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「100均ガジェット」は壊れてもいいから安い? 分解マスターに聞く100均ホントの実力
ローカルネタ・ガジェット・卓球が好きなライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。
この30年、停滞する日本経済。そこで一気に勢力を伸ばしたのが100円ショップ(以下、100均)です。
そして2022年、1兆円産業にも達しようとする100均業界。その中でも、近年急速に充実してきたのが「100均ガジェット」。
たとえば急速充電が可能な充電器やケーブル、スマホスタンド。マウスやテンキーキーボードなどに加えて、かつては高価だったワイヤレスイヤホンまで登場しています。
なんでもそろって便利な反面、ちょっと得体の知れない存在でもある100均ガジェット。税込110円の安さだからか、何だか内部を見てみるのが少し怖い気も。
そんな100均ガジェットを、怖い物なしで分解し、回路図まで書いてしまう「100均ガジェット分解」 を行う人がいます。
彼こそが、格安の部品から工作を行う「ThousanDIY」のハンドルネームでも知られる、山崎雅夫さんです。
月刊I/Oに連載し、今では「100均ガジェットの分解」に関する本を3冊も出すほど、その道を極めた山崎さ ん。誰よりも100均アイテムのコアな部分を見てきた知見、いただきましょう。
「100均ガジェット分解」のきっかけ
——なぜ、100均ガジェットを分解しようと思ったんですか。
山崎:2017年ごろ、100均の電子機器が増えてきたんですよね。マウスやBluetoothスピーカー、USBハブまで出てきて。
——100均のガジェットコーナーに行くたびに楽しくなりましたね。
山崎:そのとき「なぜこんな値段で作れるの?」と思ったんです。
——それ、すごく思いますね……! 分解したら、何がわかりましたか?
山崎:割り切った作りがとても多くて。100均ガジェットはほぼ中国メーカーが手がけているんですが、たとえば大手家電メーカーのように、静電気やケーブルのさし間違いで壊れないようにする回路がないんです。
——ええ? どうするんですか?
山崎:「安いから壊れても買いかえりゃいいでしょ」と割り切っているんです。
——その分安く上がるわけですね。
山崎:あと、中国は「プリント基板にメインのIC(集積回路)が1個ついているだけ」とかで手軽に製品にしちゃいます。ありものの部品を組み合わせて、手っ取り早く商品にしているのが多いです。
——なるほど……!
山崎:なので100円ショップのガジェットって、ぜんぶイチから専用で作るのはあまりないです。汎用的な部品を組み合わせるだけでできています。
——だから安く上がるわけですね。
山崎:さらに、大量に作って売りまくっているからこそ、安くできるんですよ。
ウン千万円もかかる「技適」と「PSE」
——ちなみに海外製のガジェットには「技適(技術基準適合証明)」や「PSE(電気用品安全法)」なるものが必要だと聞きます。
山崎:たとえば電波を出す機器は、日本国内電波法に沿うものであることを証明しなくてはいけないんです。試験を受けて、必要な資料を出すと、申請だけで約100万円かかります。
——100万も?
山崎:さらに、基準に適合させる設計や出荷時の管理などをすると、あっという間に数千万円になります。
——技適って相当大変ですね……。
山崎:そのコストを上乗せしても、この値段で出せるので。かなりの数を作っていると思います。
——各社、技適は取っているんですか?
山崎:少なくともダイソー、セリア、キャンドゥの大手3社はほぼ技適を取っていますね。
——大手3社以外では?
山崎:昔は、本来は「PSEマーク」が必要なのについていない商品が、ディスカウントストアやジャンクショップで売られていたりしましたけど、最近はあまり見かけなくなりました。100均は安くてもきちんとやっているので、これからはちゃんと技適やPSEのラベルを付けないと売りにくくなるでしょう。
オススメの100均ガジェット
——100均ガジェットは、近年クオリティが上がっていると聞きます。ズバリ、オススメの商品を教えていただけますか。
山崎:まずは1,100円のダイソーのBluetooth完全ワイヤレスイヤホン。接続や動作が安定していて、音がそこそこいいですよ。
——そんなに? 昔は100均のイヤホン、シャカシャカして低音の出ないイメージがありました。
山崎:今では、低音も出ますよ。好評で売れまくっているようです。
山崎:全体的に、オーディオ系はものすごくクオリティが上がっています。ポータブルのスピーカー、1,100円のやつもけっこう音がいいのでオススメです。
山崎:普通に外付けのスピーカーで使える音質です。2つ合わせて2,200円になっちゃいますけどね。
——100均ガジェットでは高級ですけれども、世間よりは安いですね。
山崎:ただ、昔のように「ダイソーなら10分の1の価格」などはなくなりました。ほかも安くなったので。あと、110円のLED電球もオススメです。
——すごいですよね、LED電球ってずっと高いイメージでした。
山崎:最初は安いLEDをただ電球型に入れただけみたいなものが多かったんですけど、これはきちんと設計されていて。プリント基板がアルミなので放熱性がよく、発熱による不具合を予防できます。
——耐久性はいかがですか?
山崎:ギリギリだと思います。でも、僕もここ2年くらいはよく使っていますが、ほとんど壊れませんね。550円で人感センサーが付いたものもあり、これも分解したら結構ちゃんとしていました。
——おお! 高額商品が特権的にもっていた機能を100均ガジェットが兼ね備えてきましたね。
山崎:あとは電子メモパッドとか。
——これ、550円で売っているのには驚きました!
山崎:私も普通に使っています。そのうち書き心地が落ちてきましたけどね。そこは値段相応です。
——ちなみに、「何でも使える万能ケーブル(550円)」を愛用しているんですが……
山崎:これはいい商品です。PD(USB Power Delivery)で100Wまで充電できて。USBは2.0ですけれども、電磁抵抗値が150ミリオウムって非常に低いので、きちんと設計しているなと。
——しかしこうしてみると、ダイソー製品は強いですね。
山崎:ええ。ダイソーにある770円の商品とほとんど同じものが、3COINSでは1,100円で売られているのを見かけたこともあります。
トラブル対策を進める100均業界
——逆に、オススメできないものはありますか。
山崎:少し前は怪しいものが多くて。「USB2.0」対応との表記なのに「USB1.1」でしか動作しないUSBハブとか。
——ええ!? データ転送が超低速なUSB1.1……。
山崎:あとモノラルでしか再生できない両耳イヤホンとか。
——両耳だとステレオと思っちゃいますし、モノラル、たまったもんじゃないですね……。
山崎:あと、某社のニッケル水素充電池。充電時間の制御も何もしていなくて、ただ、充電し続けるだけですね。かなり電池が熱くなるのでオススメしません。
——もしかしたら燃える?
山崎:ええ。目を離してずっと置いとくとやばいと思います……それでも、全体的に「こんなコストダウンの仕方はダメだろう」っていう商品が減りましたね。
——100円ガジェットの突っ込みどころも減っている。
山崎:昔は「本当は1アンペアしか流せないのに、2アンペア流している」とかよくあったんです。
——それで使い続けると、どんなことが?
山崎:最悪、燃えます。こういう危ないものが減ってきて、何か不具合が起こると最近ではきちんと回収していますね。
——そこは100均がメジャーになったメリットですね。
山崎:ええ。ダイソーとかは表示している材料が少し違っただけでも回収していますから。普通の電気メーカーと同じような対応をしていますね。
——たとえば?
山崎:店頭にビラが貼ってありますし、自社サイトのほか、通販サイトなどほかのサイトでも回収情報を流しています。
カオスな中国メーカーから、いいものを引っ張り上げるバイヤーたち
——100均ガジェット分解を通して、学べたことはありますか。
山崎:「日本メーカーにはできない割り切り」が、一番勉強になりました。
——それが今、消費者たちに支持されていますしね。
山崎:日本のメーカー出身者としては、「勇気があるな」と。自社でぜんぶはやらない。安く汎用的な部品があるわけだからそれを組み合わせて作っちゃう。
——それが中国の安くてカンタンなものづくりを実現しているわけですね。
山崎:アリエクスプレスとか、中国の通販で買うとヘンなのもいっぱいあるんですけど、ダイソーとかはまともなものが多いので。その辺はバイヤーさんがちゃんと選んでいるなと思います。
——中国のカオスな商品群から、日本人が使いやすい形で吸い上げてくれたのが、100均ガジェットなんですね。そんな中国のものづくりの問題点はありますか。
山崎:設計のレベルにばらつきがあります。設計が雑な例でいうと、あるBluetoothのスピーカーを分解して回路図を見たら、専用の充電ICなどが使われていませんでした。ただダイオードと抵抗で電流制限し、LiPoバッテリー(リチウムポリマーバッテリー)を充電しているだけ。あと確認した100均ガジェットのいくつかは、過充電や過放電などの保護がありませんでした。コストダウンしたらダメなところまで手をつけているんです。
——そのまま使うとどうなるんですか?
山崎:発火したり、充電ができなくなったりする可能性があります。数円のコストダウンのためにこうしてしまうんです。
対抗する日本メーカーは現れるか?
——ところで、成長する100均業界で大攻勢を浴びている日本メーカーはどうなりますか。
山崎:どうにもならないですね。同じレベルで戦うのはもう無理だと思います。
——……日本メーカー、どう生きていけばいいと思いますか?
山崎:産業用途とか含めて、きちんと信頼性が高いところ向けに仕事をしていればいいと思います。棲み分けが肝心ですから。
——信頼が必要なところにちゃんとした値段で売っていくわけですね。
山崎:ただ、個人的には真っ向勝負するところが出てきてほしい。「日本で作ればこうなるよ」みたいなのを見せてくれる会社がいれば。
——円安も逆手にとって、日本ならではの100均ガジェットを見せて欲しいですね。
——最後に。もし「売れる100均ガジェットを作ってください」って言われたら、何をどう作りますか。
山崎:今なら1,100円ぐらいで電波時計を作りたいですね。
——おお! たしかに作っている100均、見かけないですね。
山崎:あとは小さなドローンを売ってもいい気がします。
——ほしいものばかり。ぜひ山崎雅夫PRESENTSで作っていただければ。ちなみに、100均にスマートフォンやパソコンは出てきますかね? ドンキPCみたいなノリで。
山崎:おそらく使い物にならないので、なかなか出ないと思います……!
「壊れたら新しいものを買ってくれればいい」という割り切りと、ありものを組み合わせて安く商品にするエコシステム。もはや日本メーカーがマネできないレベルに達した中国のものづくり。
僕たちは驚きの安さとメキメキ上がるパフォーマンスを享受しつつ。それに立ち向かう気概のある日本メーカーの出現も、しばし待つとしましょう。
※この記事は分解を推奨するものではありません。とくに電池・電源系は感電や爆発の危険が常にあります。自己責任でお願いします。
(編集:ノオト )
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良い企画だと思います。
電力が1/10に減って、省エネですね💡
価格も以前の1/10位でしょうか💡
後は、図面で分解した証拠が無い。
Bluetoothイヤホンは?
なにを持ってマスターなの?
自分はDAISOの充電池を使っていますが、某社とは?
こういった危険性がある商品こそ、社名を出して改善を促すべきだと思います。
>> 退会済みメンバー さん
良いものを長く使いたい赤字で売っているものはないと思いますが、適正な利益を含めた形で売って欲しいと思います。ただ、100円単位とすることで、壊れてもあきらめてもらえるという免罪符を得るのでしょうね‥
分解して回路図を書けるのすごい…
最低、事故が起きない製品を作って欲しいですね。
資源高
デカップリング進む情勢
綺麗事のSDGsなんて無意味です
モッタイナイ。