スタッフブログ
延暦寺の修行、遠洋マグロ漁船、辺境の宿……「スマホが使えない場所」でどう過ごしているの?

延暦寺の修行、遠洋マグロ漁船、辺境の宿……「スマホが使えない場所」でどう過ごしているの?

辰井裕紀
ライター: 辰井裕紀
ローカルネタ・ガジェット・卓球が好きなライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。

世はスマホ時代。仕事やプライベートでも、スマホは欠かせなくなった。

しかし、現代でも「スマホが使えない場所」は存在する。禁止されていたり、電波が圏外だったり。

何をするにもスマホが切り離せない時代、それが使えない場所では代わりに何をしているのか?聞いてみれば、「いい時間の過ごし方」だってあぶり出せるかもしれない。

延暦寺の修行で「3年のスマホ禁止」

まず話を聞いたのは、京都と滋賀にまたがる天台宗の総本山、比叡山延暦寺(ひえいざん・えんりゃくじ)。1200年余りの歴史を誇る。

多くの寺は「修行期間でスマホの持ち込みが禁じられる」と聞く。果たしてお坊さんはその中でどう過ごしていたのか。

延暦寺一山の霊山院(りょうぜんいん)の小寺照哉(しょうさい)住職は、3年間の修行を積んだという。当時の話を聞いた。

比叡山延暦寺 阿弥陀堂 東塔

小寺「スマホは修行に入る際に解約し、家に残しておきました。友人の連絡先などもありましたので」

使えないのが嫌とは思わなかったか。

小寺「事前に心の準備もできていましたから」

修行がはじまり、手元からスマホがなくなって苦しくはなかっただろうか。

小寺『スマホがないなら、ないでいい』という感じでした。ずっと修行していますし」

「スマホがない」という感覚すらない

修行中は仏さまに対するお勤めをしたり、掃除や座禅、食事の準備をしたりと忙しい日々を送った。本さえなかなか読む暇はなかった。だがスマホのない喪失感に襲われることはなかったのか。

小寺スマホが『ない』って感覚もないというか……

スマホの概念自体がなくなるわけだ。

さらに、「俗世間の情報は入ってこない」人づてに聞くぐらいで、人にもほとんど会うことはない。スマホの話もまったく入らないし、誰かがスマホを使うのもほぼ見ない。

当時まだ20代だった住職、禁欲的な世界での気晴らしは何だったのか。

小寺四季の移ろいですかね。雪景色や紅葉がきれいです。比叡山は環境に恵まれているなと思いました」

精進料理よりも、四季を感じるのが心の支えだったという。そんな修行の3年が終わり、またスマホを持つ日が来た。

小寺事務や業務連絡など、今度は業務で必要になりますから

小寺住職も使うiPhone 6(photo by Kārlis Dambrāns

ちなみに使っている端末は、修行に入るまで使っていたiPhone 6。スマホをまったく使わない生活から、3年ぶりにiPhoneを取り戻した。

小寺「20代ですので、意外とすんなり使えました。うれしかったのは、スマホをまた持てたというよりかは人と連絡が取れることでした

我々が最初に携帯電話を持ったときと同じ喜びかもしれない。スマホを持たないことによって、鍛えられた部分などはあるだろうか。

小寺「修行に専念できたことくらいですかね」

何せ「頭からスマホの存在がなくなる」ほどになった住職。思い切り修行に没頭できたはずだ。

遠洋船の「長い航海」で何をする?

マグロなどの海産物をとるため、遠い海まで出かけてはるばる漁を行う、遠洋漁業。彼らは約1年もの長い間、日本を離れて船の上で生活する。

何もない洋上を進むため、その船の多くはスマホが使えない。そこで船員たちはどのように過ごすのか。

全国漁業就業者確保育成センターの事務局長を務める馬上敦子(まがみ・あつこ)さんに、船員たちがどんな私生活を送っているのか聞いた。

馬上「まず1人だけの空間であるベッドに、テレビなどの映像再生機と、録画したDVDや映像ソフトなどを持ち込むんです。一年中ずっと同じものを見ているみたいです

船内寝台

何を見るかはさまざまだが、こんな人もいる。

馬上ニュースやワイドショーなどを撮りためて持っていく人もいました。自分の家族が1年分撮り貯めてくれるので、それをずっと見ているそうですよ

いわゆるビデオテープの時代は持ち込める量も限られたが、DVDになってからはより多く持って行けるようになった。

馬上「今はiPadなどのタブレットPCを持ち込む人もいると思いますので、持参できる映像の量は増えたはずです」

ビデオの貸し借りで国際交流も

ゲームも人気。通信ができなくても楽しめるようなゲーム機を持ち込んでいるようだ。さらに、こんな国際交流もある。

馬上「遠洋船は外国人船員も多いので、彼らが持ってきたものを一緒に見るとか。男性なので、ちょっとエッチなものもいろいろみんなで見ているみたいです

そんな潤いも大事だし、ビデオの貸し借りで絆が深まることもあるだろう。食堂にはよく大きいテレビがあり、そろって映画を見ることもある。

船内食堂

馬上「雑誌や本も皆さん持っています。途中で物資の補給が日本から来るんですが、数カ月に1回くらいなので、最初から1年分くらいの娯楽を持ち込みます」

補給の際には、家族からの手紙やビデオメッセージをもらう船員もいる

なお船には「衛星電話」なるものが法的に設置を義務づけられている。しかしその通信料は非常に高く、そう使えるものではない。

馬上「緊急の連絡で、訃報や出産の知らせすらFAXで流れてくるようなので。電話は本当に限られたときにしか使えないようです」

最近まで船舶電話として使われていた、ワイドスター・クレジットカードホンA81(NTTドコモ、photo by 100yen

遠洋船にもやってきた「Wi-Fi時代」

今は「若い人はWi-Fiがないと乗ってくれない」ので、Wi-Fi入りの船が増えている。LINEやTwitterなどの通信が可能だ。

馬上「若い方はスマホとともに育ったから、『自分はあんまりスマホを普段使わないから大丈夫』と言っていても、本当になくなるとつらくて、『Wi-Fiのある船がいい』と

設備にお金はかかるが、人を呼ぶための必要経費のようになってきた。前述の補給時にはAmazonで買ったものを家から家族に送ってもらうこともある。それとともに、馬上さんはこうも語る。

馬上「スマホがあるとずっと画面を見てしまいますが、船からの景色は壮大。朝日も夕日も見える時間も大切にしてほしいと思います」

全国漁業就業者確保育成センター主催の「漁業就業支援フェア2023福岡」(2023年2月25日開催)にて、漁師になりたい人の参加を募集中。遠洋マグロ船での生活も船主にくわしく聞ける

スマホもテレビもラジオも使えない宿が大人気

「スマホが使えない」ほどの辺境にあることを逆手に取り、青森県随一の人気を誇る「青荷(あおに)温泉」なる宿。

谷底にあり、携帯各キャリアの電波は届かず、テレビもないし、ラジオも入らない。まわりにコンビニなどもまったくない。基本的に電気も使えない。しかしそんな辺境をあえて求め、客がやってくる。

だが青荷温泉は青森でもトップクラスの人気を誇るうえ、連絡手段は1つの電話回線のみのために電話取材ができなかった。

代わりに答えてくれたのは、黒石観光協会専務理事の野呂淳一(のろ・じゅんいち)さん。個人的に10回ほど泊まり、津軽三味線ライブの演者としての来訪なども合わせると、30回ほど足を運ぶ。

果たしてお客さんたちは、圏外の中で何をしているのか。

野呂もう本当に、お風呂入るか、食べて飲むか、ゆったりするだけですね

あとは、会話に花が咲くのだそう。

野呂「夜になると部屋にランプが1個しかなくて、本を読みにくいほどの明るさです。ならばと、お酒と会話を楽しむんです。普段はできないような深い話もします」

やることがないから「何度でも風呂に行く」

大広間

食事は大広間でみんな一斉にごはんを食べるスタイル。他の旅行者と打ち解けて一緒に飲む人もいる。

野呂「お風呂が4つあるんですけど、やることがないから何回も行きますね

ふつうは1回入って終わりのことも多いが、ある種「温泉」旅館としての本領が味わえそうだ。

なお最低限の設備として事務所やトイレに電気がついているものの、コンセントはなく充電もできない。だから、PCもなかなか使えない。

だが、「スマホを使えたらよかった」などは思わない。最初からわかっているので、不便には感じないし、何時間かいれば慣れてくるという。

野呂「それがよくて、みんな来ていると思いますから」

おわりに

たかがスマホ、されどスマホ。現代の利器が使えない環境で人々はさまざまな工夫と心構えでその場をやり過ごし、さらには豊かな時間に変えていた。

「それでもスマホと離れられない僕ら現代人」にとって、スマホとの新たな向き合い方を考えさせてくれる三者三様の話だった。


画像提供:全国漁業就業者確保育成センター、青荷温泉
編集:ノオト


おすすめ記事


163 件のコメント
64 - 113 / 163
いろいろと考えさせられる記事でした。
スマホの無い生活かぁ~!
どんな感じなのか?想像したけど…???
人との会話は増えるのかな?
「スマホが使えない代わりに」という発想がそもそも無いな。
今も放置し過ぎてたまに友人に苦情言をわれたりしますが。
もしスマホが絶対に欠かせないものだと思っていたら、きっとmineoは使っていないな…
ほっこりする素敵な記事でした
まさかmineoさんからスマホがなくても四季の移ろいがあるよって教えてもらえる日がくるなんて…
スマホ無しで生活するのは憧れです。仕事してると無理ですが…
あるのが煩わしいタイプなので、解放されてみたいです。
いつでも連絡取れるというのは、良いような悪いようなで😅

出先で急遽タクシー呼ぶときにはありがたいんですけどね…(タクシーアプリ)
いろいろと考えさせられる記事でした
スマホが無いから、結婚する前は今の嫁さんの家に電話するのは午後9時迄に、とか、ある意味迷惑をかけないようなルールが一般に守られてたような、今でもそのほうが良いと思うのは古すぎるのかなぁ〜
ビデオも無いからテレビ番組に間に合うように家に帰ったり、駅の伝言板、一晩かけて書いたラブレターを朝に破ったり‥‥
あの頃のほうがなんか生活にコクがあって良かったような気もします。
秘境の宿と温泉行ってみたいですね。
僕も仕事がらスマホはほとんど使わない生活していますなのでないと不安ということはないです
温泉いいですね、大好きです
落胆モバイルの衛星通信
が全てを壊してしまうのでしょうね…
 1時間に何回、スマホを見ているんでしょうか。連絡したいときに捕まらないからと職場で言われ、携帯を購入したのが20年前。
 携帯からスマホに進化して、今やホントに生活にも職場でも欠かせないモノになりましたね。
 それでも無ければ無いで、生活出来るんですよね。たまにはスマホを家に置いて、出掛けてみるのもいいなと感じました!
 考えさせるブログ、ありがとうございました😊
ホラー映画でよくある、スマホが圏外or電池切れで助けが呼べない!って展開かと思ったらわりと情緒が溢れていた。
無きゃ無い!なんだけどね〜
たまにはスマホから離れるのも新鮮かもしれないけど
それがずっと続くとなるとなかなか難しいですね。
でも自分が中学生の頃は携帯電話自体まだ普及してなくて、友達との待ち合わせもちゃんと予定通りに来るか、忘れてはいないかドキドキしたもんです。
たいへん読み応えのあるブログでした。現場の方々から直接取材した生の言葉から、いろいろと考えさせられました。
便利な道具だったはずのスマホが、常に持っていないと不安さえ感じる存在に🫤なっていたかも…

ちょっと立ち止まって考える良い記事でした
ありがとうございました😊
朝日夕日は三日で日常に・・・
通信が出来なくても情報機器があった方がよさそうです。
面白い記事でした🤗
スマホは便利!便利なものはきちんと使う!ということで、日々スマホにはお世話になっていますが、なきゃないで何とかなる気がします。
私の場合は、晴れた空の下でも空気の匂いで「これから雨降るよ」って天気を当てたり、スマホなくても友人知人の連絡先を全て記憶しているので周りから重宝されている部分もあるせいか、「スマホ使いすぎてその野生の勘と記憶力を失くさないでくれ」と言われています😅
むしろ今までより年を重ねて勘が働かなくなったり、記憶力が衰えて来る頃のほうがスマホに依存するようになってるかも🙄
とりあえずスマホなどの便利な道具は依存しすぎずバランスよく使ってこそ、生活に潤いをもたらせてくれるような気がします🍵
温泉は和歌山の白浜しか行ったことが無い。旅行先ではネットの事は考えず、ひたすら景色を見たり、グルメするので携帯のカメラ機能は重宝する。
こんな感じかな。((笑))
いつも面白いブログありがとうございます😭
住むところが電波の届かないなら、無くても困らないと思います。
外からの情報がなければないほど、生き物としての能力は開いてくるのかもしれませんね〜

>> よしを440 さん

わかります。便利なものを多用しすぎて現代人はある意味で退化しているのかも?
なかなか面白い記事でした!!良かったです
なんというか、スマホを使うこと自体が目的になってしまって、そのせいでかえって苦しいことが増えたりするけど、本来はただ人とのかかわりを豊かにするためのものなんだよなあと感じさせられました。旅館行ってみたいです
凄い修行です。私には無理。
怠惰な生活なので改めます、、
色々な状況下でのスマホなし生活、かなり面白い記事でした。果たして自分に出来るのか。。。
スマホなし生活は…考えられない
デジタルデトックスするのには最適な環境ですね。
先日クルーズ船で旅行しながらリモートワークができないか画策しましたが、やっぱりインターネットに接続できる方法が限られているので無理でした。ネットやスマホのない生活って難しいです。
スマホなしの生活はやっぱり自分からするとキツイなー
起きてる間、スマホ漬けデス
スマホどころか携帯すら無い時代を過ごしているはずなのに、一度便利になると戻れないものですね。
この切り口でスマホなし生活者のレポートをたくさん読みたいですな。_(^^;)ゞ
私もスマホ断ちしたい
ポケベルも携帯電話も無かった時代を思い出しましたね。
マグロ遠洋漁船や辺境の宿でも、今ではスターリンク(Starlink)で衛星通信が一般的になりつつ有り、普通に通信出来る日が近いのでは
面白かったです。
スマホを持たないといろいろと不便な社会だから持たないといけなくて、スマホは数万円するもので毎月の通信料も高い。マホは凄く便利だけどスマホ無かった時代はそれはそれで良かったな〜
私はスマホ依存症ではないので、スマホが無ければ無いで諦めますが、
外部から全く情報が入らなくなると、耐えられるか自信がないです。
また、24時間同じ人としか顔を合わさなくなるのもきついですね。
面白い企画でした。
山に行く時は、覚悟しています。
確かに、
スマホは生活の一部で、無いととても不便だけど、スマホが不調で数日アナログな生活(腕時計をしてみたり、紙の本で読書してみたりetc)をしたら案外時間と気持ちにゆとりが出来て良かったです。
(今はスマホとの共存生活に戻ってますが..笑)
ちょっと興味深いなと思いました。
コメントするには、ログインまたはメンバー登録(無料)が必要です。