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スマホやPC、CDやゲームも寿命?「消えゆくデータの現実と保存術」を復旧業者に聞く

スマホやPC、CDやゲームも寿命?「消えゆくデータの現実と保存術」を復旧業者に聞く

辰井裕紀
ライター: 辰井裕紀
ローカルネタ・ガジェット・卓球が好きなライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。

音楽界では長らく、「音楽CDの寿命は30年」という話がささやかれていました。

1982年10月に初のCDが出て42年経ちますが、実際のところどうなのでしょうか?

他にも、ずっと押し入れにあるフロッピーディスクや、長らく放置しているPCのハードディスク。それらのデータは今、どうなっているのでしょうか?

その話を伺うため、秋葉原駅から徒歩1分にある国家資格者によるデータ復旧サービス「データSOS」へ。

創業27年の運営会社・オーインクメディアサービス代表取締役の宮澤謹徳(みやざわ・のりさと)さんに、いま危機に瀕するデータについて聞きました。

何でも、我々が扱うスマホすら危ういとか……?

大容量化するスマホのデータが危ない?

辰井
実は僕らのスマホのデータがピンチというのは、本当ですか?
宮澤
はい。例えば、ずっと同じスマホを使っている人のデータは消える恐れがあります。スマホの内蔵ストレージも「フラッシュメモリ」【※1】ですから、寿命があるんですよ。
※1 半導体素子を利用した記憶装置の一つ。電源を切っても記憶内容が維持されるもの。
辰井
いまだにiPhone 7とかをずっと使っている人もいますよね……!?
宮澤
要注意ですね。あと、大容量ストレージのスマホも危険なんです。
辰井
今、まさにスマホが大容量化していますよね。512GBとか1TBとか……。
宮澤
そもそも、スマホのストレージやSDカードの容量が大きくなってきているのは、技術的にちょっと無理をしているんです。

辰井
え?
宮澤
スマホのストレージが、低容量で長寿命の「MLC」から、大容量で低寿命の「TLC」「QLC」を使うケースが増えているんです。

容量は少ないが長寿命の「SLC」「MLC」に対し、最近のスマホに使われる大容量の「TLC」「QLC」は信頼性が低いとされる

辰井
たくさんのデータを保存できる代わりに、データの安全性は低いんですね。
宮澤
あと、スマホのデータを消すのが危ないんです。大きな書き換えが発生しますから。
辰井
え?
宮澤
実はフラッシュメモリって、データを上書きして書き換えることができないんです。
宮澤
データを保存する器の最小単位が「セクタ」、セクタを何個かまとめたものが「ページ」、ページを複数まとめたものを「ブロック」と呼ぶのですが……
宮澤
書き込みは「ページ」単位でしかできず、消去は「ブロック」単位でしかできない。例えば、ノートに書かれているたった1文字を直すのに、1文字どころか1ページだけを消すこともできず、数十ページを消して、もう一度書き込むイメージです。
辰井
僕らがデータを消すだけで、スマホはそんな重労働を……?
宮澤
はい。細かく消すことができないんです。だからデータはあまり消去しない方がいいですね。スマホの買い替え前後に、データを整理しようと「いらないものフォルダ」みたいなのを作って移すのは、大量の書き換えが発生するので一番よくない。PCなどに全部コピーしてから整理するのが安全です。

辰井
iPhoneのデータが消えてしまったら、復活はできるんですか?
宮澤
iPhoneのデータは修復不可です。Apple側でデータが暗号化されてしまうので。Androidも現在はほぼ復旧不能です。
辰井
事前の対策が肝心なんですね……
宮澤
microSDカードもフラッシュメモリなので基本は同じですが、うまく読み取れないのを専用の装置で解消すれば、復旧できるケースもあります。

それぞれの針で直接メモリからデータを引っ張り上げる装置。暗号を特定しながらデータを抽出する金庫破りのような作業が必要で、長いときは半年以上を費やすことも

PCのハードディスクが続々と寿命に?

辰井
他にも、寿命が近づいているデータメディアはありますか?
宮澤
ハードディスクです。もうずっと放置されていて、基板が死んで動かなくなっているものも多く、10~15年で寿命を迎えることも普通にあります。
辰井
置きっぱなしにするだけで、基板が死んじゃうんですか?
宮澤
湿度が高いところだと部品の劣化が進み、電源が入らなくなります。
辰井
部品の劣化って、具体的にはどんな感じですか?
宮澤
例えば、ハードディスクのスポンジがボロボロになって電気を通して、裏側の基板がショートしてしまうとか。長らく放置すると、おかしくなることが多いです。

実はハードディスクにはスポンジがあり、重要な役目を果たしている

辰井
僕の家にも、ずっと動かしていないPCや外付けハードディスクがあります。危ないですね……
宮澤
当時の写真をポータブルのハードディスクにまとめて入れている人なども、被害に遭っています。
辰井
ちなみに、今ノートPCで主流の「SSD」【※2】はいかがですか?
※2 HDDよりも高速なデータアクセスが可能な記憶装置。
宮澤
SSDも原理はフラッシュメモリなのでデータは壊れます。物理的には壊れにくいですが。

音楽CDやゲームソフトが次々と寿命に?

辰井
そういえば、「音楽CDが一斉に寿命を迎える説」がありましたが、いかがでしょうか? 古いものだと40年経っていますが……
宮澤
聴けなくなったCDも多いです。状態の悪い音楽CDはこの透明な表面が変色したり、ベトベトになったりします。そうすると、信号をまともに拾ってくれません。

中心部の周りの記録層が剥離してしまったCD-R

辰井
それでも、業者さんにお願いすれば復旧できますか?
宮澤
第三者が権利を持ったソフトを修復するのは、著作権的に「複製」とみなされる可能性もあります。少しグレーゾーンなので、ウチでは受けられません。
辰井
これから、聴けなくなる音楽CDがどんどん出そうですね……あとゲームソフトもどうでしょう?

筆者の家にあったファミコンソフト、1987年発売の「ファミリージョッキー(ナムコ)」のデータも危ない?

宮澤
データが消えるゲームソフトはどんどん出ると思います。でも、それも権利的に第三者が修復するのは微妙なんです。
辰井
とくにコレクターは大変ですね……!
宮澤
ちなみにゲームソフトメーカーさんからも依頼が来るんですよ。メーカーさんは権利者なので、修復しても権利的な問題はありません。
辰井
ゲームメーカーが?
宮澤
「ゲームソフトのマスターフロッピーディスクを久しぶりに出したらカビていたので……」と、ゲーム会社さんが歴史もののフロッピーを持ってきます。
辰井
名作ゲームのマスターデータも消滅の危機に……!

宮澤
有名なゲームソフトの会社さんもいらっしゃいますが、やっぱりデータメディアにすごいカビが発生しています。

往年のフロッピーはもう「死に体」?

辰井
昔はみんな「フロッピーディスク」を使っていましたよね? 今どんな状態でしょうか……?
宮澤
やはり、カビて読めないフロッピーが多いです。カバーを開けた途端、独特の匂いがするんですよね。カビたままフロッピーを読むと、破損してしまうんですよ。
辰井
データSOSさんで直してもらうと、おいくらですか?
宮澤
4万円くらいかかります。分解してカビを取ったり、本来の位置に磁気ディスクを戻したりするのは、実はかなりの重労働でして。中の円盤の位置が少しズレただけでデータが消えたように見えますから。

辰井
大変だ……
宮澤
円盤の位置ズレが起こるのはだいたいこのソニーのカラーフロッピーです。本来の位置に直すのに3日かかることもありますよ。

消えゆくデータメディアたち

辰井
もう個人ではデータの復旧が難しいデータメディアもありますか?
宮澤
はい、例えば「ZIP」です。1995年前後は100MBを扱える画期的なメディアで、Macユーザーがよく使っていました。

辰井
ポップでかわいいですね。
宮澤
これを分解して、カビを取って読ませる修復作業も行うんですけど、ドライブも劣化して、読み取りが難しくて。クリーニングディスクもなく、ヘッドも摩耗していて。「ZIP」はメディアとしてほぼ使えない状態です。
辰井
時代を作ったメディアが、終わりゆくときなんですね……!
宮澤
「MD DATA」はもっと危機的です。もうドライブがほとんどないですし、SCSIという昔の規格も今じゃ扱いにくいので。当時のWindows 98のPCや、ドライバーやソフトも用意しなければいけませんから。

MDデータは1994年にソニーが商品化した、音楽用MDを元にした記録メディア。140MBほどの容量で、データSOSにもドライブが存在しない(2024年6月現在/Photo by Julien1978

辰井
大変だ……
宮澤
あと「2インチフロッピーディスク」はワープロでよく使われていて、このデータを何とかしたいお客さんも多く来ます。日記や行動の記録まで全部書いている人もいますから。

辰井
このディスクに、人生が入っているんですね。
宮澤
終活をしている方が取り出したいとか。ご家族がフロッピーを残されたまま亡くなってしまって、取り扱いに困って持ってこられる方もいます。
辰井
遺言が入っているかもしれないし。
宮澤
あとは「父が撮影した私の生まれた頃の写真をMOから取り出してほしい」とか。

MOは1988年に登場した光磁気ディスクで、90年代までよく使われた。フロッピーディスクと同じ3.5インチサイズが主流で、2.3GBの大容量も扱えた(Photo by Danamania

それでもデータを大事にしたいなら

辰井
いろいろなデータメディアが消える中で、比較的長持ちしそうなものはありますか?
宮澤
「DVD-R」は比較的寿命が長いはずです。DVDは盤面のコアな層が守られているので、CD-Rなどよりはがれにくいのと、まだドライブが現行品ですから。
辰井
DVD-Rは片面で最大4.7GBで、若干容量が少ないのが気になりますね。
宮澤
25GB入る「ブルーレイディスク」もそれなりに寿命は長いと思います。
辰井
宮澤さんはどうデータを保存しているんですか?
宮澤
私が個人的に使っているのは、ネットワーク上に保存用ディスクを置き、バックアップもできる「NAS」です。さらに年末には、1年分のデータを丸ごとDVD-Rにコピーします。

辰井
NASはハードディスク複数台でバックアップを取れますが、それだけだと不十分ですか?
宮澤
間違って消したデータはそのまま消えてしまいますから。ウイルスで全部データを書き換えられたときも、直せませんから、他のメディアに保存する必要があるんです。
辰井
もしDVD-Rやブルーレイなどに寿命が来たら、また作り直しですか?
宮澤
はい。でもそれをルールにしてルーチン化すれば問題ないです。

こんな記憶メディアは買うな!

辰井
あと、64GBしかないのに、256GBと容量を偽装し、64GBを超えると、前のデータを消すという「極悪仕様」のUSBメモリがあると聞きました……! どうすれば避けられますか?

データSOSさんのX(旧Twitter)アカウントのバズポスト。同様の報告も相次いだ

宮澤
メーカー名やブランド名を検索して、販売サイト以外に公式ホームページが出てこない、製品情報が出てこない商品は避けた方がいいです。
辰井
データが消えたら、復旧する方法はあるんですか?
宮澤
新たに書き込まれたデータで上書きされているので、復旧する余地がありません。
辰井
危険だ……

「1000年持つディスク」は、意味がない?

辰井
最後に、最高でデータが1000年持つと言われる「長期保存光ディスク」がありますけれど、実際どれほど持ちますか?

M-DISCは「1000年持つ」と開発元が主張する。DVDやブルーレイなどのVer.があり、それぞれのドライブで再生できる(Photo by Asacyan

宮澤
高温多湿にならない保管状況ならディスク自体は持つと思います。ただし、ドライブが先になくなりますね。
辰井
ああ……
宮澤
こういう長持ちをうたうメディアって数年に一度出てくるんですけど、ここ10年で出てきた「M-DISC」も生産終了の噂が出ていますし、ディスクが長持ちしても、ディスクからデータを読み出すドライブがなくなってしまうんです。
辰井
ゲームソフトはあるけどゲーム機がないみたいな状態ですね。さすがに1000年間、メーカーがドライブを売り続けてくれる可能性は低そうですし。
宮澤
はい。ずっと保存しておいても湿気でダメになることもあるし、コンデンサなどのドライブのパーツを1000年持たせるのは至難です。
辰井
じゃあ1000年持つデータメディアは、ほぼない?
宮澤
はい、ずっと1個で持たせるっていうのは無理です。どんどん新しいものにデータを入れ替えていくしかない。
辰井
1000年そのまま保存できるメディアは事実上ないけれども、そういうふうに延命できるわけですね。
宮澤
でも、1000年経って解析技術が進歩すれば、ドライブがなくなったデータディスクでも、読み取れるかもしれません。
辰井
ChatGPT400ぐらいのAIが、やってくれるかもしれませんね!?


編集:ノオト


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101 件のコメント
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ありがとうございます😊
よく読んで確認いたしますね☺️
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