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【読み物】しゃない恋愛②

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第一話はこちら
https://king.mineo.jp/reports/159835

【始まりの日】
その日、私は朝から何かぞわぞわしていた。明確な根拠がある訳じゃないんだけど、嫌なことが起こりそうな感じ……
とはいえ、私とお客さまを乗せた電車は今日も定刻通り走り続ける。


――いつものように列車は走る。アタリマエのように、何事もなくお客さまを定時に目的地まで安全にお届けする。それを誇りに運転士は列車を走らせる。
だが、その日は異変が起きた。
通過駅の踏切に近づいた時、前方を注視していた運転士は異変に気付いた。誰かが踏切に侵入した……!
運転士は迷わず非常ブレーキを投入。誰か、奴を線路外に……!
多分、通りががった誰かか取り押さえてくれたんだろう。線路に飛び込もうとした彼女は、スーツ姿のサラリーマンと思しき人と駅員に保護されて道路上で泣き叫んでいた。
運転士は状況を指令に説明し、指示を待ってから運行を再開。運行再開時点で五分の遅発――


僕はいつもの時刻、いつもの車両に乗り込んだ。通勤時間帯の電車は大抵周りの面子も変わり映えしない。並ぶ順番が多少違う位かな…
電車に乗り込むと、僕は車両の奥、一番端の方を目指した。降りるのは終点だし、なるべくお客さまの邪魔にならないように電車に乗るのは僕たちの鉄則。
ところが、車両の一番端にはいつも同じ人が立っていた。眼鏡をかけて長い髪を後ろで束ねた女性。取り立てて何か特徴がある人じゃないけど、鞄につけたチャームが歌劇団の限定品だったので、僕はそれが強く印象に残っていた。


私の鞄の中でスマフォが小刻みに振動している。あれ?こんな時間に珍しいな…メールかしら…そう思って鞄のポケットを開けたその時……


昨日寝る前に思いついた案内図のアイデアって何だったっけ…?定期入れに手書きのメモを入れてたから、今のうちに思い出しておいて、続きを考えよう…
そう思って尻ポケットから定期入れを取り出したその時…


何の前触れもなく、私たちを(僕たちを)乗せた電車は急停車した!


「きゃっ」
反動でよろけた私の鞄から、スマフォと定期入れが宙に舞う…
「うわっ」
よろけた彼女に接触した僕は、後ろにつんのめる…
「す、すみません!」
尻もちをついた彼を抱え起こす。
「大丈夫ですか…?お怪我は…」


間一髪、床に落ちる直前でキャッチしたスマフォを彼女に返却しながら、足元に落ちていた定期入れをポケットにしまう。彼女も落とした定期入れを拾う。
「ぼんやりしていたもんで…突き飛ばしたりなんかしてごめんなさい!」
「怪我なんてしてないんで大丈夫です。気にしないで」
「それに、スマフォまでキャッチしていただいて…本当にすみません…」
「スマフォが壊れなくて良かったですよ、いやほんとに」


申し訳ない気持ちで一杯だった私は何だか気まずくなり、終点で車両から吐き出されるとそそくさと立ち去ってしまった。


僕は電車を降りると暫く彼女の姿を追っていたけど、彼女はあっという間にいなくなってしまった。何だか不思議な人だったなぁ…


席に着いた私は、改めて自分のスマフォを取り出した。どうでもいいメールの内容を確認すると、何か胸騒ぎがして鞄のポケットから定期入れを取り出す。
あれ?これ私の定期入れじゃない…定期入れ自体は全く同じもの。歌劇団のロゴ入りパスケース。
見ちゃいけないと思いながらも中身を確認しないと相手が誰かもわからない。恐る恐る中を覗いた私は、椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた。
中から出てきたのは我が社の社員証。えっと、六十谷大樹さん?慌てて社内ネットワークで検索をかけてみる。あ、広報にいらっしゃる方なんだ…私は迷わず内線電話の受話器を取った。
「朝早くからすみません。経理部の日根野谷と申します。六十谷さまはお席にいらっしゃいますか?」
「すみません。先ほど外出しまして…本日はそのまま戻らない予定となっています。何か伝えておきましょうか?」
「いえ、でしたら週明けに改めて…」
やってしまった…


今日は古都を走る路線の沿線マップのネタ探し。何気なく定期入れに手をやる。ああそうだ。今日は出張だから定期は使えないんだ…そう思ってポケットの定期入れから手を離そうとしたとき、僕は違和感を覚えた。あれ、何か薄っぺらい…
僕の定期入れには仕事のメモなんかをたくさん入れてあるから、容量一杯のハズ。でも、僕が手にしている定期入れは僕が持っているのと同じ歌劇団のパスケース。取材に向かう電車の中で、恐る恐る中を覗いた。
「何だこれ…?」
見慣れた我が社の社員証ながら、これは僕のものではない。日根野谷珈織さん?えっと、何て読むんだろう…そうだ、僕はあの時よく確かめもせずに手元にあった定期入れをポケットにねじ込んだ。あの時に…
やってしまった…

私の定期入れと、
僕の定期入れ。

単なる偶然か、
神様のちょっとした悪戯か……

二つの定期入れは、ものの見事に入れ替わっていた。


22 件のコメント
1 - 22 / 22
さあ、二人の接点ができました…😁
おっと、入れ替わったのは人格じゃなくて定期入れでしたねw

※地の文で視点切り替わるとき、何かのセパレータ行か、もしくはもう1行余分に開けると読みやすくなるかなぁ、とちょっと思いました。
これから社内恋愛に発展していくんですね。
若干「スマホ」ではなく「スマフォ」に違和感を覚えましたが、定期入れが入れ替わっていたとは........。
昔、階段を転げ落ちて性別が入れ替わってたという映画・小説がありましたが、そこから着想を得たのでしょうか。
続きが気になります。
早く続きが読みたい。

>> ob2@🐸日々是好日🐌 さん

ありがとうございます。
ちょっと修正してみますね。

>> なかっぴ さん

スマートフォンを『スマフォ』と省略するのは、昔に新海誠さんの小説で読んだのが印象に残っていたのでずっとそれを使っています

が、しかし!

彼の最新作を読むと、しれっと『スマホ』になっていたりします

『何やねん、キミは…』
おや、定期入れ、ですか🤔
ナルホド…φ(.. )メモメモ

さて、出張行く前に確認しなかったツケは…(・_・;)
偶然の接点たのしみー😊
最初の【始まりの日】は日根野谷さんですね。
>――いつものように ここは運転士さん視点
>僕はいつもの時刻、 六十谷君視点
>私の鞄の中で    日根野谷さん視点
>昨日寝る前に思いついた 六十谷君視点
>何の前触れもなく  ここからは共有視点?
>間一髪       六十谷君視点
>申し訳ない気持ちで 日根野谷さん視点
>僕は電車を降りる  六十谷君視点
>席に着いた私は   日根野谷さん視点
>今日は古都を走る  六十谷君視点
>私の定期入れと   お互いの思い視点
これでいいでしょうか?アホなものですみません。
ザッピング映画のような映像が浮かびます。
>>私の定期入れと   お互いの思い視点
すぐ後は3人称だけど、ここは難しいね。
映像化してたら画面割って同時に台詞喋る感じかなぁ

>> ギリアム・イェーガー・ヘリオス@関東、梅雨入り?! さん

余談ですが、歌劇団のグッズでロゴ入りパスケースが売られていたという記憶はありません
勝手に作ったつもりですが、実はあったりして(^^)

>> 杏鹿@………………………… さん

合ってます(^^;)
筆者も答え合わせしなきゃわからないくらい視点が入れ替わります

共通の視点があるから余計にわかりにくいんですよ

>> ob2@🐸日々是好日🐌 さん

画にしたなら、まさにその通りなんですが…
まだまだ書く技術を身につけないと、ですね(^^;)

>> HAYA さん

これですっ!
書いた当時『こんなもん売ってないでしょ』と思って確かめもせず適当に書いたんですが、

あるんだっ!
高っけえぇぇ!

でも欲しいです(^^;)
でも売り切れだし(T_T)

>> 杏鹿@………………………… さん

> ザッピング映画のような映像が浮かびます。

市川崑監督が好んで使う技法だと思います。
「しゃない恋愛」の題名は「社内」と「車内」を掛けているんですね。
そのうち山中渓さんとか信太山さんとかそんな感じの名前の人が出てくるのかな?

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

あのパスケースなら男女問わず使えますね。

映像を喚起させる文章だと思います。通過駅付近の落ち着いた街並みや終点駅の雑踏、古都ではちょっとアウェイ感なところのチョイスもいいですね。

次回も楽しみにしています♪

>> YAKUN0290 さん

読めなさ過ぎます(^^;)
そのうちわけわからなくなりますよ

>> なかっぴ さん

「社内」と「車内」

でも僕は作者が作者なので、どうしても「しゃあない、恋愛」って読んじゃうんだよね。

留年じゃない.JPG

>> じんで さん

制作秘話

タイトルの「しゃない」の表記は迷いました
カタカナにしたら違和感しかないし、
ローマ字にしたら田舎の風俗店みたいになるし

いちおう色々悩んだんだよ~(^_^)

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

>>いちおう色々悩んだんだよ~(^_^)

 おー可愛い可愛い(^^;

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

〖 しゃ(ぁ)ない 〗
良いと思いますよ

(オチ待っていたけど)
頭切りかえたら オモロそう
まだ展開していないから 〘そう 〙つけてしまった

次 待っていま~~~す✌️
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