【掌編三昧】ありふれた朝
ちっ、なんでこう上手くいかないんだろう。
裕子は少し背を丸めながら眉を描く手を止めた。
落ち着きの悪い椅子に座る諦め顔が、ホテルに備え付けの飾り気のないドレッサーにぼんやりと映っている。きっと光の加減が上手く行ってないせいだと思った。部屋の明かりだけでは薄暗いし、かといって傍のスタンドを点ければ、光が強すぎて顔のあちこちに影ができてしまう。
でも カーテンを全開して朝日を入れる気にはなれなかった。今の自分には眩し過ぎる。
もう二年も繰り返していることなのに、少しも慣れていない自分には呆れるしかない。
やめた、もういいや。
バッグから携帯を取り出して、同僚のマキの番号を表示させた。職場で唯一気のおけない相手だった。
あ、マキ? おはよう、こんな朝はやくからゴメンね、今日さぁ、私、有給休暇にすることにしたから課長に上手く言っといてくれないかな
ん、よく知ってるでしょ、私苦手なのよ、嘘つくのって
そ、まぁね、そんなとこ
え、あははは、当ったり~、ぜーんぶ お見通しってわけね
ん、もうとっく、サッサと先に出てったわよ、だってココからだったら渋谷の彼のオフィスまでたっぷり一時間は掛かるもん
あ、そうそう、横浜
うん、夕べは港の夜景、雨上がりだったけど とってもキレイだった
アハハハ、そんなつもりじゃないよ
いいの、そう言ってくれるのはマキだけよ
え、そうなんだけどさぁ、そんなこと言ったって、私だけで決められることじゃないもん
そうよね、言われなくったって分かってる、こんなことずっと続けていられるわけないとは思ってるんだけどさ
そ、だね
あ、ごめん、そろそろそっちも出かける支度する時間だよね
ん、ありがと、おかげでチェックアウトギリまでもう少しゆっくりしてくことにするわ
え、クイーンズ・スクエア? 近くだよ
ん、予定ないよ、だって、次の日ってさ、電話すら掛けてこないもん、何でか知らないけど
え、いいの? そんな、そっちだっていつもほっといたりしたら、まずいんじゃない、知らないよ、逃げられちゃったって
うわっ、ごちそうさま! オケ、じゃそれまで時間つぶしてるわ
お、それグッドアイデア、ちょうど見たかったヤツあるし
ん、わかった、じゃ、6時半ね、了解
なら、その後は中華がいいな
じゃね、バイ
<了>


