今日パパは遅くなりそう?」
「今日は定時で事務所を閉めたら、早々に帰って来る。何てったって、今日は当の本人ですら忘れていて子供たちに思い出させてもらった結婚記念日だからな」
「了解、私も同じ理由で予定は空けているわ」
「優斗は?」
「さっきSNSで連絡があった。インフルエンザの流行で臨時休校だっていうから弁当持って図書館で勉強してくる」
美歌の頭の中で何かが閃いた。
「あ、じゃあママも一日家にいるから今夜は全員集合ね。折角だから鍋パ~なんてどう?」
「お、いいねえ。ママも時々そうやって鍋の用意してくれてたな」
「ちょっと待て!何でも勝手に二人で決めるけど、用意するの俺なんだぞっ!」
心地よい笑いが食卓に響く。

美歌がふと呟いた。
「ねえ、この状況を見たらママはなんて言うかなぁ?」

三人が同時に声を揃える。

「食卓の椅子に骨壺を置くなんて、邪魔でしょうがない!和室の隅にちょっとした台でも用意して、そこに置けばいいじゃない!」

パパが呟く。
「そうやって怒られるだろうけど、ママの居場所はここしかないからなぁ」
温かい笑いに包まれる我が家を、遠い空から眺めていた私は呟いた。


『ありがとね』
(了)



稚拙な内容ではありましたが、ご覧いただいた皆さまに感謝します。

さて、いかがでしたでしょうか。
いつもワケのわからないことばかり書き綴る不肖ポンコツ河嶋が、いつになく真面目な物語を紡ぎ出してみました。(数年前に紡ぎ出したモノの焼き直しですが)

実はこの物語、「うたの手紙~ありがとう」という羊毛とおはなサンの曲が好きで好きでたまらなくて数年前に紡いだものです。
ボーカルの千葉はなさんはガン?で数年前に他界されているのですが、この物語に登場する『ママ』とおはなさんの死生観?は結構被っていたりします。

たった一曲からここまで妄想を膨らませて物語を紡ぎ出した数年前の自分を、自分で気持ち悪いと思います。



最後までお付き合い戴いた皆さまへ。
『ありがとね♪』




あれ?いつものアタイと違いすぎる??
次回以降は平常運転で(^^ )


38 件のコメント
1 - 38 / 38
満足して逝けたのですね。うるうる~😢
卒業証書はすごかったです。ズビズビしてますー😥

やはり入院してから処置のしようがない状態というと、自覚症状が出にくい膵臓がんだったのでしょうか?

完結お疲れ様でございました。
命題は『ありがとね』ですね。
お付き合いいただき、ありがとうございました
恥ずかしい、いや照れ臭くてなかなか伝えられない感謝の気持ちを言葉にするってなかなか難しいもんですよね(^_^;)
最後まで「一人称」の視点で書き終えましたね。
普通、このような物語は最後「三人称」で終わるのが常ですが、一人称で終わったのが新鮮でした。
私からも御礼を言いたいです。
ありがとね。
新海誠さんが、章ごとに複数いる主人公の視点を変える技法を使っていましたね
あれ、結構難しいですよ…
何はともあれ、

ありがとね。
うるうる~🥺
でも、最期の言葉がツッコミなのは「らしい」と思いました。

投稿お疲れ様でした。
ありがとね。

>> ob2@秋風は花粉と共に🤧 さん

何かしらのオチがないと生きていけない人間です

ありがとね。
鼻水が出た

今年はもう花粉が飛んでるのか




  良かった



 あ り が と う
 奈々美さんの旅立ち家族の記憶としてずっと残るのでしょうね。それは確かに生き続けていることと同じなのかもしれない。大切なのは生きている時に何をするかなのですね。

 エピローグの学生服にエプロン姿もやっぱりセーラー服にエプロン姿だった貴女がモチーフですね。

 大変読み応えのある作品ありがとうございました。そうね今のマイネ王awardのくくりだと芸術部門になるのかな。次回作に期待。
『ありがとね』よかったです。

#予想は、数年後、、、『行ってきます』でした。

>> 草鞋虫@わらじむしと読みます さん

『良かった』
その一言だけで十分です

『ありがとう』
三途の川で六文銭がないため、追い返されたとの展開ではなかった。

心より哀悼の誠を捧げます。
南無....

>> じんで@肘の君 さん

『大切な人との思い出は、いつまでも心に残る。届かない想いなんてない』なんてね。

料理するならエプロンじゃなくて学生服を着替えろ!っていうのは今になって思いますが、この小説を書いたときはそれが普通だと思っていました(^^ )

>> 永芳 さん

書くきっかけになった曲が『ありがとう』だったので…
今になって初めて明かされた話ですが…

>> licky さん

家族目線では
『ありがとう』
『これからもよろしくね』
みたいなイメージのエンディングです
近しい親族(親、兄弟)を失ったことのない人間の創作ですから

この歌、思い出しました(っω<`。)


> 自分で気持ち悪いと思います。
それは駄目でしょう(・∀︎・i)タラー

>> ギリアム・イェーガー・ヘリオス さん

初めて聴きましたが、いい曲です
レオパレスの人が作曲しているんですね

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

そうなんですね。

あくまで「中島奈々美の生命の灯が消える(=終わる世界(最終章)の)物語」。
だけれど、、、 épilogue ではなくて数年後...🤔
  ※ケチつけたい訳じゃないですよー

>> 永芳 さん

形は変わっても、家族としての想いは変わることなく続く
そんなお話です

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

       ☆



    ∧_∧
   (   )成仏シテクダサイ
   (   )
    しーJ
 _ノ~゙^゙゙~゙^゙゙ヽ
ミ^゙ ミ^~゙゙゙ミ゙~゙゙ミ””
【中間総括】
手探り状態で始めた短編小説の連載ですが、マイネ王国民の皆さまの温かい励ましで完走することが出来ました。ありがとうございます。
戴いた励ましのお言葉や、お叱りの言葉。
一つ一つを心に刻みながら、一歩ずつ前に進んでいきたいと思います。

皆さまから戴いた一言が、アタイの糧になります。
いい経験をさせて戴きました。



『ありがとね♪』

>> 永芳 さん

彼女の魂は、きっと家族とともにあります
今までも、これからも

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

(  ̄- ̄)。o○(
そっか...💧

解脱して成仏するか、
それとも輪廻転生して苦しみ続ける{霊魂は天上界から地獄までの六つのどこかの国で生まれ変わって人になっているかも知れないし、隣の犬になっているかも知れない。もし豚になっていたらトンカツにして食べる訳にはいかないから殺生はしない。。。

  ∧,,,,∧
 (* >ω<) ニャンデヤネン☆⚟
 /し  つ ))
 しー J

}か、

の二者択一を押し付けちゃいかんよなぁ。。。( ̄▽ ̄;)
) m(᎑ ᎑)mゴメンナサイ
可哀想
大変やね

そんな安直な言葉を意にも介せず
新しい家族の姿を模索する彼らの今後を
奈々美さんとお茶でも飲みながら眺めていたい
うーん、全体を通してですがなかなか考えさせられましたねえ。

ある意味「死生観」を見直すというか。深いお話です。

> あれ?いつものアタイと違いすぎる??
> 次回以降は平常運転で(^^ )

え?、そのギャップもまた魅力じゃないんですか<よくわからない。
次回からまた悪ふざけモードに戻ります(^_^)
ただいま最終章を読み終えました。
家族愛、家族の絆が見事に描かれていて出色の出来栄えだと思います。
父母や祖父が健在だった頃のことを思い出しました。
本当にありがとうございました。
最近バタバタしててよめてなーい。、

すごい小説うますぎる。
やはり、文才あるやん。
全4章読み終えました。すっと入ってくる文章で、引き込まれました。

タイトルどおりの展開でしたが、逝く人も残される人も受け入れができていたんですね。よかったです。
やべぇ、涙出てきた...、仕事中なのに...。
(´;ω;`)ウゥ..

第一章から一気読みしました。
文章とか構成とか、そういうのは全然分からんですけど、単純に面白くて最後まで一気に読みました。

ハッピーエンド...で良いんですよね?
やべぇ、また泣けてきた…。

>> yoshi君 さん

最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました
家族ってこうあって欲しい、という想いを込めてみました

>> くろりんm@秋ですね🍁🍂🌾✨ さん

身体は離れ離れになっても、心は繋がっている

そういうことです

>> うまちゃん@平常運転 さん

勿論ハッピーエンド、です
お褒めの言葉、ありがとうございます

今度は仕事時間以外でゆっくりとお楽しみください

(^_^)
ハッピーエンドよりビターエンドの方が、心にグッとくるんですよねぇ。
また次回を楽しみに。
そして通常運行もまた、よろし。
 連載お疲れ様でした。
 近い将来、送る側あるいは送られる側になることは間違いないので、軽々にコメントはできません。
 いずれにしろ、この物語のようにはならないことだけは確かですが。

>> HAYA さん

暫く通常運行…

時が来たら、いや思いついたら次回ありかも、です
ニーズに依存しますけど(^_^;)

>> 弾正忠 さん

なかなかこの話みたいな送り方、
出来ないですよね

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桃ちゃん🍑おはようございます。

実はこの短編小説はすでに読んでいて…でもその時は色々なことを思い出して…今回2回目です。
ようやく心が落ち着いたのでコメントさせてくださいね😌

父も、義父も、実家で飼っていた愛犬のviviも、最後の瞬間には会えませんでした。
私も1人でそっと消えるように逝くのかな😇
今からでもこの物語のように感謝を込めて卒業証書を贈りたい気持ちです。

「うたの手紙~ありがとう」
前にこの歌を桃ちゃんに教えてもらいました。今日久しぶりに聴きました。

新年度になって家族それぞれ新しいスタートが始まっています。
私も継続することと新しい目標決めてぼちぼち動き出してます。

桃ちゃん🍑
素敵なお話を読ませてもらって、
「ありがとう」😊
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