【読み物】おかえり。➀
【はじめに】
史実とかけ離れた部分もあるので、団体名や年号の表記は敢えてぼかしています。
空想の世界です。勘違いしないでね。
あと、四話で完結する予定です。
【第一話・工務店の純くん】
がつんっ。
ヤバい。
掘削している途中に、何かをどついてしまったかも知れない。水道管とかガス管じゃなきゃいいんだけど…
小学校と中学校が同居している古い木造建物の改修工事を請け負った僕たちは、建屋のすぐ近くで地面を掘削していた。教育委員会から提供された図面が間違っていない限り、ここには何も埋まっていないはずだ。
「おい、純!どうした?」
バックホウの作動音が止まると同時に社長が大声を上げる。
「地中障害物に当たったみたいです。ちょっと確認させて下さい」
そう言って僕はバックホウの動作停止を確認すると、掘削しようとしていた先を確認する。
「何だこれ?」
現場にいた全員が声を上げる。注意深く人海戦術で掘ると、地中から球状の物体が出てきた。錆が回っているところを見ると、金属質の何かみたいだ。
「まさか不発弾とか……」
社長がビビりながら穴の中を覗く。
「おい、誰か駐在を呼んでこい!」
ただならぬ雰囲気を感じたのか、駐在さんはパトカーのサイレンを鳴らしながら駆けつけた。
「え?爆弾かも知れないって?だったら俺の仕事じゃなくて陸上護衛隊の……」
駐在さんと社長は僕からかなり離れたところで何かブツブツ言っている。
「おい純!迂闊に触るんじゃねえっ!」
僕は注意深くその物体を観察しながら、二人に告げる。
「コレ、爆弾とかじゃないですよ」
「何を根拠にそんな出鱈目ぬかしやがるっ!」
ビビる二人に僕は一つの仮説を述べた。
「ふつう、爆弾や花火なら信管とか導火線みたいなものがある筈なんですが…この球体にはその類いのものはありません。大西洋戦争の頃に使われていたような溶接の手法で半球体を二つ繋げたような痕跡はありますが、中身もギチギチに詰まっている感じでもなさそうだし……打音検査しても殆ど空ですよ」
そう言って壁面のタイルを検査するハンマーで叩きながら僕が言うと、二人はパトカーの陰に慌てて隠れた。
「莫迦っ!触るなって言ってんだろうがっ!」
地上に這い出た僕は、ふと思案した。
この場所は戦後すぐに倉庫が建てられている。
ということは、この鉄球は戦前に埋められたもの…とは言え、こんなすっからかんの鉄球を埋めて何になるんだろう?
「おい純!一体何を考えているんだっ!」
「この鉄球が埋められた時期ですっ」
社長が首を傾げる。
「さっき撤去した倉庫が建てられたのが…ええっと、この竣工図面によると……」
社長と駐在さんが図面を覗き込むと、驚いた表情で顔を見合わせる。
「唱和二十年五月ぅ?終戦直前だぞ」
「てことはやっばり……」
逃げ出そうとする二人を僕はドヤ顔で見つめた。
「その頃のことならゼッタイに知ってる人がいますよ。社長の傍に」
社長は暫く思案すると、漫画だったら頭の上に電球が灯るような感じで何かを閃いた。
「そういうことか!おい純、行くぞっ!」
慌てたように軽トラに乗り込む社長と僕。発車しようとした僕たちを駐在さんが仁王立ちで制止する。
「待てっ」
駐在さんは使命感だか興味だかよくわからない表情で呟いた。
「俺も行く」
「不発弾?絶対にあり得ない。アンタたち莫迦じゃないのか?」
工務店のお婆さん(=社長のお母さん)は社長と駐在さんの杞憂をいとも簡単にバッサリと斬り捨てた。
「よく考えてみな…あの校舎は確かに軍の命令で『指令本部を疎開させる』とかいう意味不明な理由で建てられたもんだ。でも、町に軍がやってくる以前に戦局が悪化して、結局兵隊さんは誰一人来なかった。そもそもよく考えてごらん…こんなド田舎、終戦まで空襲どころか偵察機すら来たことない」
へえ、そうなんだ。て言うかやっぱり……こんなド田舎に爆弾を落とすメリットなんてありゃしない。
「とは言え爆弾じゃないって言い切れる根拠もないから、いちおう陸上護衛隊に通報したらどうだい?」
数日後。
運動場のど真ん中に放り出した鉄球の周りに手際よく土嚢が積まれていく。
「爆弾の類いでないことはまず間違いないのですが、念のため検査したうえで中身を確認します。作業が終わるまで皆さんは離れたところで待機して下さい」
隊長さんはそう告げると、徐にトランシーバーを手にした。
「指令より調査班へ。進捗を報告されたい」
「こちら調査班。一○一○より作業を開始する」
「了解」
隊長さんによると
・引火しないように、そっと球体に穴か切り込みを入れる
・そこからスコープを放り込んで、内容物を確認する
・安全が確保されたら直ちに撤収する
段取りらしい。
電車のダイヤみたく正確に、予定通り作業は進行する。切り込みから中を覗いた調査班から隊長さんに第一報が届く。
「こちら調査班。この物体は爆弾の類いではないと思われる」
「内容物は確認出来るか」
「恐らく、書籍等ではないかと……あ、コレって」
全員が息を呑む。
「タイムカプセルみたいなものと思われます」
安堵した瞬間に、全員その場にへたり込む。関係者と野次馬が脱力感で満たされるなか、隊長さんだけは淡々と職務を遂行する。
「内容物はタイムカプセル、間違いないか」
「まず間違いないと思われます。で、コレどうしますか」
隊長さんは僕たちのほうを見ると、悪戯が成功した子どものように微笑んだ。
「ついでだ。内容物を損傷しないように油圧カッターで開けてしまえ」
陸上護衛隊の皆さんが撤収したあと、僕たちは運動場の真ん中に放置された鉄球を見て呆然としていた。コンビーフの缶詰を開けるように丁寧に切り開かれた鉄球は空を見上げてぽかんと口を開けている。
「念のために安全確認してから野次馬…じゃねえ…皆さんや生徒諸君に中身を確認してもらおうか」
そう言いながらビビりモード全開の社長に僕は声を上げた。
「僕が行きます」
「あ、私も……」
恐る恐る声を上げたのは小学校の橋本先生。
「え~っ。ミク先生も行くの?」
彼女のフルネームは橋本初音さん。『ハツネ』という名前とツインテールの髪型が特徴的で町のみんなに『ミク先生』と呼ばれている彼女が偵察役を買って出た。
「私はこの学校の教員だから誰よりも先に安全確認をした方がいいかな、と…尤も、そんな偉そうなこと言いながら興味本位ってのもあるんですけど」
ミク先生はそう言うと悪戯がバレた子供のように肩をすくめて微笑んだ。
「何コレ?」
僕とミク先生の安全確認が終わったあと、恐る恐る近づいてきた生徒さんやら何やらが興味津々で鉄球の中を覗き込む。
恐らく写真だったと思われる紙片はボロボロになって原形を留めていない。文集みたいな冊子は油紙に大切に包まれていたものの、湿気を帯びていて今開けたら崩壊してしまうだろう。
僕たちはほかに何かないかと少しずつ鉄球の中身を運び出していった。
「あれ?何かお洋服が入ってるよ」
「未来(ミライ)ちゃん、そのお洋服をそっと持ち上げてくれるかな」
恐る恐る運び出された服を見るなり工務店のお婆さんが呟いた。
「帝国海軍の制服だ」
竣工図面と軍服。その二つを照らし合わせると一つの仮説が成立する。
『この鉄球は、戦争中に生徒さんが埋めたタイムカプセル』
ほぼ間違いないと思われる仮説を導き出した僕とミク先生に、一つの思いが湧き上がった。
『この服を、ご本人若しくはご家族に届けたい』
生徒さんたちも同じ想いを抱いたようで、どこからともなく『軍服の持ち主を捜そう』的な話が盛り上がっていく。
僕たちは暫し思案したものの、ここは生徒さんたちの自発的な行動に任せようと考えて今後の成り行きを見守ることにした。
毎度のことですが、異世界転生とかそう言う話じゃないです。
ホントお世辞抜きに文章が巧い。
ポンちゃんは小説家の才能がある。
世の中の編集者・出版関係者は節穴かっ!(´・ω・`)
開けるまでに何かしらエピソードを挟んでも良かったんですが、ツカミでグイッといこうかな、と😊
同僚がルカで、生徒の友達がリンとレンの双子だったりするんだろうか?
さて、これから題名にどう結びついていくのか。
楽しみです。
>> ob2@風邪が治ると鼻炎🤧 さん
考えすぎですよ(^^;)>> りんごのひとりごと@ぐ〜たら居士 さん
数年前に書き上げたときは全く違うタイトルだったんですが、今回思い切って改題してみましたドラマティックな展開ではないかも知れませんが、ごゆるりとお楽しみ下さいませ
アメリカから寄せ書きされた日の丸戻ってくるお話と似た感じ?
ユンボは社名故バックホー、陸上護衛隊はプロ市民除け?
キャタピラは履帯になるのかな?
爆弾を打音検査するサクラかな。
その手のジャンルって苦手なの😥
>> 杏鹿@………………………… さん
なかなか鋭い切り口ですね(^^)ユンボは特に意識していませんでしたが、商標でしたね
護衛隊はお見込みのとおりです
履帯は……キャタピラなぎさ??
さて、この後が楽しみです(^^♪
>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん
うまい!😂まさにカタピラでも通じます。無限軌道でもおkです。
キャタピラーは芋虫でもあったかな?
カタピラさなぎへと繋がる。
>> 永芳 さん
ふんわりとしたお話に仕上がりました肉汁溢れるハンバーグのような派手さはありませんが、温かいお茶かお吸物をお出しする感じでやっております…
>> 杏鹿@………………………… さん
カタピラなぎさ…彼女がいたら赤い霊柩車に乗れます
山村紅葉が付属しています
二時間ドラマの見過ぎですね
白い制服は海軍さん?
先日、友人の息子さんが無事陸自に入隊しました。
>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん
派手さ、、、「温かいお吸物」...🤔悲観的だった人がほんの少し脱出していく成長物語になるのかな?短編だしカタルシスは少ないかも知れないし、そもそも全然違うかもしれない。。。(;^_^Aもっと回数を重ねて全体のボリュームがあれば、導入から展開のさせ方も、最後らへんでものすげー勢いで終息に向かっていく感じにもまとめられそうな気もしますが。。。('◇')ゞ
ま、話がしっかり展開してちゃんと終わってくれれば派手さは別にどうでも良いです(^^;)
>> HAYA さん
たぶんコイツが頭にあったんでしょうナウなヤングなので、当時まだ生まれていません
あと(勝手な思い込みですが)船乗りって官民問わず白のイメージです
>> 永芳 さん
>>もっと回数を重ねて全体のボリュームがあれば昔書いた小説(原稿用紙400枚位)で試算したら、今までの短編より一話の尺を長めに取っても50~60話位になります
スレ小説には不向きかも…
>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん
やっぱり。。。💧一話あたりの尺と総話数が絶対的に足りないのね…💦
さて、
それを承知の上で四話で挑みどう仕上げるのか⁈物語としても、手腕としても(⌒-⌒; )
楽しみです♪