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2004年から販売され、改良を重ねながらごくニッチな層に珍重されている「携帯黒電話」なるアイテムをご存じでしょうか。
黒電話とスマートフォンをBluetoothでつなぎ、さらにバッテリーを内蔵することで「黒電話の携帯電話化」を実現した、謎ながらもすごいアイテムです。
スマホが着信するとともに、黒電話のベルが鳴り響き、受話器を上げると通話が可能に。奇想天外であり、革新的とも言えるギミック。お値段は49,280円から。
この携帯黒電話を開発・発売しているのが、山口県下松市に拠点を置くメーカー「浜谷製作所」。代表の浜谷英克(はまたに・ひでかつ)さんにお話を聞きました。
——この携帯黒電話ですが……いったいどんなきっかけから開発したんですか?
浜谷:2002年ごろ、倉田光吾郎という等身大のロボットを作る造形作家の方から製作依頼がありまして。
——いきなりトリッキーなスタートですね、倉田さんのためだけに?
浜谷:ええ、面白そうでしたから。
——古い電話に思い入れはないんですか?
浜谷:ええ、単に技術者魂です。
——かっこいいな。製作期間はどれくらいでしたか?
浜谷:3ヶ月くらいです。当時はドコモのmovaを有線でつなげていました。
——2012年で終了したmova、懐かしい!
——携帯黒電話なんて前人未踏のアイテムを作るには、苦労したと思いますが……?
浜谷:ええ。たとえば黒電話のベルを鳴らすにも電圧が足らないので、乾電池の電圧を70Vに上げました。
——通常の乾電池って1本1.5Vですよね? すごい。
浜谷:昇圧という技術です。そうやって最初の1台を作ったら、今度は別の方から「製品化してほしい」と言われて。
——一度作った商品だから早くできそうですけれども。
浜谷:いえいえ、完成したのは2004年ごろです。
——初出しの2年後? なぜそんなに時間がかかったんですか?
浜谷:「一度動けばいい」ものと、製品として耐えうるものは違いますから。
——具体的にはどこに苦労しました?
浜谷:ACアダプタでの充電式にしたり、音質を改善したり。あと、新しいスイッチをつけずにあらゆる操作ができることにこだわりました。
——あの黒電話のまま、ボタンなどを追加せずにですね。
浜谷:ええ。たとえば、Bluetoothでペアリング接続が完了した時にどうお知らせするか。ふつう黒電話は「リリリン」としか鳴らないんですけど、ベルが「キンコン」と鳴るように改造しました。
——おお!
浜谷:ほかのお知らせも鳴る回数で表現するなどして、工夫しています。
——黒電話のポテンシャルを最大限に活かして……ド根性ですね。
——「携帯黒電話」という名のごとく、実際に携帯電話みたいに持ち運んで使う人はいますか?
浜谷:聞いたことがないですね。上の写真の4号機は改造前の重さで2.5kgありますから(笑)
——さすがにいないか……。
浜谷:街なかで使ったら恥ずかしかったという話は聞きますよ。
——試しに携帯してみた人はいたんですね……すごい。
浜谷:あと、重いからショルダーフォンに改造して使っている人がいます。
——ええ、あの平野ノラが使っているやつですか?
浜谷:いえ、自作で黒電話にストラップをつけて、受話器をカチンと本体にロックできるようにしていました。日常的に使っているみたいでしたけどね。
——じゃあ、携帯電話として使っている人、いたじゃないですか! よくやるなぁ。
——中古の黒電話はどう調達しますか?
浜谷:ヤフオクやメルカリで写真をよ~く見て、状態のいいものだけを、選んで買いますね。
——目が血走るほどに確認していそう。
浜谷:汚れは落とせますけれども、キズは消せないですから。でも黒電話って真っ黒ですから、写真じゃキズも見にくいんです。
——キズの多い筐体を買ってしまうこともある?
浜谷:ええ。製品の基準に達しなければ、諦めてまたオークションで探します。
——それで儲けは出るんですか?
浜谷:ええ、実は黒電話は安いんですよ。やや高い「4号機」でも送料込みで4~5,000円。ポピュラーな「600形」なら2,000円で買えます。本体自体は500円でもよく売られていますよ。
——そうやって買ったものを改造するわけですよね、大変そう。
浜谷:カスタム自体は単なる配線作業で、難しくないんです。もともとある回路は取っ払って、自分の回路を組み込めばOKですから。
——意外ですね。
浜谷:ただ、電話機を洗うのが難儀です。たとえば、数十年も納屋にしまわれていたような筐体だと、ホコリも溜まっているし、すごく汚れているので。完全にバラバラに分解して洗剤で洗います。
——いよいよ大変だ。
浜谷:受話器の穴一つひとつにブラシを突っ込んで、必要に応じて研磨剤で外側の汚れを落としますね。
——ずっと放置されていたものも多いですもんね。
浜谷:ええ、フックの接点とかも劣化しているので、接点の洗浄剤などで1コずつ磨きます。この洗浄がとにかく大変なので、1日1コくらいしか作れないんです。
——だからこの値段になるわけですね。ちなみに、どんな方が購入するんですか?
浜谷:基本的には古いものや黒電話とかレトロが好きな人だと思います。
——鉄板の客層ですね。
浜谷:ただ、予想できなかったのは「老人ホームに入居する親」への需要でした。簡単ケータイでも使いこなせなくて、黒電話なら使えるからと買ってくださるんです。
——真に根強い需要ですね。
浜谷:固定回線のない居室も多いですから。最近コロナで面会できず、お客さんが増えましたね。
——ほかには、どんなことに使われますか?
浜谷:ええ。あとダウンタウンのガキの使いやあらへんで!(日本テレビ系)と、芸能人が本気で考えた!ドッキリGP(フジテレビ系)にも出ました。
——えー! ガキ使でこれが!?
浜谷:原っぱの真ん中で黒電話を使うシーンが必要だったみたいで。もちろんそこには固定電話回線がないので、うちの携帯黒電話を使ってもらいました。
——オンリーワンの商品ならではの使われ方ですね。
浜谷:USJでも、ホラー系のアトラクションの小道具として使われましたよ。
——おお! どんな扱われ方を?
浜谷:お客さんが歩くと黒電話で「ジリン」と鳴って、少し脅かすような役回りでしたね。
——黒電話を使って通話することでどんなメリットがありますか?
浜谷:昔、黒電話の受話器を首にはさんで使えるから便利と言っていた人がいますけど。
——たしかに。
浜谷:最近は受話器型のヘッドセットが売っていますけれどもね。あとはうるさい工場の中で電話を受けるのに「ベル音が大きいから」と買った方もいました。
——それは! なかなかない商品だから、注文の数ほど需要がありますね。新機能も追加されたそうですが?
浜谷:SiriやGoogleアシスタントに対応して、「今日の天気は?」とか言ったら答えるようになりました。
——ムダにすごい!
浜谷:あと、「EXILEかけて」とか言ったら曲がかかりますよ。
——音楽までかけられるのか……!
浜谷:黒電話のスピーカーなので、音質は昔のラジオくらいですけどね。
——もともと音楽を流すためのスピーカーじゃないですからね。それでも黒電話から流せることがロマンです。
浜谷:ええ、いろいろな使い方をされるアイテムですから、「音質悪いからやっても意味ないや」と切り捨てるべきじゃないと思いまして。
——なぜ、音楽を流す機能を付けようと思ったんですか?
浜谷:昔、「受話器から音楽流すにはどうしたらいいんですか?」って聞いてくれた人が一人だけいたんです。
——その人だけのために?
浜谷:はい、需要に対応した感じですね。
——今まででどれくらい売れましたか?
浜谷:ぜんぶ合わせて200個ぐらいですね。Bluetoothの基板だけのキットで売っているものも含めて。
——ニッチな商品ですが、売れていますね。お客さんからの反響で印象的なものはなんですか?
浜谷:お礼を言われることが多くて嬉しいですね。「ピカピカで感動しました」「これほど綺麗とは思っていなかった」「思ったより完成度が高い」とか。ジョークグッズと思って買ってくれたんでしょうけど、うちは結構まじめに開発しているので。
——説明書も驚くほどしっかり作られています。
浜谷:キットから作った人は、試運転で私にかけてくる人もいましたね。「完成したんですって、ちゃんと通話できています」って。
——おお! 大昔の電話黎明期も、そんなシーンがあったかもしれませんね。
——黒電話以外も、携帯できるようにしたものはありますか?
浜谷:「となりのトトロ」に出てきた、23号電話機を携帯できるようにしました。
——ええ!?
浜谷:見たら、もう手で穴を開けて作ったような一台でね。戦後で物がない時に、寄せ集めで組み立てたんでしょう。
——作業は難しかったですか?
浜谷:いえ、中の回路自体は他の電話機と同じなので、部品の配置が変わるだけです。ただ、「どこに取り付けますか?」とか聞きながらやるので、少々費用は上がりますね。
——オーダーメイドみたいな作業ですもんね。
浜谷:そうですね。間違えたら取り返しがつかないので大変でした。
——歴史的なアイテムを改造するのはしびれますね。
浜谷:ふつうは2~3日でできますが、この時は2週間ぐらいかかりましたね。
——今後、携帯黒電話をどうしていきたいですか?
浜谷:通常のスマホに入れるSIMカードを入れられるようにしようかなと。Bluetoothじゃなくなるので音質も改善されるはずです。
——そうすれば、黒電話単体で電話機になるんですね、ますますスゴいな。浜谷さんにとって、そんな携帯黒電話とはどんな存在ですか?
浜谷:自分のセンスと根気を表現する手段だと思います。20年、よく作り続けたなと思いますけどね。
※半導体不足のため一部商品が在庫切れになっています
※今後、状況により生産の見通しが立たなくなる可能性もあります
(編集:ノオト)
使ったことないですね
(´・ω・`)
実機をみたこともないかも
こういうの大好きです。
過去と現在、未来をつなぐみたいな
懐かしい!
懐かしい
職人さんの熱意が素敵です。