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サーカス

いつも遊んでいる公園には正月になるとサーカスがやって来た。
12月の下旬になると杉の丸太を組んで小屋掛けして会場を作る。
大晦日には稽古仕上げのお披露目があり明治製菓のキャラメルの空き箱を持っていけば無料で見られた。
いろいろな演目があったが空中ブランコや猛獣の曲芸や直径6m位の鉄で出来た網目状の球体の中をオートバイがあらゆる方向に旋回する出し物が面白かった。

(サーカス小屋は大きいなあと感じたが実際どのくらいの大きさだったか調べてみた。丸太で組んだものは江戸川乱歩の『サーカスの怪人』によると高さ50mとあった。普通のマンションだと15階建て位でかなりの高さである。現在のサーカステントの大きさはPサーカスだと直径46m、高さ20m、Kサーカスだと長径51m、短径43m、高さ16mである。小説は当てにならないと分かった。)


サーカスには数軒の見世物小屋が一緒に来ていた。
犬や猿の曲芸や手品などこじんまりとした芸を披露していた。
蛇娘とか蛸女とか生きた河童とか胡散臭い出し物もあった。
人権とかコンプライアンスとかを全く無視したものもあった。
お化け屋敷は必須のものであった。

他にシャボンの溢れたタライの中に若い女性が笑顔でしなを作っている看板の出ている小屋もあったが、それがストリップ小屋であるとは勿論知らなかった。
〇〇博覧会という名の怪しげな小屋もあったが秘宝館みたいなものだとは、これも知る由もなかった。

サーカスのものとは違うオートバイの曲乗り小屋もあった。
直径10m、高さ5m位の木製の大きな桶みたいなものでオートバイは地面と水平になるように横向きになって走る。
客は桶の上部からの立ち見で中を覗き込む形になる。
上下ジグザグに走ったり目隠し運転をしたり桶の上端すれすれに来たりで至近距離で見られるので結構興奮する。

torinohane.png

サーカス団の周りには100件ほどの露店が立ち並び、そこでの食べ物や数日でガラクタになる玩具を買うことによっていつもお年玉の殆どは消えてしまった。

今でも覚えているのは小さな筒状のもので、これで覗けば中身が分かるという物であった。
手の指をかざせば骨が見える。饅頭だったらあんこが見える。ナイフの鞘だったらナイフの形が見える。実際見せてもらったが確かにその通りに見える。
早速買って家で試したが全てのものの中身が見える訳ではなかった。筆箱を見ても中の鉛筆が見える訳ではない。財布を見ても中の小銭が見える訳ではない。
中を分解すると覗き口に鳥の羽が貼ってあるだけだった。
鳥の羽は密度の高いすだれ状になっていてそれを通して物を見ると淡い輪郭の中に一回り小さな相似形の影が写るという仕組みになっているのが分かった。
外形と中身が同じ形をしているものだけを見せて全てに通用すると錯覚させる話し方売り方にこういうやり方もあるのだと妙に納得したことを覚えている。

公園の賑わいは冬休みが終わると急速になくなったが興行は15日まであった。
その後次の街へと移っていきサーカス小屋の子供たちも短い付き合いで転校していったりで一抹の寂しさはあった。


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