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【読み物】おかえり。②

【はじめに】
史実とかけ離れた部分もあるので、団体名や年号の表記は敢えてぼかしています。
空想の世界です。勘違いしないでね。
四話完結の第二話です
第一話はこちら
https://king.mineo.jp/reports/174909

【第二話・日比野未来(ひびのみらい)】

「えっ?戦争当時に町に住んでいて軍隊に招集された人、若しくは志願した人を捜しているの?」
役場の職員さんたちはそう言って目を丸くした。
「少々お待ちくださいね。上の者と相談してみます」
手持ち無沙汰でボーッとしていた私とミク先生に、背後から一人の老人が声をかけてきた。
「お待たせしました。どうぞこちらへ」


『町長室』
え?ここって…てことは、このお爺ちゃんは町長さん?ミク先生も唖然としている。
「ほら、遠慮しないで中へどうぞ」
私とミク先生は恐る恐る室内へ入った。
「ようこそ、町役場へ。私はこの町の町長、仲邑(なかむら)です。君たちがここを訪ねてくれた理由は職員から聞きました」
私たち、とんでもないところに飛び込んじゃったのかな…
「ええっと……私は西住小学校の日比野未来と申します」
「教員の橋本初音です」
「まあ、そんなに緊張しないで。近所のおじいちゃん家に遊びに来た位の感じがいいなぁ。あまりカチコチになられるとこっちも緊張するじゃん」
町長さんはそう言って笑いながら冷蔵庫から取り出した麦茶を人数分グラスに注ぐと、ソファに腰掛けた。
「町の誰が軍隊に行ったか……結構難しい話だね」
「やっぱり……」
肩を落とす私たちに、町長さんが呟いた。
「誰がどこに住んでいるか、っていうのは役場の全員が把握しているんだけど」
「え、じゃあ」
町長さんは私たちに頭を下げた。
「ゴメン!公務員は『職務上知り得た秘密を他人に漏らしちゃいけない』って決まりがあってね……あと、戦争があった当時の記録なんてそもそも残っちゃいないんだ。志願にしろ徴兵にしろ、やってたのは陸軍省とか海軍省だから」
何かヒントでもあるんじゃないかと思って村役場を訪れたけど、結局何も得られずじまい。落胆する私とミク先生に、町長さんは意外なことを告げた。
「とはいえ、君たちの想いは無下にも出来ない。寧ろ僕たちはその想いをしかと受け止めて、是非とも協力したいと思ってる」
「え?どういうことですか??」
ミク先生が思わず立ち上がる。
「こちらからはアプローチ出来ない。でも想いは伝えたい」
町長さんは私たちを見て微笑むと、手許にあった冊子を掲げた。
『町民だより』
「月イチで全世帯に配布されるコイツに『求む、情報提供者!』っていう記事を載せようと思ってる。て言うかさっき僕が広報に指示した」
「え……ということは町のみんなに」
「そう。読んでくれるかどうかはわからないけど、少なくともみんなに伝える機会を作ってみようってこと。あ、あと図書館にぃ……」


町民だよりに掲載してもらう確約を得た私たちは、町長さんの勧めで図書館を訪れた。工務店の純兄ちゃんの奥さんが図書館で働いているって話を聞いたことがある。
「こんにちは!私はここの職員、安村彩乃と申します。さっき町長さんから電話がありました。何でも協力しますよぅ」

彼女から頼もしい言葉をもらったおかげで『何か手がかりが得られる』。
私とミク先生は顔を見合わせてそう確信した。まあ、何の根拠もないんだけど……

「えええっ!」
ミク先生と私はエレベータで地下まで降りると絶句した。
「どう?驚きましたか」
ドヤ顔で微笑む彩乃さんを見て、私たちはただ頷くしかなかった。
「この図書館は、県下最大級の蔵書がウリなんですよぅ。町の皆さんが読み終えた書籍を片っ端から寄贈してくれるもんで、あっという間に蔵書が膨れ上がるんです。よいしょっ」
彩乃さんが手許のハンドルをぐるぐる回すと、大きな本棚がゆっくり動き出す。ハンドルにストッパーをかけると、彼女は本棚の奥の方から私たちを手招きする。
「ん~。最初は郷土史みたいなものを捜していたんですが、どうも見当外れのような気がして……その時にふと思い浮かんだのがこちらです」
彼女の指差す先を見上げる。
「ここに町立学校の各年度の卒業アルバムがあるので、何か手がかりがないかと」
ミク先生が腕を組む。
「ええっと、大西洋戦争があったのは唱和十五年十二月から二十年の八月までだから…年度でいうと……」
物凄い勢いで脚立を駆け上った彩乃さんが手際よく唱和十五年度から二十年度までの卒業アルバムを運び出すと、作業台に私たちを誘った。


「あっ!」
唱和十九年度の卒業アルバムをめくっていたミク先生が急に立ち上がった。
「ええっ?」
ミク先生がアルバムのページを指差す。私たちは震えるミク先生の指先を見つめた。
『西住国民学校中等部・唱和十九年度卒業生』
私たちの捜していたものがそこにあった。生徒全員で撮った卒業記念の集合写真、その最前列にそいつが映り込んでいた。
「これって……」
凍り付く私たちを見ながら、彩乃さんが呟いた。
「ウチの主人が言ってた鉄球……タイムカプセルだとは聞いていたけど、こんな昔のものだったんですねぇ」


翌月の町民だよりは賑やかなものだった。
『大西洋戦争中のことをご存じの方、情報求む』
『唱和十九年度卒業生の消息を、どなたかご存じないですか?』
配布とともに、図書館ではタイムカプセルが映り込んだ卒業アルバムが期間限定公開。
半ば野次馬のような人から本気で何かを捜してくれそうな人まで、色んな人がアルバムの写真と氏名を食い入るように見つめていた。



神様、お願いします。
軍服の持ち主を探しているので、
ほんの少しでいいから、力を貸して下さい。


32 件のコメント
1 - 32 / 32
いよいよ物語は佳境に入ってきましたね。
ここからがポンちゃんの腕の見せ所、と言いたいがもう書いちゃってるんだよね。
次章、楽しみに待ってまーす(^^♪
もう書いちゃってますが(^^;)
結構ギリギリまで微調整してますよ
その当時の卒業生が現れる事を期待してやみません(^_^)
これからが佳境ですね!!
西住小学校の日比野未来
教員の橋本初音
二人合わせてハツネミクでーす♥
と言うネタが出来ますね。

変な所に食いついてスミマセン

西住と言えば西住流!
決して引かず推して参り、きっと見つかる事でしょう。
大西洋?!(・_・;)(^-^;)
いっそ、大東洋とか大南洋とか…🤔

まっ、良いか。
続きが楽しみ(´▽`)
お話の流れ、興味深い~~~!

ちょっと話はズレますが、私が戦争系の資料館みたいなのを訪れて、一番(こっそり)泣いちゃったのは、鹿児島の知覧の特攻隊の所で、お母さん宛てに出発前に書いた青年の手紙の文章です。ひ~~~~
タイトルの「おかえり」、帰ってきたのは…
ここを何と想像するか、ですね。

どうでもいいことですが、私は「おかえり」というと「ぽ」と脳内変換してしまいます😅
まだまだ助走の段階、次で踏切板に足がかかるかな? (。・_・。)

>> yoshi君 さん

どんな感じで話は進んでいくのか…
皆さんからいただいたコメントを見ながらニヤニヤしています😁

>> 杏鹿@………………………… さん

『西住流に逃げるという道はない』
学校名をどこから引っこ抜いてきたかバレバレですがね😁

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

そう、ぽ。

ネットスラングですが…古すぎて誰も知らないか…😅
キーボードの「O」の横に「P」があるため、指が触れてtypoで
「おかえり」→「ぽかえり」→「ぽ」
となります。
さて、もう二話、あと二話...(;゚Д゚)
ま、結末に期待ですね(^^;)
これは架空の世界のお話だけど、先の大戦の歴史からちゃんと学ばないといけない時期だとも思われ……
しかと受け止められるかな。

紺碧の艦隊.jpg

元号が「唱和」とな。荒巻義雄の「紺碧の艦隊」みたい。🤔

おかえり.jpg

>> ob2@☀日々是好日🥵 さん

おかえりぽ⇒お帰りと言いながら頬を赤らめる新妻と連想致しました(ポ

>> HAYA さん

解釈は人の数だけ、と思ってます
いちおう最終回にアタイの想いは入る予定ですが、そんなに深くないかも(^^;)

何かを主張したりするつもりはありませんので、肩の力を抜いて…

>> 舞音緒 さん

実はあまり深く考えていなくて……
この元号を使ったきっかけは先ほど話題になった『ぽ』と同じです(^^;)

>> ob2@☀日々是好日🥵 さん

オカンの大仏ヘアーがいい味出してます👍️

>> ob2@☀日々是好日🥵 さん

>>杏鹿 さん
やましいことは何一つしていないのに、姿を前にするとつい緊張してしまう相手は・・・
お巡りさんと奥さん。 (^_^;)

>> ob2@☀日々是好日🥵 さん

ジャガー夫妻ですね。あるある
でも意外と二人っきりになると・・・

>> 杏鹿@………………………… さん

健介と晶…
あれも実際二人きりになると、どうかわからん感じが…
晶さんがデレデレになるのは想像できます😊
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