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【読み物】中身のない君と、中身の僕②

皆さんこんにちは。
万年文学少女のポンコツ河嶋桃です。
現実と空想を混同しないように、地名等については敢えてぼかした表現にしています。

第一幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166490

【第二幕 産みの苦しみ】

翌週の土曜日、俺は再び観光公社にやって来た。
今日は応接室ではなく会議室。俺と理事長以外にも多くの人が集合して、順繰りに自己紹介を進めていく。
理事長、役所の担当者、それにイベント会社の担当者。
この順序でいくと、俺が最後に何か喋るってことか?

自己紹介も終わりに近づいた頃、遠慮がちに立ち上がった奴がいた。
「えっと、あの、私は河嶋と申します…趣味が高じて物書きなんかしていまして…」
あ、先日理事長が言ってた物書きっていうのはこいつか…耳許の髪を神経質そうに弄りながら奴が言葉を続ける。
「私もあの巡礼道を踏破したことがありまして…で、その経験を元に紡ぎ出した物語がご縁でこうして観光公社さんと…」
「実は、キャラクターの原案も河嶋さんのものでして。デザインはイベント会社さんにお願いしましたが」
理事長が口を挟む。そうか、この変なキャラを思いついたのはこいつか…
「あのっ、私は…案を思いついただけで、そこから先は何も考えていません。だから…ここから先はみんなで考えていけたらな、と」
そこまで言うと、奴は何も言わず席に着いてしまった。その後、俺が通り一辺倒の自己紹介をしたところでいよいよ本題に入る。

「で、どういうキャラ設定にしようと思っているんですか?」
みんなが一斉に河嶋さんのほうを向く。彼女は暫し考えを巡らせた後、呟くように言った。
「見てくれはどこにでもいるようなコミカルなキャラクターですけど…そうですね…ただ明るいだけじゃない、っていうんでしょうか…
巡礼の道を歩むのは交通機関が発達した今でこそ容易になっていますが、当時は命がけの大変な道中だったと思うんです…
そんな苦労を背負い込みながらも、その辛さ、苦しさを押さえ込んだ、隠したまま明るく振る舞っている。
他所のご当地キャラみたいにただ明るいだけじゃなく、どこかに『辛さ、苦しさ』を抱え込んでいるからこそ本当の『明るさ、強さ、優しさ』を持っている…そんな感じでしょうか」

俺も含めて、一同が沈黙する。こいつの言ってること、重いし相当面倒臭い。

誰かが話題を逸らすように言った。
「で、名前はなんて言うの?何か考えてる?」
「いま申し上げましたキャラ設定とものの見事に外れていますが…」
一同が河嶋さんに注目する。

「……こ、『こど~ん』っていいます」

全員が唖然とする中、彼女は言葉を続ける。
「あ、あのっ…私、ご当地キャラやお芝居のことは全然わからなくて…思ったままのことを言っただけですから…無理なお願いだったらごめんなさい」
河嶋さんはそう言ったきり何も言わなくなった。こいつ、何も考えていないようなボーッとした風体をしながら、結構大胆な要求を突きつけてきやがる。正直言って面倒臭いしウザい。

そう、彼女が言うように『明るいだけ』『可愛いだけ』『元気なだけ』のキャラクターは山ほどいる。
そんなキャラでいいんだったら専門のスーツアクターを雇うか、若しくは立っているだけでいいようなキャラならアルバイトでも募集すればいい。
ただ、『こど~ん』から『憂い』みたいな感情を生み出そうとするならこれは少々厄介だ。『こど~ん』のどこをどう見ても明るいだけのキャラにしか見えない。
コミカルな出で立ちから、どうやって『負の感情』を導き出すか…

腕組みをして考えている俺に、理事長が切り出した。
「どうですか、専門家としてのお考えは…」
「先に言っておきますが、僕は専門家じゃありません。学生時代に演劇をやっていたことがあるっていうだけの人間です。ただ、その経験から言わせてもらうと…」
全員が俺の方に注目する。河嶋さんだけは顔を真っ赤にして俯いたままだ。
「余程の技量がない限り、難しいと思いますよ」
「え、どうして?」
スーツアクターのことくらい少しは勉強してからこの会議に出てほしかった。俺は苛つく心を抑えながら話を続ける。
「まず、『こど~ん』には表情がありません。て言うかいつもニコニコ笑ったまま、表情は固定されています。演劇や芝居の世界でまず大切なのは表情。この『表情による感情表現』がまず封じられています」
「え、でもパントマイムみたいなもんが…」
「パントマイムはその気になれば表情を演技に盛り込むことは可能ですし、全身を自由に動かせるから身体全体で感情表現できます。所謂『着ぐるみ』ってヤツは表情を封じられる上に、可動域も制限されますから…まあ、例外はありますが」
「あ、国営放送の人気番組に出てくる六歳の女の子ですね」
河嶋さんは思い出したように声を上げると、『しまった』というような表情でまた俯いてしまった。
「そう、あの子は声を当てられるからまだいい方ですけど、彼女だって表情の乏しさを補うためにCGを使ってますよね?言葉以外の感情表現って、それ程難しいもんなんですよ」
「じゃあ、身体の動きだけで感情を表現する方法って他にないの?」
俺はこの手の『なぜなぜ君』が大の苦手だ。これだから役人ってのは…
「あえて言うなら、芝居やミュージカルなんかで台詞や歌のパートもなくて後ろで立ち回ったり踊ったりしている人たちでしょうか。彼らは物も言えないし客席から顔も見えない。でも、自分の気持ちを身体の動きで表現している。まあ、ミュージカルの場合は歌が流れるので観客はその雰囲気に飲まれがちですが」

暫くの間、嫌な沈黙が続いた。
理事長が重い空気を変えようと発言する。
「えっと、じゃあこれまでの話を整理しようか。『こど~ん』は明るくて可愛いキャラだけど『辛さ、苦しさ』みたいな憂いを持っている。だからこそ、彼女は本当の強さと優しさを持った明るい子、ここまではいいかな?」
全員が頷いた。
「じゃあ、あとはその雰囲気をどうやって伝えていくかってことが課題だね。今日はもう時間だしこれで終わりにしよう。今回出てきた課題は、次回への宿題!みんなも次の会議までに何か考えておいてくれるかな」

その日の夜。
理事長の誘いで、理事長、河嶋さんと俺は駅前郵便局の裏小路にある飲み屋へとやって来た。
「河嶋さんはこの辺りの出身じゃないから御存知ないかも知れないですが、ここの魚は地元でも評判なんですよ」
「そういえば…以前私が巡礼道を歩いていて駅前の宿に泊まった時、この店に来たことがあるんですが…満席だったのに『予約のお客さんが来るまでなら』って特別に入れていただいたことがあります。季節は変わってもここのお造りと天ぷらは美味しいですねぇ。もぐもぐぅ」

こいつ、酒が入ったら急に饒舌になりやがる。この変人が酔い潰れないうちに、俺はどうしても気になっていたことを聞いてみることにした。

「あの、一つだけ聞いてもいいですか?」
「はい、何でしょう?私にわかることなら」

あんたしかわからないことだよ。て言うかそんな不思議そうな顔をするな!
「昼の会議で、確か『巡礼の道で命がけの苦労を背負い込みながらも明るく振る舞う』とか『心のどこかに辛さや苦しさを抱え込んでいるからこそ本当の明るさ、強さや優しさを持っている』みたいなことを言ってましたよね?」
「ええ、確かに言いました。間違いないです。覚えていてくださったんですね」
河嶋さんは冷酒を一杯呷ると、上機嫌で微笑んだ。
「で、俺はふと思ったんです。ついこの間までいち観光客だった貴女が、なぜそんなことを思うようになったんですか?」
理事長が相槌を打つ。
「そうそう。観光ガイドに載せる物語の素案も読ませてもらったけど、どうしてそこまで思いついたのかなあ、って」
河嶋さんは一瞬だけ天井を見上げると、俺たちの目を真っ直ぐに見据えた。
「反問という行為はあまり好きではないのですが…お二人は巡礼道を歩かれたことはありますか?」
「僕はあるよ。仮にも観光公社の理事長なんで『行ったことない、知らない』とは言えないからね」
「俺も部活のトレーニングか何かで行ってます」
彼女が語気を強める。
「道中で何か気になったものはありませんでしたか?」
「僕は公社の人間として行ったから、景色とか道標の状況とかしか見なかったなあ」
「体力作りだ!とか言われて追い立てられていたから地面しか見てないっす」
こいつ、人が話をしているときにどうしてスマフォなんか触っているんだ?
「私が気になったのはこれです」
そう言って差し出されたスマフォの画面を俺と理事長は覗き込んだ。
「お地蔵さん?」
彼女はスマフォをポケットにしまうと、話を続けた。
「初めは『神社への道に仏教由来のお地蔵さまがあるなんて不思議だな』位にしか思っていなかったんです。で、ふと通りがかった時にお地蔵さまにお花を供えておられるお婆さまがいらっしゃったんですね…」
いちいち話が長い。面倒臭い。
「で、私…思いきってお婆さまに話しかけたんです」
「ほう。お婆さんは何と?」
興味を示した理事長に河嶋さんが話を続ける。
「『貴女は、何故こんな道端にお地蔵さまがあるかわかりますか?』と仰いました」
俺にはさっぱりわからない。
「一つ一つのお地蔵さままで、由来がわかる訳じゃありません。でも、道端にお地蔵さまを祀る理由って現代まで殆ど同じなんですって」
え、どういうこと…?
「ほら、例えば…国道沿いの歩道にあるお地蔵さまって、そこで子供が車に轢かれて亡くなったとかって謂れがあるじゃないですか」
相当例えは悪いが、意味はガンガン伝わってくる。
「え…じゃあ…あれは亡くなられた方の供養のためってこと?」
「そうです。諸説あるみたいですが、大抵は『そこで亡くなられた巡礼者を弔うため』みたいな言い伝えがあるそうです」
へえ〜っ、と理事長が感心している。俺にはまだピンと来るものがない。
「『こど〜ん』も巡礼者です。いくら子供といえども都からここまで死ぬような思いをして歩いているわけですし、行く先々で嫌でもそんな謂れがあるお地蔵さまを目にしてきたわけです。

死ぬのは嫌だ、今すぐにでも逃げ出したい、都に帰りたい。
でも、そんな弱音を吐かずに辛いことは胸の内に秘めて…
日々前を向いて歩いていく…
だからこそ彼女は本当の強さ、優しさを持っている…」

「だから、周りの人々を照らすような明るさを…」

二人はそれ以上何も言わなかった。河嶋さんは沈黙の中、冷酒をもう一杯呷ると俯いてしまった。

「で、松田さん。今の話でイメージみたいなもんは掴めましたか…?」
「ええ。何が言いたいか、どんなことを伝えたいかは物凄く良くわかりました」
「えっ…」
「じゃあ…」
キラキラ輝く二人の目を見ずに俺は吐き捨てるように言った。
「設定が重すぎて、何から手をつけたらいいか…これって相当な無理難題ですよ…俳優じゃなくて単なる演劇経験者の僕にとってはかなり高いハードル…」

何かに縋り付くような目線を俺に向ける河嶋さんを無視して理事長の方を向くと、彼もまた天を仰いで何かに祈るような仕草をしていた。

ふわ?_1_.JPG

まさかの本人登場です。
エラリー・クイーンじゃないんだから…

ちなみに、巡礼道沿いのお地蔵さんの由来については諸説あります。
これが正解ではなく、一つの説を都合よく解釈して物語に盛り込んだものとお考えください。

ていうかお前、どんだけ冷酒呷ってんねん。
人の奢りで酒喰らうって……
参考までに申し上げておきますが、地元の団体と絡んだことは一切ございません…

テキトーに登場させていますが、裏小路の居酒屋さんはガチで美味しいですよ♪
もの凄く申し訳なさそうに『予約のお客さんが来るまでしか飲めませんが…』と仰るのもガチです。


18 件のコメント
1 - 18 / 18
お、まだ続きがあるんやねー。
さて、ご本人登場でどう展開していくか、楽しみやー。
まだ暫く物語は続きます
宜しければお付き合い下さい♪
てっきり他のキャラになぞらえてるのかと思いきや、まさかの本人登場w
追っかけの「あたし」とはどう絡むのか…

シュゲンジャ―.jpg

夢の国は夢の中ですから負の部分を極力排除するようですね。夢から覚めさせるような悪役はいますけど、コミカルなやられ役になります。

そういった憂いを含む役はご当地ヒーローがいいんじゃないかと思ったり。

山岳戦隊 シュゲンジャ―

ごめんなさい、感性が人と違う見たいです。

>> ob2@風邪が治ると鼻炎🤧 さん

本人は所謂『カメオ出演』ですよ
山村紅葉女史みたいな(^^;)
そんないいもんでもないか💀

>> 杏鹿@………………………… さん

あの巡礼道って色々ご当地ヒーローがいるんですね(゚Д゚)

『こど~ん』が入り込む余地ありませんがね(^^;)
盛り上がってくれればどんなキャラでもいいんです…
お越しいただく方々に楽しんでもらえたら!
結局飲み過ぎかよ😋😋
 と、お決まりのツッコミは置いといて感想は後ほど。取り敢えず風呂入ってくる。
タイトルとの結びつきがまだ分からない(;一_一)
中身の僕は出てきたけど、中身のない君は誰?あたし?
どう絡んでくる?ワクワクヾ(*´∀`*)ノ
ん?🤔

結局、酒🏮🍸️🍺🍶🍷🍻🥂🍾🥃

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何処にでも くまモン
(●゚(エ)゚●)


早く 先読みたいです

面白い 実に おもしろい
テレビ📺なんかより ずっと 展開が早いし、深い
切れ味が良い
だから 一気に目を通して 次が気になる
うん。
こんな ももちゃんの 読み物が すきです
楽しみです

ありがとうございました
感謝します🇺🇦

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さだめじゃ...( ̄▽ ̄;)

さて、この後どういう展開になることやら(・・;)

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御本人登場とは…ヒッチコック的展開?

>> 舞音緒 さん

ちょっと登場してみたかっただけです(^^;)
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