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100均で躍進! 2000種もの記録メディアを持つ「磁気研究所」で、まだフロッピーが売れるワケ

100均で躍進! 2000種もの記録メディアを持つ「磁気研究所」で、まだフロッピーが売れるワケ

辰井裕紀
ライター: 辰井裕紀
ローカルネタ・ガジェット・卓球が好きなライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。

磁気研究所 」。以前からガジェット好きの間では知られていたメーカーですが、最近はその名前を100円ショップの店頭でよく見かけます。

32GBで550円と驚きの安さを誇る(Micro)SDカードとUSBメモリに加え、キーボードに電子メモパッド、モバイルバッテリー、ワイヤレスイヤホン、さらにはブルーレイディスクやカセットテープまで、気づけばこの磁気研究所によるものでした。

もはや100均ガジェットのリーディングカンパニーにもなりつつある磁気研究所。その総本山となる秋葉原本社をのぞいてみると、隣のビルに何やら磁気研究所によるお店がありました。

懐かしのフロッピーディスクやMD(ミニディスク)など、かつて一世を風靡したメディアたちが所狭しと並べられている!? 何だか見ているだけで楽しいぞ。

というか、ここは秋葉原でも珍しい古今東西の記録メディアを販売するお店で、筆者もかつてMiniSDカードを買ったことがありました。磁気研究所のお店だったのか。

早くも得体の知れない会社っぷりを見せている磁気研究所。そもそも社名も不思議ですが、いったいどんな会社なんでしょうか?

1979年に株式会社磁気研究所を立ち上げた斉藤邦之社長と、品質管理部門掌理顧問の奥川隆生さんに話を聞きました。

左:斉藤邦之社長 右:奥川隆生さん


磁気研究所は「すべての記録メディアをそろえる」!?

辰井
兼ねてからガジェット界隈で名前を聞く磁気研究所さんですが、正直今までどんな会社なのかいまいちわかっていませんでした。どういう会社なんですか?
斎藤
おそらく、すべての記録媒体をそろえている、世界で唯一の記録メディア専門商社です。
奥川
「HIDISC」のブランドで記録媒体としては総合的に高いシェアがあります。
辰井
このロゴ、たしかに最近あちこちで見かけますね。どんな商品を販売しているんですか?
斎藤
50~60年前のメディアから、現在使われているSDカードやSSDまでそろえます。大昔のオープンリールテープ(※1)から、カセットテープ、DVD、ブルーレイに加え、Zip(※2)やJaz(※3)なども……

※1 音楽を録音・再生するための磁気テープを枠(リ―ル)に巻いたもの。
※2 アイオメガ社が1994年に開発した外付け用記憶装置。フロッピーディスクの技術が使用された。
※3 同じく、アイオメガ社が開発した外付け用記憶装置。ハードディスクの技術が使用された。

茨城県水戸市の物流センターに約2000種類もの記録メディアを抱える(2020年度の会社案内より)


辰井
往年の伝説的記録メディアまで……!
斎藤
弊社は製造販売も広く行っています。日本は記録メディアのメーカーがほぼなくなりましたから。
辰井
そうなんですか?
奥川
最近でもブルーレイディスクはパナソニックさんが製造をやめ、作っているのはソニーさんくらいです。記録メディアを日本で作るのはコスト面などで非常に困難な時代ですから。
辰井
そんな中で、カセットテープの国内生産をされているのも、磁気研究所さんくらいですか?
斎藤
たしかに、あと日本に数社のみです。
辰井
ちなみに、なぜここまで古いメディアを抱えているんですか?
斎藤
昔からのコンピュータシステムを使い続けるには、昔のままの記録メディアが必要なんです。
辰井
この8インチのフロッピーディスクなんて、使うところあるんですか?
1972年IBMが発表した8インチフロッピーディスク。斉藤社長は「日本で初めてフロッピーを売った」ともいわれる(2020年度の会社案内より)

斎藤
ええ。フロッピーディスクはいまだに売れます。
奥川
一部の大型コンピュータで、8インチの業務用の大型が使われていますね。
辰井
おお……!
奥川
たとえば京都・西陣織の会社では、織機を動かす織物のデザイン記録に使われています。もっと小さい3.5インチフロッピーは、医療や市役所のデータなど、昔のコンピュータが稼働しているところなら欠かせません。
辰井
ドライブだけ変えられないんですか?
斎藤
できません。システムごと総取り替えになってしまうので。
奥川
河野太郎デジタル大臣が「官公庁間でまだフロッピーディスクが使われているのか。今ごろフロッピーはどこで買えるんだ?」とおっしゃったとき、フジテレビがここに探しにきたこともあります。
辰井
そんな舞台の場にも。古いメディアがほしい人の駆け込み寺のような会社ですか。
斎藤
そう思っていただければいいですね。

生き残った or 死んだ記録メディアのワケ

辰井
記録メディアは栄枯盛衰でした。生き残ったメディアは何が長けていたんですか? 
斎藤
まず「アクセスタイム」です。読み込み時間、転送スピードとか。あと「ビット当たりのコスト」、つまり容量における安さですね。
辰井
スピードとコストが重要なんですね。ちなみに今一番使われる記録メディアは(Micro)SDカードあたりですが、なぜ普及したんですか?
斎藤
スマートフォンに入れられるくらい小さかったからだと思います。
辰井
「サイズ」が生き残るための3つ目の要素なわけですね!
斎藤
スマホにハードディスクやDVDを入れようと思ったら……
辰井
スマホの大きさを超えちゃいますもんね。
斎藤
ハードウェアは、コンパクトで薄くなっていきますから。
辰井
ちなみに、ファミコンのカートリッジも記録メディアですよね。使われなくなっていたのは劣っていたからですか?
Photo by Bryan Ochalla

斎藤
はい、容量もアクセスタイムも足りないので。
辰井
フロッピーディスクが時代遅れになったのもそこですね……ほかにもメモリースティックとかコンパクトフラッシュとか、xDピクチャーカードとかいろいろありました。
活躍の場が減少したコンパクトフラッシュ


斎藤
普及しなかった事情はいろいろありますが、第一に記録メディアは世界中どこでも使えなきゃ、量産もできないんですよ。量産できなきゃコストも高いままで。
辰井
MO(光磁気ディスク)とかは世界中で使われなかったから普及しなかったんですか?
奥川
はい。ただし、MO自体は一番安全なメディアと言っても過言ではなくて、エラー補正の処理が優れていたんですよ。
辰井
高評価ですね。
奥川
ですけど、ケースとカートリッジとシャッターが必要だから、裸で使うCD-Rのほうが安かった。やっぱり安くないとたくさん使われないんです。

「ある大国」のせいで日本のメディアは不遇?

辰井
さっき言った「普及しなかったいろいろな事情」ってほかにありますか?
斎藤
コンピュータにも見えない規制があるんですよ。ある大国がいいよと言わないとなかなか世界標準にならないですよね。
辰井
その大国の都合で普及しなかったメディアもあるんですか? 
斎藤
製品の統一規格を決める時にはそれぞれの国や企業の思惑が働いて、いろいろと政治が動くんです。
辰井
恐怖の大人の事情ですね。
斎藤
日本発のいいメディアは多かったけど、なかなか採用されない場合もあったし。
辰井
実力はあっても政治力はなかったんですね。

記録メディアはクラウドの足りない所を補える

辰井
これからの記録メディアはどうなっていくと思いますか?
斎藤
便利なクラウドと支え合って残ると思います。たとえば、このMOも売れているんですよ。
辰井
ええ?
奥川
以前、銀行のシステム会社さんに1万枚、MOを購入いただきました。
辰井
どうしてそんなに?
斎藤
オンラインだからこそデータが抜かれるんです。オフラインだと、泥棒が持っていくしかないですよね。
辰井
たしかに。
斎藤
だから、セキュリティを追求するとメディアへの保存が一番なんです。
辰井
そういえばGoogleもクラウドのデータが壊れて、磁気テープからデータを吸い出したとか聞きますね。
斎藤
磁気テープも見直されていまして、大容量で低コストを実現した「LTO」など、新しいメディアも好調です。
辰井
記録メディアも進化している。
斎藤
はい、記録メディアは利便性の高いクラウドと補完し合える関係なんです。
低コスト・大容量を実現するLTO(Linear Tape-Openの略)は、各社で新たに採用されている

辰井
そして古いメディアも生き続けるわけですね。
奥川
はい。しかも残っている古いフロッピーなんかは稀少価値があって、実は高く売れますから。

100均で躍進のワケは価格帯アップと意志決定の早さ

辰井
今、100円ショップで多くのガジェットを販売していますよね。なぜ100均市場を狙っているんですか?
斎藤
狙ったわけでもないんですよ。100円ショップさんがもっと高価格帯のものも売ることになって、バイヤーさんに声をかけてもらったんです。
辰井
大手をさしおき、磁気研究所さんが抜擢されたわけですね。
奥川
100均ってなかなか大手が入れないんですよ。
辰井
なぜですか?
奥川
大手は大組織の維持コストが商品に乗り、判断が遅いから。うちは社長が決めたらすぐ動くので。意思決定が早い。
辰井
100均のニーズに合わせるのに適した会社なんですね。
認識しないmicroSDカードも自社で復旧できる

「あの太鼓ゲーム」の動作もチェックするシステム

「あの太鼓ゲーム」の動作もチェックするシステム

斎藤
我々が創業44年で培った技術や取扱品をご覧ください。
辰井
ワクワクします。さっそくですが、これは何をやっているんですか?
多田
お客さまからのご依頼で、品質の悪いディスクがないかチェックしています。1台不具合があると、いいディスクも、すべて引きずられておかしくなりますから。
辰井
ドミノ倒しみたいな悪い連鎖が起こるんですか。
多田
某メガバンクでもこのタイプの不具合が起きていますよ。
辰井
チェック、大事ですね……!
多田
たとえばゲームセンターの筐体にもSSDがあるんですけど、正常なものを使わないと故障するので。とくに太鼓の達人などは振動や熱に弱いので入念に選別します。

「AI入りメモリ」でセキュリティの概念が変わる

辰井
見慣れない世界各社の商品も並んでいますね……このメモリはなんですか?
多田
中にAI機能があって、PCに入れておくと外部からアタックがあったときに遮断しちゃいます。
辰井
すごい技術!
多田
ウイルス対策って構造上後手になるので防ぎきれない部分があるんですけど、怪しいものはまとめて止められるメモリなんです。
辰井
さらに、これは何ですか?
多田
電磁波を遮断するシールドです。この中に携帯電話を入れると、電話もメールも受信できなくなります。ほか、GPSなど一切の通信ができなくなります。
辰井
そうか、データを抜かれないように?
多田
はい。政府要人が海外渡航する際にも使用され、宇宙軍事でも使われています。日本政府は管理が甘くてあまり普及していないんですが、この間、某大臣に検討用に差し上げました。

「記録メディアだけだと会社がつぶれる」若い社員の意見で奮起

辰井
磁気研究所さんって「いったい何研究してんだ」と思っていたら、本当にいろいろ研究しているんですね。
斎藤
若い世代の人から「記録メディアだけだと会社が潰れるよ」と言われまして。時代の変化に合わせていかないと。たとえば、今はデジタルデータの保全サービスもやっています。
辰井
どんな依頼が多いですか?
斎藤
「社員が退社して、使用していたコンピュータのモバイルデバイスを『意図的に削除してロックしてしまった』ため、何とかデータを抽出してほしい」って事例が目立ちますね。
辰井
怖い……! 退社した人の腹いせですか?
斎藤
はい。
辰井
まさしく新たな需要だ……
斎藤
あとフィリピンからは「オレオレ詐欺の録音を何とか復旧できないか」って。
辰井
え、なぜ?
奥川
足がつかないように消すじゃないですか、悪いことして。それを復活させるんです。
辰井
そうか、立派な証拠になりますもんね!
辰井
今後の成長の柱にしたいものはありますか?
斎藤
モバイルバッテリーですね。熱を持ちにくく、引火の危険性の低いリン酸鉄リチウムイオンバッテリーなどの商品化をめざしています。
発売中の、デジタル数字で残量がわかるモバイルバッテリー

辰井
最後に、今後の磁気研究所さんについてひと言お願いします。
斎藤
お客さん目線で、時代に即応したものにチャレンジしていきます。
奥川
値段は高くないけど、基本的な性能は高くしたい。今後もそんなボリュームゾーンのユーザーの入り口に立っていきます。 
辰井
これからも「研究」に期待しています!


編集:ノオト


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331 件のコメント
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フロッピーという言葉はあまり良く無いから、ディスケットと言いなさい。
と言われましたがビスケットと書き間違える人がいて…
やっぱりフロッピーで良いって😅

今でも需要があるのですね💦
外注先とのやり取りでいまだにフロッピーディスクを使っている部署にいます😅
FDはすぐダメになるので変えて欲しかったのですが、記事を読んでいて、そういえば相手方がうっかりデータの入ったUSBを持ち帰ってうっかり紛失しかけた事があったなぁ〜と思い出しました…
個人的には最近モバイルバッテリーの発火事故の記事を見たばかりなので、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーに期待しております!
こういう言い方もアレだけどなんか初めてめちゃくちゃためになる内容だったな…
記録媒体、アクセススピードや大きさ、容量など色々あるけど、パソコンのOSがサポート終了になる度にパソコン買い替えたりして、その度に媒体入れるスロットも変化して変化が激しく大変。家に昔のパソコンが、何台も。昔のパソコン引っ張り出して使うことはまずないけど、使う際には古い媒体販売は助かるよねー。
勉強になりました👍
先日、うっかりジャンクでusb-fddを買ってしまった。使えたけど、使い道はなかった。
古いメディアに需要がまだあることを知りました。面白かったです。
フロッピーディスク💾懐かしいと思いました。
古いメディアも利用価値があるんてすね。
フロッピーなつかしい
4CV
4CVさん
レギュラー
めちゃめちゃ良い記事でした
HiDiscって一昔前dvdrを大量に購入していた頃は安かろう○かろうなブランドイメージありましたがこんな素晴らしい会社になってたんですね
末永く続いてほしい
使ったことないけど、おもしろそう
ダイソー商品で目にする会社ですね
私は、勉強しないとついて行かれません。
APPLEなどとは、どうなりますかフロッピーは?
沢山持っているなぁ
カセットはともかくフロッピーやオープンリールが未だに売られているとは…!
めちゃくちゃ読み応えのある記事でした。
MOドライブ持ってたはずだけどどこにいったのだろうか
引き出しにMOメディアが残っているけど中身の確認が出来ない事に気がついてしまった
勉強になりました
確かに、ある役所で企業さんから、フロッピ申請、というのが、相当、最近まで残っていました。
MagLab 久しぶりにお店を見たなぁ。

退職の際、引き継ぐやつが居なかったから、3.5インチFD 二百枚ぐらい捨てた。
大事に取っておいたオープンリールテープレコーダー、ワープロ、フロッピーディスク、大型VTRテープ等々を思い切ってばっさり捨ててしまいましたがもし残して置いて「ゆずりマ」等に出していたら欲しい方もいらっしゃったのかな?🤔
そういえば最近昔のコンパクトデジタルカメラがレトロデジカメとして若い人の間で人気がある……という記事も読みました。
我が家ではもう要らないけれど欲しい方がいらっしゃったら使って欲しい……というルートがあればもっと資源を大切に出来ますね。
(ルートが無いからみんな捨てていく訳ですし)

とても興味深く面白い記事をどうもありがとうございました。
磁気研究所に頑張って欲しいです!
面白かったです。
a4bk
a4bkさん
レギュラー
筋金入りの硬派なメーカーで感動!
コスパだけの会社ではなかった
ゴメンナサイ
懐かしい、使ったこと自体幼い頃数回だけど

意外に以前使われてたものって、頑丈だったり、特定の環境においては現在の技術より優れてたりするから、使い用ですよね。

失われるよりも使い道を模索するって素敵だと思いました。😊
フロッピー、この時代が懐かしい
退会済みメンバー
退会済みメンバーさん
ビギナー
勉強になりました。
技術の進歩が凄すぎる
思わず集中して読んでしまった。
素晴らしい記事です。
`    、´  ̄ ` 〃 、
   /'´        ゝ
   {/          ハ
  /{           i
{/     ヽ =く {{{  |
 X      ノ ' ´ _  {  ミx,リ
 !    彳  ´癶 ` 彡 ∂  リ
 !乂  =彡 '     { / } ィ,ノ
 \/   / 、 ︶  ノ{ / }.  }}
 ノノ  ム+` ― イ +*{ /}ー' 'ー``ァ
 {/     丿ノ| | { /}   /
 乂_  ノ} 〉..〈  {/}\__ソ
  ノ | ノ        V !_/l
  ( )ノ
    )ノ
自分も仕事の取引先がまだフロッピー使ってたりします。容量が数MBとかでしたっけ??いまは数TBが手のひらに乗る時代で、技術の進歩を感じますね😳
時代の進歩がすごい
素敵な記事ですね
さすがに使った事は無いですが、時代の変化はすごいですね!
見たことないものばかりでした
とても面白かったです( * ॑꒳ ॑*)
懐かしの記録媒体がまだ役に立っているというのは感慨深いものがありますね。AI入りメモリや電波遮断シールドには驚かされました!
8インチ時代から使っていたのでフロッピーディスクは画期的でした。
電磁波を遮断するシールド

5G嫌いの人のための頭巾を是非!
まだフロッピーディスクや
MD、MOまで売っているなんて
知らず驚きました

去年引っ越しの時に、もう使えないと思い
MOの書き込み読み込みできる
USB接続外付け機器を捨て
少し後悔しました(*_*)

MDはCDコンポに差し込み口があるので
昔作ったMD再生リストを
たまに再生しています^_^
20年ほど経つのに音割れもありません。
記録を残すのはなんやかやで石に直接文字を刻む方法が結局、1番長い期間残せる(気がついて貰える)気がする
すごく面白い記事でした。質問内容が多くて、長時間の取材だったと思います。お疲れ様でした!
フロッピーディスクは十年くらいお世話になりました。磁気テープも一時期使っていて、懐かしいです。いろんな媒体を扱ってくれる会社は貴重だと思います。
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