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なぜ8cmシングルCDは12年で消えた? 元渋谷HMV店員のコレクターに歴史を聞いた
ローカルネタ・ガジェット・卓球が好きなライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。
J-POPが最もセールスを記録した1990年代、広く流通した8cmシングルCD。
1,000円で手軽に買える存在で、売れに売れた。さらにそのヒットチャートが人々を一喜一憂させ、時代を投影していき、存在感はあまりにも大きかった。
縦長の独特のジャケットは今改めて見ると異彩を放つ。その中に光るのは通常の12cmCDとはまるで違うコンパクトさで、すぐ歌詞欄にアクセスできるのも魅力だった。
しかし、2000年ごろからは12cmCD(マキシシングル)に統合される形でほぼ姿を消し、2022年の8cmシングルの生産数量は約3万4000枚。さらに新譜はわずか4つのみ。
だがそんな中で、時代に葬られた8cmシングルCDを集めているのが、音楽評論家の長井英治さん。1,000枚以上もの8cmシングルを集めており、もはやライフワークとなっている。
長井さんは1990年に新卒で山野楽器に入社してCDショップの店頭に立ち、1996年からHMVジャパンに転職。HMV渋谷店を中心に2000年まで売り場に立ち、CDシングル黄金期10年のCD販売を担当していた。
そんな彼だからこそ、聞きたいことがある。
8cmCDシングルとは、いったい何だったのか?
そして8cmCDシングルは、今どうなっているのか?
毎年1億6000万枚生産された8cmCD
長井「店頭でCD販売をしていた時期が、8cmシングルの全盛期とかぶるので、思い入れが強いんです。さらに8cmのDJイベントに参加してから、収集するようになりました。『短冊型』のジャケットがまた愛おしいんですよ」
ちなみに8cmシングルCDは、どれぐらい出ているのか。
長井「数万タイトルじゃないですかね……? 何しろ1995年〜1997年の3年間は、毎年1億6000万枚以上のCDシングルが生産されていましたから。私も見たことがないものが多いです」
8cmシングルCDは、ソニーとフィリップスが共同開発し、1988年2月21日に発売された。
長井「当時は貸しレコード屋の登場で、音楽ソフトの売れ行きが低迷していたので、巻き返しの意味合いもあったかもしれません」
さらに当時の二大巨塔、松任谷由実と中島みゆきがライブ版をCDのみで出したのもあり、多くの人がCDプレーヤーを買うようになった。
考えてみれば、CDシングルCDの1,000円は大金だ。なぜみんな買えたのか。
長井「まだ携帯電話も必須アイテムではなく、お金をかけるちょうどいいものがCDだったんです」
ちなみに、当時出た8cmシングルでまだ生産中のものが数百タイトルある。
長井「1988年2月27日に出た長渕剛の『乾杯』は、ずっと生産されてきて、長らく日本最古の現行品だったとどこかで聞いたことがあります」
長井さんによれば、B’zやZARDなどのビーイング系やMr.Childrenも生産を続けているとのこと。中島みゆきの『命の別名』もそうらしいが、理由は「『糸』がB面に入っているから」。
長井「初期の8cmシングルCDは半分に折って保存するように推奨されていて、当時のジャケットには折り目がありました」
長井さんは8cmCDの『傷がついても音が変わらない』特性に感動し、EP(シングルレコード)に代わって買い続けるようになった。
なお、8cmシングルの付きものの「カラオケバージョン」だが、最初は付かないのが当たり前だった。
長井「出始めの1988年、カラオケボックスはボーリング場のおまけみたいなものでしたが、1991~1992年ごろから一気に普及してきて、インストゥルメンタルがつくようになりました」
8cmシングルを彩ったのが、特徴的な短冊形のジャケットだ。
長井「そのジャケットのデザインにもお金をかけていたと思いますよ。かつては新人アーティストも万単位のセールスが当たり前でしたから」
当時は「1曲500円」の8cmCDもあった。
長井「松任谷由実の『春よ、来い』もそうでしたね。国民的ヒット狙いで500円にする手法だったんですけど、売れれば売れるほど赤字になったとレコード会社の方から聞きました。アルバムを売るためのプロモーションと割り切っていたようです」
長井「CD販売の全盛期は工場のCDプレスが追いつかなくて、某有名メーカーが、他の有名メーカーの工場でこっそりプレスしたこともあったようです」
それほどに売れた8cmシングルだが、収録曲はサブスクで聴けないものも多い。
長井「セールスが芳しくなかったアーティストは、サブスクでなかなか配信されなくて。あとレーベルが消滅したアーティストの曲も配信されません」
いわく、90年代は景気が良くていろんなレーベルが出てきたが、2000年以降に採算が取れず消えたレーベルも多いという。
長井「そのせいで8cmCDでしか聴けない曲も多いので、面白いですよ」
90年代後半からマキシシングルと並立→淘汰へ
1995年ごろから、外資系のレコードショップが主流になる。
長井「タワーレコードなどの外資系の店は8cmをあまり扱わなかったんですよ。95年ごろから渋谷系、その後にR&Bやヒップホップが台頭すると、シングルにリミックス曲を入れるニーズも増えたんです」
そこに台頭したのが、12cmCDを使ったマキシシングルだ。
長井「たぶん最初のマキシでの大ヒットは、1995年に187万枚を売り上げた、福山雅治の『Hello』だと思います。そのせいか、96年以降はマキシでリリースを始めたアーティストも多いですね」
マキシを出した後に8cm版を出すなど、いろいろ試行錯誤が行われていた。
長井「1998年になるともう、マキシが主流になります。中でも、『宇多田ヒカル』の出現で業界が変わりました。さらにMISIAと倉木麻衣を加えた、この3人によるマキシ化の動きが大きかったです」
宇多田ヒカルやMISIAも最初は8cmCDと併売していたが、だんだんマキシシングルしか出さなくなった。
長井「だから1998年デビューのaikoと椎名林檎は、1枚しか8cmで出ていないんです」
長井「1998~1999年はみんな試行錯誤してたと思いますが、2000年になってほぼマキシに移行しましたね」
なお、8cmで出た最後のメガヒットは『TSUNAMI』(サザンオールスターズ)と言われる。
長井「あと海外のシングルはみんなマキシだったので、外資系ショップでは『8cmダサい』みたいに言われていて。この影響も大きかったはずです」
さらにマキシはアルバムと同じサイズで、8cm用の棚が少ない外資系の店舗にとって扱いやすかった。
長井「2000年になって、ほぼマキシに移行したので、8cmを探すのは大変です。フォーマットに保守的な演歌や歌謡曲はまだ8cmでリリースされていましたけど」
だが演歌でも8cmでの新規リリースは2003年ごろにほぼなくなった。なお、演歌はCD以前のデバイス『カセットテープ』が今なお残っており、逆転現象を起こしている。
意外としぶとく「リバイバルブーム」を演出
そこからは8cmCDシングルの売り上げは急落状態だったが、2003〜2004年ごろ、思わぬ追い風が吹く。
長井「『タイムスリップグリコ』ですね。チョコのおまけにレコードデザインの1曲入りの8cmシングルCDが入っていました」
当時の懐メロブームにも乗って快調に売れ、長井さんもシークレットバージョンを出すためにも何個も買った。ちなみに筆者も購入した。
長井「2013年に企画物でゴールデンボンバーが8cmをリリースしたときは、少し持ち直したらしいですけどね」
そこからサカナクションなど、一年ごとに片手で数える程度の新規リリースは続いているが、とっくにメインストリームからは姿を消している。
そして、CD全体の売り上げも下り坂になった。
長井「売り上げ不振の中で2003年にiTunesが、2005年前後に着うたフルが台頭してきたときに、『もうこれでCDは売れなくなる』と。それでHMVジャパンを退社しました」
そんな、時代に忘れ去られていた8cmシングルCDのリバイバルブームが来ている。
長井「ディスクユニオンはもう全店で8cmシングルを扱っていて、中古価格がすごく上がりました。かつてハードオフで22~55円だった中古品も、100~280円ぐらいになってきました」
2010年前後までは10円で売っていたお店もあったそうだが、跳ね上がった。
長井「万単位で買い取られる8cmシングルもありますよ。特にアニメ系が高いです。シングルカットのCDも流通量が少ないので、珍重されています」
リバイバルブームを決定づける動きも起きている。
長井「2023年7月7日には『短冊の日 』として、新作・旧作を含めた61タイトルもの8cmシングルが発売されました。1997年発売の大瀧詠一さんの大ヒットシングル『幸せな結末』も復刻リリースされています」
面白くて刺激的だった90年代が詰まった8cmシングル
ここで改めて、8cmシングルCDの魅力とは?
長井「面白くて刺激的だった90年代という10年間が、この短冊のパッケージに全部凝縮されていることです」
長井「今の時代がすごく景気良くて、みんなも幸福度が高かったらこんな風には感じなかったと思います。現代があんまりいい世の中じゃないから、90年代がいい時代だったのだと余計に感じるのかもしれません」
「君たちはどう生きるか」を問われ続けるような厳しい時代に、たしかにまだバブルの香りが残っていた90年代のまぶしさが思い出される。
長井「世の中も今よりずっとゆるかったし、今ほど不景気でもなかった。……でも、モノを購入したときのわくわく感、所有する喜びは、この先もなくならないとは思います」
最後の質問。8cmCDとは、日本の音楽史においてどんなメディアだったか。
長井「いつも90年代カルチャーの中心にいました。ドラマやCMを彩ったり、アーティストがファッションリーダーになったり、ジャケットのアートが人々に影響を与えたり。美化だけしすぎるのも違うけれども、それだけのパワーがあったと思います」
◇
90年代に10代を過ごした筆者は、8cmシングルCDは憧れの存在だった。大好きなアーティストの新作を本当はゲットしたい。でも1枚1,000円が高く思えて、TSUTAYAのレンタルに頼り、買うとすればもっぱらレンタル落ちの中古100円シングル。
8cmシングルは青春だった。だから当時売り場の最前線にいた人の口から、実像をもっと知れてうれしかった。
同時に、経費削減が極まって苦しい立場の新進ミュージシャンを思う。どうか、まだ見ぬいい曲を作り続けてほしい。8cmシングルと同じように、いつか誰かにとっての懐メロになるまで。
編集:ノオト
<2023/11/08 19:15 追記>
記事の一部に説明不足な点があったため追記しました。
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これらは8cmCDで買って、今でも家のどこかにあるはずです。
この頃が一番CDを買っていた時期だったかも。懐かしいです。
「そういえば何時の間にか無くなったな」と思ったら、その様な事情があったのですね。興味深く読ませていただきました。
菓子のオマケとなっていたのも結構集めました。当時はJ-POPではなく、ニューミュージックと呼ばれていた類のものが多かったと思いますし、何回かのシリーズに分かれていたはずです。
マキシシングルも今では普通となったスリムケース入りの簡易パッケージで、アルバムと差別化されてましたね。
昔を振返る企画をありがとうございました!
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#マイネ王9周年おめでとう!
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