燃えよ艾! 高校灸児の夏(ショートショート)
右肘の靭帯断裂。ヒロシの高校野球生活は、実にあっけなく幕を閉じた。
「甲子園のマウンドで投げる」という幼い頃からの夢は破れ、燃え尽きたヒロシに掛ける言葉を、チームメイトの誰もが、見付けられずにいた。
そんな彼を絶望の淵から救ったのは、リハビリ帰りに偶然立ち寄った、薄暗い部室棟の奥にある「高校お灸部」だった。
「君、ボールの縫い目をなぞるような、いい指をしているね…!」
漂う独特の煙の匂いの中、お灸部の顧問である鍼灸師のツボイ先生は、ヒロシの指先を見るなり目を輝かせた。
「お灸は、一瞬の指先のブレが熱の伝わり方を変える。ピッチャーとして培った君の繊細な指の感覚は、艾(もぐさ)を捻るためにあるようなものだ!」
半信半疑のまま、ヒロシは米粒大の艾を捻り、部員の背中のツボへと置いた。そして、震える手で線香を近づけ、火をつける。
その瞬間、ヒロシの全身に雷が落ちた。艾を置く位置、火の入れ方、そして肌から伝わる熱の広がり。その手つきは、かつてマウンドからストライクゾーンの四隅を突いた時と同じ、寸分の狂いもない「針の穴を通すコントロール」だったのだ。
高校生がお灸の技術を競い合う「高校お灸」。
制限時間内に被術者となる相手校選手の背中に、どれだけ正確に、そして心地よい熱のグラデーションを描けるかを競い合う、過酷な競技である。
ヒロシの才能は瞬く間に開花した。
ピッチャー時代に培った強靭な足腰と集中力は、長時間の施灸(せきゅう)でも姿勢を一切ブレさせない。彼の放つ熱は、見事に「経絡(けいらく)を射抜く豪速球」となって相手を極上のリラックス状態へと追い込んでいった。
快進撃は続き、迎えた県大会決勝。相手は前年度覇者の強豪校 …東灸大附属である。
試合は互角のまま最終エンドへと、もつれ込んでいた。
「いけ、ヒロシ! 最後のツボ、『膏肓(こうこう)』だ! お前の魂のベストピッチを見せてやれ!」
部長の檄が飛ぶ。
ヒロシは静かに目を閉じた。
ピッチャーマウンドからキャッチャーミットを見据えた時の、あの集中力が蘇る。
指先でひねった、極上にして最高密度の艾。線香の先端から移る、小さな赤い火種。ヒロシは渾身の祈りを込めて、相手エースの背中の奥深くへ熱を送り込んだ。
「……ストライクッ! いや、ピンポイントォォッ!!」
審査員の絶叫がアリーナに響き渡る。
強豪・東灸大附属の被術選手が「ああっ……そこ、効くぅ……!」と崩れ落ち、至福の表情でイビキをかき始めた。文句なしの完全試合(パーフェクト・リラクゼーション)達成の瞬間だった。
湧き上がる大歓声の中、ヒロシは立ち昇るお灸の白い煙を見上げた。
「行くぞ、ヒロシ!全国の猛者たちが集う聖地……『灸子園(きゅうしえん)』へ!」
「はいっ!」
火傷の跡が少しだけ残る指をギュッと握り締め、ヒロシは力強く頷いた。
白球を追った日々は終わった…しかし、彼の青春は今、新たな熱を帯びて静かに、そして熱く燃え上がっていた。
完
【おまけ】
いよいよ開幕した、全国の高校灸球児たちが集う聖地・灸子園(きゅうしえん)。
ヒロシの前に立ちはだかる、全国から勝ち上がってきた異次元の強豪校たちをダイジェストで紹介しよう!
ITと伝統の完全制圧 …【私立 電脳高校】
「我々のAIに、解析できないツボはない!」
最新鋭の生体センサーとスーパーコンピュータを駆使する、データ至上主義のインテリ強豪校。
対戦相手の骨格、筋肉量、その日の気温・湿度から皮膚の微弱な電気抵抗値までを瞬時にスキャンする。
そこから「最適な艾(もぐさ)の質量」「燃焼時間」「ピンポイントの経穴(けいけつ)」をミリ単位、ミリ秒単位で割り出し、ロボットのように正確無比なお灸を据えてくる。
彼らの冷徹な計算の前では、どんな隠れた疲労も丸裸にされてしまう。
見えるのは魂のコリ… 【視立 第六感高校】
「あなたの過去のトラウマ……そこに灸を据えましょう」
部員全員が何らかのエスパー能力を持つという謎に包まれたオカルト校。
彼らは物理的な背中ではなく、相手の「オーラ」や「気の乱れ」を直接視る。
対戦相手の被術選手が抱える個人的な悩みや、深層心理にあるトラウマに直結する“ウィークポイント(心のツボ)”をテレパシーで的確に察知。そこへ、精神を揺さぶる一撃を放つ。
施灸された者は、なぜか号泣しながら深いリラックスの底へと沈んでいくという、恐るべき精神攻撃(メンタル・ヒーリング)を得意とする。
圧倒的パワー …【剛腕田農業高校】
「ツボがどこかだと? 背中全体を燃やせば同じことだァ!!」
「お灸も筋肉も太い方が効く」と信じて疑わない、全員の体脂肪率が5%以下の、超マッチョ軍団。
繊細さが求められるお灸において、彼らは握力150kg超えの指先で艾をダイヤモンド級の硬さに極限圧縮する。
その結果、彼らのお灸はもはやキャンプファイヤーのごとき火柱を上げ、強烈な熱刺激と謎の筋肉の圧で相手のモデルを無理やり気絶(リラックス)させる。
全員が競技中も常にパンプアップを欠かさず、無駄にキレキレのサイドチェストを決めながら火をつける、おそるべきチームである。
魅惑の吐息と指先 …【痴立 ファンザ学園】
「ああっ、そんなに熱くしたら……ダメぇっ」
大会規定のギリギリを攻めたセクシーすぎるユニフォームで登場する、灸子園最大のダークホース。
お灸そのものの技術以上に、施灸中の「ふぅ、ふぅ……」という艶かしい火生かしの吐息や、ツボを探る際に行われる必要以上のねっとりとしたボディタッチが最大の武器。
視覚、聴覚、触覚のすべてからフェロモンを送り込み、お灸の熱なのか別の興奮による熱なのか分からない状態へとモデルを誘う「セクシーお灸」で翻弄する。
これまで数多くの純情な対戦校の被術選手を別の意味で「昇天」させてきた、ある意味で最も危険な相手である…!
果たしてヒロシの「魂のストレート(お灸)」は、これら規格外揃いのバケモノたちに通用するのか!?
燃えよヒロシ! 灸子園の頂点(テッペン)を目指して!
嗚呼、栄冠は君に輝く……!?
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前作はこちら
https://king.mineo.jp/reports/344638



>> へのもへ@簡単◯◯語メン募中🗿 さん
おざます&あざっす😁ツボる…「読むお灸」ってことですね?w
一言で表すなら「高校球児が高校灸児になって活躍する話」なんですが、おまけが本文並みに長いのが今回のふざけポイントです🤣
ヒロシは精神的にも燃えてると思いますけどw