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【読み物】中身のない君と、中身の僕④

皆さんこんにちは。
万年文学少女のポンコツ河嶋桃です。
現実と空想を混同しないように、地名等については敢えてぼかした表現にしています。

第一幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166490
第二幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166514
第三幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166648

【第四幕 中身のない君と、中身の僕(1)】

「お疲れさまです」
イベントも無事終わり、ヘトヘトになりながらカラーコーンを片付けている俺に、朝っぱらから話しかけてきたあの女がまた近づいてきた。
「また貴女ですか…ここでいくら待っていても『こど~ん』はもう出てきませんよ。本日のイベントは終了です」
「そうですか…それは残念…」
俺は少々違和感を感じた。
で、その違和感をそのまま彼女にぶつけてみることにした。
「何でそこまでして『こど~ん』を?」
彼女はドヤ顔で俺に告げた。朝はカラーコーンを並べながら屈んで作業していたから気付かなかったけど、こいつ相当背が高い。嫌味みたいに俺を見下ろすように立っている。
「あたしイチ推しのご当地キャラクター『こど~ん』をブログで紹介するためです!大抵のご当地キャラクターはツーショット写真とか撮らせてくれるんですけど『こど~ん』はなかなかガードが堅くて…」
「ブログに載せる…」
「そう。『ハルりんのご当地キャラクター追っかけ日記』ってご存じないかしら?これでもあたし、結構有名なのよ」
知るかそんなもん。人のブログなんて読まねえよ。
「そう、『こど~ん』の外見はとても可愛いけど…他のご当地キャラとは違って…人間味溢れるって言うか、感情表現豊かな動きとか時折見せる寂しそうな仕草が可愛くて…」
俺はイラッとした。こいつ、本当に『こど~ん』のことわかってて言ってるのか?
「じゃあ、その人気ブロガーに伺います。『こど~ん』がそのような立ち居振る舞いをするのは何故でしょう?」
「え、それってスーツアクターさんの技量…」
俺は背負っていたリュックを下ろすと、観光客に話しかけられたときのために用意してあるガイドブックを彼女に手渡した。
「巡礼道の何かもわからないままいくら考えたって答えは出ないでしょうから、そのガイドブックを差し上げます。そこに巡礼道をテーマにした物語と『こど~ん』の人となりなんかも書かれてますから。転載の制限はかけていないので、そのまま『人気ブログ』に載せていただいてもいいですよ。では、遅くまでの取材お疲れさまでした」
俺がその場から立ち去ろうとしたとき、彼女が何か言おうとした。
「あのっ、もしかして貴方っ?」
俺は彼女の方を振り向いたが、彼女はそれ以上何も言わなかった。


もしかして…私にガイドブックをくれた小柄な男性が…いやいや、ご当地キャラクターの中の人なんて考えちゃ駄目。
でも、彼が最後に振り向いたときの愁いを帯びた仕草は、『こど~ん』そのものだった……

あたしは、再び河原に寝そべるとガイドブックを読み始める。
今まで色んなご当地キャラクターをブログで紹介してきたけれど、ここまで設定が作り込まれている子は初めて見た。だからこそ、ステージ上であれだけの感情表現が出来ていたってことなのね…
この地に来てからずっとブログに載せる内容を考えていたけど、こんなに奥深いキャラクターを私の文章で紹介するなんてできっこないよ。
あたし、今まで何をしてきたんだろう…

「こんなところにいたんですか」
私の顔を上から覗き込む人がいる。さっきの男性だ。
「薄暗い草むらに寝っ転がってたもんだから、思わず踏みつけそうになりましたよ」
そう言って彼は、私の横に寝転がった。手に持っていた袋を何かごそごそしている。
「飲みますか?」
そう言って彼が勧めてくれた缶ビールを、私は一気に呷った。大して飲めもしないのに…
「凄い飲みっぷりですね」
彼が初めて微笑んだような気がする。
「あ、あの…私、お礼も言わずに…私、横田晴美っていいます。普段は都内のスーパーで働いています」
「そういや、俺も自己紹介がまだでしたね。俺の名前は松田大輔。元々はプラントの整備なんかをやってたんですが、今は観光公社に籍を置いています」
彼は私の手元にあるガイドブックに目をやると、缶ビールを飲みながら私に問いかけた。
「どうでした?何かブログの参考になるようなネタがあればいいんですが…キャラ設定とか物語は素人集団でこしらえたようなものなんで役に立つかどうかは…」

あたしは立ち上がると、寝そべったままの彼を見据えた。お酒のせいか、足もとがふらつく。
「おい、大丈夫か。ひょっとして、あんた…飲めないのか?」
「今日はどうしても飲みたい気分だったのっ!」
あたしは、彼に身の上をポツポツと話し始めた。いつの間にか、あたしの眼から涙がこぼれる。
「あたし、中学校からずっとバレーボールをやってたの。単に『背が高い』っていうだけで。そこにあたしの意思なんて何もなかった」
彼はあたしのただならぬ雰囲気を察したのか、半身を起こして私の方を向いた。
「中学、高校とエースアタッカーとしてそれなりに活躍して卒業後は実業団に、なんて話もあったんだけど…」
「え、もうバレーはやってないの?」
「高校卒業間近に交通事故に遭って再起不能。それまであたしのことをちやほやしていた人たちもみんなあたしの元から去ってしまった。気がつけば独りぼっち。今まで私のことを見守っていてくれた両親ですら事故の慰謝料でド派手な生活を始めて、私のことなんか見向きもしなくなった」
「周りの連中はともかく、親がそれってのは酷いな」
「あたしからバレーを取ってしまったら、背が高い以外に何の特徴もないただの人になってしまった。それからはずっと『誰かに認めてほしい、注目してほしい、褒めてほしい』っていう願望と、誰もあたしのことなんか見向きもしない厳しい現実との間で毎日もがいていたの。それで…」
「で、ご当地キャラの追っかけか。趣味で始めたもんが他人様に認めてもらえるようになったんだからそれはそれでいいんじゃない?さっきチラッと見たけど、構成もいいしなかなかのもんじゃ…」
「いつか気付かされることになるとは薄々感じていた。その日が来ないようにって毎日ビクビクしていた。でも、その日がついに来ちゃったの!」
急にあたしが大声を出すもんだから、彼は驚いてしまったようだ。
「まあ、そう大声出さなくったって十分聞こえているから落ち着け。ここはバレーのコートじゃない」
「他のご当地キャラがどこまでそんなこと考えているかどうかはわからない。でも『こど~ん』は巡礼道を歩くことで子供ながらに『辛さ、苦しさ』を抱え込んで生きている。だから…本当の強さと優しさを持っている…」
「じゃあ、それを紹介したらいいんじゃないか?」
「そんなことあたしには出来ないよっ!あたしは単に誰かに注目してほしいっていうだけでブログを書いてただけだから。ご当地キャラクターの外見とかだけをネタにして注目を集めようとしていただけなんだから…」
「そこまで自分を卑下しなくても…」
「ううん、いいの。だってそれは本当のことだから…ついに化けの皮が剥がれたって言ったらいいのかな?今までアクセスが沢山あったのも、大勢のフォロワーも、みんな『ハルりん』を評価してくれているだけで『横田晴美』のことを評価してくれているわけじゃない。結局のところ『ハルりん』は虚構で、現実の『横田晴美』は何もない、中身がなくて図体のデカいだけの女なのっ!」
もう耐えられない。あたしはその場に崩れ落ちた。
「こんなこと言っても松田さんにはわからないでしょうけど、中身のない自分に気付いてしまったあたしは明日から一体どうやって生きていけばいいのよっ!うえぇぇぇぇん!」

大泣きし始めたあたしを彼か困ったように見ていた彼は、やがて立ち上がると私の頭をぽんと叩いた。
「これは、俺がガキの頃住んでいた町でみんなが言っていた言葉なんだが…『辛いときはどれだけ泣いたって構わない。但し、泣くだけ泣いたら、歩みは遅くてもいいから前を向いて一歩ずつ進んでいくんだ。それが、生きるっていうことなんだ』って。だから、先ずは好きなだけ泣け。で、それが済んだら場所を変えよう。このままじゃ俺が何か女の子に意地悪しているみたいに見られそうだ」

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次回で巡礼道を舞台にした物語は完結します。


20 件のコメント
1 - 20 / 20
いいね 良いね
やっと それらしきものが
キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━!!!!!
て 感じ
ワクワクしてきました

楽しみにしていま~~~す✌️
ありがとうございます♪

最終回まで気を抜かずに頑張ります!

大きく.jpg

バレーが出来なくなったのもショックだけど、周りから人が居なくなった(ように感じた)のがトラウマなのね。

でも本当はたった一人の人にわかってもらえるだけでいいのかもよ😊

>晴美ちゃんは見られていない。
人気youtuberだって面白い人や優しい人のペルソナ被ってるのだから気にしなくてもいいよ。

ワクテカで正座続行します。
『辛いときはどれだけ泣いたって構わない。但し、泣くだけ泣いたら、歩みは遅くてもいいから前を向いて一歩ずつ進んでいくんだ。それが、生きるっていうことなんだ』

いい文章でぽろっと来ました。何年か前、辛いことがあって、一日で
2キロ体重が減りましたwww涙でww おほほw 泣き泣きダイエットですねw いひひw 

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中の人が出会い別れる?…🤔

>> 杏鹿@………………………… さん

何かでチヤホヤされていた人って、その何かを失うと……
大抵周りの人は引いていきます
中身のない何かなら……
会社の下らない肩書きとかで、チヤホヤを失った人って飲み屋とか山歩きで不憫な位浮いてますから
(^^;)

それと……
いい絵ですね
この当て方、素敵です

>> まきぴ~@アチョ~wぷぷぷw  さん

アタイのオリジナルじゃなくて……
人に教わった言葉です
泣き喚くほど辛い思いをされた方だから言えた……
ちょっとエグい中身ですが、宜しければ
https://king.mineo.jp/reports/158779
イイネイイネ👍
最終章がすっごく気になってきた。
この二人の関係がどう昇華していくのか、いかないのか(;一_一)

>> なかっぴ さん

典型的なポンコツ河嶋エンディング、かなぁ
新しいジャンル開拓しないし出来ないし(^^;)

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

ありがとうございます。
地震の頃は関西にいなかったので、めちゃくちゃリアルな体験を読ませて頂くことができました!なるほど、本当に。。。( ;∀;)
皆さんから教わった言葉や体験が、桃さんの中にずっと生き続けていて、それを文章にできるのが素晴らしい!
忘れられへんのです

途中経過の記憶はイマイチだけど、あの言葉はずっと覚えています
やっと自分の中で整理がついて、数年前から伝えることが出来るようになりました
宜しければ他所でお役立て下さいね
大泣きするとは思わなかった…
オロオロ(゚ロ゚;))((;゚ロ゚)オロオロ

「中身のない」は元からないというよりは、中身を失った伽藍洞だったのね。
ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ
さーて、次でいよいよ^_^
急に周りの人が去っていくと、確かに
こたえますな(^◇^;)

>> ob2@🐸日々是好日🐌 さん

自分自身が上っ面だけで中身はスッカラカン、そのことに気づいたショックが余程大きかったようです
そりゃそうですよね(^^;)

>> 永芳 さん

予想どおりか
意外なものか

最終話をお待ちください<(_ _)>

>> ギリアム・イェーガー・ヘリオス@関東、梅雨入り?! さん

自分の内面ではなく
肩書
社会的地位
財布の中身
なんかに人が集まっていただけということを知ると
・ハルりんみたいに泣き叫ぶ
・偉そうに振る舞ったまま『異常な世の中だ』と
 嫌われるまでわめき散らす
のどっちかです(゚Д゚)
周りの空気が変わりますから、ね…
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