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【読み物】同じ空の下で 第二話:一人

このお話はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
3話完結の2話目です。
第1話はこちら
https://king.mineo.jp/reports/229350

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「おいっ!母ちゃん!目を開けてくれ!お前が死んだら、俺と澄香はどないして生きてったらエエねん!堪忍や……悪い冗談は止めてくれ…」

俺がいくら必死に呼びかけても、母ちゃんは二度と目を開けることはなかった。
いくら聞き分けの良い子とはいえ、小学生の娘一人抱えて、俺はどないしたらエエねん…
斎場の煙突から立ち上る煙を見上げながら、ただ泣くしかなかった俺に、澄香はぎゅっとしがみついて……ぐっと涙を堪えていた。
アカン。俺、いつまでも泣いてる場合とちゃうわ。明日から澄香を育てるために、家の用事するために新しい仕事探さなアカンがな…
長距離トラックで全国を走り回っていた俺は、家を何日も空けるなんてことはザラやった。でも、それは母ちゃんがいてくれたから。澄香を一人にするわけにはいかん。
勤めていた運送会社に無理を言って系列の子会社に移籍はしたものの、夜勤も休日出勤もあれへんから収入は激減。でも、澄香に不自由させるわけにはいかん。そう思って俺は大好きやったタバコも酒もきっぱり止めて、澄香が望むような道を歩んでほしい、そのために俺はなんでもやる、そう思うて必死やったわ…
澄香もそれに気付かんようなあほやない。中学校に上がる頃から洗濯やら料理を手伝ってくれるようになったある日。
料理当番やった俺が台所で食材と格闘していると、澄香が冷蔵庫を何かゴソゴソやっている。
「麦茶飲むんやったら、右のポットからにしてくれ。そっちゃのほうが、よう冷えとるさかいに」
引き続き食材に立ち向かう俺の首筋に、何か冷たいものが押し当てられる。
「ナニしよんじゃっ!」
『あ~、そんなこと言うてもええの?これ、お父さんの大好きなビールやで!今日は父の日やから折角買うてきてあげたのにぃ』

「いただきます!」
澄香が注いでくれたビールを、俺はゆっくりと飲み干した。
『どう?美味しい?』
そう言って微笑む澄香の笑顔が涙で滲む。
「母ちゃんと所帯を持った頃、ようそないやって母ちゃんがビール注いでくれたんや。澄香を見てたら、なんかその頃を思い出してなあ」
『あほ、泣くことないやん!情けない……しっかりせえや』
「せやけど澄香、これは反則やぞ…」
けどな、そんな幸せな日々も長くは続かんかったんよ…
高校生にもなると、澄香との会話はどんどん減っていき、遂には殆ど口を利いてくれなくなった。大学に通い始めた頃からはフル無視。
いつも何かを物憂げに考えているような、不機嫌なのか何なのか…
まさか、あんなことになるとはな…

「おい、スミカぁぁぁ!俺、今日の今日までオマエが帝都で働くなんて聞いてへんかったぞ!」
『言ってないんだから、聞いてないのなんかアタリマエじゃん』
「何のつもりでオマエはこの町を出て行くんじゃ!?」
澄香は小さく溜息をつくと、吐き捨てるように言った。
『今後、発展の見込みもない町。住んでる連中は方言剥き出しの乱暴な言葉遣いばっか。私、こんな町に骨を埋めたくないの』
「こんな町とはなんじゃオマエ!ここはオマエが生まれ育った…」
『私にはお母さんからもらった澄香って名前があるの!いい加減オマエ呼ばわりするのは止めて』

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俺が澄香の意思に抗えるハズも無く、澄香は手早く荷造りを終えると勤務先の帝都に行ってしまった。世間一般論で考えると『お父さんは頑張って娘さんを社会に送り出しましたね、お疲れさまでした』みたいな感じなのかも知れへんけど、俺は喪失感、その一言で全ての説明がつく感じやった……
止めていた酒もタバコも再開して、会社~居酒屋~家を山手線か環状線みたいにグルグル回る生活が始まった。

「お~い、福ちゃんこっちこっち」
居酒屋の暖簾をくぐると、馴染みの常連客が手招きする。裏通りで鉄工所をやってる広瀬さんだ。
「どないしたん?」
「いや、どないもせえへんよ」
生ビールを呷る俺に広瀬さんが突っ込む。
「いや、ゼッタイに『何か気掛かりなことがあって酒の味もわからへん』みたいな感じやで」
まあ、無いこともないんやけど。
「さてはスミカちゃんのことやな」

ギクッ!
理由はわからない。

単なる思い込みか勘違いかも知れん。でも、こんな感じになったのは澄香が家を出て以来初めてや。広瀬さんの言っていることはドンピシャ大当たりかもしれん。
「そんなに気になるんやったら、電話の一本でも入れてみたらどないやねん?ガチャ切りされてもエエよって、取り敢えず『もぴもぴ』の一言くらい聞かせてもらえや」
「ウチの娘は、そんなあほみたいなこと言わんわっ!」
そうやって強がってみたものの、澄香のことはなんとなく気になる。
俺は広瀬さんに一言詫びを入れて店を出ると、雲一つ無い綺麗な星空を見上げながらガラケーの発信ボタンを押した。




『福山澄香』


14 件のコメント
1 - 14 / 14
いよいよ物語は佳境に...って程進んでないみたい🙄
ほんまに次で終わるんかいな😅
もぴもぴ わたし とーちゃん あなたのおうちにいるの

とーちゃん、ええとーちゃんやん、ぶきっちょやけど。
〉3話完結の2話目
さて、どうなることやら⁈
推敲漏れ発見
「澄香が望むような望むような道を歩んでほしい」

は、サテオキ。
2話目は父ちゃん側だったか。
雰囲気は「エエ話や」で終わりそうな流れだけれど…さてどうなる?
スミカちゃん、営団地下鉄の走ってる大都会に居るの?
🎼染まらないで帰って~🎶

sick_kaoiro_woman.png

>> ob2@花粉黄砂PM2.5🤧 さん

>>推敲漏れ発見

が~~~ん😰😰😰
アルコール燃料が足りなかったのかしら🤔

>> Yz925@CicottoGPT さん

帝都高速道交通営団の頃ってスマフォあったかしら🤔

ナウでヤングな世代だからわかんない😰
思ったよりも速いペースで投稿されていて驚き。

 あれっ?一話の終わりどうだったっけ。話がつながらない???と思うのもつかの間、かーしまさん得意の視点変え構成ですね。ドラクエ4ばりの別ルート終結パタンだと気づくのに少々手間取った。

 お父ちゃん色々と辛く生きたねぇ。同じく年頃の娘を持つ親父としては気持ちわかります。そんな親父さんの気持ちが伝わるといいねぇ。でも現実は伝わらない父娘も多いよなぁ。

 仕事に打ちひしがれた娘と、娘に打ちひしがれた父が交わり化学反応を起こす日が来るのかな。

さあ最終話のアップされているようだがそれは明日読もう。
また、いいところで終わっているのが、、、続きがきになりますね~
にひひw
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