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【読み物】しゃない恋愛①

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不肖ポンコツ河嶋、懲りずにまたもやちょっとした物語をお届けします。例の如く数年前に紡ぎ出した物語の改稿です。
ふんわりとした恋のお話です。

宜しければどうぞ。

【序幕・1】日根野谷珈織(ひねのやかほり)
「ふうっ」
満員電車から吐き出された私は、何時ものように空へ向かって大きく息を吐くと乗り換え番線のホームに急ぐ。
無難な成績で大学を卒業した私は、地元の鉄道会社に就職した。府内の本社まで優等列車に乗れば一時間もかからない通勤の利便性。そして何より私の志望動機となったのは、この会社が創り上げたエンターテインメントの世界!鉄道路線は地方ローカルなれど、映画や演劇の世界で我が社のグループを知らない人はいない。映画館は全国各地にあるし、ミュージカルは地方公演も含めたら相当な観客動員を誇る。でも、それだけじゃない!私が生まれ育った地元には、あの歌劇団の本拠地があるんだ!

子供の頃から母によく連れて行ってもらった大劇場。私の両親は、大劇場から程近いところで喫茶店を営んでいる。大通りから少し離れたところにあるその店は、生徒さんたちの隠れ家的なスポットでもあった。お稽古の後にふらりと立ち寄っていただいたり、卒業された先輩方から軽食の差し入れをお願いされたり…。そんな華やかな環境で育った私は、大きくなったら音楽学校に……
とは思わなかった。小学校から今まで、全く目立たない地味な存在。お風呂や洗面所で鏡を見ても、自分で思うくらい地味で平凡な顔。クラスの中で華やかな存在になれないのは勿論ながら、あまりに存在感が無さ過ぎたが故にいじめっ子に顔を覚えられることすらなかったくらい地味だった私は、早々とエンターテインメントの道を諦めて平凡な人生を送ることを決めていた。

乗り換え番線のホームにたどり着くと、私はいつもと同じ乗車位置で電車を待つ。その日の気分とかで乗る位置を変えたりする人もいるみたいだけれど、私にその要素は全くない。同じ時間の電車に乗り、同じ場所に立ち、終点まで電車に揺られる。『子供を保育所に送り届けてから出勤』みたいな事情もないし、何よりも創業者の『朝早く起きて毎日三十分前に会社に出れば必ず成功する』という教えを莫迦みたいに忠実に守っているが故、私は毎日同じ時間の電車に乗り続ける。

「おはようございます、部長」
「おはよう、日根野谷さん」
デスクに置かれた新聞を一通り読み終えたあと、ラックに新聞を架けようとしていた私に部長が声をかけた。
「すみません。先に読んじゃいました」
「いいんだ、そんなこと気にすることじゃない。そもそもこの新聞は会社の経費で購入しているものだから、日根野谷さんが先に読んだって何か問題があるって訳じゃない」
「恐縮です……」
「で、何か気になるようなニュースはあった?」
「本日の三面記事、ざっくりと申し上げますと……」
それが私の日常。私は誰よりも早く出勤するといち早く新聞に目を通し、朝刊に掲載されたニュースを部長に報告。
「ああ、ありがとう」
「恐縮です」
私は自席に戻ると、大好きな歌劇団の卓上カレンダーで今日の予定を確認した。今月はイチ推しの男役トップスターさんが私に向かって微笑みかける。ああ、私もいつかこんな素敵な人に……
ないない。そんなことあるわけないじゃん。さあ、仕事仕事。私は、頭を軽く振って邪念を追い払うと、仕事に取りかかった。

何かが始まる予感は、まだない。

【序幕・2】六十谷大樹(むそただいき)
「っしゃ!」
満員電車から吐き出された僕は、周りの人に気付かれないようにそっと気合いを入れると、乗り換え番線のホームに急いだ。
僕は子供の頃から電車の運転手になるのが夢で、地元の鉄道会社に就職した。近畿二府四県に鉄道会社はいくつかあったけど、僕が志望したのはただ一社。沿線に住んでいたからっていうのもあるんだけど、母親と姉が三人という女性に囲まれて育った(父は僕が生まれてすぐに病気で亡くなっていた)僕は、自宅の最寄り駅近くにある大劇場で毎日繰り広げられるエンターテインメントの世界にどっぷり浸かっていた母と姉たちの影響をもろに受け、男子としては珍しい「歌劇団の大ファン」になっていた。

僕が最初に配属されたのは何かの間違いか神様の悪戯か、大劇場の最寄り駅。
右も左もわからない僕に最初に仕事を教えてくれた駅長さんは『乗り換えや運賃の説明をするだけが駅員の仕事じゃない。駅の先に拡がる世界まで、この街の素晴らしさ、楽しさまで伝えることこそが駅員の本分なんだ』っていつも仰っていた。
僕はその教えを忠実に守った。
当時の僕はパソコンなんて使えやしなかったから、手書きで駅周辺の案内図(大劇場へのルートから近隣の立ち寄りスポットまで!)を母や姉たちにヤイヤイ言われながら作り上げ、駅のコピー機を勝手に拝借して印刷し『初めて歌劇団の公演を観に来たんだけれど、どっちへ行ったらいいかわからない』感じのお客さまに積極的にお声がけして配り始めた。

「ねえ、六十谷くん」
駅長に呼ばれた僕は、異常な緊張感とともに駅長室に立っていた。
「君が作ってお客さまに配っていた案内図の件なんだけど…」
僕が勝手に配っていた案内図、何か間違っていたとか押しつけがましいとかって苦情が来たのかな……僕は怒られるに違いないと思って身構える。
「実は広報部にお客さまのご意見が殺到しててね…『初めての歌劇団で、右往左往していたら大劇場までの案内だけじゃなくておすすめのランチスポットまで教えてくれた』とか『本日は千穐楽でございます。どうぞ皆さま存分にお楽しみくださいませ』とか言って場を盛り上げてくれたって……ほら、SNSでも」
そう言って駅長が見せてくれたタブレット端末を見て僕は凍り付いた。
『歌劇団最寄り駅の、歌劇な駅員』
『駅で降りたら、この駅員を探せ!』
『キャストスケジュールと共に、歌劇駅員のスケジュールを確認!』

「六十谷くんの評判は相当なものみたいだね。駅長の僕も知らない間に…」
そう言って駅長は、僕に微笑んだ。
「人の興味を惹きつける、って才能は六十谷くん自身も自覚していなかっただろうけど…どう?暫く駅の仕事を離れて、エンターテインメントの世界に身を置いてみない?僕も鉄道屋の仕事は長いけど、現場仕事の人間に本社の広報から声がかかるなんて初めて聞いたよ」

何かが始まる予感は、まだない。


28 件のコメント
1 - 28 / 28
アタイちゃん調が 私は すきです

なんか ちょっと かたい感じがしました

普段の アタイちゃんのことば では 無理なんですか

アタイちゃんことばには ぐんぐん惹かれるものが 有りました


あぁ〜 このままで 他の方々の ご意見 お聴きになって下さいね

私は 自スレで いやみ言われて 止めたスレや スレ削除したものが有ります。

私は アタイちゃんの 小説に いちゃもん つけたつもりは有りません

普段の アタイちゃんの文章を 暗記するくらい 読んでいるもので 自分の感じたままを 🌾しただけです
もし お気を悪くされた
🌾でしたら 私の🌾 削除OKです

アタイちゃんの小説 楽しみにしてました

みどりちゃんの 運命いかに 続編 待っています
(^-^)v

ありがとうございました

ヽ(^ω^\)( /^ω^)ノ🏁
アタイちゃん!!!

>> えびふらいのしっぽ・ふろしき・ひよこ@自粛有り🦆🦆🤭 さん

時に大真面目なときがあります(今回みたいに)
ですが思い切りぶっ飛んでいるときもあります

さて、どちらがホンモノでしょう?
みたいな謎かけではないですが、どちらもアタイですよ(^^)
藤子不二雄先生みたいに二人いたりしませんから(^^;)
歌劇団の本拠地→確か、某競馬場🏇も遠くないですw
創業者の『朝早く起きて毎日三十分前に会社に出れば必ず成功する』という教え→初めて知りました😅

六十谷→むそや、じゃないんだ🤔
母親と姉が三人という女性に囲まれて育った→久米宏 さん?🤔
千穐楽→えっ?千秋楽じゃない…同音異字だと?! Σ(⊙∀⊙)

今日は勉強になりました…φ(.. )メモメモ
( ̄∇ ̄)

>> ギリアム・イェーガー・ヘリオス@関東、梅雨入り?! さん

どこの路線かバレてますがね(^^;)
「創業者の教え」
確か岩谷時子さん(越路吹雪さんのマネージャーを長年勤めつつ作詞作曲、訳詞(ミュージカルのレ・ミゼラブルなど)をされたマルチな方)の自伝だか評伝で読んだ記憶があったのを盛ったような気がします
(押し入れ一杯に本を詰めているので探しに行けません。ゴメンチャイ)
「むそた」
もともと同じ読みで『墓所谷』と表記されていて『縁起が悪いから』と同音異字を当てたという説があります
(地元報道機関の取材でも特定できなかったようです)
「千穐楽」
「秋」を異体字の「穐」に変えることで、芝居小屋などにとって縁起の悪いもの「火」から縁起が良い「亀」を含む「穐」に変えたという説があります

本編にアタイの趣味の世界がぎゅっと詰められているので、一気に書いちゃいました。スミマセン。

>> えびふらいのしっぽ・ふろしき・ひよこ@自粛有り🦆🦆🤭 さん

ホントですか、ありがとうございます!
ちょくちょく覗いてやってくださいな♪
タイトルが『しゃ~ない恋愛』に見えました。😅😅😅
(ああ、勘違い)
ワクワク、ドキドキする序章。
ポンちゃんの小説は何となく展開が読めそうだけど、どんでん返しとかなく、安心して読めるね。
楽しみにしています( ̄ー ̄)ニヤリ

>> 弾正忠 さん

政略結婚とか勢い100%のデキ婚とか(^^)
いちおう純愛路線、ですよん♪

>> なかっぴ さん

穏やかな川をゆるゆると流れる木の葉のように
言の葉を紡ぐのです

なんてね(^^;)
プロローグですね。
日根野谷さんはヒネた性格かと思ったら、電子アシストみたいに記事の要約をしてくれるいい子でした。

異世界召喚、トラック転生、逆ハー、悪役令嬢ですか?
もしかして男女の入れ替わり?

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>> 杏鹿@………………………… さん

『転校生』みたいなしっかりした構成ではないし、
悪役令嬢とかのライトノベルでもない…
アタイは今までのものも含めて『ヒューマンドラマ』と総称しています
近年、一番流行らないネタ(^^;)

それこそ文学少女が文化祭で発表するようなネタですよ♪

>> 弾正忠 さん

私も 今まで そう思っていました


オチ無いな と 😅🤔🤨🤗

>> えびふらいのしっぽ・ふろしき・ひよこ@自粛有り🦆🦆🤭 さん

オチつけるのがもう一人(人格)のアタイです
そっちもネタをまとめ中ですよん(^^)

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

٩(๑´꒳ `๑و)イエーイ💕💕

アタイちゃんに ど嵌り!!
一丁上がり!!!


楽しみにしてま〜〜〜す
✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

どんな味付けなのかしらね。
スゥィートで甘々?ほろ苦いビターな感じ?
焼きするめのようなアジのあるお話だよね。

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ほんのりとした香りのするお茶
(自画自賛全開です)
恋愛ものですよね。
心理描写もそれぞれの視点で×2、結構な大作になるかも。
書き進んでいくと、キャラが勝手に動くと言いますよね。
となるとタイトルの数字、丸付き数字で間に合うかな?
と、いらん心配をしてしまった😅

※普段読んでる「なろう」の小説も1000話超えがいくつもあります

>> ob2@🐸日々是好日🐌 さん

結構短い…いや、短編です
「なろう」は異様に長いものがありますね
 今回はフィクションぽいね。今までのはノンフィクションにちょっと脚色した感じだったからね。地味で目立たない所なんて桃ちゃんの真逆だね。

 序章が二つのサーキットで始まるという演出がこってるね。これ記憶力のないおバカちゃんが読むとついて行けないパタンかな(^^;
 新人二人は歌劇で運命が交錯するのかな。気になる展開スマッシュヒット。
言われてみたら、完全に一から書き起こしたもの(経験とかの下敷きナシ)を載せるのは初めてですね♪
あらやだ。日記を面白おかしくしたものが殆どだ(^_^)

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

これまで どんちゃん騒ぎして 歌って踊っていたのに
突然
ジャジャジャジャーン
クラッシク 聞かされた感じでした😅

ももちゃん 文学少女!!
文才レディ
参りました

こちらでは ももちゃん🍑って 呼ぼう
(スキニ シナハレ!🤨)
ありがとうございます

呼び方は基本的に何でもいいですよ♪
こんにちは。
電車は、マルーン色のあの電車ですね。夢の世界ですね。
オススメ立ち寄りスポットは、サンドウィッチのル・マンが好きです。
こんにちは♪
マルーンの電車……ギクッ!
ルマンのサンドウィッチ、最初見たときに『高っけえぇぇ!』と思いましたが、食べてみるとそれだけの価値は十二分にありますね

食べたくなってきました(^_^)

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

ルマンのサンドウィッチは、とあるOGの方に差し入れでいただいて知りました。美味しいですよね。
あのお店は日本三大まつりの一つ、「ヤマザキ春のパンまつり」の季節になると、店頭にご自由にどうぞとシールが大量に置いてありますよ。

>> HAYA さん

通い詰めたらお皿貰い放題ですか…
それとも今は皿じゃない?
シール貯めたことないんでよく知りませんが(^^;)
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