新しい恋愛のカタチ、なの？

この日だけ、おうちに炊飯器があったらなと思う。
（土鍋か大同電鍋でしかご飯を炊かないので、炊飯器を捨ててしまった）
箍（たが）が緩みまくって、結束バンド巻いたり割り箸打ち込んでガタガタになった寿司桶と戯れている頃、誰かが玄関の呼び鈴を鳴らす。

「お疲れさん。いつもゴメンな～」
『待ってたよ～。準備できてるで』
玄関のドアを開けて蓮（弟。仮名）が入ってくる。

「桃姉が巻き寿司作ってくれてる間に、僕はこれ買うてきた」
彼が誇らしげに見せてくれたのは、近所で買い占めてきた節分の豆。毎年アタイはこれを当日だろうが後日だろうがお構いなしにぼりぼり食べる。大抵の人は『歳喰ったら数え年の分だけ食べるのん大変になる』とか言うがアタイは全然お構いなし。流石にデーモン閣下くらいの歳になったら無理だろうけど。（ちなみに彼は10万＋アラ還暦くらいのハズだ）
『で、蓮は巻き寿司ここで食べていく？』
「いや…あの…今日は家に持って帰るわ。あ、出来たらあともう一本欲しいねんけど、いけそう？」
『ええよ。一寸待ってや』
適当な容器に詰めて…
ん？？
彼はそんなにガツガツ食べないはず。子どもの頃は大食いだったけど。
はは～ん。さては蓮くん、もう一本はあの子に…
https://king.mineo.jp/reports/156586
お正月に突然おうちにやって来たカノジョの分かい？
野暮なこと聞いちゃダメ。あえて惚けたフリをして巻き寿司二本を小分けにしようとするアタイに、言わなくてもいいのに蓮が衝撃的なカミングアウト。
「あの…実は…」
言いたいことがあるならさっさと言え。
「お正月に連れてきたみどりちゃん…」
巻き寿司を渡すくらいなんだから、それなりの進展が…ていうか少なくとも振られたわけではないようだ。
「正式にお付き合いすることになったんやけど…」
嬉しい話題のハズなのに歯切れが悪い。どうかしたの？
「僕、とんでもない勘違いしてた」

は？( ･o･)

弟の話を聞いて、アタイは吹きそうになった。
解説しよう！（ヤッターマン風に）
①もともと、何となくお互いに好意を抱いていた
②で、何かのきっかけで晩ご飯をご一緒した
③話が弾んだ
④『これはチャンス！』と思った
　（ここからがすれ違いの始まり）
⑤弟『今度は呑みに行こう！映画観たり買い物に行ったりしよう！』
　カノジョ「うん！」
　・この時点で、弟は次回以降の約束を取り付けたと思っている
　・カノジョはこれを告白だと思った
　　（受け入れたので、交際がスタートしたと思っていた）
⑥カノジョは、彼氏（＝弟？）の為を思ってお昼の弁当をせっせと作っていた
⑦弟は、脈ありと思って弁当をありがたく戴いていた
⑧で、正月に弟が告った
⑨お互い勘違いしてたことに気付いたけど、結果オーライ♪

まあ経過なんてどうでもいいや。
勘違いから始まっていようが何であろうが。
巻き寿司は「僕は定時、カノジョは遅くなりそう」なもんで取りに来たそうな。

おうちの窓から去りゆく弟の姿（漫画で書いたらゼッタイに頭の上に音符書くやつ）をチラ見しながら、アタイは隣のおばちゃんと巻き寿司に齧りついていた。
「弟に負けへんように、アンタもいい人を…」

うるせえよ。

蓮くん、良かったね。

「おめでとうのうた」
道上洋三の十八番ですな。（関西ローカル）