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【読み物】ほんとうの空③ 工学部

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この物語はフィクションです。実在の人物や団体、法令・法規などとは一切関係ありません。
また、作中に事故の描写等があります。苦手な方は閲覧をお控えください。

五話完結の第一話です。
第一話はこちら
https://king.mineo.jp/reports/244010
第二話はこちら
https://king.mineo.jp/reports/247685

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翌月。

「ええええっ!何だこの成績!」
芹香が叩きだした成績に驚いたのは担任の大野先生とぼく。職員室で大野先生が絶句するのをぼくと芹香は面白半分に眺めていた。
「カンニング……?」
大野先生が言ってはいけない一言を口にしやがった。
芹香の怒りが瞬間湯沸器に点火したかの如く一気に爆発する。
「カンニングぅ?そんなズルいことやるわけないでしょ!先生のあほっ!」
「じゃあ、どうして……」
狼狽え始めた大野先生に芹香が強烈な一発をお見舞いする。
「ツバサのお母さまに無理を言って、つきっきりで教えて貰ったんです!県内トップクラスの学校で教鞭を振るう名物教師の講義をマンツーマンで受けて、成績が上がらない筈ないじゃないですかっ!」
『数学ってある種『閃き』みたいな要素で才能が開花して、一気に成績が伸びるなんてよくある話ですよね?芹香もえげつない師匠にしごかれたおかげで、秋に花咲く桜みたいな頓珍漢な時期に才能が開花したんですよっ!』
援護射撃(のつもりだったけど、結構酷いことを言っていた)をしたぼくの言葉に、大野先生が歯を食いしばりながら苛つく。
「うぬぬぬっ。じゃあ、先生の教え方が悪かったとでも……」
まさか本人の目の前でディスる訳にもいかないな……芹香とぼくが返答に困った頃、意外な救世主が職員室の扉を蹴破らんばかりの勢いで飛び込んで来た。

『母さん……』
「お母さま……」
「景浦先生……」
「お久しぶり、大野先生♪」
大野先生が椅子から転げ落ちそうな勢いでお袋を見つめる。彼の視線は『狼狽え』以外の何物でもない。お袋から眼を逸らそうとあちこちキョロキョロしている。
「か……景浦先生……ご無沙汰してます」
お袋はニヤリと笑うと、大野先生に向かってありったけの毒を吐いた。
「いつまでそんな『学習指導要領』一辺倒のみかんかピーマンの選別機みたいなことやってるの?莫迦みたいに『赤化された高度経済成長期の教職員』思想に囚われてるから、才能があるかも知れない生徒を無意識のうちに潰してるんだって…キミの仕事はみかんやピーマンの選別じゃなくて、手間暇かけて美味しい果実を育てること!違う?」
「うっ…それは……景浦先生の仰る通りで」
「けっ、公立高校の教師なんてその程度のもんか……留年させない程度に試験の点数をテキトーに与えて、卒業させたら後は知らん顔」
お袋が普段見せないような厳しい表情で大野先生に食ってかかる。
「で、まだ何か言いたいことはある?私が全精力を傾けて…あ、何て言うのかな…そうそう。私が蛞蝓みたいに手塩にかけて育てた芹香ちゃんに、カンニング疑惑をぶつけた時点で『私に対する挑戦』と受け止めてもいいよね……てか、疑惑に固執するなら県の弁護士会に人権救済の申し立てでもしてやろうかしら」
腕組みをしながらドヤ顔で大野先生を見据えるお袋。
大野先生は完全に萎縮している。
どうでもいいけど蛞蝓に塩をかけたら溶けてしまう。お袋の日本語はやはり何かがおかしい。
「まあいいわ…芹香ちゃんには『必死のパッチで頑張ったら県立大学の工学部に合格できるかも』程度の学力は身についた、ていうか私がそこまで叩き込んだ。あとは本人の努力と担任教師の助力、なんじゃないかな?大野先生、いちおう教師の端くれなんだからそれ位出来るでしょ」
「ハ、ハイ……そうですね」
小刻みに身体を震わせながら放心状態の大野先生を半ば無視するようにぼく達は職員室を後にした。

『あんなに好き放題言っていいの?後で芹香が困るようなことにでもなったら…』
寿司政でお寿司を戴きながら、ぼくは恐る恐るお袋に尋ねた。カウンターの向こうで芹香は炊きたてのご飯に酢を混ぜながらお袋とぼくの話に聞き耳を立てている。
「もぐもぐ……私の一言で芹香ちゃんに迷惑ぅ?そんなことないない。寧ろ私が大野先生に一発かましたことで、あの子は嫌でも芹香ちゃんのことを気にかけるようになる!大学のゼミで後輩だったあの子に『教育とは何か』みたいな話で毎日ボロカス言ってたから、彼は私の教育方針に口出しなんか出来っこない。てか出来るスキルもない。あの子、いつも値打ちこいて偉そうに言ってるけど、実態は学習指導要領や先例みたいなもんに縛り付けられて縮こまっているショボい教師。あんなヤツは当てにしなくてもいいから……あ、あと芹香ちゃん、明日からも地獄のような勉強は続くわよ!いい?」
芹香は炊きたてご飯と酢の混ざり合う香りと温かい湯気の向こうで躾のいいイヌみたいに首をブンブン振っていた。
「私がここまで言っちゃった以上、芹香ちゃんが箸にも棒にもかからない成績で浪人するなんて有り得ないワケ。いい?普段の成績がいいからって調子に乗ってるどこかの莫迦息子と大野先生を見返すには『合格』しかないのよ!」
芹香を焚き付ける理由にぼくを引き合いに出すのは止めて欲しいな。まあ、芹香が頑張ってくれるのならそれはそれでいいんだけど。

三月。
世間の人はこの月を『弥生』と呼ぶ。

桜の花が舞い散る頃、ぼく達は大学の合格発表を見に来ていた。学校推薦枠のぼくに不合格なんてある筈もなく、当たり前のように自分の受験番号が合格者として掲示されているのを確認すると、合格した受験生の受験番号が貼り出されているボード付近に芹香の姿を探した。
あ、芹香がいる。あれ?彼女は何故かその場にへたり込んで俯いている。まさか……
慌てて駆けつけた芹香の隣に、何故かお袋がいる。
『芹香……』
ぼくはそれ以上何も言えず、ただ芹香が声を発するのを待っていた。
お袋は表情一つ変えず、免許証の写真みたいな仏頂面でぼくの方を見つめていた。まさか……
ぼくはどんな言葉を芹香に伝えようかと思い悩んだその時、芹香の感情が爆発した。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁっ!」
芹香がぼくに投げつけた受験票と合格者名簿の番号を照合する。半信半疑で受験番号をチェックするぼくの頭を芹香が何度も小突く。
『痛ってえ!何しやがるっ』
「芹香ちゃん、良かったね!」
お袋が感極まって涙を流す芹香を優しく抱きしめる。お袋の優しい抱擁の中で芹香は感情を爆発させた。

「あたし、『そんな成績で県立大学の工学部なんて無理無理』とか『まあ、無難なところで成績のいい文学部志望にしたら』とか『記念に受けてみてもいいんじゃない?』とか言われてどれだけ悔しかったか、傷ついたか……でも、まあそれはいい。だってあたし、憧れの工学部に合格したんだからっ!」

告られ桃ちゃん.jpeg

芹香ちゃん、合格おめでとう😃
まさに『必死のパッチ』でしたね😃
で、なんで必死のパッチって言うんだろう🤔🤔
↑実は誰も知らない↑


16 件のコメント
1 - 16 / 16
思い通りとは言え、アオハルストーリーになってきましたね🥰🥰🥰
続きが楽しみです。
うおー いい感じの展開ですね。
合格発表の場面などめっちゃリアリスティックですね。

近年はネット発表が多いイメージで、嬉しがって、構内の掲示も見にいく感じでした。
お母様による芹香さん嫁認定みたいですねー😆
しかもアポ取り失敗演出みたいなのまでタッグでして
明日も読みます!

>> なかっぴ さん

これがバブル期なら織田裕二でも出てきそうな感じですが、設定は『高校生がスマフォやガラケーを普通に持っている時代』にしています
その頃、河嶋さんがいくつ位かはナイショ🍑

やったー_1_.png

>> まきぴ~ さん

河嶋さんが何かの間違いで合格したとき、大学のラグビー同好会の皆さんに胴上げされて落とされそうになりました😰😰😰

>> 杏鹿@………………………… さん

次回が明日公開できるように努力します😱😱😱
アホになってしまう位勉強したから結果が出て何よりでした。
やるときゃやらねばだね😃

よおーし🤒
今回は日刊ですね~明日が愉しみ💥

>必死のパッチって・・・モモヒキとはちがう?

>> はれお君 さん

やったからといって必ず結果が出るとは限りませんが、本気でやらないと結果は出ないDeath😰
(凡人の場合。河嶋調べ)

必死のパッチ.png

>> Yz925@CicottoGPT さん

死に物狂いで、これ以上無理!って位に頑張るのを関西人は必死のパッチと言いますが、語源はあまりよくわかってないみたいなの😰
学校にいきなり登場する母親と、自らの息子が生徒でもある先生との会話に非現実感を感じる自分の場合、こういう闊達な母親像が浮かばないんだろうな。
だがそこを母親と先生が先輩後輩の関係である、という構図で納得させるものはある。
ドラマを見ているような展開で、文学というよりは脚本家向きなのでは…

河嶋氏が、こういう母親を思い浮かべられる環境で育てられたのか、あるいは母親が河嶋氏自身なのか…

ちょっと失礼なことを書いたかもしれません。この後の展開を楽しみにしておきます。

😆人様の投稿をなかなか読む暇がなくて、メインのスレも時々読むくらいですが、ここでは、なんか作品を批評する目になってしまいますな…

>> おれんぢ式部@🪳バル㌠🪳 さん

書籍を購入したら挟まれている『読者カード』を読むモノ書きってこんな感覚なのかしら🤔

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

>2:50😱😱😱

絵が黒・・じゃあない白ね~

3年ぶりに夕食は鰻丼
たぬき印のポイント消化でネット注文の国産冷凍品。和歌山の××水産だったの・・・美味しかったよ~🎉

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

😇僕は手放しでは褒めません。
作品として評価します。河嶋桃の本気なら尚更。

と言っても、学生時代は別として、ここ二十数年、僕は文学書を読んだことはまったくないので(ノンフィクションの本なら読みますが)評価軸はその昔読んだ「蹴りたい背中」の没入感ある筆運びとの比較です。
あれは題材も内容も決して感動するような本ではない(むしろ気持ち悪い)ので、芥川賞は不思議でしたが、気持ち悪いオタク的なものをサラッと読ませる、筆力に対する評価でしょうね。

「さびしさは鳴る。耳が痛くなるほどの鈴の音で鳴り響いて胸を締め付ける…」

🤤○○○のあとの味醂は美味い
⇧実はこれ、読んだことありません🤣
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