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【読み物】就職戦線、異常ありです!

ちょっと前の想い出話を、面白おかしく物語に仕立ててみました。
かなり話を盛っているので、いちいち真に受けないでね。フィクションです。

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『けっ』

テーブルの脇に、無造作に置かれた段ボール箱。
ポストに突っ込まれていた封筒。
ひと通り中身を確認したわたしは、封筒ごと段ボール箱の中へ乱暴にそいつらを投げ込んだ。
中身は何か……

「慎重に選考を重ねました結果、誠に残念ながら貴意にそえない結果となりました。なお、お預かりしました応募書類については、郵送にてご返却いたしますのでご査収ください」

そう。
段ボール箱に投げ込まれた書類は、不採用通知。
就職戦線真っ只中で、わたしが玉砕した証がここに積まれている。
山盛りになった不採用通知を改めて眺め回す。
もう不採用通知評論家を名乗ってもいい頃だろう。
もしくは、何かのニュースで『不採用通知に詳しい河嶋さん』なんてインタビュー映像が流れるような。

大学の購買であほみたいに履歴書を買い込み、駅前の写真屋さんで引きつった顔を撮ってもらって……(履歴書の購入数や写真の焼き増し回数は近年希に見るものだったと思う)
今やその全てがゴミと化している。
これだけ大量になると、燃えるゴミとかにも出せない。近いうちに助教授の部屋に持ちこんで、シュレッダーにかけてしまおう。
明日は面接。これで落ちたら大学から紹介して貰った案件は全てボツだ。
明日が駄目なら、来週からは職安に行こう。
『大学を出たら、機械のお仕事で立派になってみせる』って地元で大見得切っちゃったしなぁ。

あれこれ考えてても仕方ない。
明日の面接に向け、パンツァーフォー!

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『み、南河内大学工学部機械工学科の河嶋桃と申します。本日はよろしくお願いします』
面接官三人と、学生五人。真ん中に座った白髪の男性が、ゆっくりと話し始める。
自分でもわかる位カチンコチンに緊張している。質問されても何を答えているか、自分でもよくわかっていない。
話はだんだん本質へと入ってくる。
「この会社へ応募された理由を教えて戴けますか?」
・大手機械装置メーカーの関連会社だから
・安定しているから
・待遇がいいから
わたし以外の四人がスラスラと答えていくが、わたしの言いたい(言えそうな)ことは先に言われてしまった。いよいよわたしの番だ、というときに、面接官が意外なことを仰った。
「採用案内なんかで、うちがどんな仕事をしているかはご存じだと思うけど、この仕事にどんなイメージを持っていて、何をやりたいと思う?」

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河嶋ピ~ンチ!
そんなこと聞かれるなんて思ってもいなかった。
張り詰めた空気の中、わたしはポツポツと語り始めた。

あの……わたし、子どもの頃から大きな機械とかが大好きで……毎日毎日飽きもせず海辺の工場なんかを眺めていたんですよね……
あの工場にも何かしらの機械装置があって……子どもの頃のわたしがそんなこと気付くハズないんですが……
今になって考えてみると、そこにもメンテナンス作業をする人がいて、だからこそわたしが見ていた工場も毎日力強く稼働していたんだと思うんです……
パッと見、表に見えない仕事ですけど……
でも、ゼッタイに必要なお仕事なワケで……
きっとわたしなら、その『見えないけど、なくてはならない』お仕事を全う出来ると思うんです!

わたしはそこまで言うと、真っ赤になって俯いてしまった。ナニしどろもどろになってんだよ!
こりゃ今回も駄目だわ。わたし以外の四人も、必死こいて笑いを堪えている。
面接官が小さくため息をついたあと、わたしたちに今後の日程を告げた。
「結果は三日後。採用となる方は当方からご連絡差し上げますので、宜しくお願いしますね」

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全てが終わった。
色んな意味で終わってしまった。
ふつうに落ちるだけならまだしも、ため息までつかれたぞオイ。
来週からは、本気で職安に行こう。

そう思いながら、特に何をする気にもなれず。
大学構内の部室ガレージで車を意味もなく弄くり回していると……

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「か~しま先輩!ケータイ鳴ってます!」
後輩が慌てて持ってきたケータイを見ると、知らない番号。
『ハイ、河嶋です』
「突然お電話してすみません。わたくし、株式会社ガルパンテクノロジーズ人事部の小山と申します」
『あ……先日は面接で貴重なお時間を割いていただいてありがとうございました』
「それでですね……ちょっと社長、痛っ!あ、すみません。社長が代われっていうんで」

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向こうで何やら「早く代われって!」とか聞こえる。
「あ、もしもし河嶋さん?先日の結果をどうしても早よ伝えたくてやねぇ」
あれ?この人の声……
面接官の、真ん中にいた人だ。えっ?社長が面接してたの?
「おめでとう、河嶋さん。内定!あれだけ熱く演説ぶち上げたんやから、他所には行かへんよなぁ」
『ええ、モチロンです!』
その「他所」がなかったのはナイショ。
『わたし……周りの子たちにクスクス笑われてたし……ため息を……』
「ああ、アレ?人が一生懸命話してるのに笑うヤツ見とったら何か腹立ってきてなぁ。ハハハハ」

そういうこと…………?

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さぁ、帰ってきたぞ!

代わり映えしないボロ電車に揺られながら数時間。
わたしは両親に報告するために実家に戻ってきた。
内定をもらったことは事前に伝えてあったから、あとはその他のことやらを伝えるだけだけど。
『ただいま!』
ボロい町中華料理店の夕飯時少し前に戻ってきたもんだから、店は臨戦態勢。
今日はわたしも手伝おうかな。
弟が奥から飛び出してくる。
『桃姉、おかえり!就職おめでとう!』
ひょいと抱え上げた弟にお祝いの言葉をもらいながら、わたしは両親のほうを振り向いた。
相変わらず何も言わない父。母は何か笑いを堪えている。そんなにわたしの就職が嬉しいのか?

やがてお店に常連さんがドカドカ入ってくる。
『タケシさん、今日も生中?』
「凱旋将軍は働かんでエエから、そこに座って!」
「就活でエラい苦労してたんやな!」
「何連敗?」
「最後の最後で、逆転ホームランやって?」
このことは両親にしか言ってない。喋ったのはどっちだ?
「ウチは何も喋ってへんで?」と母。

ガ~ン.jpg

父が重い口を開く。

「お前、調子に乗ってミナミの居酒屋で内定祝いの大宴会してたやろ」
『うん。自動車部のみんながお祝いしてくれたから……ってなんで父ちゃん、そんなこと知ってんの?』
「本気で覚えてへんか」
『ナニを?』
「お前、その時にテレビ局の取材受けて、カメラの前でへべれけに酔うて大騒ぎしてたやろ!挙げ句に店の中で胴上げまで……」
『まさか……』
「よりにもよって、店に一番お客さん来てるときのニュースになるとはなぁ。俺は胴上げされるために娘を大阪の大学に行かせた覚えはない」
『げっ』


「恥を知れ、この莫迦娘っ!」
(了)

ダメだよ柚子ちゃん.JPG

なんとまぁ、ジェットコースターみたいな人生だこと。
人生の一部を切り取って物語にしてみるのも、モノ書きとしては面白いんだけど……

自分の人生を振り返ってみると、コントみたいになるのは何故だろう🤔


59 件のコメント
1 - 9 / 59
>かなり話を盛っているので
というのは、

ちょっと前の想い出
ちょっと前の
ちょっと
久しぶりにポンちゃんの「読み物」読んだ。
ポンちゃんの人生は正にコントか人生ゲームのようなもの。
生粋のエンターテイナーやー🤣😂🤣

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>> fsm さん

ちょっと、ってどれ位なんだろう
ちゃんと、の概念もそう
人によって全然違いますね…

>> なかっぴ さん

確かに……
笑われるんじゃなくて笑わせようとしてるから…
目指すところはエンターテイナーで間違いないはずです😀
史実を素にしたフィクションにしては、最後はドンチャン騒ぎでっか?!
( ̄∇ ̄)
ある程度盛ってるけど、フィクションでもない😁
1%にも満たない盛り方を「かなり話を盛っている」とは言わない・・・・・・・・✌
うちの娘も就職でかなり苦労して、結局希望していた職種にはつけず、やっと就職してからも何度か転職をした後、数年前に今の職場に入り、ようやく落ち着いたようです。
なので、話が他人事とは思えなかったです。