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【読み物】中身のない君と、中身の僕⑤

皆さんこんにちは。
万年文学少女のポンコツ河嶋桃です。
現実と空想を混同しないように、地名等については敢えてぼかした表現にしています。

第一幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166490
第二幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166514
第三幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166648
第四幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166741
今回で完結となります。

【終幕 中身のない君と、中身の僕(2)】

「へえ、人気のブロガーさんも大変なんやなあ」

カウンター越しにマスターがお通しと飲み物を差し出す。ここは、俺の幼馴染みが駅前でやっている、カウンターしかない小さな飲み屋。
「化けの皮が剥がれて、中身のない自分に気付いた。それはショックですけど『明日からは、一歩ずつ前を向いて進んでいくんだ』って言うことも知りました。それは大きな収穫だと思います」
「それ、エエ言葉やろ。俺と大輔の生まれ育った町の言い伝え、いうんか掟みたいなもんよ。てか大輔、町の言い伝えを姉ちゃん口説くのに使うたらあかんで」
「違うわ、あほっ!」
苛つく俺を見て、彼女がゲラゲラ笑う。
「でも、いいなあ。お友達とこうして笑い合えて、充実した毎日を送れて…」
違う。俺だって充実なんかしちゃいない。
「大輔も、充実してるように見えながらも葛藤とか辛さ、みたいなもんもあるんよ」
「え、そうなんですか?」
俺はあまり人に自分のことを喋ったりしないけど、彼女には喋ってもいいかなって思った。いや、正直言って伝えるべきだと思って口を開いた。
「俺が観光公社で何の仕事をしているか、わかるよな?」
彼女がこくんと頷く。
「俺が中学校の時に、町にとある劇団が来てミュージカルを上演してくれた。俺はその芝居を見て『こんな風に自己表現してみたい。演劇の世界に関わりたい』って思ったんだ」
「で、お芝居の世界に…?」
「そう。隣の市にある中学校に演劇部があったから、学校が終わると毎日そこに通わせてもらった。で、親に無理を言って都会にある私立高校へ進学。そこは演劇で有名だったから。でも…」
「でも、何ですか?」
「背は低いし、見てくれもイマイチな俺に役なんて回ってこなかった。あっても端役、て言うか殆どが裏方だ」
「そこは嘘でもいいから『そんなことありませんよ』くらい言うたれよ」
「うるせえ!お前は黙ってろ!」
「あたしだって身長と見てくれはコンプレックスです。だから何も言えなかっただけですっ」
茶化された彼女がむっとする。本題に戻ろう。
「それでも俺は演劇を諦められなかった。大学は工業系の学部だったけど、総合大学で文化系のサークル活動は活発だったから演劇サークルで活動を続けた。そのサークルは全国でもトップレベルで、実際に役者になった奴は何人もいる位だ」
「へえ、凄いところにいたんですね」
「在籍だけなら誰でも出来るさ。ただ、レベルが高ければ高いほど俺の出番もないわけだ。で、大学を出るまで演劇を頑張って続けたけど、演劇界に俺の居場所はなかった」
「で、どうして観光公社に?」
彼女が俺の顔を不思議そうに覗き込む。
「俺が働いていた会社の社長と公社の社長が幼馴染みの飲み友達だった、ただそれだけさ」
彼女は俺の方に向き直ると、俺の目をじっと見た。
「でも、そのご縁があったからこそ今の松田さんが…」

「俺の姿がどこにある?」
彼女が息を呑む。
「俺みたいな存在からすれば、横田さんみたいにほんの少しでもいい、例え一瞬でもいいから輝いてみたいと思うけどな」
「でもっ、今のあたしにはプライドも中身もない…でも、松田さんは…姿が見えなくても、技量とプライドがあるじゃないですかっ!あたしはその方がよっぽどいいと思いますけどっ!」
ここでマスターがぽんと手を叩く。
「おいおい、もうそれ位にしとけ。人間、誰かてコンプレックスもありゃ悩みもあるわな。あとはそれをどう消化するか、辛抱するかだけやって。俺かてコンプレックスも悩みも人並みに持っとるで」
「お前のコンプレックスとやらはそのハンプティ・ダンプティみたいな体型か」
「黙れ…人が気にしていることをいちいち口に出すな!」
「でも、私の場合、背丈を縮めるなんて骨を削るか足を切断する位しか…」
「成長期を過ぎた大人が牛乳飲んでも背は伸びないし…」
「お前ら何が言いたいねん?」
俺たち二人の声が思いもかけず揃った。
「肥満は努力で解消できる」
マスターは溜息を吐くと、嫌味めいた一言を口にした。
「中身のない女と、中身の男。面白い組み合わせやなあ。コンビ組んだら、何か面白いこと出来るんと違うか」
「なんで、こんな人とっ!」
また声が揃った。この時は、まさかマスターの一言が予言になるとは思っていなかった。
「まあ、ノッポ、チビ、デブいうたらコンプレックス四天王のうちの三つやからな。あ、そういやあともう一つのコンプレックスが来る頃やで」
「まさか、あいつが…」
そう言った頃に入ってきたのは、殻をむきたてのゆで卵みたいな頭をした俺の同級生。堪えきれずに笑い転げる俺たちを見て、ゆで卵はきょとんとするしかなかった。


「松田くん」
「はい、何ですか」
理事長に呼ばれた俺は、目線をノートパソコンの画面から理事長の方に向けた。
「いつもごめんね…イベントの仕事だけでも大変なのに、ファンレターやらメールの返信までやらせてしまって」
「あっという間に忘れ去られて観光が衰退すること考えたら忙しい方がいいんじゃないですか。それに、これだけの便りが来るってことは『こど~んプロジェクト』もある程度軌道に乗ったってことでしょ」
「仰るとおり。松田くんのおかげで予想していた以上の反響だからね」
「だったら、僕一人にこんなことばかりやらせていないで、誰か文才と事務処理能力のある人を雇ってくださいよ」
「そう言うと思って手は打ってある。実は、直々に売り込みがあってね。元々は人気ブロガーだったって言うし、ご当地キャラクターにも造詣が深いようで。お~い、入っておいで」
まさか…!
ボロいパーティションに何かを打ち付けるような音がしたかと思うと、頭を押さえながら横田さんが入ってきた。
「いたたた…」
「横田さん、大丈夫?この建物、恐ろしく古いから気をつけてね」
「すみません…あ、申し遅れました。本日からお世話になります横田晴美と申します」
公社のみんなに一通り挨拶を済ませた後、横田さんは最後に俺のところにやって来た。
「これからお世話になります」
「あれからどうしてたの?ブログも削除されていたから気にはなってたんだけど」
「中身のないブログなんて消しちゃいました。で、『中身のない自分を変えられる場所』ってどこなんだろうって思ったときに、この街が思い浮かんだんです。だってこの街は『中身のない自分』を捨てる決心をした場所だし、新しい自分を創造する場所だって思ったから。ほら、あの本宮大社も『いのちの蘇りの場所』っていうじゃないですか」
そう言って微笑んだ彼女は、以前会った時と比べると、まるで別人のようだった。中身のなかった彼女は、本当にやりたかったことを見つけたことで光り輝いて見える。俺も負けてはいられない。これからもっと精進しなくちゃ。

「ねえ、松田さん」
「何?どうしたの」
「松田さんは元からですけど、これから私たちは『クリエイティブなんだけど、人から見えちゃいけない仕事』を続けていくんですよね」
「ああ、そうだ。でも、本当の目的は『人気者になること』じゃなくて『観光を一つのきっかけにして、街を活性化させる』ことだから、な」
「はいっ」
「だから、何の仕事をしているかと聞かれたら…?」


「街を元気にするお仕事ですっ!」
(了)

暑い.jpeg

いかがでしたか。

この物語を紡ぎ出したのは数年前だったのですが、今になって小ネタを思い付きました。

横田さんが入ってきたとき、自称作家の冴えない河嶋さんは応接ソファに腰掛けて、呑気におやつを喰っています。
松田くんが『文才のある人を雇え』と言っていること、彼が自分をその候補として見ていないことには全く気づいていないようです。


では、またお会いしましょう。
万年文学少女モードのポンコツ河嶋桃でした。


47 件のコメント
1 - 47 / 47
🤔🤨
もうちょっと 時間かけて 読みなおします

ちょっと むずかしかった?
(。>ㅅ<。)💦sorry…
表現ができません( ᵕᴗᵕ )
最後は2人で一人になる、ですか…🤔

さて、これからどうしよう(・_・;)
おおお、今回のも面白かった~

恋愛じゃない終わり方がかなり好き

ありがとうございました(*´ω`*)
かなり深いです

ありがとうございました

また楽しみにしています

こど~ん 会ってみたいです✌️
うん、面白い名コンビ誕生の瞬間やねー。
これからの二人がどうなっていくか、想像するのも面白い。
もう少し続きを加筆したら文芸誌に応募できるかもよ~~。
ったく、文芸誌の審査委員の目は節穴やなぁ。
こんな文才のある新人を発掘できないなんて(;一_一)
居場所と目標を見つけた二人、ええ話や!😭
物語の中で 箇所により 登場人物によって 異なる第一人称になって 色々展開があり、すごい高度な文章だと思いました! すごいにゃ~

大きく3.jpg

ラスト予想と違ったー😆
もしかして後日談であり得るのでしょうか?
中身がない子は中の人になったんやね😊

75674_1_.jpg

Where there’s a will, there’s a way.

>> 草鞋虫@わらじむしと読みます さん

ありがとうございます

コンプレックス云々の物語にしたので、敢えて『さあこれから!』な結末に仕立ててみました
大分予想と違いましたw
まさかの「あいつ」とはf…いや、なんでもないです。

せっかく出したので、後日談とかを河嶋さんを使った狂言廻しにしても面白いかもしれませんね。

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

どうなる(作品の続き)
ではなく
どうしよう(現実の俺と 桃さん)
(^◇^;)

>> なかっぴ さん

これから、を読者に想像してもらう
あるあるな手法かも知れないですが、こういう終わり方が好きだったりします

>> 舞音緒 さん

ありがとうございます

自分のコンプレックスを乗り越えて、新たなスタートを切る
今回のテーマはコレでした(^_^)

>> まきぴ~ さん

新海誠さんの手法です
もしご興味があるならドーゾ♪
お勧めは『秒速五センチメートル』かな?

>> ob2@風邪と共に去りぬ🤧 さん

予想と違いましたか(^^;)
河嶋さん、カメオ出演でした♪

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

映画『タイタニック』に監督さんが出ていたそうです(^^;)

>> 杏鹿@………………………… さん

告るなら……
やっぱ大輔くんかな

意外な展開で……
二人ともモジモジしてるところを理事長にけしかけられるとか(^^;)

そんな中でも河嶋さんは隣で酒を呷っています

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

>ありがち

そんなこと思ってないよ〜 ^_^

仮に、他で似たようなエンディングの話があったとしても、
先への希望を感じさせるのに、この着地は自然かと思います。
妙にコネクリまわして意外な展開や結末とするより、
この流のほうがよほどいいと思っています。
(な〜んか、書評家みたいなこと言って、ごめんなさい。)

おつかれ様でした、そして、ありがとう。 m(__)m

>> りんごのひとりごと@ぐ〜たら居士 さん

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました
コンプレックスを乗り越えて、新たなスタートを…
スタート地点で物語を終わらせて、あとは読者の皆さまに今後の進展を想像していただいて……

ふふっ(^_^)

大きく7-2.jpg

しつこくしてごめんねー😊
完結お疲れ様でございました

>> 杏鹿@………………………… さん

絵もさることながら、
左上で手酌しているお方は?
既に空けたと思われる瓶ととっくり、大きめなおちょこ、
 まさか・・・ (^_^;)

>> 杏鹿@………………………… さん

おぉ、ポン酒呷ってる!

この呑気さが河嶋さんらしくて素敵です(^^;)

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

かなりの
だ足

大。はるちゃん ちょっと 待って
ちょっと 考えさせて😔 (。>ㅅ<。)💦sorry…

大。
河嶋さん
僕の事 どう思いますか

河。
よく 演じてるいい役者さんだと思いますよ(^-^) うぃ~(`・ω・´)ノ🍾🥂🍻🍺🍶🍸🥃🍷
まぁまぁ 一杯🍻

大ちゃん
ボソボソ ひとりごと

河。
はるちゃん 良い子だと 思いますよ(*^^*)
私はこっち🍶🍸🍺🚬
呑もう、呑もう
(●︎´▽︎`●︎)

大ちゃん (´;ω;`)💔

妄想( ¯﹀¯ )でした( ᵕᴗᵕ )

>> えびふらいのしっぽ・ふろしき・ひよこ@ビンゴ毎月開催😅🤭 さん

👍  妄想
「儚い恋と、故郷の海」の一シーンを彷彿させるかのようです ^_^

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

その後も 延々と
河嶋さんと大ちゃんの世界から 抜けきれません😅

私も 物書きになろうかな
(*´>∀<`*)キャハッうそです、嘘です

ももちゃんのストーリーで 思いついただけ😮💡です。

ももちゃんの、まじ 面白い
また 楽しみに待っています
ありがとうございました
感謝します*.(๓´͈ ˘ `͈๓).*
四幕と終幕一気読みしました。遅めの感想やけど。

 まずは構成がいいよね。観光公社の社長の熱さ光る第一幕。デカ女①のこど~んの設定に対する熱さ光る第二幕。デカ女②のゆるキャラブログでもう一人の自分の熱さ光る第三幕。
 ついに冷めた中の男の番。どんな熱意が語られるのかと思ったらまさかの展開。いや、かつてあったその熱き想い。そして終幕へ。二人は町の言い伝えのようにまた歩き出したのね。

 中の人は新しい役者の形かもね。姿が表に出る役者、声だけが出る声優、そのどちらでもないけど表現を生み出す役者。ある意味一番難しいかもね。んー特撮映画はある意味そういう役回りもあるのかな?

 それにしても第二幕で早くも本人登場。脇役なのかメインキャラなのかわからない展開にドキドキだったね。最後のオチも笑えたしね。
 でも一番の驚きは桃りん、町の言い伝えで男口説いてたんだ。へぇー、すごいねぇ🤣
All is fair in love and war.
恋愛と戦争では手段を選ばない。

あれっ?

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

 いや、手段選べよ。それが今につながってるんだよ。
#自分にも同じこと言ってるけどね・・・・

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

あーそれいいかもね。毎日交換しながら物語を作っていく。

いやいや、アタイワールドじゃねーよそれ🤣

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我々の人生は我々の後にも前にも、側にもなく、
我々の中にある

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タイムリープ(やり直し)の効かない一度きりの、自分の選択があるだけだ
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