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【読み物】同じ空の下で 最終話:二人

このお話はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
3話完結の最終話です。
第1話はこちら
https://king.mineo.jp/reports/229350
第2話はこちら
https://king.mineo.jp/reports/229888

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『……もしもし』

上着の袖で涙を強引に拭った私は、感情を抑えて電話に応答した。
「久し振りやのう、澄香…元気か?」
突然電話をかけてくるなんて、一体どういうつもりだ。さては…親戚の誰かが危篤だとか死んだとか?申し訳ないが私は仕事のことで手一杯だ。悪いけど何も出来ない。そちらでなんとかしてくれ。
「いや…あの…何て言うたらエエか解らんのやけど……帝都に出てから電話の一つも寄越さんオマエがどないしとるんか気になったよって電話かけてみたんよ」
『はぁ?それだけのことで態々電話してきたの?』
「親が子どもの心配するのんなんか、アタリマエやろっ!それとも何か?オマエは家を出たらハイ、それま~で~よ~みたいなこと考えてたんか?ガキの心配するのんは親の特権やぞ」
『自分の子どもをオマエ呼ばわりするなって、ずっと言ってたでしょ?何度言ったら解るのよっ!』
「まあそないにカリカリしなさんな…ところでオマ……澄香はどないしてんねん?仕事は上手いこといってんのか?飯はちゃんと喰うてんのか…?」
『アタリマエじゃん…私がそんなことも出来ない娘だと思っていたの?』
嘘だ。
溜め込んだ洗濯物は、洗濯機の中で朽ち果てるのを待っている。
食事はコンビニ飯かジャンクフードのテイクアウト。最近食べた、出来たての温かい食事……駅ナカの立ち食いそば、かな……
ひょっとしてお父さん、私の現状なんてとっくにお見通しじゃ……これって親の勘?嗅覚?そんなものが、もともと親に備わっているのかもしれないな……
「澄香、いま外におるんやったら空を見てみい。帝都からやったら、お星さまの一つも見えへんやろうけど」
さっき嫌というほど見た。もう空を見上げたくなくなるくらい…
「俺と澄香が見上げとる空は、全然違う景色やろう。今日は全国的に晴れや言うとったけど、帝都の汚れきった空からやったら、お星さまの一つも見えへんやろな。まあ、俺は帝都の空なんか見たことあれへんけど」
だったら言うなよ。
「見える景色は違うててもな…お天道様が照らす空はず~っと繋がっとるんや。ええか、そのことだけは覚えとけ!何ぞ寂しぅなったら、帝都の汚い空を見上げてみぃ。俺も同じ空を毎日見上げとるよって。仕事が忙しいんやったら、邪魔したらアカンさかい電話切るわ。ほな、なんかあったら電話してこいや」
言いたいことだけ言うとお父さんは電話を切ってしまった。

通話はとっくの昔に終了している。
だけど、私は路地裏でスマフォを握り締めたまま動けずにいた。
涙が止まらない。
私は、帝都に出てきてからずっと孤独なんだって思い込んでいたけど、
どうやら大きな勘違いをしていたようだ。
『一人でいること』『孤独でいること』。
その二つは同じようなものだと思っていたけど……
同じ空の下で、私のことをずっと見守ってくれている大切な人がいる。
その人がいる限り、私は孤独じゃない。
応援してくれる人は、遠くにいるけど同じ空を見上げている…
私は、一体何を見ていたんだろう。
どうして、今まで気付かなかったんだろう。

よし。
明日から、今まで自分の心の周りに出来上がっていた分厚い壁を蹴破ってみよう。
子どもの頃から、調子に乗って面白いことを言ったり悪ふざけをしたりするのは嫌いじゃなかった。
思春期になって、ある日お父さんの姿を見た時に『こんな田舎者丸出しのオトナにはなりたくない』って思ったのがきっかけで封印しちゃってたけど、明日からはお父さんとくだらない冗談を言い合って、学校でクラスメイトとふざけあっていた頃の本来の自分に戻ってみようかな。
それでダメなら帝都から出ていくことにしよう。
もう少しだけ、頑張ってみようかな。
やれるだけやってみて、悩むのはそれからだ!

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『福山澄香:その名のとおり、お客さまが探しておられる住み処を、わたくしスミカが必死のパッチで、二人三脚でお探しします!』
朝イチで作り替えた名札を見た家主さまが、いち早く反応して下さった。
「ええっ!福山さんって、スミカっていう名前なの?」
『そうです!なので、お客さまの住み処探しにピッタリの名前…?ひょっとしたら天職かもしれないと思っているんですが…ダメですかね??』
「いやいやそんなことないない。なんか、福山さんとだったら入居者募集の面白いアイデアとか出てきそうな気がするから、もう少し詳しく話を聞かせてくれるかな!」
『ありがとうございます!喜んで入居者募集のお手伝いをさせていただきます!』
それから半年くらいは、ヘトヘトになって倒れるんじゃないかと思うくらい大変だったけど…
ようやく私の仕事も上手く行くようになってきた。
お父さんのあの電話がなかったら、私は今どうなっていただろう。
諦めて退職していたかもしれない。病気になっていたかもしれない。
田舎者で、方言剥き出しで、雑駁で家のことなんか何も出来なかったお父さん。
でも、お父さんがいなかったら今の私は存在しない。
面と向かって『ありがとう』なんて恥ずかしくて言えないけど、たまには顔を見せてあげることにしようかな。

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『皆さま、長らくのご乗車お疲れさまでした。この列車は、まもなく終点の梅北駅に到着します。どなたさまも、お忘れ物なさいませんようご注意下さい』

カートを引き摺りながら、在来線への乗り換え通路を歩む私。
お父さん、私を見たらどんな顔するんだろう。ふふっ。
最寄り駅を降りた後、私はあれほど嫌いだった町並みを眺めながら実家へと向かう。
寂れきった駅前商店街。
そこから家まで続く田舎道。
あれほど嫌っていた町が、今は何だか心地よい。

あ!
庭の植木を汗だくになりながら剪定しているお父さんの姿が見えた!
植木に夢中で、幸いにして私には気付いていないようだ。私は、お父さんに気付かれないようにそっと正面に回り込んだ。





ただいま。
(了)

いかがでしたでしょうか。
エンディングは奥華子さんの『Happy days』という曲です。

この2曲が大好きで、
何度も聴いているうちに、
頭の中で融合して、
こんな感じになりました。

では、
またお会いしましょう。
(文学少女のほうの)ポンコツ河嶋桃でした🍑


19 件のコメント
1 - 19 / 19
ええ話しや~🥺
人それぞれに小さいけれど「物語」があるんやねー。
それを気付かせてもらいました。
ポンチャン、おおきに~😉
昨日は仕事でしたので第二話と第三話、続けて読まして頂きました。

澄香さん、親の愛に早く気づくことが出来て良かったですね。「親孝行、したいときには親は無し」という言葉を思い出しました。

いい感じにまとまりましたね。
やはり壁は自分の側で…

「東京の空の星は見えないと聞かされていたけど 見えないこともないんだな」
フジファブリック - 茜色の夕日

肩ひじ張らずに素のままやってたら、最初からうまくいってたんかも?
おつかれさまでした。おかえり>小説桃サマ

>> なかっぴ さん

他人からすると、どうでもいいような話でも…
当の本人からすると感動的な物語であったり、人生を変えてしまうようなエピソードだったり🤔

不思議なもんです😊

>> yoshi君 さん

全っ然連絡もせずに放置していても…
親からすると、子どものことは命の灯が消えるその瞬間まで心配なワケで…
子どもがそのことに気付くのは、
自分が親になったとき??
このお話みたいに、そっと手を差し伸べてもらったとき??

先月下旬に両親に会ったばかりだけど、メールでもしてみようかしら🤔
『変なもんでも喰うたんか😁』とか言われそうだけど😰

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

私は、自分が親になった時だと思いますね。
親から見れば子供がどんなに成長して偉くなったとしても、親にとってはいつまでも子供なんですよ。

>> ob2@🐸日々是好日🐌 さん

大切な人への想いを胸に、見上げる空は
きっと南極のオーロラよりも綺麗に見えるんですよ😊

>> 杏鹿@………………………… さん

そう思ってても、なんやかんやと肩肘張って上手くいかなくて……
(これはお下品で酔っ払った河嶋さんの主張Death😰)

ふとしたことをきっかけに『素のままの自分でいいんだ』って思えるときが来るのかも知れませんね😊
そこに気づけるっていうのは幸せなんだなって思います

>> yoshi君 さん

同年代の知人が、皆一様に同じことを言いますね😊
子どもの成長を見ながら、自分が子どもだった頃のことを思い出して…
親の優しさやありがたさを実感するんだって😊

で、そのことを親に伝えたら『俺の時もそうやった』って😁😁

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

子を想う親の気持ち私には想像する事しか出来ないけれど、それでもうるっと来ました。
終話、おめでとう🎉
福山家をドローンから見ていた気がします。
せめて、親より先に逝かないこと。今年は4年ぶりに墓参りに行きたいです。
おやすみなさい🌌

>> stoty@筋トレ中💦 さん

何かを感じていただけたことに感謝します😊
書き手冥利に尽きます😃

>> Yz925@CicottoGPT さん

ありがとうございます😊

お墓参りに行ったら、空を見上げて家族のことを思い出してみたりするのかなぁ🤔

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>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

おはようございます☀️
ライラックの蕾がふくらんできました。
ひゃ~~~。桃さんすごいにゃ~
ホロッと来ました。
お父様の気持ち、娘さんの気持ちどっちもよくわかります。関西弁なのでより一層リアルでした。

さて、外食して服の胸元にめちゃくちゃ食べこぼしをしてしまったんです。ダイソーでテケトーなスカーフ探したのですがなくて、、、諦めました。
で、そのお洋服を帰宅後すぐ手洗いして洗濯機で脱水して、、、洗濯機に入れっぱなしなのに気が付きました。ありがとうございます。

>> まきぴ~@アチョ~wぷぷぷw  さん

偶には真面目なものも書きます😁

あと、何たる偶然!
たった今、餃子の王将でブラウスの袖にラー油こぼしたの😰😰😰

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

ほんと、文才がおありでうらやまぴ~~

そして、、、、ラー油www 私は、家族Aが食べた担々麺の味見、私が食べた香港風焼きそばをポロっとwww
しかも、うめきた新駅(大阪駅西口?)を見学に行った時のできごとなので、文中のウメキタ駅には、びびりましたよ~ こっちも偶然。
運命や~~w わっはっはw
被りまくってますね😵

(後ろを振り返って)
監視されてる……?😰😰😰
歯槽膿漏じゃなくて被害妄想😵
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