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みなさん、インターネットからこんにちは。
マイネ王で2回目の登場です、しまだあやです。日頃は主にエッセイを書くお仕事をしています。
コロナ禍になり、今まで以上にインターネットが必須になった今日この頃。お買い物はネットで。打合せもネットで。「オンライン帰省」に「オンライン結婚式」、ネットがあればなんでもできちゃう世界。今が2020年でよかったね。ありがとう、インターネット!
……と言ってみたものの、物心ついた頃からパソコンやインターネットに触れてきた私。正直なところ、イマイチありがたみに実感がありません。そこで、「インターネットのないアナログな世界で、3日間生活する」という体験をすることにしました。
ルール インターネットはもちろん、インターネットが生まれた1984年※1 より、あとに生まれたものも使用せず、できるだけアナログのみで生活する。つまり、スマホやパソコン、CDやデジカメ※2 などはNG! |
改めましてこんにちは。今日から3日間、インターネットのない世界で生活をするしまだあやです。
でも、そもそも「インターネットのないアナログな世界」ってどんな感じ? インターネットがなかった頃は、どんなものを使っていたの? まずはそれらを知るために、近所の「奈良県立図書情報館」にやってきました。図書館なんて小学生ぶりだな。
道がうろ覚えだったけど、Google Mapが使えないので、迷いながら聞きながら到着。図書館のお姉さんに声をかけて、インターネットの歴史や、1984年頃の生活に関する本の場所を教えてもらい、何冊かお借りする。
連絡手段は、まだまだ電話や手紙の時代。「カード式公衆電話」が登場したのも、ちょうどこの時期らしい。家に固定電話がない私、公衆電話が使えるのはありがたい。ちなみに、日本で携帯電話サービスがはじまったのは、インターネットが生まれて3年後の1987年……とのこと。
だいたいここまでで1時間半が経過。やっぱりアナログだと時間はかかる。けれど、近くの本棚には他にも、当時のファッションや音楽、映画や広告……いろんな本があって、どれも「インターネットの歴史」につながる社会背景があって……調べ物の面白さにハマった私は、結局そのあと、3時間以上も居座ってしまった。
図書館からの帰り道。「昨夜、父からLINE来てたけど、返事してないなあ」と思い出す。3日間も既読つかないと心配かけそうだし、一応連絡しとくか。早速、調べ物の成果を活かすべく、公衆電話を使ってみることに。
……ん? 公衆電話って、どこにあったっけ? と、歩くこと15分。
ない。
全然ない、どうしよう。昔はもっといっぱいあった気がするのに。とぼとぼしてたら、配達員さんに遭遇。地域を回っている配達員さんなら、知っているかもしれない。聞くと「ここから300mほど先にありますよ!」とのこと。さすが!
あったぞー! やったー! えっと、10円玉、10円玉……
1枚しかない……まあ、一旦かけてみるか。
そういえば、公衆電話を使うのも小学生ぶりかも。いろんな絵柄のテレホンカード、集めてたなあ。思い出にふけりながら銀色のボタンを押す。今はLINEでしか話さない父の携帯電話番号、口で言うときは詰まるのに、指だとハッキリ覚えていて、びっくりした。
「プルルルル、プルルルル」
うわ、かかった! 当たり前だけど驚いてしまう。
「ガチャッ」
電話が切れてしまった。10円1枚の命は短い。
……っていうかこれ、オレオレ詐欺的なやつと思われている?(笑)
よく考えれば、公衆電話から「もしもし父さん? 私だけど」って、たしかにあやしい。しかもうちの父は耳がよくないので、私の声があんまり判別できてないのかも。インターネットのない世界で生活すると、父親に電話をかけても詐欺だと勘違いされるということがわかりました。
使える小銭がないし、のども渇いたので、どこかでお金を崩すことに。少し歩くと、自販機の光を発見。よし、10円玉が手に入るぞ。
自販機は、酒屋さんのものだった。っていうか、こんなところに酒屋さんあったんだ。せっかくだから、中で買おうかな。
「こんにちはー。ジュースもありますか?」
「あるよ。コーラとかでよければ、そこの冷蔵庫に」とおじさんの声。
酒屋のおじさん、さすが飲み物に詳しいし、愛があるなあ。インターネットのない世界で生活すると、ネット検索では出てこないお店と人に出会える。
さて、10円玉もたくさん手に入れたので、公衆電話へ戻る。あたりはすっかり真っ暗。
そう言うと父は、インターネットがない頃の、昔の思い出を喋り始めた。「公衆電話やからお金かかんねんけど」って言いかけて、やめた。スマホで聞く父の声と、公衆電話で聞く父の声は、聞こえ方が違っていて、面白かった。瓶のコーラと、缶やペットボトルのコーラの違いに、似てるかも。気づいたら、おつりの10円玉はすっかりなくなって、100円玉まで投入してた。
2日目。今日は月末なので、請求書を出さねばなりません。いつもならExcelで作るけど、今の私の世界には存在しないので、文具屋さんに来ています。紙の請求書、めちゃくちゃ種類が多い。
さて。コーヒーでも飲みながら、請求書を作るぞ。
せっかくなので、さっきの文具屋さんで手にいれた「伝言メモ」も添える。経理の連絡って、いつも愛想ないメール文章になっちゃうけど、手書きもたまにはいいね。担当者さん、喜ぶかな。
よし、あとは封筒に切手を貼って、ポストに入れるだけ!請求書作っただけなのに、ひと仕事終えた気分になった。「とってもエラいぞ私!」という気持ち。これはいいな、インターネットのない世界で生活すると、請求書を作るだけで自己肯定感が上がる。
次は家に帰って、記事の原稿を執筆。ここはパソコンのない世界、さっきの文具屋さんで仕入れた原稿用紙を使います。ちょっと文豪気分で楽しそうだな……と思ったのも束の間。
パソコンと違って、全体の構成が見渡しづらいし、「コピー」も「ペースト」も使えない。フリーズしないのは安心だけど、私がフリーズしそう。というか、手が、めちゃくちゃ、痛い。普段使ってない筋肉なんだろうな。
ちなみに、この2日間はいつもより歩いているので、なんだったら足も若干疲れ気味。インターネットのない世界で生活すると、どこの筋肉が衰えているのかわかるのか、すごいな。
ちっとも進んでないのに、気づけば日が暮れていて悲しくなった。原稿の執筆においては、アナログじゃない方が合ってるのかも。疲れたので、もう寝ることにした。インターネットのない世界で生活すると、寝るのが早くなる。おやすみ。
ついに最終日。
通知音も着信音も鳴らない日々に慣れてきたけど、仕事のメールも放置しているので、ちょっとソワソワする気持ちもある。とりあえず、昨日請求書を送った会社に、一本連絡を入れることにした。事情を説明すると、「うちの電話のディスプレイに“公衆電話”って表示されたの、初めて見ましたよ!」と笑ってくれた。
10円玉が余ったので、今度は実家の母にかけてみる。また詐欺やと思われるかな? と思ったら、最初の「あ、もしもし」で、私とわかってた。母、すごいな。
でも、父との電話で当時の武勇伝を聞かされたことを伝えると、母も意気揚々と昔話をし始めた。母、めんどくさいな。
結局、またしても100円玉を使うことに。インターネットのない世界で生活すると、親の淡い思い出を聞ける(聞かされる)んだな。
家に帰って、レコードプレイヤーにかぶったほこりを掃除した。
私もいつか言ってみようかなー。「レコードあるの。一緒に聴かない?」
実のところ、ここ2日間の食事は、冷蔵庫の中身をなんでもかんでも鍋にしていた私。なので、特にインターネットがなくても困らなかった。でもついに3日目、食材が減り、鍋もそろそろ飽きてきた。
いつもなら、適当に食材を買い足して、冷蔵庫にある食材名と一緒に「クックパッド」で検索。けれど、今日は使えない。あとで本屋さんに寄って、料理の本を買ってみようかな……そんなことを考えながら、家庭菜園をしているおばさんのところへ、野菜を調達しにいく。
そして、晩ごはんの時間がやってきた。作ってる間、おばさんのことをいろいろ考えた。このレシピ、ちょうど私くらいのときに集めたって言ってたな。おばさんも、こんな風に作ったのかな。そう思うと、なんか、もっとおばさんのことを知りたくなった。
ということで、できあがった料理がこちら。おばさんの野菜を使った「おろし納豆ギョーザ」! 奥にぼんやり写ったレシピ写真と比べていただきたい。完成度、いい感じなのでは……?
この日から私は、今までよりもいろんな料理に挑戦するようになった。クックパッドを見る回数も多くなった。インターネットのない世界で生活すると、台所に立つ時間が増えた。
残り2時間。インターネットのない世界が、もうすぐ終わる。
インターネット頼りの毎日だったのに、なんだかアナログ生活が名残惜しくなってきた。そうだ、銭湯へ行こう。たしか近くに、古くからのところがあったかな。
風呂上がり、缶ビールを買いながら、番台のおばあちゃんに聞いてみる。
まさかの、デジタルデトックスの存在を知っていたおばあちゃん。
しかも「私は一生デジタルデトックス」と言っていた。強いな!
おばあちゃんに、この3日間の話を少し聞いてもらった。そして、「今日の銭湯は、最終日の大トリです」と伝えた。
最終日、インターネットを使わずに生活すると、ビールを乾杯する人が増えました。
「インターネットのありがたみを感じたい!」から始まった、3日間のアナログ生活。ありがたみはもちろん、いろんな発見がありました。
それからやっぱり、人とのふれあいが増えました。このご時世、人とふれあうのはシビアなこと。それでも、自分が暮らす街の中で、できる範囲で、人の温度を感じたいなと思いました。酒屋のおじちゃんからコーラを買い、そのおつりで、公衆電話から父や母へ電話する。私にとってこれは、これからもたまにする、息抜きルーティンになりそう。
インターネットのない3日間は、インターネットがある4日目以降をもっとゆたかに。どっちがいいとかじゃないんだな。ありきたりな落としどころだけど、本当にそう思います。毎日インターネットのない世界のおばあちゃんと、毎日インターネットのある世界だった私が、とってもいい顔をして写っているのが、証拠だね。
それではまた、インターネットで会いましょう!
おしまい。
編集:人間編集部
写真:大越元
【参考文献】
・村井純「インターネットの基礎:情報革命を支えるインフラストラクチャー」
・井上伸雄「情報通信技術はどのように発達してきたのか」
・総務省「インターネットの登場・普及とコミュニケーションの変化」
・NTT「1832-2020 Legacy Communication」
・NTT東日本「電話機のあゆみ」「公衆電話機のうつりかわり」
古き良き時代に身を置くーー。
心のふるさとですね~。
三日間、通信遮断!!
これは、断食なみに過酷!
👀目が〜休まるカモ🦆ねぇ👌✨
色々な ~「趣味 ~レーション❣️」いざの備え ~今❣️カモ🦆ねぇ👌。
でも人間、一度便利になると昔には戻れなくなりますね(笑)
昭和生まれなので懐かしく読みましたよー。ありがとう。
現在人は良くも悪くも情報に左右されすぎのように思えます。
特に公衆電話のあたり。
使っている人は分かりますが、かけた相手の画面に「公衆電話」と表示されるのがミソですよね。
島田アヤさんまたほっこりする文章頼みます。
面白いエッセイを感動してやまない。
現在時代、スマホをハマってる人間は段々コミュニケーションを短縮されているよねー。
やっぱりどちらの時代に暮らしてもメリットとデメリットが存在しますね。
ありがとうございました。
色々な出会いがあり素晴らしいです✨
〇〇年前に行った会社の面接の為の電車の路線や時刻を、ネットが無かったのにどうやって調べて行ったのか?と考えた事が有りました。
答えは「時刻表の本」。
普通に本屋で売っている物を買っていました。
よく家で見たもんです。
今だと鉄ヲタ…(シミジミ)
当時はそれが当たり前でした。
今が便利過ぎるのですかね🤭
無駄なことして、無駄じゃない経験をしてる感じが如実に伝わり、面白かったです。
アナログの調べ物はとてもいいですよね~。
瓶コーラのみたい!とテンションあがりましたがなかなか出会えません…
瓶コーラは見ると絶対買うのに、そーいえばペットボトルはのみませんね…
現金もそうですが、小銭だけはある程度用意していたほうがいいかもしれませんよ~災害用に
おばさんな私は、母が学校の集金などにお釣りを発生させてはいけない、いつでも用意しておくようにという家で育った影響で、現金あまり使わないこの時代でも小銭用意してあります(笑)
震災でレジが動いてないお店に行ったとき、とても喜ばれました。
おばさんなので、昔の暮らしは大抵経験済みだと思うのですが、田舎暮らしで電車に乗る機会がほとんどないまま大人になり、乗り換えアナログで調べられないかもしれません…
切符買ったことも、自動改札じゃない改札も通ったことありますが子供の頃なので、Suicaがないと電車乗れないかも…
コロナでずっと出かけてないので、Suicaもいつ使えるかわかりませんが泣(私が出かけるのがほぼ音楽ライブ)
楽しくて長々書いちゃった…
人とのコミュニケーションも増えて、なんだかほのぼのした気になりました。
そういえば公衆電話見ないなー。
テレホンカードとか懐かしい(^^)。
リアルに私がしていた生活で、忘れかけていたものを思い出しました
インターネットのない時代は、人と触れ合い 助け合わないと生活できない時代でした
だから、「しょうがないなぁ」とか「お互い様だからね~」で許しあえた、ゆるい時代でもあったのかもしれません
素敵な企画、ありがとうございました♡
色々と考えさせられました‼️
とても良い心の持ち主だなぁと感じました。
息子しかいない僕は、娘がいたらこんな感じで話したのかなーー?と、しまだあやさんのお父さんが羨ましく思えました。
これからも楽しみにしています。
いろいろ 便利に なったけど…
ゆっくり 流れる時間も いいなあ~って 思いました✨
何したらいいか笑