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【読み物】中身のない君と、中身の僕③

皆さんこんにちは。
万年文学少女のポンコツ河嶋桃です。
現実と空想を混同しないように、地名等については敢えてぼかした表現にしています。

第一幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166490
第二幕はこちら
https://king.mineo.jp/reports/166514

【第三幕 絶望と虚構】

何の愛想もない設営スタッフに会場から追い出されたあたしは、それでも会場近辺をうろうろして何とか『こど~ん』の姿を間近に見ようと辺りを探し回った。
絶対にツーショットの写真を撮って、あたしの人気ブログ『ハルりんのご当地キャラクター追っかけ日記』に載せてやるんだ。だってそれがあたしのライフワークであり、生きている証でもあるんだから…
あたしは、会場から少し離れたところにある河原に寝転がると、ふと昔のことを思い出した。

あたしは子供の頃からずっと背が高くて、学校では背の順番で並ぶときがずっと苦痛だった。義務教育の九年間、あたしは一番後ろを譲ったことは只の一度もない。同級生たちにからかわれ続ける毎日。そんなあたしを救ってくれたのがバレーボールだった。

元々運動神経がいい方だったあたしは中学校からバレーボール部に入り、あっという間にレギュラーの座を獲得。中学校は公立ながら都内で『強豪校』といわれていたところで、エースアタッカーとして数々の大会で優勝しまくり特待生の待遇で高校へ進学。

そんなあたしを不幸が襲う。

高校三年の大会を目前に控えたある日、横断歩道を渡っていたあたしに一台のワゴン車が突っ込んできた。余所見運転で信号を見落とし、全く減速しないまま突っ込んできた車はいとも簡単にあたしを跳ね飛ばし、あたしの意識はそこで途切れたんだ。
目覚めたのは三日後。ギプスできつく固定された両足を見て、あたしは『ああ、もうバレーは出来ないんだ。人生はこれで終わりなんだ』って思ってね……

病棟の廊下から微かに声が聞こえる。両親と誰かが口論しているようだ。
「誠に申し訳ありませんでした!」
「詫びなんてもういい!いくら詫びたってもうウチの娘はバレーの出来ない身体になっちまったんだ!いいか、覚悟しておけ。ウチの金の卵を台無しにした代償は大きいぞ。慰謝料も逸失利益も盛大にふんだくってやるからなっ!」
ヒステリックに叫ぶ両親の声を聞いて、あたしはもう一つ残酷な事実を知る。
両親は良き理解者でいつも応援してくれている人たちなんだって思っていたけど、あたしのことを『近い将来、大金を生み出す金の卵』位にしか思っていなかったんだ、って。

足は日常生活に不自由しない位に回復したけど、もうバレーなんて無理。どうにか高校を卒業したあたしは派手な生活をするようになっていた両親の元を去り、今まで貯めたお年玉で古いアパートを借りて都内のショッピングモールにあるスーパーで働き始めた。
あたしがバレーで活躍していた頃は結構ちやほやされていたから友達らしきものは沢山いたけど、あたしからバレーを取ってしまうと何も残らず一人、また一人と私の周りからいなくなり、実家を出た頃は完全な独りぼっちになってたんだ。

「ねえ、横田さん。ちょっとお願いがあるんだけど」
不意にあたしを呼び止めた声の方を振り向くと、店長が一枚のチラシを持って立っている。
「今度、ショッピングモールのイベントで『ご当地キャラが来る!』ってのがあるんだけど各テナントに応援の要請があったんだ。で、ウチの宣伝もさせてもらえるみたいだから…」
「あたしが行くんですかぁ?」
やや素っ頓狂な声を上げた私に、店長が囁く。
「ほら、僕みたいなオッサンが行くより若い子が行った方が盛り上がると思ってさ。頼んだよ、横田さん」
あれよあれよという間に日は過ぎ、イベント当日を迎えたその日に私は店長に呼び出された。
「今日、約束通りほんの少しだけ僕たちに宣伝タイムが与えられました。それで、ですね」
店長がテーブルに大きな袋をどんと置く。
「これって…」
「そう、先週からウチのプライベートブランドで売り出した無農薬米。これをプレゼントして…」
何か態とらしい。宣伝するならタイムセールの告知とかにすればいいのに。あたしは、一方的に米袋を押しつけられて会場までの道をとぼとぼと歩いた。

舞台の袖から恐る恐る覗いてみると、既に人気ご当地キャラはステージ上で観客に愛想を振りまいている。
ご当地キャラなんて当時は殆ど知らなかったけど、この子はテレビで見たことがある子だ。薄茶色の猫の男の子で、見た目の可愛さと愛くるしい立ち居振る舞いが人気で、ご当地キャラのコンテストでいつも上位に顔を出していたはず。
何を話そうか全く何も思いつかないまま、あたしは大きな米袋を抱えて壇上に登場した。
「あの、初めまして」
お人形さんに話しかけるなんて幼稚園か小学校以来。なんか変な感じ。彼は決して喋らないけど、あたしの方を向いて深々と頭を下げた。立ち居振る舞いだけで言えば、あたしなんかよりよっぽど礼儀正しい感じだ。
「あの、私はここのショッピングモールにあるスーパー、いしづちの横田と申します。今日は、当店から是非プレゼントしたい物がございまして」
彼は嬉しそうに手を叩くと、興味津々で私が持ってきた袋を覗き込む。
「えっと、これはですね。先週から発売しています当店イチ推しの商品、上越県産の無農薬米です」
あたしが袋を差し出そうとした瞬間、会場から失笑が起こった。
え?なんで?あたし何か変なことでも言ったかな?
後でわかったんだけれど、この子は『パンが大好物』だそうで、身体の色は焼きたてパンの色だったらしい。
そんなことを何も知らない店長とあたしは彼に米なんかプレゼントしちゃったわけだ。
パンが好きってわかっていたら、焼きたてが自慢のベーカリーから何か持ってきたのに…店長のあほっ!
会場のリアクションに戸惑っている私の横で、いきなり彼が嬉しそうに飛び上がった。
そして会場を煽るかのように大きなアクションで拍手を始めた。言葉では何も伝わってこないけど、仕草で嬉しさを表現している。
「あ、お口に合うかどうかはよくわからないですけど…喜んでいただけたんなら嬉しいです…」
そうは言ったものの戸惑いを隠しきれないあたしの方に向かって、彼は右手の親指を上に向けて立てて見せ、私の手をギュッと握ると両手で握手してくれた。う~ん。なんていい子なんだ、この子は…

数日後。
「ちょっと店長、酷いじゃないですかっ!パン好きのご当地キャラに米を持たせるなんて!あたし、壇上で笑われてどれほど恥ずかしかったか…」
そうやって項垂れる私に、店長は私の気持ちなんてどこ吹く風で嬉しそうに言った。
「そう?宣伝効果は絶大なんだけど」
そう言って店長が差し出したタブレット端末を見て私は凍り付く。あのご当地キャラのブログには、引きつった顔をしたあたしと彼ががっちり握手した写真がでかでかと掲載されている上に、彼のコメントが寄せられていた。
『きのういただいたおこめ、おにぎりにしてもらったけどすごくおいしかったのにゃ!パンもいいけどおにぎりもさいこうにゃ!あ、「こめこのパン」とかもあるからスタッフさんにつくってもらおうかにゃ♪いしづちのよこたさん、ありがとうなのにゃ!』
「あのご当地キャラにお墨付きをいただきました!ってこの記事をPOPにして貼り出したら、もの凄い勢いで売れ始めてね…これも横田さんのおかげですよぅ」
私は、タブレットの画面を見ながら暫くぼんやりと考え事をしていた。これほどまでに社会に影響を与えるご当地キャラって一体どんな存在なんだろう。他のキャラもあんな風に優しくていい子たちなのかなぁ。
ご当地キャラは全国に沢山いるから、その子たちにも会ってみたい。急にそんな興味が湧いたあたしは、その日の勤務が終わるとモール内の家電量販店で鼻息荒くデジカメと小さなノートパソコンを買い込んだ。

こうして、あたしの『ご当地キャラクター追っかけ生活』は始まったんだ!

追っかけ生活と同時に、折角だからデータ整理目的で買い込んだパソコンでブログを始めてみた。ハンドルネームは色々考えた挙げ句、『ハルりん』という当たり障りのない、悪く言えば平凡な名前。
そもそもこう言うのって慣れていないし、背が高い以外何の特徴もない私がキラキラした名前を付けても気持ち悪い感じがしたから本名の『晴美』をアレンジしただけ。
もっとも、これまでの人生の中でそんな名前で呼ばれたことなんて一度もなかったけど。

最初は単なる日記のつもりで書き始めた『ハルりんのご当地キャラクター追っかけ日記』はあれよあれよという間にアクセス数やフォロワーさんの数が増え始めた。
何が良かったのかよくわからないけど、たぶん『ご当地キャラの写真や公式プロフィールを紹介する以外に、そのキャラの性格や立ち居振る舞いのいいところ、可愛いところ』を上手く発信できていたのかな。
そのうち、旅先でご当地キャラが出演するイベントに顔を出して写真を撮っていたら『ねえ、あの子ハルりんじゃない?』とか言われるようになり始め、それ以外にもメディアから取材を受けたりなんかして充実した生活を送るようになっていた。

でも、その充実した生活は『ハルりん』のものであって『横田晴美』のものではない、っていうことを後に痛感することになるんだけど……

IMG_20170527_093423_1_.jpg

ご当地キャラの追っかけをしている『ハルりん』の正体が少しずつ明らかになってきました。
登場人物の屈折した感情が少しずつ積み上がっています……

この感情はどこへ行くんでしょうか。


16 件のコメント
1 - 16 / 16
なるほどね。中身のない君は「ハルりん」のことね。
ポンちゃんと少しキャラが被っているようだけど、今後の展開は如何に。
楽しみだにゃ~(;・∀・)
( ゚ー゚)ウ ( 。_。)ン

あたいちゃん いな~~~い
あたしさん 。゚( ゚இωஇ゚)゚。

ちょっと こんがらがってきた😅🤨🤗

>> なかっぴ さん

ハルりんのキャラ設定は最初から決まっていたのですが……
アタイとの被り……
物語をリリースした今になって考えてみると、

あるかも知れませんね(^^;)

>> えびふらいのしっぽ・ふろしき・ひよこ@自粛有り🦆🦆🤭 さん

何でもないようなストーリーですが、段々こんがらがってきましたね(^^;)

お話はもう少しだけ続きます……

ハルりん.jpg

そこら辺の女の子がゆるキャラと一緒に写真撮ったからって大人気になるような甘いものじゃないと思います。

ハルりん自身がスタイル良くてキュートで光るものがあったから人気が出たのだと思います。いわゆるタレント性を持ってると言う事ですね。

中身の子とラヴに発展するかどうか正座して待っています。
服装を普段着にしたら、たぶんこんな関係になります
ともに何かしらのコンプレックスを抱えた二人
今後どうなるんでしょうか……

乞う御期待!

一瞬でこの絵が出てくることに驚きを禁じ得ないです(゚Д゚)
おお、今日は「あたし」パートでしたか。
なるほどなるほど。
こっちにも桃ちゃんっぽい設定がw
なるほど、中身が無いと思い込んでいる訳ですか🤔


ブログ運営していれば、充分何かやってますよ。
ゲーム🎮️と野次馬投稿しかしない奴よりは( ̄。 ̄;)

stage23621_1_1_.jpg

さて、どうまとめ上げるんかなぁ?!(・・;)

internet_0351.jpg

ペルソナと中の人の交錯か…🤔

>> ob2@花粉は続くよ何時迄も さん

毎度のことながら視点がくるくる変わります(^^;)
「ハルりん」そして「こどーん」のお兄さんなど、登場人物の絡み方が気になりますね~! 
私は現実に、ひこにゃん、せんとくん、くらわんこ(知る人ぞしる)しか会ったことないのですが、ハルりんに、それらのご当地キャラについて、ブログ書いてほし~と思うぐらい、ハルりんは現実の人に思えてきました!
そうか、今日から君は桃ちゃんあらため桃りんなのね。
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