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【読み物】中身のない君と、中身の僕➀

皆さんこんにちは。
万年文学少女のポンコツ河嶋桃です。

数年前に旅先で急に思いついたストーリーを再構成してみました。
宜しければお付き合い下さい。

なお、現実と空想を混同しないように、地名等については敢えてぼかした表現にしています。

キャプチャ.JPG

【第一幕 訣別と未練】

「あの~。すみません」
「はい、何か御用ですかぁ?」
あたしは『やらされてるぜ感』を前面に打ち出しながら面倒臭そうにカラーコーンを並べている彼に話しかける。
「あの、『こど~ん』は何時頃出てくる予定ですか?」

そう。あたしは今『こど~ん』に会うため帝都から半日を費やして中山県までやって来た。中山県お約束の観光スポットであるパンダの動物園で一日遊んだあと、あたしはついに紀井田部という聞いたこともないような駅に降り立ったんだ。

「さあ、『こど~ん』。待っててね。今すぐ会いに行くからっ!」

全国にご当地キャラクターが林立する戦国時代。
あたしは地元のショッピングモールで初めてご当地キャラの着ぐるみに出会ったことで、人生の何かが変わった。
最初はSNSで『憧れのご当地キャラに会えたよ~』みたいなことばかり投稿してたんだけど、思いのほかウケは良かったみたい。
そのうち色んなご当地キャラの紹介なんかを拡散するようになってから、閲覧数が飛躍的に伸び始めて、あれよあれよという間に大人気。
今では大手ネット媒体でも『夏のハルりんイチ押しご当地キャラはこの子っ!』みたいな感じで取り上げてもらえるような人気のブロガーになったんだ。
凄いでしょ♪

子供の頃から持っていた『誰かに認めてほしい、注目してほしい、褒めてほしい』という屈折した感情は、ご当地キャラというフィルターを介して一気に昇華した。
そんな状況で、新たな推しの子を探していたあたしが見つけたのが『こど~ん』だったというワケ。

『こど~ん』
(某大手ネット百科事典より一部転載)
『こど~ん』は、中山県の観光振興を目的として展開された地元のマスコットキャラクターの一つ。性別は『女の子』。世界遺産に登録された巡礼道をPRする目的で誕生した。
巡礼が盛んだった平安時代の女性貴族を模した身なりをしており、頭に巡礼の最終目的地である本宮大社に縁のある『八咫烏(やたがらす)』を載せているのが特徴である。

みんなが知ってそうで興味を示してくれそうなものを寄せ集めただけの珍妙な出で立ちだったけれど、あたしは彼女に惹かれた。
漫画に出てくる案山子みたいな外観は放っておくとして、私は彼女の動きに注目したんだ。ごく一部のキャラクターを除いて、キャラ自身が何か言葉を発するということはまずないよね…あってもホワイトボードで筆談する位。
彼女もホワイトボードで当たり障りのない言葉を発するんだけど、何かが違う。なんて言ったらいいんだろう…ホワイトボードの文字を見る前に、彼女が何を言おうとしているかが容易にわかる位、仕草や動きが妙に人間ぽくって、それが彼女の魅力でもあった。
その中でもあたしが気になったのは、たまに彼女が見せる寂しそうな、何か辛いことを抱え込んでいるような仕草…


「出演時間ですか?それなら会場の出入口か案内のパンフに…あ、そう。スマフォか携帯で検索しても出てきますよ」
ウザい。アイドルの追っかけじゃあるまいし、入り待ち出待ちとかするんじゃねえ。
「え、でもこの会場に入るときとか出るときがあるじゃないですかぁ」
「そんな時間まではちょっとわからないですねぇ。僕らみたいな設営スタッフは『○時までに入場整理が出来るように導線を作っておけ』みたいな指示しかないですから」
嘘だ。
俺は今日まで何回この嘘を吐いてきたんだろう。
俺が会場の整理をしている間、『こど~ん』が姿を現す筈はない。
だって、俺が『こど~ん』の中の人なんだから…

中学校で演劇と出会い、親に無理を言って演劇部で有名だった高校へ進学。
だけど、背が低くて見てくれもイマイチな俺に役は回ってこなかった。あっても端役、大抵は裏方。
でも俺は演劇が好きだったから諦めずに毎日基礎練習を続けた。
ところが、だ。
大学まで演劇を続けた俺に突きつけられた現実は残酷そのもの。
役者にはなれないと自分では理解していたつもりだったけど、『役者として求められていない』だけじゃなく『演劇界そのものが、俺を必要としていない』ということに俺は気付かされた。
要は需要も才能もなかったってこと。
その事実を受け入れざるを得なかった俺は、失意のもと地元の企業に職を求め、発電所のメンテナンス業務を行う下請け会社の見習いとして働き始めた。

「ねえ、松田くん」
「はい、何ですか」
作業中、クソ熱い機械室の中で俺は社長の話に耳を傾ける。
「松田くん、確か演劇を志していたとか」
「確かにそうですが、それが何か?」
「実は、僕の知り合いに観光公社の偉いさんがいてね。で、『誰か演劇関係の経験者はいないか?』って僕も含めて知り合いに声をかけまくっているんだ」
俺は苛ついた。
「で、僕に…」
「あ、ごめんね。別に手当たり次第に声をかけてるって訳じゃなくて…松田くんが演劇の経験者だって聞いたことがあったから、興味があったらどうかなって」
「はあ、そうですか」
演劇の世界から足を洗った俺に、今更何を言いやがる……
俺は演劇に向いていないんだっていう残酷な事実を突きつけられたからこそ、今ここで整備の仕事をしているんだ。
くそっ。
訣別したはずの世界に再び引き込まれるなんて。

『一回限りのピンポイントリリーフでもいいから、力を貸してほしい』

そう言った社長から半ば強引に渡された観光公社理事長の名刺。
その日のうちに名刺を処分しても良かったんだけれど、日が経つにつれ演劇に対する未練というか後ろ髪を引かれるような思いが俺の頭の中を支配するようになってきた…

「はい、鈴木の携帯です」
何の愛想もなく、ただ無機質に電話に出た彼に俺が用件を伝えると彼の態度は一変した。
「ああ、その件でご連絡いただいたんですね!ありがとうございます。つきましては是非、直接お目にかかってお話ししたいのですが…」

「お暑い中、態々こんなところへ足を運んでいただいてありがとうございます」
そう言って先日の電話の主に勧められるがままに俺は小汚い応接ソファに腰掛ける。
古臭い空調機が今にも壊れそうな音をたててフル稼働しているが、室温が下がる気配はない。それどころか、まるで空調が効かないことを見越したかのように窓が開け放たれている。
「すみませんねぇ。ボロい上に暑苦しいところで」
「いえ、それよりもお声掛けいただきましてありがとうございます。ウチの社長から話を聞きまして、まずはお話だけでもと思って」
朴訥な感じのする、悪く言えば田舎者丸出しの理事長が微笑む。
「いやあ、演劇の経験がある方を探していたんですが、只でさえ数が少ないのにウチみたいな田舎の町じゃ来てくれる人もいなくて…で、知り合いの伝手を頼って片っ端から声をかけていたんです」
「で…俺、いや僕に話が来たってことですね」
「社長とは古くからの知り合いで…正直に言うと幼馴染みで飲み友達…で、飲みの席で思わず愚痴をこぼしたら『俺の会社に演劇部出身の奴がいるぞ』って伺いまして」
正直なことはいいことだけど、何でも包み隠さず言えばいいってもんでもない。大丈夫か、このオッサン。
「今回お願いするお仕事は『演劇の世界を知っていて、なおかつ舞台で自己表現が出来る人』でないと務まらないんですよっ!」
理事長の言葉に熱がこもる。
でも、その言葉を聞く俺は嫌な予感しかしない。
「で、その演劇経験者に何をやれと?」
「よくぞ聞いてくれましたっ!」
彼はそう言うと、応接テーブルに置いてあった封筒からガサガサと資料を取り出した。
「こ、これは…?」
「我が観光公社が満を持して世に送り出すイメージキャラクターの企画書です」

俺は目を疑った。確かにここは世界遺産に指定された巡礼道がある街。また、巡礼の最終目的地である本宮大社が存在する街でもある。
巡礼道のシンボルといえば八咫烏。まあ、サッカーでも有名だけど…俺も地元の人間だからそれ位は知っている。
あと、小学校の遠足か何かで訪れた施設に飾られていた巡礼者の衣装。女性はヴェールかカーテンみたいなもんが付いた被り物をして、着物を着ていたことを薄らと覚えている。

俺がいま目にしているのは、まさに俺の記憶そのもの。

平安時代の衣装と被り物、更にその頭には八咫烏が載っている。漫画や童話の挿絵に出てくる案山子みたいなコミカルな出で立ちに俺は軽い目眩を覚えた。
可愛いかそうでないかというと間違いなく可愛いんだが、こんなもん作って観光の振興に役立つと思ってんのか?
「如何ですか?」
資料から顔を上げた俺を理事長が興味津々で覗き込む。俺は一つ溜息を吐くと、思ったことを正直に話し始めた。
「可愛い、いいキャラクターだと思います。でも、日本全国に似たようなキャラクターがうんざりするほど沢山いますよね?奴らは毎年山のように現れては、飽きられるとすぐにどこかへ行ってしまいます…こいつもその一つになるんじゃ…」
「だから、ですね。企画段階から演劇経験のある方に入っていただいて、きちんとキャラクターとしての自我を確立したうえでデビューを果たそうじゃないかと…」
「で、企画はどの辺りまで進んでいるんですか?」
「広報誌にイラストで紹介するくらいまでは…今のところ、全否定するような声はありません。『案山子みたい』という方も多いですが、概ね『可愛らしい』とご好評をいただいています」
俺は負の感情が爆発しそうになるのを堪えながら、言葉を続ける。
「だから、その『可愛い』だけじゃいずれ消えるだけじゃないですかっ!ご当地キャラクターなんて飽きられたらそれで終わりですよ」
「勿論、我々もご当地キャラだけで街興しをしようって考えているわけじゃありません。ご当地キャラ以外にも、プロモーション用の画像を制作したり、観光ガイドにちょっとした物語を掲載したりして…」
「物語?」
「ええ、プロの作家さんではないんですが、ネットの小説投稿サイトに我々の地元を舞台にした物語を細々と書いている方がおられまして…その方にお願いしたら協力してくれるっていうんで」
「そんなもん載せて何かの役に立つんですか?」
理事長は何か思い詰めたような表情で俺に告げた。

「当然のことながら、目的は『成功』ただ一つなんですが、万一…ですが駄目になるとしても、何もしなかった後悔より何かやらかした失敗の方がいいとは思いませんか?このままじゃウチに観光で来られるお客さまもいずれはジリ貧になって衰退してしまう。そうならないために、他人様から見たら莫迦みたいなことでも色々足掻くことは決して悪くはないと思うんです。と言うか生き残るにはそれしかないんです」


26 件のコメント
1 - 26 / 26

古道.jpg

このスレを見て最初に目に飛び込んできたのは、
ポンコツ少女万年・・・万年女王様でしたかーーありがたやー♥

「こど~ん」は最初心臓の鼓動かなと思ったら、桃ちゃんの好きな古道にもかかってる!って探したらありましたよ、コドウちゃん。しかも心臓もドキドキしてるし。

後で気合入れて読みます。
 理事長の熱意良いねぇ。吉田松陰の言葉思い出したよ。夢なきものに成功なし。
 桃ちゃんの夢は文壇デビューかしら。

 今回も続きが気になるねぇ。
少し自叙伝入ってない?
演劇を志すと文学を志すとの違いはあれど。
これからどう展開していくのか楽しみ~(;・∀・)
まさか恋愛ものじゃないよね~~。

こまちちゃん.jpg

ようやく読みました。
こど~んは読んだら全然違いました。こちらの方ですね。
何故かコダマも関係しているような気がしてきました。

女性に自然と女性らしい仕草を感じさせるという事は、体の小ささもあって女形が合っているかも知れませんね。

>> じんで@肘の君 さん

無駄じゃね?的な理事長の熱意は昇華するんでしょうか(^^;)

異世界居酒屋.jpg

異世界モノに展開?

>> なかっぴ さん

次回、ちょっとした意外な展開があるかも(^^;)

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

 個人的にはHappy Endが好きなので昇華して欲しいねぇ。

>> 杏鹿@………………………… さん

『こど~ん』のキャラ設定は……
この子を二頭身にして、頭に八咫烏を載せた感じです

50480422.png

くまのこ どう?
※fsmさんがまだ来ていないようなので…

自我を確立したキャラクターの所で、ふなっしーを思い出してしまった…😅

>> 舞音緒 さん

実は
異世界転生とか悪役令嬢系は苦手です(^^;)
小学校の頃、車で大阪から、この辺りを車で通り、ものすごい時間をかけて、黒飴で有名な地名のの海辺のホテルに。ホテル浦〇(太郎w)そのホテルの温泉の硫黄のにおいは今も覚えています。

その時は外れたところを車で通り過ぎただけなので、この「こどーん」の所に大人になってからとっても行きたいと思っています!でも、マジでウォーキングポールみたいなのが必要かも。。。絶対コケる~~

桃さん、○○山県の観光大使、プロデューサーになれますね!素晴らしい!
汗と涙とsweet and bitter な物語を期待しています♪

>> まきぴ~ さん

その頃って高速道路も整備されていなくて、行くだけで一苦労…
今も当時の雰囲気を残していて…いいホテルですよ♪

>> ob2@風邪と共に去りぬ🤧 さん

あ、近づいてきました!
頭に相棒を載せるのってこんな感じです!

>> HAYA さん

汗と涙は……
ご用意できているはずです
ていうかアタイの物語ってそんな感じばっかり、かな?
【筆者より】
予定では五話くらいで完結予定です
ストーリーは完成しています。エンディングの変更とかはありません

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

あ、そのくらいの分量あるのね👍
俺パートが長かったので、3話位だとどうやってまとめるんだろと思ってました。
どうした中身、俺…あっ?!
実は桃さんが中身、俺…( ´艸`)

EWiWLHKUYAAMQ4N_1_.jpg

さて、最終話の読後感がどうなるか...

>> 杏鹿@………………………… さん

クマノコドウ
何気に右上の方には八咫烏。
凝ってますね〜。
本当にこんな御本がありそうな  ^_^
桃さま(あえて様づけで)

あたし と 俺
ちょっとさじ加減まちがえると、ストリーがごちゃごちゃになりそうな、難しいチャレンジを・・・
頑張って! と言いたいところですが、もう完成しているとか。
続きを楽しみにしています。 ^_^ 
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