9割が泣き寝入り? 痴漢撲滅を目指すアプリ「Radar-z」で見えてきた過酷な被害例をアプリ開発者に聞いた
大阪府出身。日々エッジの効いたネタを探し続けるフリーライター。得意ジャンルはサブカル、テレビ、音楽、現代アートなど。デイリーポータルZ 新人賞2017で佳作。自称・無料イベントマニア。
2019年5月、「痴漢されたら安全ピンで刺すのは正当防衛か? 傷害罪か?」という議論がTwitterなどで大きな話題となりました。その後、文具大手メーカーのシヤチハタが「迷惑行為防止スタンプ」のテスト販売を開始するなど、痴漢に対する議論は続いています。
そんな中、新たな痴漢対策サービスとして開発されたのが、スマホアプリ「Radar-z(レーダーゼット、旧名:痴漢レーダー)」。アプリで報告された被害情報をもとに、各駅での被害データを表示しています。
またリアルの場では、黄色いものを身につけて電車に乗ることで、痴漢が発生しないよう見守るイベント「#withyellow」を主催しており、開発側自らが痴漢撲滅のため積極的に活動しています。アプリ開発の経緯や使い方、データから見えてきた痴漢犯罪の傾向と対策について、RadarLab株式会社のプロデューサー・片山玲文さんに聞きました。
被害者はもちろん、目撃した人も報告できる
——「Radar-z」は、どのようなきっかけで開発されたのでしょうか?
大学で開催された性暴力防止のイベントに参加したのがきっかけです。痴漢について学生に聞いてみると「今も普通にありますよ」「悔しいけど、遅刻するわけにはいかないので通報しません」と返ってきて。
その話を聞いたとき、「痴漢問題って、私が高校生の頃に被害を受けた時代と何も変わっていないのか」とショックを受けました。アンケート結果では、痴漢被害者のうち、通報した人はたった1割。9割は泣き寝入りです。でも多くの人は、被害のことを鮮明に覚えている。記憶にフタをして生きているけれど、心に深い傷を負っているんです。
とはいえ、加害者と戦うのは難しいですよね。まずは被害者がリスクなく発信できる場を作り、まだ実態がわかってない痴漢のビッグデータを収集しようというコンセプトで、2019年8月に「痴漢レーダー」をリリースしました。現在は「Radar-z」に名前を変更し、盗撮や露出、つきまとい、ぶつかりなどの被害も登録できるようになっています。
——「Radar-z」でできること、機能や使い方を教えてください。
地図に印をつける感覚で、匿名のレポートを書き込めます。被害にあった後は怖くて動揺していると思うので、まずはレポート報告のボタンを押してもらう。気持ちが落ち着いた後に、どういう状況だったのか詳細を入力できるようになっています。被害情報はすべて修正が可能です。
もう一つ特徴的なのは、目撃者が報告できる機能です。特に盗撮は、被害を受けている人は気づかなくても、第三者が見ているパターンが多いですね。
あとは通知機能。よく利用する乗降駅を登録しておくと、何かあった場合に通知が受け取れます。
ニセ電話で友達との通話を装う機能もあります。電車の中だと、電話している人はすごく目立ちますよね。専門家によると、加害者は注目されることを非常に嫌がるようです。被害者が電話をしていると周りから視線が集まるので、痴漢行為を止めるかもしれません。この機能では、スタッフが事前に録音した音声が流れるようになっています。
——アプリの表示やデザイン面で工夫した点はありますか。
被害レポートの表示にはこだわりました。というのも、被害の中身はかなりショッキングな内容が含まれています。そのため、詳細を見るかどうかは、ユーザー側で設定できるようにしました。
また、被害のレポートに対して自由にコメントが付けられると、セカンドレイプが発生してしまうかもしれません。そこで、「ひどいね」などのボタンのみ設置しました。「あなたは1人じゃないよ」と示すことで、被害者の気持ちに少しでも寄り添えればいいなと思っています。
また、アプリを開いても恥ずかしくないよう、画面のデザインはかなり意識しました。というのも、既存の痴漢撃退系のアプリは、アイコンがピンク色や口紅の形をしており、女性が使うことを前提にしていることが多いんです。レーダーZは性別関係なく使えて、他の人に見られても恥ずかしくないデザインにしました。
週末に向けてなだらかに増加 データから見える被害の傾向
——アプリのユーザー数はどのくらいでしょうか? どんな人が利用していますか?
ユニークユーザーの累計は、約7万(アプリのみで2.8万人)くらいです。20代女性がメインですが、もう少し10代にも利用してもらえればいいなと思い、プロモーションを計画しているところです。
——ユーザーからは、どのような被害が報告されていますか?
被害種別ごとの割合は、痴漢50%、不快行為15%、ぶつかり(叩く、蹴るなど)12%です。(※2019年9月までの集計データ)
内容を1件ずつチェックしていると、被害の多様さに驚きます。現状を知らない人は「痴漢って、ちょっとお尻触られたくらいでしょ?」と想像するかもしれませんが、現実はもっと過酷です。
においをかぐ、なめる、つかむ、切る、体液をかけられる……「バッグに汚物を入れられた」という報告もありました。1件の被害の裏にも、それぞれ本当にひどい実態がある。日本は本当に安全な国なのか? と思うくらい。痴漢問題は、海外では「CHIKAN」と表記されるそうです。これは不名誉ですよね。
——そもそも、なぜ日本は痴漢が多いのでしょうか?
通勤電車ですし詰めになってしまう環境や、女性蔑視、ジェンダーギャップ(男女の違いにより生じるさまざまな格差)、性教育の遅れ、アダルトコンテンツなど、日本にあるさまざまな問題が縮図となって痴漢に現れているような気がします。
世界のアダルトコンテンツの多くは、日本で生産されているそうです。しかも、アダルト動画サービスのAVキーワードランキングでは「痴漢」が3位。ファンタジーだと理解している人が大半かと思いますが、そうじゃない人もいるという話は加害者治療の専門家から聞いています。
——アプリのリリースから1年以上が経ち、さまざまなデータが集まっているかと思います。時間帯や曜日、場所など被害の傾向を教えてください。
痴漢については想像通りで、7時台と19時台の通勤ラッシュ時にピークが表れています。(※2019年9月までのデータ)
場所は乗降客数が多い新宿、池袋、渋谷で多く発生していますね。ただ、駅によってデータ傾向が異なります。池袋では痴漢が多く、新宿や渋谷ではぶつかりが多い。これは駅構内の構造的な問題ではないかと推測しています。また、「都心に向かうにつれて混雑する」「駅と駅の間隔が長い」「扉の開く向きが一方向だけ」といったことも、被害の多さに影響しているかもしれません。
曜日別では、月曜日から金曜日に向かってややなだらかに増えています。これも仮説ですが、週末にむけてストレスが高まることで、犯罪件数が増える傾向があるのかもしれません。火曜日よりも土曜日のほうが被害件数が多いのは意外でした。
盗撮は、6割以上が第三者の目撃レポートになっています。「盗撮を発見したけど、何もできなかった」「その場で捕まえるのはハードルが高く、心苦しかった」という目撃者は少なくありません。
——ユーザーからは、どういう意見や感想が寄せられていますか? また、アプリが痴漢対策に役立った例はありますか?
リリースして最初の数カ月は、主にTwitterで多くの反響をいただきました。「私たちの問題に対して、一般の企業が力を貸してくれることは本当に心強い」とか、「痴漢問題に声を上げると逆に叩かれる風潮もある中、ありがとうございます」という声もありましたね。
アプリが役立った例では、「加害者に対し画面を見せるとやめてくれた」「痴漢撃退に使えた」という報告を受けています。加害者に「私はこのサービスに今から報告します」と言うと、去っていったそうです。
「今までは周りの人に言えず、身をよじるくらいしかできなかったけど、このアプリを思い出して勇気を出して見せたら加害者がいなくなった」という話を聞いて、とてもうれしかったですね。
センター試験の日は痴漢が発生しやすい?
——2020年1月、黄色いものを身に付けて受験生を痴漢から守る「#withyellowキャンペーン」がTwitterで盛り上がっていました。どういうきっかけで始めたのでしょうか?
#withyellowの活動を始めた理由は2つあります。1つ目は、「痴漢は、止められるべき第三者がたくさんいるところで起きている」ということ。駅員さんを呼ぶのはハードルが高いし、通報しても警察が駆けつけるまでは時間がかかります。乗り合わせている第三者の意識や行動が変わることがとても大事だと気づきました。
2つ目は、とある女子高生が書いたTwitterのまとめ記事です。それは「大学入試センター試験の日に痴漢にあったらどうしたらいいか、警察に相談しました」という内容でした。インターネットの掲示板やSNSには、「センター試験の日は絶対に遅刻ができないから、通報されないはず」「痴漢し放題だ」という言説が載っていて。それを見た女子高校が、どうやって自衛すればいいか警察に問い合わせたそうです。
掲示板には、毎年恒例のように「今年もセンター試験、痴漢やり放題の日がやってきた」と書かれています。受験生はただでさえプレッシャーがかかっているのに、そんなことまで気にしなきゃいけないのか、と本当に切なくて、悲しくて。周りの人たちがさりげなく守ってあげられることができればと思い、#withyellow の活動を始めました。
——どのような活動でしょうか?
アプリに機能を実装していて、#withyellowボタンを押すと近距離通信が発動します。被害が発生したときに、アプリをインストールした人が近くにいれば、通知が来るようになっています。
もう一つは、オフラインを含めた活動ですね。参加者の方には「#withyellow」と書かれた黄色いものを身に付けて電車に乗ってもらうようにしました。当日は「○○線をパトロールしました」と報告してくださる人や、身につけた #withyellowグッズをTwitterに投稿してくれた人もいて、かなり盛り上がりましたね。この運動が広まれば痴漢抑止につながるのでは、と期待しています。
——2021年の大学入学共通テストの際も、同じような活動を行う予定でしょうか?
新型コロナウイルス感染症の状況にもよりますが、同様のキャンペーンを展開したいと考えています。また、入学式や入社式のある4月、人が混雑する夏祭りのタイミングでも実施して、少しずつ活動の輪を広げていきたいです。
物販自体は目的ではないのですが、「身の回りで黄色いものを探すのが大変だった」「自分の持ち物に #withyellowと書いてしまった」という人がいたので、オリジナルの #withyellowグッズも制作しました。
▲オリジナルの「#withyellow」グッズ。suzuriにて販売中
https://suzuri.jp/withyellow
注目されにくい問題を顕在化し、「助け合う社会」を当たり前にしたい
——お話を聞いて、「男性と女性では、見えている景色が違うかも?」「痴漢は他の犯罪と比べてライトに扱われ過ぎなのでは?」と感じました。
本当にそうですね。痴漢だけでなく、髪の毛や服を切られたりカバンに汚物を入れられたりしたら、一生残るトラウマとなるでしょう。みんなが軽視しがちな、「そんなことで」と思っていることこそ、スポットを当てていかなければなりません。
投資家に私たちのサービスをプレゼンすると、男性は皆さん身につまされるようです。「もし自分の子どもが被害にあったら」「まさか、試験の日を狙う卑劣なやつがいるとは」と驚愕し、自分ごと感が急に近づいてくるのかもしれません。
——アプリの追加機能や、今後の活動予定をお聞かせください。
電車での痴漢や盗撮以外にも、不審者や暴行事件など、街中で危険な目にあっている人は少なくありません。現状は最寄り駅に集計される形になっていますが、街中のランドマークなどにもプロットできるようにし、より被害を可視化する機能を追加する予定です。
オフラインでは、大学生とコラボレーションしながら、鉄道会社や警察、警備会社に要望書を提出していきたいと思っています。すでに警視庁含め6つの県警と話し合いの場を設け、議論を進めているところです。
最終的には、今までスポットを浴びづらかった社会問題を解決していきたいと思っていて。顕在化されていなかった問題を、ビッグデータとしてあらわにすることで、世の中に働きかけていきます。
社会には「困っている人」も「助けたい人」もたくさんいるはずなのに、距離感が微妙に遠い。両方からシグナルを出しやすくすれば、助け合う社会がもっと当たり前になるのではないでしょうか。
痴漢は他人事ではなく、みんなの問題である
「痴漢はみんなの問題であり、皆さんにとって大事な人の問題でもある」と話す片山さん。「汚物を入れられる」「加害者はセンター試験の日を狙う」など具体的な被害の実例を聞き、筆者も衝撃を受けました。
アプリはiOS、androidともに誰でも無料でダウンロードできます。被害に遭う可能性がある人も、第三者として見守りたい人も、ぜひ利用してみてください。
iOS版
https://apps.apple.com/jp/app/id1476017485
android版
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.qccca.chikanradar_mobile
(編集:ノオト)
取材協力:RadarLab株式会社
https://www.radar-lab.com/
https://chikan.radar-z.com/
関連サイト #NoMoreChikan
https://nomorechikan.com/
良き物は、良い使用にて、生きて来ますね。😊皆んなが笑顔で〜、このアプリが、必要の無い世の中こそ本来の世界ですね❣️😊😊
特に都市部のJC・JKはスカート丈に気をつけるか、防衛策をとるなりの対策をするように、親御様にも伝えることも大事かもしれません。
...偏見が入っていましたら、申し訳ないです🙏
都会は恐ろしいよ。
たしかに通報は、到着までの時間、現場検証、写真を撮られたりなど、時間と精神的な負担も大きくて、しないんだよなぁ。
まああと1駅だったのもありますが・・
今の時代だと犯罪をあげつらうのは当然としても、「犯罪者取り違え」で冤罪
だった場合、相手の社会人としての人生が終わります。
会社もクビで転職も難しく、社会的に相当なダメージを受ける上、裁判に
なった場合、余程の事が無い限り冤罪は晴れません
だから許した訳では無いのですが、捕まえるのなら相当な証拠と確信・出来
れば目撃者の確保が大切かと
冤罪の男性のダメージは社会的抹殺に近いような気がします
現実的にはコンビニでチョコ1個の窃盗レベルではない制裁を受けます
(犯罪はいずれにせよ、絶対にダメですが)
チカンや盗撮で受ける女性の精神的なダメージはヒトそれぞれで重いダメージ
を負う場合もかなりの確率であります
ただ上記のアプリは露出まで入っています
もちろん露出は犯罪ですが、それなら「コンビニでの万引きを目撃した」と
いうのも立派な窃盗罪を目撃した事になりますから入れたらどうですかね?
至近距離に寄ってきての露出なら身の危険を感じますが、ここまで入れて
しまうのはどうなんでしょうか・・
「露出」なら相手が向かってきて至近距離まで来た場合に限るとか
女性は都会の場合、多くの電鉄会社で女性専用車両がありますが、男性
専用車両というのは聞いた事がありません
冤罪で人生が潰れるのは男性もよく分かっているのでアプリ開発と並行して
鉄道会社に男性専用車両の設置推進も併せて行動してほしいなぁと・・
男女お互いが平和な社会になりますように・・