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スマホやテレビの画面に使われる「有機EL」って何がスゴいの? 液晶との違いを徹底解説!【マイネ王調査団】

スマホやテレビの画面に使われる「有機EL」って何がスゴいの? 液晶との違いを徹底解説!【マイネ王調査団】

淺野義弘
ライター: 淺野義弘
1992年生まれのライター。パソコンと物作りが好きです。

こんにちは、ライターの淺野義弘(あさのよしひろ)です。ものづくりが大好きなライターとして、とくにデジタル技術や製造業に関わる方々を取材しています。

今日はマイネ王調査団に寄せられた依頼を解決すべく、とある場所にやってきました。その依頼の内容がこちら。

最近よく耳にする「有機EL」という言葉。スマートフォンのみならず、家庭用のテレビやゲーム機など、いろいろなデバイスで使われている気がします。でも、それが一体何かと聞かれたら、僕も自信を持って答えることができません。

「有機ELの“EL”って何の略?」「そもそもディスプレイにはどんな種類があるの?」などなど、次々湧き出る疑問を解決すべく、とある専門家にコンタクトを取りました。

「いいですよ! ぜひ来てください」と快諾いただいたものの、取材場所として指定されたのはその方のご自宅。会社や工場ではないことに疑問を抱きつつ、おそるおそるご自宅に伺ってみると……。

す、スゴい!

家庭用とは思えないサイズのオーディオに、ブラウン管テレビを始めとしたさまざまなディスプレイ……。

大型のプロジェクターがあれば、VHSやDVD、ブルーレイディスクなどの映像メディアも所狭しと並んでいます。

見ているだけでワクワクする部屋で迎えてくれたのが「有機ELエヴァンジェリスト(伝導者)」を自称するデジタルメディア評論家・麻倉怜士さんです。

麻倉怜士(あさくら れいじ)
デジタルメディア評論家。津田塾大学音楽理論講師、日本画質学会副会長。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社し、『プレジデント』副編集長や『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアル、デジタル・メディア評論家として独立し、さまざまな場でデジタルメディア論を展開している。

数々のデジタルメディアを評論してきた麻倉さんに、有機ELとは何なのか、そもそもディスプレイはどんな仕組みで映し出されているのか、詳しく解説していただきます!

コントラストがはっきり! 映像鑑賞に適した有機ELディスプレイ

あさの
これだけのデジタルメディアに囲まれたのは初めてで、とても興奮しています! 麻倉さんはエヴァンジェリストを名乗るほど有機ELに惹かれていると思うのですが、その魅力や仕組みについて教えていただけますか?
麻倉さん
もちろんです。まずは、実物を見てみましょうか。
麻倉さん
これは2007年にソニーが発表した世界初の有機ELテレビなのですが、17年前のものとは思えないほど映像が綺麗なんですよ。私は今でも、これが日本のものづくりの最高傑作だと思っています。
ソニーが2007年に発表した有機ELテレビ「XEL-1」

あさの
小さいサイズなのに、とても綺麗に映りますね! デザインも洒落ているし、今の家電量販店に置かれていても違和感がなさそうです。
麻倉さん
映像の美しさを決める要因には、明暗のコントラスト・細かい部分まで表現する解像度・色の再現性という3要素がありますが、有機ELはとくにコントラストに優れています。

このテレビの画素数(画像を構成する小さな点の合計数)は960×540ピクセルだから、横幅が1280ピクセル以上のハイビジョンテレビと比べても全然少ない。だけど、明るいところと暗いところのコントラストがはっきりしているから、画面全体が締まって見えるんです。

暗い場所や正面以外の向きからでもぼやけず、見え方がほぼ変わらないのも有機ELならではのポイントです。色の再現性も高いから、映像本来の美しさや質感がダイレクトに伝わるんですよ。

あさの
明るいところは明るく、暗いところもしっかり暗く表現される。暗いシーンの多いドラマや映画もしっかり楽しめそうですね。
麻倉さん
最近では、タブレットやスマートフォンで映像配信サービスを視聴する人も増えていますよね。有機ELがそうしたデバイスに使われている背景には「どんな場所でも綺麗な映像を観たい」というニーズがあるのではないでしょうか。
あさの
なるほど! 僕もスマホで映像を観ない日はないので、その気持ちはとても理解できます。

液晶と有機ELの大きな違いはバックライトの有無

あさの
どうして有機ELは高いコントラストを表現できるんでしょう? そもそも僕、静止画や動画がディスプレイに映る仕組みもよくわかっていないのですが……。
麻倉さん
では、まずは有機ELの特徴をわかりやすく伝えるために、「液晶」ディスプレイの仕組みを説明しますね。
あさの
ありがとうございます!(えっ、液晶と有機ELって別物なんだ……)
麻倉さん
液晶ディスプレイはカラーフィルター、液晶層、バックライトの3層が重なっていて、液晶層には電圧をかけると回転する分子が入っています。この分子の並び方を調整することで、バックライトの光を通す量を変え、明暗を表現するのが液晶ディスプレイの仕組みです。

ただし、液晶層の分子でいくら遮ったとしても、バックライトが常に光っているので、画面の一部を完全に暗くすることができないんです。明るいところで見る分にはあまり問題ありませんが、どうしてもコントラストが甘く、黒がぼんやり浮いてしまうという課題を抱えていました。
あさの
どれだけ液晶の分子を制御しても、バックライトの光を完全に遮断することができなかったんですね。
麻倉さん
そうなんですよ。カラーフィルター、液晶層、バックライトといった部品ごとに多くのメーカーが参入したこともあり、液晶ディスプレイの品揃えは広がりましたが、個人的には画質に納得できなくて。一人で「液晶撲滅宣言」なんて掲げていましたね(笑)
あさの
画質にこだわるがゆえの、過激な主張だ……!
麻倉さん
一方の有機ELは、電気を流すと自ら発光する素材を採用したことで、バックライトが不要になりました。そのおかげで、素材に電気を流さない間は、完全に暗い状態を表現できるようになったんです。
あさの
バックライトの代わりに自力で光る素材を使うことで、液晶が抱えていた弱点を解決したんですね!
麻倉さん
まさにその通りです。ちなみに、有機ELの「有機」は、この発光する素材が炭素を含む有機物であることに由来しています。「EL」はElectro Luminescenceの略で、直訳すれば「電気による発光現象」のことですね。
麻倉さん
自発光する有機素材を使うからこそ、明暗を制御することで画面のコントラストがはっきりする。バックライトが不要な分軽量化できるし、厚みも薄くなるから、スマートフォンやタブレットといった携帯端末とも相性がいいんです。
あさの
なるほど……!

なぜ今まで有機ELは普及しなかったの? ディスプレイの歴史

あさの
有機ELにはたくさんのメリットがあるのに、どうしてこれまで普及しなかったのでしょうか? 何か大きな課題があったとか……?
麻倉さん
液晶の仕組みが先に発見されたこともありますが、有機ELに限らず新しい技術というのは、誕生してから世の中に浸透するまでに時間がかかるものです。

有機ELの場合は、アメリカのイーストマン・コダック社が学会で原理を発表して以来、1990年代には日本のメーカーも実用化に向けた開発を始めていました。そこから10年以上の歳月をかけ、安定して使える有機素材を探したり、作り方を変えて生産効率を上げたりした結果、ようやくコストが落ちて私たちの手に届くようになってきたんです。

また、有機ELには同じ光らせ方を続けると素材が劣化してしまう「焼きつき」という課題もありました。ただ、今では焼きつきのリスクを察知すると、近くの素材と連動して負荷を調整するような機能を搭載するという対策もされています。
あさの
メーカーの企業努力によって、有機ELが安定して使えるように進化してきたんですね! 僕も次にテレビやスマホを買い換えるときには、有機ELが使われているものを選んでみようかな。ちなみに、液晶に比べて寿命が短かったりすることはないのでしょうか?
麻倉さん
液晶も有機ELも、寿命は大体6万時間と言われていますね。これは1日3時間画面をつけるとしても、およそ50年ほどかかる計算になります。画面以前にほかの部分にガ夕がきてしまうでしょうから、どちらを選んだとしても、テレビやスマホの寿命にさほど大きく影響しないのではと思います。
あさの
そういえば、あそこにあるのは、ブラウン管テレビ……ですよね?
麻倉さん
その通りです。ブラウン管テレビは、液晶テレビが登場するまで、戦後から平成初期にかけて普及していましたね。

ブラウン管テレビの仕組みは、電子銃から飛ばした電子ビームを画面の蛍光体に当てて光らせるというもの。電子が当たらなければ蛍光体は光らないので、有機ELと同じようにコントラストに優れていたのですが、電子銃を格納するためのスペースが必要なので、どうしても小型化が難しかったんです。
麻倉さんがデジタルメディアの勃興を追いかけた著書の数々。

麻倉さん
液晶や有機ELは電子銃を必要としないので、ブラウン管テレビに比べてかなり薄くすることができました。薄型テレビは人類の悲願だったから、ここまで普及したんでしょうね。

ちなみに、液晶テレビと同時期にプラズマテレビも登場していましたが、小型化やメーカーの参入が難しいという理由で、そこまで大きく広がりませんでした。
あさの
まさにディスプレイの歴史ですね……! 有機ELにたどり着くまでの過程を思うと、いっそう大切に使いたくなってきました。
VHSとの競争に破れたベータマックス。実物を初めて見た淺野は大興奮!

巻き取りテレビに透明ディスプレイ! 広がる有機ELの未来

あさの
今回の調査の依頼者から「有機ELの活用事例を知りたい」という声が届いています。有機ELの面白い活用事例があれば教えていただけますか?
麻倉さん
そうですね。有機ELはバックライトがいらず形状の制約が少ないので、柔らかいガラスと組み合わせて、曲がるスマートフォンのような湾曲ディスプレイにも利用されていることでしょうか。
麻倉さん私物の折りたたみスマホ。

あさの
折りたたみスマホも有機ELならではの製品だったんですね!
麻倉さん
最近では薄型テレビを超えた「巻き取り式テレビ」も製品化されています。今はまだ1,000万円ほどする高額なものですが、これから普及し、手に取りやすくなる可能性は大いにあると思います。ほかにも、とても小さな有機素材を使うことで反対側が透けて見える「透明ディスプレイ」も登場していますよ。
銀紙を使って巻き取り式ディスプレイの説明をしてくれる麻倉さん。

あさの
薄型や折り畳みの次には、巻き取り式ディスプレイが一般化するかもしれない……?! まるでSFのような世界が実現し始めているんですね! ディスプレイは未来をダイレクトに感じられるメディアだと思いました。
麻倉さん
身近なところでは、すでにスマートフォンやタブレットに使われているほか、「Nintendo Switch」にも新たに有機ELモデルが登場するなど、小型ディスプレイに採用されることが増えていますね。

今後は、自動運転の普及によって、車の中で映像を見るなど、大きなディスプレイを使う場面も増えていくでしょう。形の制約が少ない有機ELは、そうした車内や居住空間の中でも使われていくんじゃないかと思います。
あさの
今後ますます有機ELが僕たちの生活のいろいろな場面で活躍してくれそうですね……! 麻倉さん、今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

まとめ

麻倉さんにお話を伺って、これまでのディスプレイの進化は、私たちのライフスタイルとも密接に関わっていることがわかりました。気軽にスマホを持ち歩き、綺麗な映像やコンテンツをどこでも楽しめる生活は、有機ELという発明やメーカーの努力によって支えられていたのかもしれません。

また、有機ELは未来の生活も楽しく彩ってくれることでしょう。今年1月に開催されたばかりの世界的な家電見本市「CES 2024」でも、有機ELを用いた新型ディスプレイや、透明性を生かしたスピーカーなどが続々と発表されていました。

今後も進化するメディアに期待しながら、楽しいスマホライフを送っていきましょう!

依頼者の( ˘・з・)チェッ@君さん、いかがでしたか?

チェさん
映像は解像度が高いほどキレイに見えるのだと思ってましたが、3つも要素があるとは勉強になりました。電気を流すと自ら発光するという点で、LEDと同じかと思いましたが、素材が有機化合物である点でLEDとは異なるのですね。

湾曲ディスプレイなども作れるとのことで、真っ先に「自動車のフロントガラスをディスプレイ兼用にできるやん!」と思いました。コミックに出てくるような近未来の製品も実現できるのでしょうね。今回の調査で、有機ELの理解が深まると同時に、時代の流れを感じて面白かったです。
あさの
映像を構成する要素やテクノロジーの多様さ、そして歴史の深さに僕も驚かされました。また、それらを味わう人間の感覚や、より良い未来を作り出すための想像力も大事なのだなぁと感じました。有機ELがさらに活躍する未来を、一緒に想像できたなら嬉しいです!

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企画・編集:人間編集部
撮影:鬼丸紗稀穂


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265 件のコメント
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勉強になりました!
有機ELもスマホでは身近になったので次はテレビが安くなるのを待ってます
勉強になりました。
うちの現役TVは地デジ化2011年に買い替えた、東芝REGZAのLEDです。
多分、そこそこ電気代も本体も安くて
USB-HDDを直結出来るのがいいのですが
初期物だからか?冬場は寒さで1分くらい画面が真っ暗になります。
買い替えたい気持ちはありますが、
今迄に撮り貯めた番組が見られなくなるのを考えると、故障するまで買い替えにくいですね。
べんきょうになりました
勉強になりました!ありがとうございます!
とても興味深い話で良い記事でした
凄い技術ですよね~
凄い❗❗❗っ事しか分からない😰
もっと勉強せねば🤔🤔🤔🤔🤔
麻倉さんの部屋に一週間くらい合宿したいです😙😙😙
技術、仕組.......
よくわからないけど
日本の技術者達の知恵と努力
すばらしい♥

日本人、頑張れー!!
一昔前の液晶パネルってバックパネルがLEDではなくてCCFL(蛍光灯みたいなもの)使ってて、寒いと明るくならなかったり、ちょっと古くなると劣化して最悪でしたよね😰

うちのリビング用テレビはブラウン管(FDトリニトロン)→リアプロジェクタ→プラズマ→有機ELと液晶パネルは避けています🤔

スマホは今使っているiPhone15Proはもちろんの事、iPhoneX以降は有機ELですが、iPad mini6は未だに液晶なんですよね😰

次モデルiPad mini7は有機ELであって欲しいな😒
勉強になりました!
後ろの本の山が気になった
わかりやすかったです
凄いじゃん!
人生ずっとお勉強!
ものすごく分かりやすかったです!ありがとうございます!
勉強になりました。
ガラケーでも結構有機ELの製品があったように記憶しています。今調べたら、有機EL搭載のガラケーは2001年からあるようですね。
「EL」はエレクトロルミネッセンスの略……って、何故か一度覚えた後ずっと覚えていました。覚えたのは20年弱前くらい? しかし液晶との違いを知ったのはここ数年です。
私は節約好きで、廉価デバイスを工夫・我慢しながら使うタイプなので、まだまだ有機ELよりも液晶にお世話になりそうです。
有機ELって、そんなに以前からあったとは知りませんでした。初めて知ったのは、空港の搭乗待合にあるLG社のテレビです。キレイな画面だなぁと思っていました。
有機ってなんとなく寿命が……と思いがちです。
オーディオ・ビジュアル機器の業界で有名な評論家の先生ですね。次回、スマホ買う時は最新の有機EL画面の機種を体験してみようと思いました。ガラケー ( au W52H ) のサブディスプレーはモノクロの有機ELですが 経年劣化で輝度が低下し、現在は完全に文字が見えない状態です。メイン画面の液晶は美しい表示性能を維持しています。
違いを考えたことなかったです…!
麻倉さん、お久しぶりです!と叫びたくなりました。まだお元気だったんですね。かつて、AV「オーディオ&ビジュアル(アダルトビデオじゃないですよ。全くの無縁ではなかったですが)」が趣味だった私にとって馴染みのある方です。液晶や有機ELについても人よりは詳しいのではと思っています。若い方には、ベータビデオも過去の遺産なんですね。麻倉さん同様に歳をとったはずです。大変興味深く読ませていただきました。ありがとうございました。
galaxyの折りたたみスマホを初めて見た時はびっくりしました!
にしても巻き取り式ディスプレイの発想はなかった…👀
違いが分かりました。
興味深く読ませていただきました
家電店で説明を聴いてもいまいちでしたが、今回良く分かりました‼️
とても参考になりました。
有機ELについて勉強になりました
今回液晶と有機ELの違いを分かり易く説明していただき、勉強になりました。
今まで有機ELについては、分かっているようで分かってなかったですね。
でも他人に簡単に説明できるかどうか不安ですが。。。
有機ELを世に送り出していただいた日本の技術者の方々に感謝しかないです。
ただ有機ELは映像がきれいになったからといって画面を凝視し続けることは、視力低下に繋がる可能性がありますので今後も気を付けなければならいと思いますが。。。
今後も有機ELは、私たちの生活に役立っていくことは、間違いないでしょう!
参考になりました。

>> ばる〜 さん

ソソソそうそう、それです!
うちのプラズマの日立Woooもハードディスクにとってあるヤツが見られなくなるのが嫌で買い替え出来ないんですよね!
つーわけで粘ってます。笑😆
有機EL昔は高かった…

>> ロイヤルKY さん

当時は記憶に残るほどの金額だったのですね...!今回はスマホやテレビのお話がメインでしたが、様々な家電のディスプレイの変遷を追うのも興味深そうです。次の調査団ネタになるかも?

>> あいちのひろちゃん さん

XEL-1の実物をご覧になったのですね!「お財布が硬くなる」という表現がリアルで、思わず笑ってしまいました。値段の落ち着きと買い替えのタイミングが重なると嬉しいですね!
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