怖くないんだよ。

良い香りがしてくるんだ。
生きていた時に感じた一番好きな香り。忘れていた香り。
貴方がまっとうに生きてきたなら最初に出会うのはその香り。

瞼の暗幕には暗闇と言うものすらない世界。
先に逝った優しい人たちが見ている。肉親も他人もいる。
周りにも添い寝をしてくれている人たちがいっぱい居る。

かつて可愛がっていた動物たちがやさしく抱擁してくれている。

界を一段でも上がる時は暖かいんだ。

怖さなんて言う言葉さえ覚えていないんだ。

音は聞こえない。只々静かなんだ。

忌まわしかったような記憶も薄れて消えていくんだ。
過去が無いんだ。
その時の描写しかないんだ。
その時の幸福感しかないんだ。