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なぜ凸版印刷がVRを? アンコール遺跡からフェルメールまで、新しい文化財鑑賞体験をもたらす「トッパンVR」

村中貴士

ライター:村中貴士

大阪府出身。日々エッジの効いたネタを探し続けるフリーライター。得意ジャンルはサブカル、テレビ、音楽、現代アートなど。デイリーポータルZ 新人賞2017で佳作。自称・無料イベントマニア。

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“VR元年”として盛り上がった2016年から早3年。いまではゲームやアミューズメントだけでなく、アート作品、医療、教育などの分野でVRが使われるようになりました。

そんなVRに1997年から目をつけていたのが、凸版印刷。文化財を高精細スキャナやカメラで取り込み3Dモデル化、VRシアターなどさまざまな方法で文化財を鑑賞できるシステムを製作しています。

そもそも、なぜ印刷会社がVR事業を展開しているのか? 他のVRとは何が違うのか? 「トッパンVR」の開発経緯や特徴についてお聞きしました。

▲今回お話を伺った凸版印刷株式会社 文化事業推進本部の皆さん(左から寺師太郎さん、奥窪宏太さん、内山悠一さん)

大型専用シアターでVR映像を体験

取材の前に、まずは体験から。トッパン小石川ビルの地下にあるVRシアターで、凸版印刷が制作したVR作品を見せていただきました。

一般的にVRと聞くと、ゴーグルのようなものを頭に装着する「ヘッドマウント型」を思い浮かべる人が多いでしょう。しかしトッパンVRは、視界を覆うほど大きな画面が設置されたシアターで、何も装着せず映像を鑑賞するシステムです。

これはヘッドマウント型VRのような個人の体験ではなく、大画面を一緒に眺めて、隣の人と会話をしながら映像を楽しんでほしいという意図があるそう。

■ 印刷博物館(東京都文京区)VRシアター
VR作品『故宮VR 《紫禁城・天子の宮殿》』
・製作・著作:故宮博物院/凸版印刷株式会社

今回は特別に上演していただいたVR作品『アンコール遺跡バイヨン寺院 尊顔の記憶』を鑑賞しました。これはバイヨン寺院内部をVRで再現した作品で、ナビゲーターから遺跡の構造や歴史についての解説を聞くというもの。

後半では、お客さん一人ひとりに配布されるタブレットを使い、VR内部のカメラを操作。遺跡を自由に見て回ったり、上下左右に向けることで視点を変えたり、と盛りだくさんの鑑賞体験でした。

■ VR作品『アンコール遺跡バイヨン寺院 —尊顔の記憶—』
・製作・著作:凸版印刷株式会社
・監修:今川 幸雄
・計測データ:大学法人東京大学大学院 池内克史研究室
・写真:BAKU斉藤
・協力:カンボジア王国アプサラ機構、日本国政府アンコール遺跡救済チーム、日本航空


VRシアターは、とにかく高精細な映像を追求。上映設備は4Kプロジェクターを3台使用しており、ヘッドマウント型のVRよりも高画質なのだとか。

――本日は上演いただきありがとうございます。「バイヨン寺院」のほかに、どのようなVR作品があるのでしょうか?

日本の名城や神社・仏閣、海外の古代文明や遺跡、美術工芸品など、全部で50作品以上あります。中でもVRの特徴を生かしたものだと、大仏など持ち運べないものを目の前で見たように体感できる『東大寺大仏の世界』、現存しないものを再現した『江戸城の天守』、本来は見ることのできない角度から遺跡を一望できる『マチュピチュ ―太陽の聖地』などがありますね。

VR作品『江戸城の天守』
・製作・著作:凸版印刷株式会社


―印刷会社とVR、あまり関連性がないように思うのですが、なぜVR事業をはじめたのでしょうか?

弊社は展覧会の図録を作る仕事を手がけているので、文化財や美術品の画像の色を管理したり、高精細な画像データを取り扱ってきました。この技術を活用して文化財の新しい鑑賞手法ができないか、という考えから技術の開発に着手したんです。

印刷技術には、非常に細かい画像データ解析や緻密なカラーマネージメントの作業が含まれています。近年は印刷も高度にデジタル化されており、それをスクリーン上で再現して見られるようにしよう、という流れですね。

――文化財のデジタル化がVR事業に応用されていった、と。たしかに、古い文化財の色を正確に再現するのは、かなり難しそうですね。

文化財のカタログが変な色で出てきたら困りますから。さらに、正確に再現するとなると「この色は本当に正しいの?」という話も出ることも。トッパンVRでは、大学の先生や学芸員の方々のご意見をいただきながら、学術監修を加えて作っています。

絵画など、平面のものをより高精細にデジタル化して保存する技術と、彫刻や工芸品などを立体のまま捉えて保存していく技術。それらデジタルデータを活用することが文化財デジタル化の意義です。


色あせてしまった金と銀の屏風をリアルに復元

――さまざまな文化財をデジタルデータ化されてきたかと思うのですが、VRだと難しい質感や表現もあるのでしょうか?

最近だと、金色や銀色の光沢を正しく再現させる課題にチャレンジしています。

東京国立博物館 東洋館地下1階にある「TNM&TOPPANミュージアムシアター」で3月まで上演していた『風神雷神図のウラ-夏秋草図に秘めた想い-』では、酒井抱一の「夏秋草図屛風」を再現しました。銀箔の屏風は劣化が進みやすく、実物は黒ずんでしまっています。当時の銀色の輝きを再現するところに、苦労しましたね。

※ 2019年3月24日で上映終了。

――金や銀は、なぜ再現が難しいのでしょうか?

まず、「なぜ金が光って見えるのか」を分析し、それと同じ状況をCGで再現しないといけません。表面を金色にするだけではなく、「どのように光があたり、それがどう反射するか」といった計算も必要で、そこまでしないと本物と同じような金色に輝いて見えないんですよ。リアリティーを追求すればするほど、さらにこだわるべき部分が増えていきます。

文化財の場合、「いまは色あせてしまっているけれど、当時の輝きを表現したい」といった課題がよく出てきます。正確な金の光り方は、光の角度や表面の質感など、細かい要素まで計算してロジカルに導かなければ再現できません。

フェルメールの「牛乳を注ぐ女」を背中側から見る?

――フェルメールの絵画をいろんな角度から鑑賞できるコンテンツ『ViewPaint フェルメール《牛乳を注ぐ女》』も作られたんですよね。こちらはどのような意図で制作されたのでしょうか?

「ViewPaint」もVR技術を活用しており、絵画の中に入り込んだかのように鑑賞できます。忠実な再現というより、デジタル技術を使うことで絵画をどう楽しく、深く体感できるかというアプローチで制作しました。

▲フェルメール「牛乳を注ぐ女」を立体化したVRコンテンツ。実際には見ることのできない背中側や斜め上の視点など、まるで絵画の中に入り込むように鑑賞できる。現在はiOS向けアプリとして展開しており、ダウンロードは無料。

――実際には描かれていない部分も含め、360度鑑賞できるのがすごいですね。いったいどうやって作ったのでしょうか?

まず、絵画の世界をできるだけ正確に再現するため、描かれているものが現存するかどうか調べました。つぼやテーブル、エプロンの形など、情報を集めていく作業に時間をかけましたね。その後は、奥の壁にあるタイルのサイズをもとに、絵の中に描かれているすべての寸法を計算で割り出しました。ちなみに女性の身長は154cmなんですよ。

――身長までわかるんですね! そのほか、大変なことはありましたか?

正直、大変なことだらけでした(笑)。机や食器は幾何学形状なので、それほど難しくはないのですが、人の体はそうはいきません。どの角度から見ても違和感がないように再現するのは、かなり難しい。絵画そのままの姿でありながら、人の体を立体的に肉付けしていく作業は苦労しましたね。

あとCGなので、普通に作ると輪郭がパッキリ出てしまいます。絵画と同じように、輪郭が常にぼやけるような表現を入れました。

――見えないところを再現するのに、そんな苦労があったんですね。


熊本城復元に役立った、VRのデータアーカイブ

――2016年の地震で石垣が崩れてしまった熊本城の再建にも、トッパンVRが役立っているとお聞きしました。

震災が起きる前の2011年に熊本城のVRを制作していたんです。そのVR作品を制作する際におよそ4万枚の画像を取得していました。その画像には石垣の写真も含まれていて、それをもとに震災で崩れてしまった熊本城の石垣を元の状態に戻す復旧支援の取り組みを熊本大学と一緒に進めています。

■ VR作品『熊本城』
・製作:熊本市観光交流サービス株式会社
・制作・著作:凸版印刷株式会社


文化財の復元は、基本的に「現状復帰」しなければいけません。したがって、崩れてしまった石を震災前と同じように積み直す必要があるのです。そこで実際に崩れてしまった石と、震災前に撮影していた石垣の写真を比較し、形状が合致しているものを判別するシステムを、熊本大学と開発しました。それも石垣の復元に一役買っていますね。

――VR用に撮って保存していたデータが、熊本城の再建に役立った、と。

アーカイブは、そこから復元できる意味合いもあります。とくに東日本大震災以降は、文化財をデータ化しておきたいという話が増えましたね。

テロ組織が歴史的な石仏像や博物館を破壊したこともあります。いつ何が起こるかは分からないので、データとして残しておいたほうがいいという意識は高まっていると思います。


実物とVRを行き来することで、さらに理解が深まる

――最近では文化観光事業にも力を入れているそうですね。

VRをどう活用していくか考える中で出てきたのが、文化観光事業です。一つは複製品の製作。実際の文化財は、できるだけ劣化させずに保存したいという考えで、1年のうち数日間しか公開できないものもあります。しかし、やはり国の宝ですから、多くの人に見てもらいたいですよね。そこで本物そっくりの複製品を作って公開する試みを実施しています。

文化財をただ見に行くだけの観光ではなく、もっと深い意味での活用も考えています。私たちは「Profound Tourism」と名付けていますが、訪日する外国人のビジネスパーソン向けにVRを使った事前学習と現地での特別な体験を組み合わせて、より深い日本の精神性や文化を汲み取ってもらえるようなツアーを、弊社のグループ企業であるトッパントラベルサービスと共に行っています。

例えば、海外の方が浅草に来たとすると、たいていは1回で終わり。2回目は来ないですよね。でも文化財って奥が深いので、「もっと知りたい」と興味を持ってもらえれば、また来てくれる可能性が高くなります。文化財にはリピーターを増やす効果があるんですよ。

トッパンVRの中に、バチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂をテーマにした作品があります。実際に行ったことのある人でも、VR映像を見ると現地では分からなかったことに改めて気づくそうです。すると、VRで見たものを確かめるためにもう1回行きたい、となる。VRを見ることで興味が深まっていく、といったご意見もよく聞きます。

国内の展覧会だと、現物が展示されているときに、同じものをテーマにしたVR作品を上演しています。「VRじゃなくて現物を見ればいいじゃないか」と普通は思いますよね。ところがVRシアターで見ると、実物では見えていなかったことに気づける。そうすると「もう1回見に行こう」となり、また現物の展示会場へ戻っていくそうです。

実物とVRを組み合わせることで、何度も反芻し文化財への理解を深めてもらう。そういう経験をどんどん作り出していければ、と思っています。

――なるほど。実物とVRを行き来することで、興味と理解がより深まっていくわけですね。本日はありがとうございました!


トッパンVRを見に行くなら

ほどよい浮遊感&没入感で、心地よく鑑賞することができるトッパンVR。実は筆者、ヘッドマウント型のVRはどうも苦手なんです。その点、今回見せていただいたシアター型は、気持ち悪くなってもすぐ目線を外すことができ、安心でした。「VRは怖くなってしまうから苦手」という方にもおすすめです。

インタビュー後に、トッパンVRの最新作を見られる美術展をご紹介いただきました。興味を持った方はぜひ見に行ってみてはいかがでしょうか。

■ 東京国立博物館 TNM&TOPPANミュージアムシアターhttp://www.toppan-vr.jp/mt/
東京都国立博物館で開催されている特別展「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」に合わせて、「空海 祈りの形」が上映されています(※)。特別展にも仏像が展示されていますが、現物を見ることができるのは全21体の立体曼荼羅のうち19体だけ。VR映像ではその全てを見ることができます。
※VR作品の上映は6月30日(日)まで。博物館の特別展は6月2日(日)まで。

http://www.toppan-vr.jp/mt/

■ 印刷博物館 Printing Museum, Tokyohttps://www.printing-museum.org/
今回筆者が体験させていただいたVRシアター。4月6日(日)からは、世界最大の前方後円墳である仁徳天皇陵古墳を再現した「百舌鳥古墳群 時を超えて」を上映中。スケジュールは印刷博物館ホームページをチェック。

そのほか、トッパンVR作品を見ることができる専用シアターがあるのは、エルガイアおおい(福井県)や平城京歴史館(奈良県)など全国20か所。熊本「桜の馬場・城彩苑」では、地震で崩れる前の熊本城をVRで見ることができます。

東京以外でも「トッパンVR」を鑑賞できる施設があるので、気になった方は下記のホームページでチェックしてみてください。
http://www.toppan-vr.jp/bunka/

(編集:ノオト

村中貴士

ライター:村中貴士

大阪府出身。日々エッジの効いたネタを探し続けるフリーライター。得意ジャンルはサブカル、テレビ、音楽、現代アートなど。デイリーポータルZ 新人賞2017で佳作。自称・無料イベントマニア。

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コメント 6

VR自体は文化財・美術・古き良き建造物などの保存に、カナリ役立っていますね。

医療ならば、難しい手術の1つである「心臓の裏側のバイパス手術」でも十分に活かされる...だけでなく、普段目にすることのない臓器のしくみなどを簡単に見られますね。

ただ、データ収集は非常に大変だと思いますが...σ(^_^;)

記事内で紹介のVRアプリ
View Paint フェルメール<<牛乳を注ぐ女>>
をダウンロードして、試してみました。
目線を変えて絵の中から「窓の外の景色」をながめてみました。

NHK BSの「額縁をくぐって物語の中へ」
2011.04月~2012.03月放送を思い出しました。

VRの世界ではないのですが
ドローンにヘリウム入り風船をつけて
ゆっくりした速度で移動・ホバリングした状態で
対象物(施設・領域)を撮影して
疑似的に旅行した気分になれる・・。
そんな画像をたくさん見たいです。

「VR」、あらためて凄いと思いましたね。トッパンさんがやっているとは寡聞にして知りませんでした。まだまだいろいろな可能性があって、楽しそうで、読みながら、自分も関わりたいと、思わせられました。

凸版印刷さんの技術は凄いですね。

VR技術を文化財の素晴らしさを広めていく目的だけでなく、文化財の現状を
将来の為に記録するするのにも重要な役割を果たしていて、素晴らしいと
思いました。(^^

VRと凸版印刷が関係あるとは興味深いです。
自分はまだVR体験した事無いですがその事を念頭に置いて体験してみたいです。

素晴らしい技術ですがな!

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