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“選択肢”を広げて複数の社会課題を解決!再生パソコン事業で障がい者雇用を生むITベンチャー

“選択肢”を広げて複数の社会課題を解決!再生パソコン事業で障がい者雇用を生むITベンチャー

武藤紗貴子
ライター: 武藤紗貴子
1990年生まれ。特別支援学校の音楽教諭を経て独立。発達障害のある子どものための音楽教室「ツナガリMusic Lab.」を神戸に設立。発達支援を取り入れた音楽レッスンを通して、子どもたちの「できた!」を引き出す社会起業家。

私たちは日々数え切れない選択肢の中から好きなもの、自分に合ったものを選んで生活しています。

朝ごはんに好きなパンを食べたり、休日にあえて何もしない日をつくったり……。そんなふうに選択肢が自由で多様であることは、私たちの暮らしの色彩を豊かにしてくれます。

今回はスマホ・パソコンの領域で、世の中に「選択肢」を増やそうと挑戦し続ける注目の会社をご紹介します。

ということでみなさん、こんにちは。武藤紗貴子です!

私は普段、音楽を通じて子どもの心の成長をサポートする「株式会社人と音色」の代表をしています。特別支援学校教員の経験を活かして、発達障がい(神経発達症)のある子どもたち向けに音楽教室を運営し、ちがいが魅力になる社会を目指して活動中です。

そんな私が今回お話をお伺いするのは、この方! 株式会社ポンデテックの財津和也社長です!

中古パソコンのリユース販売事業を通して、電子ごみの削減や障がい者雇用など、様々な社会課題に真正面から取り組む財津さんは、なんと『Forbes JAPAN』2024年6月号の特集「100通りの世界を救う希望『NEXT100』」にて「新しいクレイジーな人」に選ばれた注目パーソンでもあります。

ポンデテックのビジネス戦略と、事業を通じて「社会に選択肢を増やす」ことへの熱意を伺いたいと思います!

財津和也
2011年、ITエンジニアとして関西電力に入社。エネルギーDX推進のジョイントベンチャー立ち上げに従事し、業務外では2016年に関西電力社内のイノベーション活動団体「k-hack」を立ち上げる。同団体発でTRAPOL社、ゲキダンイイノ社が事業会社化、2社の0→1での事業化に従事。2022年に株式会社ポンデテックの取締役副社長 CTOに就任。2023年より同社代表取締役社長。

世界の電子ごみは2030年に820億キログラムに! 電子ごみ問題に貢献する再生パソコン事業

武藤
こんにちは。今日はよろしくお願いします! 早速ですが、ポンデテックは「社会課題に果敢に取り組む会社」として注目されていますね。具体的に何をしている会社なのか聞かせてください!
財津
当社は「世の中の企業が持っている遊休資産※を活用することで、持続可能な社会づくりに貢献できる」という仮説のもと、社会課題をビジネスに結びつけようと2019年に独立系ベンチャーとしてスタートしました。現在、事業はM&Aを受けて関西電力の完全子会社となっています。
※事業用に取得したものの、稼働停止している資産のこと
財津
主な事業はパソコンやスマートフォンのリユース販売です。国連のレポートによると、2022年に世界で排出された電子ごみの量は620億キログラム。2010年と比較すると82%増で、2030年には820億キログラムまで増加すると予測されているんです。
財津
使用済みのパソコンは法律(日本では資源有効利用促進法)によってメーカーによる回収とリサイクルが義務づけられていますが、その中でまだ使える商品としてリユースされているのは全体の1/3程度。また正規に回収・リサイクルされた電子ごみとなると、全体量の2割強。残りの8割弱の行方は確認されていないのが現状なんです※。

※出典:国際電気通信連合(ITU)「The Global E-waste Monitor 2024」

武藤
廃棄するのが面倒で、そのまま放置されているものがたくさんありそうですね。

財津
リユースするには重要機密情報など、パソコン内のデータ消去も必要で、手間もかかりますからね。そこで我々がデータ消去の代行を含め、パソコンのリサイクル作業を一貫して担当しています。企業の使用済みパソコンを買い取って、新品にも劣らない「安心して買える中古パソコン」として再生しているんです。
武藤
「安心して」というところがポイントですね。
財津
一般的に中古パソコンには「素人が手を出すと痛い目に遭う」みたいなイメージがあると思います。実際、これまでの中古パソコン市場はそんな状況でした。
新品にも見劣りしないパソコンが比較的安価で手に入る

財津
状態の良いものと悪いものが混ざった、品質にムラがある状態で店頭に並ぶので、購入者の側に「目利き」が必要でした。そのせいで、値段が高くても新品のパソコンを選んで購入していたケースが大半だったと思います。
武藤
パソコンではありませんが、私も中古で買った音楽再生機器のiPodで、まさに「ハズレ」を引いたことを思い出しました。一度も電源が入らなかったんですよね......。
マイネオの店頭に置かれる端末など、スマホやタブレットの再生も手がける

財津
うんうん、そういう業界だったと思います。でも、パソコンやスマホを1人1台持っている時代に、自分のニーズやお財布にフィットしたパソコンを選べないのは不便ですよね。バリバリ映像を作る仕事の人と、年末に年賀状の作成ができれば事足りる人が同じスペックのパソコンを買う必要はないわけですから。
武藤
たしかにそうですよね。私が関わっている教育分野でもICT※の活用が進んでいますが、子どもが使うパソコンに費用をかけるのが難しいこともあります。
※ICT:「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略。パソコンやタブレット、インターネットなどの通信技術を活かした、まったく新しいかたちの授業のこと
財津
実際、我々のリユースパソコンは、プログラミング教室などの教育現場で使用されることも多いです。スペックも価格も様々なリユースパソコンが、購入時の賢い選択肢の一つとして広がればいいと思っています。その際、安心感を得てもらうために、僕らはいろいろな工夫をしています。
武藤
ふむふむ、どんなことを?
財津
まずは何より、リユースパソコンの品質管理です! 商品の選定から再生工程・梱包まで一貫して高水準を保って、新品と同じくらい安心して購入できる商品・サービスを提供することを重視しています。本体をキレイに清掃することはもちろん、部品交換をしたり、ソフトやOSを最新にアップデートしたりすることも徹底し、高い検査基準をクリアしないと販売しません。

工程ごとに適材適所の人材配置が徹底されている

財津
それに加えてパソコンの購入時って、やっぱりプロの意見がほしいですよね。中古ならなおさらだと思います。そこで当社は購入時に気軽に相談できる窓口を用意して、利用シーンに合ったリユースパソコンを選べるサポートをしています。
武藤
専門のスタッフがパソコンを選ぶ手助けをしてくれるんですね。
財津
はい。お客様に安心して使っていただけるよう、製品保証も新品同様の1年間としています。一般的な中古パソコンの無償での保証期間は1週間から長くても1ヶ月程度の場合が多いですが、保証期間がきちんとあることも安心感に直結しますから。
武藤
ポンデテックさんの取り組みは、中古パソコンにつきものの不安なイメージを覆しつつ、社会課題の解決にも役立っているんですね!

一つのビジネスで複数の社会課題と向き合う、社内ベンチャーの力学

武藤
ところで、財津さんは元々エンジニアとして関西電力グループに入られたんですよね? どうして経営者の道に進んだのですか?
財津
はい、新卒でITエンジニアとして関西電力に入社し、エネルギー業界のDX・デジタル化を推進する新会社を立ち上げて働いていました。2016年に社内の若手社員を中心に新規事業を創造するコミュニティ「k-hack(ケイハック)」を立ち上げて、約200人のメンバーと勤務後に事業アイデアを考えたり、実際に小さく実験をして見たりする日々を送っていました。低速自動走行モビリティサービス「iino」など、事業化が実現した例もあります。
武藤
すごい行動力と、巻き込み力ですね!!
財津
タイミングと運が良かったです。2016年6月、イノベーション専任チームが関西電力の役員直下にでき、僕たちの活動はその半年後にスタートしました。会社の新しい取り組みと僕たちの活動の方向性が偶然一致した、抜群のタイミングでした。また一緒に活動する仲間や社内外の応援・支援者の存在など、人との出会いにも恵まれて活力と勢いがあるプロジェクトが多数生まれました。タイミングと運が重要なのは、ベンチャー企業や新規事業の立ち上げでも同じですね。とにかく一歩踏み出してチャレンジすることが大切です。

障がい者雇用に“IT領域”という選択肢を

財津
そうした発想のもと生まれたのが、企業で不要となったパソコンを再生・リユースするポンデテックです。「電子ごみ削減」「障がい者雇用の推進」「デジタル教育の環境整備支援」の三つを柱に、複数の社会課題を一つのビジネスモデルで同時解決していく。この方向性は社会からも注目されています。
武藤
すごいですね! 三本柱でも、特に「障がい者雇用」が気になります。具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか? もしかしたら、私が日々向き合っている、障がいのある子どもたちが将来活躍する場になる可能性もあると思ったので、ぜひ教えてください!
財津
パソコンの再生工程をお任せしています。パソコンをリユースするには、機械が壊れていないかのチェックや部品の交換などの様々な作業がありますが、なかでも一番時間がかかる清掃工程を中心にお願いしています。
武藤
新品同様の安心して使えるレベルにまで清掃するのは大変そうですね。
財津
やっぱり1回使ったものってそれなりに汚れがついていたり、キーボードの隙間などに小さなごみが詰まっていたりします。
リユース事業の要となる清掃の工程を頼める先を探していたときに出会ったのが、関西電力グループで障がい者雇用を進める特例子会社※「かんでんエルハート」や、ヤマハ発動機グループの「ヤマハモーターMIRAI」の皆さんでした。別件で清掃業務を引き受けていることもあり、普段から清掃に慣れた従業員がいますし、当時はコロナ禍でエルハート側も新しい仕事を探していたので、すぐ話がまとまりました。

※障がい者雇用の促進と安定を図るため、障がい者の雇用において特別の配慮をする子会社のこと
協業先であるヤマハモーターMIRAI株式会社(ヤマハ発動機株式会社の特例子会社)で働くスタッフ

武藤
なるほど。培ってきた清掃のノウハウはポンデテックさんとの連携でも生きそうですね。
財津
実際に業務連携をした当初は苦労の連続でしたが、ツールや作業工程の工夫で少しずつ乗り越えてきました。そうして今、我々のパソコンの再生工程では障がいのあるスタッフがとても活躍されているんですよ。特に驚いたのが傷を見つける作業です。僕なら見逃すような、本当に小さな傷も「ここに傷ありますね」と、1台1台すごい精度でチェックされるんです。彼らの能力と作業との相性が良かったんだと思います。
武藤
まさに才能ですね! 私たちの教室に通う子でも、傷を見つけるのが上手そうな子が何人も思い浮かびます!
財津
また、これも実際にやってみてわかったことですが、パソコンの再生作業は工程がきっちり分かれていて、働く方との相性を見極めやすいんです。

再生工程(例)
1)破損箇所のチェック
2)清掃
3)部品交換
4)ソフトの再インストール
5)出荷前検品
6)梱包・出荷

武藤
工程が分かれていることで、役割分担がしやすいんでしょうね。できることや強みによって適材適所を見分けられるのが、仕事のしやすさにもつながっているんですね!
財津
そうなんです。それぞれの強みや才能に応じた適性が発揮できる仕事に出会えると、皆さん大活躍されるんですよ。パソコンの再生工程は毎日同じルーティンの繰り返しに見えるかもしれませんが、毎日をルーティン化して生きるのが得意な人もいます。起床時間や身支度など、すべてを自分なりにルーティン化できる人だと、決まった時間から活動するとか、手順通りに検査を行うなど仕事にも力を発揮できます。
武藤
人間って一人ひとり、個性やモチベーション、日々の楽しみも違いますよね。そこに丁寧に向き合って快適な環境と出会えたら、幸せに過ごせるでしょうね。
財津
僕らはこうして培った経験を他社にも共有していきたいと考えています。ご存じかもしれませんが、障がい者雇用や福祉の分野では、会社間でナレッジや情報をシェアすることが当たり前に行われているんです。「こういう工夫で職場がよくなった」とか、「自分たちはこんな新事業が軌道に乗ってきました」など、一見競合に見える会社にも輪を広げる文化があるんです。我々の取り組みも、成功事例の一つとして他社に広まっていけば嬉しいです。
武藤
素晴らしい広がりですね! こうしたら上手くいくという事例を共有できれば、働き手と企業もフラットな関係が築けて、建設的な対話が生まれやすい気がします。
財津
そうそう、まさにそうなんですよ! お互いに良い関係が築けていると「じゃあ他の仕事も頼めるかな?」など、自然と前向きな対話ができるようになりますよね。実際にその流れは関西電力グループ内でも起こっています。
武藤
え! どんな流れですか?
財津
一般的に特例子会社は、親会社の人事や総務など事務方の仕事を任されることが多いものです。しかし、当社ではリユースパソコン事業の成功をきっかけに、今まで距離があったIT部門との距離をぐっと縮めることができたんです。
最近ではIT部門の業務担当者から「これは特例子会社と連携できないか」という提案が、自然にされるようになりました。こうして障がい者の皆さんの雇用に、今までにない新しい選択肢を作れたことに今、最も価値を感じています!

財津社長の考える“選択肢がつくる社会”とは


武藤
財津さんのお話をうかがっていると、ずっと「選択肢を増やす」ことの重要性を強調されていますね。
財津
そうですね。事業に限らず、僕は「多様な選択肢があることが、豊かな社会を作ることにつながる」と信じています。

でも、その多様な選択肢も、我々が選ばなければなくなってしまいます。極端な例かもしれませんが、僕たちが「テレビなんてもう面白くない」と言ってテレビを観ないでいると、将来的にテレビのチャンネルが全部なくなってしまうこともあるでしょう。もしくは近隣にできたスーパーやコンビニのお弁当ばかり食べていると、商店街のお弁当屋さんがなくなってしまうこともあるでしょう。それらはつまり、多様な選択肢があったにもかかわらず、僕たちが選ばなかったために訪れた未来の姿だと思います。

社会に多様な選択肢を残したいなら、常日頃から多様な選択肢があることを意識してみて、時には普段と違うものを買ってみたり、挑戦してみたりするのがとても重要だと思います。
武藤
大切な観点ですね。いつもの移動も電車ではなくバスに乗ってみたり、休みの日なら人力車に乗ってみたり、選択肢を増やしてみるとおもしろいかも!
財津
そうそう。そうやって普段無意識に排除している選択肢があるのを知ることが、まず大切です。リユースパソコンを使うことだったり、障がいのある人と一緒に働くことも、その一環だと思います。この活動を僕たちは「違うもの(こと)を選ぶ」という意味で「ちがえら」と呼んでいます。

ポンデテックでは、パソコンのAltキーにオリジナルのシールを貼って「ちがえら」の仲間を増やす活動もしています。赤い羽根共同募金の赤い羽根みたいなものです。Alt=オルタナティブ。つまり「代替の」選択肢を意識してほしいというメッセージを込めているんです。
武藤
「ちがえら」の考え方、素敵ですね! 当たり前を見直したり、視点を変えて柔軟に考え続けたりすることは、私の会社でも教育者のあるべき姿として重視しているので、すごく共感します。
財津
選択肢を増やすことって、柔軟さとか寛容度みたいなものだと思います。普段からちょっと違う選択をすることが自然になると、急に外国人に声をかけられたり、車椅子の人が駅で困っているのを見かけたり、想定外の出来事にも身構えず対応ができるようになるんじゃないかなと考えています。みんながそうやって意識を広げれば、誰もが自分らしく生きられる社会に近づくのではないでしょうか。
武藤
みんなが違った選択を楽しむことで、多様性が当たり前になる社会を作りたいですね。

まとめ

ポンデテックの作る「選択肢」には、障がい者雇用に留まらず、多様な人々が自らの生き方を選べる社会にしていくという前向きなメッセージが込められていました。自由に選べるからこそ、自分に合うものを見つける楽しさがあり、豊かな暮らしにつながっていくのだと思います。

選択肢を増やすためには、いつも無意識に排除している選択肢に目を向けることも大切です。少し勇気が必要かもしれませんが、そうした習慣がつけば社会がもっともっと多様で、寛容になっていくのではと感じました。

皆さんも日々の生活の中で、少しずつでも新しい選択肢を取り入れることにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。いつもとは違う道を歩いてみるとか、食べたことのない料理に挑戦してみるとか、そんなふうに今までしなかった選択肢を選ぶことによって選択の自由が社会全体に広がり、より豊かな未来を作っていけるようになることを願っています。

編集:人間編集部
写真:濱口良太


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62 件のコメント
1 - 12 / 62
凄いですね。
何でも適材適所に人の手
プロ技がミクロの世界でも大きな働きをされてますね。
色々な技に感謝です。
皆さんの肉球の働きも有難いです🐾👍
私もこちらでパソコン購入させていただきました。
全く問題なく使えています
すぎに接続できるし
簡単な使い方マニュアルが入っているのでわかりやすく始めることができました。
私は写真の保存や加工に使っています
マイネオ割なんてあったらよかったなー
 長い。もっとまとめて書くことはできなかったの?
なるほど。立派!中古PCは実態店舗での販路開拓に課題がありそうです。やっぱ通販が主体かな?
店頭での品質良否判断が難しいので、いかに不良品発生時の対応をするかが成否を決めそう。
多様性が求められる時代です‼︎
その多様性に対応できる会社が、もっともっと増えてきたら本当に嬉しい社会が出来上がるのかな⁉︎
マイぴょんの頭に乗ってる銀色の物体は何だろう?🙀
「ちがえら」の考え方、素敵だと想いました。
社長さんの笑顔が印象的でした✨️

>> ちゃとら さん

ライターさんは少なくともmineoでの記事掲載は2回目ですので、まだ今後を見守っても良いのではと思います。
すごいいい取り組みですねー。
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