- 215
- 8
- 104

AMでもFMでもない! 世界の電波をつかめるラジオ「短波」日本語放送の受信に初挑戦した
ローカルネタ・ガジェット・卓球が好きなライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。
短波放送。近くに届けるFM放送や中距離までカバーするAM放送に比べ、世界に向けて広く電波が飛ぶ特性を利用し、海外に向けて発信するラジオとしても、長らく使われてきました。
その中には、海外から「日本語」を使って日本人向けに自国を紹介・宣伝する番組もあり、さまざまなコーナーとともに日本語で、その国の魅力が語られています。
インターネットが発達した今では数々の日本向け放送が終了しましたが、今もいくつかの番組が世界中で続いており、リスナーも参加できる情報の交差点のような文化が残っています。
ならば、その番組たちを今こそ聴いてみようではありませんか。
正直に言うと、以前、「アメリカ本土のAMラジオを日本で受信? 遠距離受信のマニアな世界をラジオ受信バイブル編集長に聞く」という記事で取材した際に、「楽しそう」と思ってしまったのです。
短波放送受信の入門機を購入
まず購入したのはオーム電機の「RAD-T900Z」。前述のラジオ受信バイブル2024の「はじめての短波放送」でも、初心者へオススメされている一台です。
カラフルで、見ているだけでワクワクする箱を開けると、出てきたのはこちら。
おなじみのAM、FM波の下に、SW(短波)の周波数が書かれた窓があります。なぜ短波だけで2列もあるかというと、短波独特の広い帯域の中でも、チューニングしやすくするためのようです。
ちなみにこちらは電源でも動きますが、単1乾電池でも動作します。短波放送の大敵であるノイズを低減するには、電池駆動がいいのだとか。
そういえば、昔こういう電池駆動のラジカセがあったなと懐かしくなりました。
このように電池を入れ、いざ電源を入れてみます。
思ったより大変、電波受信まで苦闘する
AMとFMは長年聴いてきましたが、短波放送を聴くのは初めて。まず海外の日本語放送を聴く前に、日本唯一の民放用短波放送局「ラジオNIKKEI」に合わせてみましょう。
筆者は、鉄筋コンクリート造のマンションなどより電波を受信するのに有利な木造アパートの角部屋住まいですが、聴くまでにほんの少しコツが必要でした。
用心深くチューニングを合わせ、さらにラジオの向きを変えて窓際に置くと、多少ノイズがのってAMやFMより若干こもった感じではありますが、しっかりと音声を聴けました。
触っているうちに、「AMやFMのようにすんなり受信できるわけではない」と察した筆者。
標準のロッドアンテナだけでなく、受信効果を増強するために、リード線にもなるアースコード(10m)を購入しました。
このリード線を、インターネットで調べて見よう見まねで巻いてみました。
後で調べると、「アンテナにこんなにリード線を密に巻くのはNGで、それよりも伸ばすべき」らしいのですが、短波放送の超初心者が巻いたものと思っていただければ幸いです。
ともあれ、受信強度は若干マシになりました。これで、日本語放送を実施する世界各局にダイヤルで周波数を合わせていくのですが……このチューニング作業がシビア。
短波は世界中に電波が届くと言われるだけあり、とくに日本の近くにある、中国や韓国・北朝鮮系の他の電波を多く拾ってしまいます。
そのため、膨大な電波をかき分けて、必要な電波をノイズ混じりでようやく拾うという感じ。今やデジタルで直接周波数の数字を打ち込むのが主流のようで、今回購入したのはアナログ式、しかも入門機なのでチューニングはなかなかハードでした。
それでも、何局かの日本語放送を聴けました。
(以下、放送局の周波数は2024年9月現在のものを記載。周波数は変更もありえるので都度ご確認ください)
KBSワールドラジオ(韓国/11810kHzなど)
「KBSワールドラジオ」は、韓国の放送局KBSによって1955年にスタートした日本語放送。
耳寄りな韓国情報が多く、例えば「最近の韓国野球は女性人気がけん引して人気を取り戻し、好きな選手のさまざまなVer.のユニフォームがよく売れている」なんて情報も聴けます。
さらに、韓国と日本の共同制作ドラマが増えている事情と、その理由に突っ込んだ話まで。
ジングルもK-POP風で、日本人が聴いても、国内の地上波AMラジオ並に楽しめる作りです。大晦日には「アナウンサーオンパレード」なる、アナによる紅白歌合戦的な企画もあるのだとか。
台湾国際放送(9740kHz)
「台湾国際放送」による海外放送としての日本語放送は、日本統治時代の1939年2月6日にスタート。
対外的な脅威の中国を念頭に置くニュースが冒頭にありますが、そのほかはバラエティあふれるラインアップで、日本との関係性の強さを感じさせる興味深い内容が詰まっています。
例えば、「台湾に日本と同じ駅名が36駅ある理由」という意外な話も。
新刊「台灣超越日本,真的嗎?(台湾が日本を超えてるって本当?)」を出版した大東文化大学教授の野嶋剛氏へのインタビューは、リラックスした雰囲気。
それでいて「ようこそT-roomへ」のコーナーでは、「台湾人が仕事をやめる年齢や老後に備えた投資」などの情報をアナウンサーが淡々と紹介するなど、これまたてんこ盛りの内容でした。
中国国際放送(7325kHzなど)
「中国国際放送」の起源は1941年12月3日で、もともと中国各地に居留する日本軍の兵士に呼びかけるものだったとか。現在は日本人に中国の文化や今を伝えています。
全体的に多いのは、まずニュース。
HUAWEIの世界初の三つ折りスマートフォンの発売や、月探査プロジェクトが月の裏側のサンプルを持ち帰ったなど、中国の業績を伝える内容が中心です。
特徴的なのが、ハートフルな「社会ニュース」のコーナー。
「高校生7人が倒れた生徒を救った話」「自らを犠牲にして女の子を守ったおじさんの話」など、なぜか感動系の話がとても多く、何だか心が暖かくなります。
さらに、新語・流行語などの意味から背景までわかる中国語講座の「キーワードチャイナ」から音楽まで、盛りだくさんの内容になっています。
このほか、1950年7月に日本語放送が始まった「チョソン(朝鮮)の声(11865kHz)」は、吹奏楽などの音楽演奏が多いのが特徴的でした。
以上の4局は、比較的良好に電波を受信できました。
KTWRフレンドシップラジオ(グアム/9975kHz)
1987年10月から続く「KTWRフレンドシップラジオ」は、世界規模のキリスト教の放送局Trans World Radioにより、グアムから発信する番組です。若干のノイズは入りますが、声はちゃんと聞き取れました。
エンディング付近で聖書の一節を軽く紹介するコーナーがありますが、そのほかに宗教色を感じさせる箇所はありません。
パーソナリティのチャッキーさんと谷さんによるおだやかなトークが続くほか、リスナーが受信報告するコーナーまでありました。
そこではどれくらい電波をしっかりつかみ、クリアに受信できたかを報告する投稿が多く紹介されております。そのため短波放送好きにはトップクラスの人気番組らしく、X(旧Twitter)でもハッシュタグが盛り上がっていました。
この日は能登半島での水害に心を痛めて、2018年9月の台風21号と胆振東部地震の週の復活放送を行うなど、慈愛の精神も感じさせます。
アンテナの張り方を変えて電波受信性能向上?
しかし、この時点で聴けた番組はここまで。さらに受信性能を向上させたく、筆者は秋葉原ラジオセンターへ。
より短波放送の受信に適したラジオを探しに行きましたが、中古で2万円近くからといまだ高級品であり、手が出ませんでした。
ただ、ここで「リード線はロッドアンテナにあまり巻き付けるより、外に出して伸ばしたほうがいい」との情報をキャッチ。
思いつくままにアパートの窓手すりを何往復かさせるように、リード線を張ってみました。結果、受信強度が少しアップし、まだ受信できていなかった日本語放送の受信に成功しました。
「モンゴルの声(12085kHz)」と「ラジオタイランド(9385kHz)」も受信成功
1989年1月20日に日本語放送が始まった「モンゴルの声」。雑音が多いですが、何とか受信できました。
聞き取れた部分は精霊を憑依させる霊媒師「シャーマン」の特集を行っており、女性アナウンサーが丁寧に伝えていました。さらにシャーマン自身が話すシーンもあります。
なお、1997年に日本のNHKと共同で9時間の生番組「モンゴル」を放送したとか。
さらに、タイの国営放送局による「ラジオタイランド」も受信できるようになりました。かなり電波が弱く、注意して聞き取らないと難しいレベルですが。
最も短い15分の番組で、ほぼニュースのみと硬派な内容。女性アナウンサーが淡々と原稿を読み上げる形式です。
なお、「ベトナムの声」「インドネシアの声」「RAE(アルゼンチン)」などは受信できませんでした。
まとめ
とにかく用心深くチューニングを合わせた日々。ダイヤルを1ミリ回すか回さないかで結果が大きく変わるため、なかなか緊張感のある作業でした。
もっと政治色や宗教色の強いラジオが多いと思ったのですが、エンタメとして楽しめるものが大半です。もっと言うと民主主義国家のラジオは聴きやすく、逆に社会主義国家のものはやや重々しい感じ。
各国のニュースなどには「自国を宣伝してやろう」という圧が感じられるときもありましたが、全体的にハートフルな話も多く、どこかやさしい雰囲気も漂っていました。
あと、ハッキリと言葉を発音する人が多かったのが印象的です。雑音が多い短波で聞き取ってもらうための知恵なのでしょうか。
筆者はまだまだ超・初心者なので、受信の方法などは他の先人たちの取り組みを参考にしてください。
なお一部はインターネット放送でも聴けます。例えば台湾国際放送は、公式サイトの下にある再生ボタンを押せばOK。
とっくに終わっていたと思っていたオールドメディアがまだ息づいており、ノイズと戦いながら聴けば聴くほど、意外な楽しさを感じられました。
奥深さの入り口を垣間見た貴重な時間でした。
編集:ノオト
<2024/11/26 12:45>
記事冒頭の説明を一部修正しました。
- 227
- 12
- 87
- 244
- 51
- 102
通常放送とは別枠の11/30(土)18:30からラジオNIKKEI第1で放送される様なので、短波ラジオをお持ちの方はお試しください。(^^ゞ