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電卓がゲームやライターと合体!? 昭和の流行『複合電卓』の歴史と魅力をカシオに聞く
ライター: 辰井裕紀
ガジェット・ローカルネタ・卓球が好きなライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。
ガジェット・ローカルネタ・卓球が好きなライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。
かつて電卓は「ゲーム機」でもありました。あのカシオ計算機を中心に、1980年代前半ごろ、一定のファン層を獲得してにぎわっていたのです。
例えばこちらは1983年発売、カシオの「CG-8」。電卓の機能を保持しながら、「リバーシ」というオセロ方式のゲームが遊べました。
さらにゲームのほかにも、数々の独自機能がある「複合電卓」が存在しました。
例えば、カシオ「QL-10」はなんと「火を点けられるライター付き電卓」。
これらの複合電卓はデジタル家電の可能性を広げ、後に続く製品への進化につながったとされます。
今回はそれを推し進めたカシオ計算機の初台にある「本社」と、成城にある「樫尾俊雄発明記念館」に行き、ユニーク極まりない電卓たちの話を聞き、その姿を写真に収めることができました。
今では電卓の国内シェアの約60%を占めるカシオ。話を聞くのは、商品企画室 室長の玉本真一さんです。
なぜ「複合電卓」は生まれたのか

他の機能を割り込んだ「複合電卓」を、当時こんなにも多く発売したのはなぜでしょうか?

それまで電卓は「計算がようやくできるもの」だったんですが、進化により容量の大きいLSI【※1】が搭載できるようになりました。それで電卓に付加価値を与えようと、いろいろ機能を載せたのだと思います。
※1 電化製品を動かすための集積回路。
※1 電化製品を動かすための集積回路。

電卓もそうですが、機能をてんこ盛りにしたガジェットがウケる時代でしたね。ラジカセにテレビまで入れた「ラテカセ」とか。

まず、複合電卓で話題になったものは、1975年に出た「バイオレーター」です。これは「バイオリズム」を算出できる電卓でした。

バイオリズム……!?

当時話題の学説で、「人間は生まれつき身体・感情・知性の3つのリズムがあり、そのリズムによって日常生活に好調か不調の波がある」というものです。生年月日と計測日を入力し、バイオリズムのコンディションを表示できました。今となっては「ホント?」というものですが。

あくまで、そういう時代だったというわけですね。「占い」もメジャーで、運を天に任せるような傾向が今より強かったように思います。

さらに、1976年に出たのが「CQ-1」、通称「でんクロ」です。一番生活に馴染みのある「時計」を電卓につけるアイデアが商品になりました。

電卓と時計、当時の2大ガジェットが一緒になったわけですね。

おそらく、カシオで初めてカラーバリエーションを用意した商品だと思われます。これら2台がヒットし、複合電卓の路線が軌道に乗りました。
複合電卓から電子辞書も生まれた

ちなみにこれは、ボタンに「TEL」と書いてありますが……何ですか?

1987年に発売された「QD-100」です。電話帳を内蔵して20件の電話番号を登録でき、しかも受話器にピポパ音を流すことで、電話をかけられました。

何やらスゴいものだったんですね!……さらに、これは?

1981年発売の「TR-5000」です。英単語・熟語を2020字収録しており、英和・和英辞書になりました。歴史の年号を入れると、その年の出来事がわかる機能もあります。

これ、もしかすると電子辞書にもつながるような商品だった……?

はい。電卓の開発に使った技術から、1983年には電子手帳「PF-3000」が登場し、電子辞書へとつながったと言われます。

もしかしたら、このあたりの商品が巡り巡ってスマホのヒントになったかもしれませんね。
「ゲーム電卓」は小学生から生まれた?

複合電卓の中でも、「ゲーム電卓」に心を奪われた人が多いと思います。どんなアイデアから生まれたんですか?

まずゲーム電卓第一号が、1980年に発売された「MG-880」によるインベーダーゲームです。これは「電卓は小学生が学校に持っていっていい」ことから、「ゲームを先生に怒られないで持ち込める」という、スレスレのラインを突いて出たという伝説があります。

時効の今だから語ってくれるわけですね……(笑)。たしかに、先生の目をかいくぐれそうだ。
インベーダーのプレイ画面とルールの一部。電卓のディスプレイと機能をフルに使って実現させた(復刻版より)

さらに当時、電卓をよく使っていた客層の「サラリーマンが電卓でやりたいこと」からゲーム電卓に行き着いたようです。その中でも、一番売れたのは「パチンコ」でした。

パチンコ付きの電卓……!? たしかに、かつてのサラリーマンはパチンコ好きが多かったですね。

他にもボクシング、野球、囲碁とかのサラリーマン向けのゲームが生まれたそうです。

野球ゲームを内蔵した電卓「BB-9」は、この小さな画面で野球のピッチングとバッティング、フィールドを表現しているのがスゴいですね……!
よく見るとピッチャーが投げ、バッターが打ち、ランナーが一塁に出るところも再現されている

ちなみに当時、任天堂の「ゲーム&ウオッチ」がありましたよね? その中でどうやってシェアを取ったんですか?

当時、ゲーム&ウオッチに比べてうちのゲーム付き電卓は、少しだけ安かったんです。さらにゲーム&ウオッチはお店のガラスケースに入っていることが多く、うちのゲーム電卓は実際に触れることが多かったため、ゲーム電卓を買う人たちがいたようです。

電卓に加えて、ゲームができるのはうれしかったでしょうね。

ちなみに任天堂さんも、新幹線でサラリーマンが電卓を盛んに触っていたことから着想を得て、隙間時間を楽しめるゲーム&ウオッチの開発に至ったそうです。

任天堂とカシオ、どちらも発想の出発点は電卓だったんですね……ちなみにゲーム電卓を復活させる動きはないんですか?

実は2018年に一度インベーダーゲームは復活し、今も販売中です。ヒットしたら、第二弾以降も考えていたんですけど、まあまあ……という感じの売上だったので、今は様子を見ています。

思ったほど売れなかったのか……ただし、リバイバルブームが来たら第二弾以降もあるわけですね。
海外で売れまくる「関数電卓」

ちなみに、スマホに押されている感の電卓ですが……今も売れていますか?

JBMIAという事務機器協会のデータによると、出荷台数はコロナ前から微減にとどまっています。金額ベースだと、2024年上半期では対前年比100%を超えましたよ。

え、何がそんなに売れているんですか?

まず、今のカシオの電卓を支えているのが、海外の「関数電卓」市場なんです。世界100カ国に出荷して、2024年度は年間約2100万台を売り上げています。

そこまで売れまくっている!?

欧米などでは、高校生はみんな関数電卓を使う国も多いですから。2024年度は一般電卓の出荷数が約1800万台の売上なので、同じくらい売れています。

ちなみにこれは何ですか?

中国では支払が公正だとわかる、計算過程を声で表す電卓がもともと人気なんですが、カシオも参入しています。さらには、インド向けにカンマの桁を変えられる電卓もありますよ。

お国柄に合わせて、商品も変えるわけですね。複合電卓のノウハウが活かされている感じだ。
日本でも根強いユーザーが電卓を買い支える

日本ではどんなユーザー層が電卓を支持し、そしていま特に好調なモデルは何ですか?

まず大衆向けモデルですね。 最も売れているのは、「ミニジャスト」と呼ばれるカラフルな電卓です。1,200円ほどでお手ごろですよ。

手に取りやすくて、インテリアにもなりそうですね。

より実務的に使われる方での売れ筋は「ダブル税電卓」と呼ばれるものです。10%に加え、8%の軽減税率もカバーできます。

なるほど……しかし、「スマホでもいい」っていう人は多くないのでしょうか?

そういう人もいるはずです。ただし、最もコアなユーザー層は一日に何度もすばやく計算をして、その計算結果を間違えちゃいけない経理のような方々です。物理的なキータッチがあり、「間違いなく押した」と体でわかる確実性は、どうしてもスマホでは代替できません。

たしかに。iPadで作業する人も「ソフトウェアキーボードで十分」っていう人は少なくて、物理的なキーボードを使いたがりますし、そのほうが生産性もいいですね。

あと、PCやスマホだと立ち上げるにも時間がかかりますし、電卓アプリに到達するまでに何手もかかりますが、電卓はすぐ使えますから。さらに、本当にゴリゴリに使う方用には、さまざまな機能を盛り込んだ本格実務電卓が売れています。

電卓としてしか使えないからこそ、打つことに特化した専用機仕様にできるわけですね。

はい。ちなみに、本当に昔からコアなファンが多いので、変えちゃいけない点がいっぱいあって。キーの間隔、角度と表示面の角度とかも固定です。 変えるとすごく怒られます(笑)。
複合電卓の「いろいろやる精神」が生きている

複合電卓が最も活躍していた時代から40年が経ちます。今もカシオの電卓に息づいている部分は何ですか?

電卓の発展がカシオの半導体技術や液晶表示、ソフトウェア技術の進歩につながったと言われますし、何より「いろいろなものを取り入れる精神」です。そして、「電卓はやり尽くした」と思われがちな中で、付加価値を与える精神に生きていると思います。

例えば2015年から販売している「S100」シリーズは、素材を突き詰めて高い価値を目指した、高級万年筆のような商品で、「電卓界のモンブラン」を目指しています。

「高級電卓」なるジャンルを開拓している……!?

そうですね、キヤノンさんもシャープさんも全然追従してこないところを見ると、苦しい道かもしれませんが、とにかくやっています。

最後に、カシオの電卓は今後どのように生きていくのですか?

電卓として、新たな流通へのアプローチをしていきます。セレクトショップでも取り扱ってほしいですし、今年は3月に行った「DOMMUNE」や、7月ごろに予定している「D&DEPARTMENT」とのコラボに加え、「電卓のガチャ」を9月に出す予定です。ご期待ください!
樫尾俊雄発明記念館では、6月27日まで「カシオ電卓隠れ名作展2025」を開催中
電卓の限界に挑戦すべく、アイデアと技術の限りを尽くして機能を拡張した複合電卓の歴史が、今となってはまぶしく感じます。
いろいろな機能を小さな筐体に詰め込んだ「スマホ」にも通ずるチャレンジ精神が、この複合電卓に込められていると考えても過言ではないでしょう。
その精神を受け継ぐ、現代の電卓たちのさらなる大活躍にも期待しています。
参照:カシオ電卓60周年サイト
編集:ノオト
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74 件のコメント
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関数電卓は学生時代に手放せないツールでした
実験やレポート作成が懐かしいです
電卓とは違うんですよね。
プリンター付きでマイナスは赤インクでの印字してくれて。
営業さんの出張の精算で、複数枚ある領収証を合計するのにレシートみたいに印字して付けて回してました。
いと 懐かしき 若き頃(笑)
電卓好きで集めてました
しかし全く使えるません(T_T)
再燃しそうですw
ありがとうございます!
今でも電池を入れたら動きますけど、当時、夢中になったせいで、「・」「+」のボタンの反応が少しおかしいです。。。(苦笑)
12800円から、他のメーカーは
当時は驚愕したそうです。
リレー式計算機から始まり
脅威の価格で、し烈な電卓戦争に
勝った、カシオ計算機
我が家もあります。
当時の殆ど極秘で動いていた
志村さん、はがさん
には、感謝ですね。
付随でスマホ版がついてきます。
CASIO電卓、長年お世話になっていました。
仕事で電卓は、作業服のポケットに入れて、よく使っていました。
時々関数電卓も使っていましたね。

メロディー電卓は現役で使ってます♪私は計算する仕事が多くて、ブラインドタッチで電卓を使用していました。
そのおかげで、電卓と電話は数字の配置が違っていたため、電話をかけるのに時間がかかったことを思い出しました。
ゲーム時計、ゲームウォッチはかなり持ってましたねー😉
関数電卓はキーの大きさや配置が見やすくなっている感じですね。昔のものは同じ形・大きさのボタンが整然と並んでいて、清潔感はあるけどとっつきが悪いという、良くも悪くも「理系」な見た目でしたが・・。
これぞ日本製、という感じです。
Gショックといい、魅力的な製品を産み出すカシオさん、素敵です。
関数電卓も一応家にあります。
なんかの資格の関係で購入したような(うろ覚え)。
🐚:違うよ
そんな奴でも使えるように、使い方を教えてくれる電卓があれば良いのに。
と思っているうちに、AI が計算して出してくれる時代になってきました。表にまでしてくれる事もあります。
間違ってることを正解のように出してくる点が改善されると、電卓も要らなくなるかもね。
今の電卓にあると売れそうなのは、
スマホやパソコンに計算データをWi-FiやBluetoothで送れて、スマホやパソコン上でデータの管理が出来る物。
スマホやパソコン上のソフトと連携できると、プロは重宝するでしょ?
そういうの無いの?
プロ向け電卓には、標準装備させるべき。
無いなら、このアイデアを買ってください。
1商品あたり1円で売りますよー?
チャレンジャーのカシオさーん!
100万台売れたら100万円。良い小遣いになりそうだ。(笑)
あとは、ボタンの代わりに、可動域を上下左右限定したトラックボールを複数並べた電卓などはどうでしょう?
ボタンを押す代わりに、ボールを特定方向へ転がすと数字が入力され、固定されたバネの力でボールはニュートラルな状態に戻る感じで、スマホのフリック入力の現物版みたいな入力機構を持った電卓。
ボタンを押すのではなく、ボールを上下左右どこかへ弾くだけで入力できる感じ。入力モードをアルファベットや平仮名にすると、キーボードとしても使えると便利だろう。
チャレンジャーなカシオさんなら、創ってくれると期待しています。(笑)
〃∩ ∧_∧
⊂⌒(๑ㆁㆁ)
\_っ📱c
CASIOと言えば、電卓と時計だと思います。
先進的な商品開発、高性能でも手軽に購入出来る、とても有り難いので、今も大ファンです。
パソコンがとても高価だった頃、簡易なプログラム機能の付いた電卓を購入して、仕事に役立てていました。
確か、テーブル関数が入れられて、距離を入れたら、自動的に電車の料金が出るような使い方をしていました。
現在は、CASIOのソーラーの腕時計や置き時計が自宅には10個以上あります。
本当に、懐かしく、興味深く読ませていただき、面白かったです。
また、ためになる企画をお待ちしています。

いつも手元にあるCASIOのポケコン。ヒンジが壊れちゃってかわいそう。この機種はアルファベットに数値を代入して変数として使ったり、BASICでプログラムを実行したり出来る(はず)。なかでも電卓として特に便利な点は…①横スクロールで60余字の計算式を入力出来る ②BackSpaceキーで訂正出来る ③括弧で加減算を優先出来る…の3点。確かに業務用途だと税計算とかの方が有用なのかもしれないけど、この3つの便利機能を搭載したエントリーモデルを発売すれば家庭向けとして一定の需要はあると思う。たぶんだけど、一般人の多くは現行の電卓に特有な入力手順には一生慣れないんじゃないかな。オイラなんて間違えて入力するのが当たり前だから、ちょっとでも長い計算になると実行ボタンを押す前に一旦、式として全体を確認したいもん。ただ、スマホのアプリで既にあると言われればそれまでなんだけど📱ゲーム付きも遊んだことある気がします。
でも理系の端くれであることが忘れられず、思い切ってCASIOのロゴが表示される関数電卓を新調しました。
その電卓は、職場で書類のページの重しにちょうど良いので活躍してます。
今までは、太陽電池のみ(明るい場所)で騙し騙し使っていましたが、これで完全復活しました。
キーの押し具合や太陽電池は問題がないので、まだまだ使えそうです。
(^thank^)/♪🦉
復刻版のSL-880も買いました。一時期品薄で品切れでしたね。
ポケコンPB-120も使ってました。授業中にBASICでゲーム作って
休み時間に友達に遊ばせたりしていました。

他社製のG TOUCH illumination DX-140という電卓。このサイズでルートとメモリーがあり、ボタンと液晶のライトもある。
ライトはオフにもでき、独立点灯もできる。
ネジ蓋でのコイン電池交換式。
>> _カブ さん
ソロカル! ありましたねー。昔 40年以上前は、「掛け算は電卓でするけど、 足し算だけなら 電卓よりソロバンの速い! 数値の入れ間違いに気付き易い。」という人が結構いて、そういう人を狙った品物だったように記憶してます。
その1
「=(イコール) 」を押すと直前の演算( +123 とか ×1.23 とか) を繰り返す機種があったので、そいつで ひたすら「=」を繰り返し押し続けて 数が増えていくのを眺める。
その2
11111111 (数字の「1」が8つ) ÷ 9 の結果を眺める。それの応用で 99999999 ÷ 81 とか…
最近は高級路線な電卓もあるんですね( °◊° )ホォ