君死にたまふことなかれ。

今日はほろ酔い加減で。
うそ。相当酔ってる。
アタイのおうちで、さっき客人二人が撃沈したところ。
ことの発端は大晦日。
『急だけど、友達と初詣に行くことになった。だから大晦日の晩は行けない。朝また連絡する』
弟からそんなメールが届いた。
『こっちは勝手にやっとくからどうぞご自由に』
どうせ夜中にほっつき歩くんだったら可愛い女の子の一人でも連れて歩け莫迦者。

翌朝、結構早い時間にアタイのスマフォが着信を告げる。
『ふあぁぁい、もひもひ？』
「あ、桃姉？今から行こう思うてんねんけど、友達一人連れて行ってもいい？」
「かまへんよ」
一人や二人増えたところで段取りはどうにでもなる。来るならさっさといらっしゃい。

ぽんぴ～ん。
頼りない音で玄関の呼び鈴が鳴り響く。
『は～い、いらっしゃ～い』
間の抜けた声でドアを開けたアタイの視界に、とんでもないものが飛び込んできた。

お、女の子～っ？
しかもめちゃんこ可愛いのだ！
なんだコイツ、デート商法か美人局にでも引っかかったんか？
『まあ立ち話もなんだから、上がって。準備もできたことやし』
炬燵の片隅にちょこんと腰掛けていた彼女が微笑む。
「あたし、河嶋くんと同じ病院で看護師をしています、みどりと申します。宜しくお願いします」
「僕、あなたの弟の蓮と申します」
『キミに挨拶してもらわんでも、どこの誰かは心得ておる』
みどりちゃんがプッと吹いた。
「こんなこというと怒られるかも知れませんが…実はこの間河嶋くんに『一緒に初詣行かない？』って誘ってもらって…あたし、丁度夜勤明けだったから早朝からでもいいならって返事して…道中ご家族の話を聞いていたらもの凄く楽しくて」
横で弟がモジモジしている。コイツ、絶対に話を相当盛ってやがる。
「で、楽しそうだねって話したら、じゃあ一緒に来る？みたいなノリでお邪魔しちゃいました」
『じゃあ早速始めようか！みどりちゃん、お酒は飲める？』
「ハイ！あたし、広島から一人で出てきてるんですけど、親父が『帰ってこれんのやったらコイツ飲んどけ！』って送ってくれた日本酒があるんですけど、良かったらどうぞ」
『おっ、広島の【雨後の月】じゃん！ありがとね』
お酒の用意を始める頃、何か言いたげに弟が台所に入ってくる。
『蓮、ちょっと』
「何？桃姉」
『恋人岬で言うてた子？』
「うん」

要は
・弟に好意を寄せてるっぽい子の存在を知った
・で、アタイが焚き付けた
・どうやら本気にしたらしく、初詣デヱトに誘った
・告白もお付き合いもしてないのに家族のおうちにいきなり呼ぶな、このお莫迦！
（受け入れ側の心の準備が…）

何はともあれ、君に幸せあれ！
ていうか短期決戦で日本酒二升はやり過ぎ。

君死にたまふことなかれ。