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後輩ちゃんと河嶋さん②『大斎原』

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「河嶋さん!もし良かったら、今度一緒に旅行に行きませんか?」

その一言が実現される日が来ようとは思っていなかった。
しかも、こんなに早く。
確かに旅行に行く約束はした。
後輩ちゃんが「あたし、車出しますから!」って言ってくれた好意に甘えて、彼女に移動手段を委ねることにしてアタイが普段出没するところを案内する段取りにしたんだ。

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『何コレ…』
おうちまで迎えに来てくれた車を見てアタイは絶句した。
「えへへ。可愛いでしょ」
どう表現すればいいんだろう。車は社用車と一緒でヴィッツだ。
ところがどうだ。彼女が乗りつけた車の色は子どもの風邪薬シロップみたいな『どピンク』。可愛いかどうかというとまず間違いなく可愛い。
「結構頑張ってお金貯めて…やっと中古で買ったんですよぅ」
親のすねかじりではなく自分で買ったことは素晴らしいと思うけど、色のチョイスがよくわからない。

可愛い、は正義だ。

可愛らしい彼女が乗ると、改めてそう思う。
まあいいや、レッツラゴー(死語)!


「河嶋さんがウォーキング?みたいなことをやってるらしい、ってことを聞いてはいたんですが…山歩きにご一緒できるなんて嬉しいな♪」
嬉しく思ってくれるのはいいんだけど、君の美貌と装備は反則だ。そんな可愛いベースに、いかにも『山ガールでございます』みたいな可愛さを上乗せするとアタイの貧相さに拍車がかかるじゃないか…

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本宮大社の近くに車を停めると、アタイ達はバス停で身体をぐりぐり回しながら準備を始める。
やがて到着したバスを見た彼女は硬直した。
都会育ちの後輩ちゃんはきっと路線バスなんか乗ったことないんだろう。
発車するだけでミシミシと嫌な音を立てる車体。
降車時に飛び交う小銭。
アタイは慣れたもんだけど、彼女にとっては恐怖以外の何物でもないんだろう。だって、ショボいガードレールすれすれを通りながらセンターラインもない(≒ふつうにすれ違えない)旧道を上っていくんだから。
「あの、河嶋さん」
後輩ちゃんが恐る恐る問いかける。
「この狭い道で、対向車が来たら事故が…」
『運転しているのはプロ。事故る方が難しいんじゃないかな、慣れた道だし』

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バスを降り、一通り深呼吸なり準備運動を終えたアタイは彼女をエスコートしながら歩き始めた。

「ねぇ、河嶋さん。この「発心門」ってなんですかぁ?」
『この巡礼道はわたしたちが住んでいる大阪…いや、正確には京の都(伏見の辺りらしい)からずっと続いているんだ。(京都~大阪間は水路。川を下ってくる)
で、長い道のりを歩いてきた巡礼者たちはここから神々が棲む領域へと入るわけ。
この地で心を清め、悟りの心を開く。
だから『発心門(ほっしんもん)』っていうんだ』
小さなお社に祈りを捧げるアタイを後輩ちゃんが不思議そうに覗き込む。
「河嶋さん、何をお祈りしてたんですか??」
『君が変なことして怪我でもしないように、って。所謂『道中の無事』ってやつ』

舗装された林道を暫く歩くと山道に入り、また舗装道路に戻る。
「河嶋さんが歩いているのって、単なる山道だと思ってましたけどぉ、物凄く景色がいいんですねぇ…ちょっとキツいけど」
「でしょ。さあ、ちょっと石段を上がるよ!」

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(この写真は引用したもので、不肖ポンコツ河嶋が撮影したものではありません。こんな神秘的な光景でもなく、太陽カンカン照りでした)

ほんの少し石段を登った先に拡がる景色を見て、彼女がぽかんと口を開けている。
『あの山々に囲まれた先にほんの少しだけ見えているのが大斎原。ほら、あのデカい鳥居』
「おおゆのはら?」
『大きい、小さいの大きいにサイトウさんのサイの難しい方、原っぱの原。明治22年までは大斎原に本宮大社があったんだけど、大洪水で流されて……で、今の場所に移ったわけだ』
「あ、て言うことは……昔はここから本宮大社が見えてたってことかも」
『そういう言い伝えもある。ほら、後ろを見てごらん』
「和泉式部さんの歌碑??意味はよくわかんないですけど」
『この地名の由来になったという説のある、この地に縁の深い歌』

  晴れやらぬ身に浮き雲のたなびきて
  月の障りとなるぞかなしき

『古来、血は不浄のものとされていたから……近しい人が亡くなったとき、お産のとき、女性の月の障りのときは神社とかにお参りしちゃいけませんよってお触れが出ていた位』
「え、ていうことは……」
『そう。この歌は、ここまで来たのに月の障りとなった彼女のもやもやした心を詠んだもの。後輩ちゃん、平安時代に『歌を詠む』ってどんなノリだったか知ってる?」
「あ、あたし知ってますよぅ。歌を誰かに捧げたら、その人はまた相手に返すんですよね……『返歌』でしたっけ?」
『ご名答。で、和泉式部がこの歌を詠んだとき、返歌を詠んだのは熊野大権現。つまり本宮大社の神様』
「ええっ!凄いですね」
『この地で一夜を明かす彼女の夢枕に熊野大権現が現れて、返歌を詠んだって伝説がある』
 
  もとよりも塵にまじはる神なれば
  月の障りの何ぞくるしき

『簡単に言っちゃうと『本宮大社の神々は、浄・不浄に関わらず全ての人を受け容れます。だからあなたも気にせずお越し下さい』みたいな感じ、かな…で、彼女はここから大斎原を仰ぎ見て、ひれ伏して拝んだという謂われがある。だからここの地名は『伏拝(ふしおがみ)』なんだ』
「へえ、そんな話があったんですね……」
『地名の謂われには諸説ある。チコちゃんじゃないけどね』
アタイは大斎原の方角に向かって精一杯伸びをしている彼女の方を向いた。
『よじ登るのはいいけど、落ちないでねっ!』
「あたし、ここからおおゆのはら?の方を見ていたら何だか下々の世界を見渡しているような気持ちになってきました。仕事の話でくよくよするのなんかもう莫迦らしいっ!」
『でしょ!』

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『うええぇぇぇい』
「なんか身体が溶けそうですねぇ。ていうか本宮大社の近所にこんないい温泉があっただなんて…河嶋さん、色んなこと知ってるんですね」
『人一倍興味津々な生活を送っているから、かな。さあ、のぼせないうちに上がろうか』
「さては河嶋さん、今日はお泊まりだからってお風呂上がりにビールを…」
『違う!お風呂上がりはまず牛乳だ!』
「ちょ、ちょっと待って下さい。あたしを置いていくなんて酷いじゃないですかぁ!」

後輩ちゃんはまだ知らない。
翌日、車に乗り込もうとして足がつることを。


コロナが落ち着いたらまたどこかへ行こうと言ってはいるものの、一体いつになったら落ち着くんだろう。
一緒に行きたいところは山ほどあるんだけど😁



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今回のコース
熊野本宮大社前のバス停から発心門王子行きに乗車

終点発心門王子下車、本宮大社に向けて歩くおよそ7km位の道程です


29 件のコメント
1 - 29 / 29
ポンちゃんステキな後輩ちゃん🌸
お勉強付きのガイド。
パワースポットの巡礼だね。😁😁
後輩ちゃんもストレス発散できたしー

神秘的ーー😍

牛乳.jpg

参拝しお風呂上りに牛乳三杯
熊野大権現さんかっこええなぁ😊
素直に、
知らないことが多く、勉強になりました。 m(_ _)m
後輩ちゃんの
怪我のないようにお祈りする、
優しい先輩さんですね!

怪我のないように
けがのないように
けが、、、、

、、、、、やかましいわ!

天気良くなったら久々高尾山登りましょうかね。
高尾山頂までうちから歩いて25kmぐらい。
ま、今回これはこれで楽しめたんだけど、、、(内心何か物足りない感じがしないでもない)といったところだったのでしょうかね?!
山道歩いて温泉、イイですね。
自分が山やってた時は、縦走帰りに麓の先頭で汚れ落としだったからなぁ…高校生の頃だけど。

後輩ちゃんのヴィッツって河嶋号の塗装したやつでしょうか?
和泉式部が出てくる辺り
文学娘の巡礼(?)登山ですね🙄

>> fsm さん

不毛な議論は置いといて……

25kmの道程、楽しそう😄

>> 永芳 さん

基本ソロ派ですが、たまには人を連れて行くのも楽しいもんです😁

>> ob2@風邪と共に去りぬ🤧 さん

営業車落ちではなく、ディーラー系の中古車屋さんに頼んで探してもらったそうです
ということは色を指定した……😨

>> ギリアム・イェーガー・ヘリオス さん

結構有名なお話でして……
地元のガイドさんが語っているのをパクりました😄

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僕も全国の一ノ宮巡りをしていますが、熊野本宮大社は一ノ宮ではなく、残念ながら未だ参拝したことがありません。
(和歌山県の一ノ宮は、日前・國懸神宮、伊太祁曽神社、丹生都比売神社の3社(4社かな)で全て参拝済み)

しかしながら、石上神宮への興味から、熊野古道につながり、熊野本宮大社、玉置神社、飛瀧神社の3社は山岳系の神様がおられるパワースポットと聞き(桜井識子著「山の神様からうかがった…」)数年前から関心は持っています。
同書にある「発心門王子」「大斎原」というワードが出て来てイメージが深まりました。
熊野本宮大社には大天狗がいるそうです。

特に最近は玉置神社がyoutubeでも人気のようで、これはいつか行かねば、と思っています。
温泉はどこにあるのかわかりませんが、そんな山中に?
(写真は丹生都比売神社。光の玉出現の理由は不明)

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神社にまつわる伝説とか事前に調べてから行くと結構楽しめますね👍️
ちなみに伊太祁曽神社は熊野古道沿いにありまして、古道歩きの立ち寄りスポットにもなっていました。古道沿いの神社は参拝するので、伊太祁曽神社に行ったことがあります

実はこの辺り、温泉が幾つかあります
熊野古道まで送迎してくれますが、その後が恐ろしく不便なので結局車で行く羽目になります(^^;)

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

誰かと行くと、ガイドかサポート役にまわってしまい本来のスタイルと全く別物になってしまうタイプですかね⁈

ま、後になってから思い出話が出来るという楽しみもありますし、旅は道連れとも言いますしね♪

>> 永芳 さん

どっちもそれなりに楽しいですよ(^_^)

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

>なかなか面白いでしょ

はい。 ^_^
さすがに元本殿が水害にあったことは知っていたけど、
他は知らないことばかり。
文章の軽妙さもあって、楽しく読み進めていくうちに、
「は〜」、「ほ〜」などと頭の中でつぶやいていました。
二つの面白さ(楽しさと興味)があって、得した気分。ヽ(=´▽`=)ノ
以前友人と行きました!
友人は御朱印集めに、私は起請をもらうために。
起請は泥棒よけになると聞いたことがあり、玄関に置いてあります。(←これで合ってるのかな?)

>> りんごのひとりごと@ぐ〜たら居士 さん

あの水害、あちこちに甚大な被害をもたらしたそうで
奈良県十津川村も村の一部が壊滅したそうです
住めなくなった人々が開拓民として北海道に移住して出来た村が新十津川村(いまの新十津川町)

あれ?これってドラマか映画でやってましたね

>> HAYA さん

様々な災難から身を守る、ですね
病人は床の下に敷き、
外部からの災いを追い払う為に玄関に……

アタイも宮司さまにコロナ収束祈願で戴いたものを玄関に置いてます(^^)
思いっきり、スレ見逃してしまっていました><

後輩さんとのお歩き&温泉&宿泊めちゃくちゃ楽しそうですね~
山ガール!ヤング~~~

日本の車は白、黒、グレーが多いイメージですが、林家パー子さんもびっくりのドピンクは、なかなか衝撃的ですね~。かわいいw

>> まきぴ~ さん

実はアタイの車も赤だったりします

だったら人のこと言うなよ(^^ )

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

お~! かっこいい!
緑の中を走り抜けてく真紅なポルシェ♪
のイメージで、赤い車好き~w

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

優しくてお行儀がよく、知性優位。
感情の起伏が余りなく、好きで好きで仕方ないとか大っ嫌いなものは基本ないが、何となく嫌悪感があって遠ざけるものと、どうしても苦手なものが時々あるといったところでしょうか?!

泥臭くてもカッコ悪くても真に欲して貪欲に自分で掴みにいかないと得られない類いの幸せをのがさないでね♪

>> まきぴ~ さん

交差点でミラー擦ったりしません(^^;)
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