スマホ1つでラジオ番組が作れるアプリ「Radiotalk」 いまなぜ音声コンテンツなのか?
大阪府出身。日々エッジの効いたネタを探し続けるフリーライター。得意ジャンルはサブカル、テレビ、音楽、現代アートなど。デイリーポータルZ 新人賞2017で佳作。自称・無料イベントマニア。
ラジオといえば、アナウンサーやお笑い芸人など、番組パーソナリティーのトークを「聞く」シーンを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし近年は、一般人がラジオで「話す」サービスが登場しています。誰でも無料でラジオ番組が作れる音声配信アプリ「Radiotalk」(ラジオトーク)もその一つ。
いまなぜ音声配信サービスが盛り上がっているのでしょうか? Radiotalk代表取締役の井上佳央里さんに、音声コンテンツの魅力やアプリの特徴、今後の展開をお聞きしました。
——「Radiotalk」とは、どのようなアプリなのでしょうか?
一言でいうと、「スマホだけで誰でも今すぐ始められる音声配信サービス」です。スマホを使って録音し、タイトルを入力して音声データをアップロードすれば、ラジオのような音声番組を誰でも作れます。顔出し不要、匿名もOKで、会社員や学生などの一般人から、お笑い芸人、漫画家まで、さまざまな人たちがトークを配信しています。
——なぜこのようなサービスを作ったのでしょうか?
マーケット的な背景と個人的な理由があります。まずマーケット的には、2017年頃にスマートスピーカーが普及し始めたことが大きな要因です。それにより、スマホで主流だったテキスト入力に対して、音声入力が注目されるようになりました。
当初は「スマホに向かって話すのは気恥ずかしい」と言われていましたが、欧米を中心に音声入力が浸透し、日本でも広まりつつあります。認識の精度が上がっていくほど使えるシーンが広がり、照明や家電を声で操作する機会も増えていくでしょう。
従来の「手による操作」ではなく、「声でアウトプットする」シーンが拡大していくだろう、というのが前提としてありました。
——現在は手を使ったテキスト入力が中心ですが、やがて音声インターフェースに切り替わるのではないか、と。
2016年ごろから、「次は音声で検索する時代が来るだろう」と言われていました。私も家にスマートスピーカーを置いていますが、1度使うと戻れないんですよ。例えば、歯を磨きながら「今日の天気は?」「最高気温は?」と聞けば、どんな服を着ていくか考えられる。手と目を自由にできるのが音声の利点です。
一方、聞くコンテンツとして思い浮かぶのは音楽ですよね。いまはAmazon Prime Music、Apple Music、Spotifyなど月額課金で使える音楽配信サービスがたくさんあります。でも1日中ずっと音楽を聞いているわけではないし、音声で情報が入ってくるシーンはまだまだ空きがある。そのスペースは開拓できるはずだと考えました。
1日の生活時間で考えると、計算上、耳の可処分時間は目に比べて約2.5倍長くなります。可処分時間とは、自分の判断で自由に使える時間のこと。つまり、耳はまだ空いている時間があり、情報を摂取できる余地は残っているといえます。
——音声で情報を得るサービスのマーケットが広がっていくだろうと予測したわけですね。一方の個人的な理由も教えてもらえますか?
大学生の頃、放送学科に在籍しており、自分でラジオ番組を制作していました。当時からラジオを聴くのが好きで、番組へのネタ投稿までしていたんです。ただ、地上波のラジオを十数局ほど聴いても、20代女性の自分に合うコンテンツは少ないなと思い始めました。
いま地上波のラジオリスナーは40~60代がメインで、聴取率を上げることを考えると、その年齢層に合わせた内容にならざるを得ません。であれば、自分たちでコンテンツを無限に発信できる場を作ってしまおう、と考えました。
加えて私自身、ユーザーが投稿する仕組みに救われた過去があります。子どもの頃、人と話すのが極度に苦手だったんです。でも、話すかわりに新聞への投稿を続けたら掲載されて、周りから理解してもらえるようになって。ラジオ番組への投稿も同じで、たとえ悲しい話であっても、ラジオで読まれれば誰かが反応してくれるし、それが貴重な体験に変わります。
今はYouTuberやインスタグラマーなど、個人がメディアになる時代。聞き手としても作り手としても、ユーザー投稿型の音声プラットフォームに可能性を感じました。
こだわりは「誰でも簡単に始められること」 スター配信者を生み出す工夫も
——他の音声配信サービスとの違いは何でしょうか? Radiotalkの特徴を教えてください。
こだわったのは、とにかく誰でも簡単に始められる点です。スマホさえあればすぐに配信できる機能を搭載しています。ライブ配信ではなくアーカイブ型にしているのは、精神的なハードルを下げるため。即興でコミュニケーションを取ることが苦手な人でも、後から編集すれば、それなりのコンテンツにできるからです。
効果音や1.1〜2.0倍速のスピード変更、ランダムにトークテーマが表示される「お題ガチャ」、Podcastへの配信などは、他社サービスにはない機能ですね。
——どんな人が番組を配信しているのでしょうか?
男性が35%、女性が65%で、やや女性が多くなっています。いちばん多いのは、1人でエピソードトークをする配信です。次に多いのが、2人組で芸人の掛け合いのように話す番組。たとえば大学生の友人同士が、教室や中庭でお互いツッコミながら話しています。
女性はやはり恋愛の話が多いですね。日頃思っているけれど友達にはちょっと言えない話を匿名で発信する人気配信者もいて。世の中に対する意見を持ってはいるけど、大っぴらには言えない、心の中に抱えている話を解放しているのかもしれません。
個人ユーザーだけではなく、法人での利用もあります。チームで交換日記のように配信して採用広報に使ったり、メディアの編集部がオススメの記事を紹介していたり。毎回ゲストを呼んでインタビューしている人もいますね。最近では、配信したトークの内容が書籍化される例も出てきました。
——M-1グランプリで優勝したミルクボーイのように、お笑い芸人の方の番組も多いようですね。
ありがたいことに最近、若手芸人さんの間でかなり流行っていて。ミルクボーイさんは、私たちがお願いしたわけではなく、事務所からの指示でもないようなので、自ら能動的に配信されたのではないかと思います。芸人さんたちが楽屋でRadiotalkを使って録音していると聞いたので、そういう場面で徐々に広まっているのかもしれません。
——匿名で話す人もいれば、有名なお笑い芸人さんの番組もあって、多種多様ですね。
もともと知名度がある人の配信も増えましたが、たとえ匿名であっても、トークの内容が面白ければ人気者になれることがポイントです。また、TikTokやインスタグラム、YouTubeの場合、顔や服装などルックスが与える影響が大きいですよね。でもRadiotalkは見た目が有利にも不利にもならない。そこは、他の配信サービスと比べて珍しい点でしょう。
今は特に“スター”の登場が必要だと思っていて。YouTuberやインスタグラマーのように、Radiotalkから人気を博した「ラジオトーカー」を育てる取り組みを始めています。
——具体的にはどのような施策を?
例えば、毎週土曜夜にMBSラジオで「アッパレ!ラジオトーカーやってまーす」という番組を放送中です。Radiotalkで人気が出た配信者をスタジオへお呼びして、地上波のラジオ番組に出てもらっています。
ほかにも、カップ麺やヘアケアシャンプーがもらえる「エピソードトーク企画」や、radikoのCMを制作して30万円のスポンサー費用が獲得できる「スポンサー企画」を開催しました。配信者がマネタイズできる仕組みについては、今後も強化していきます。
一番多く聞かれるのは深夜帯 珍しい職業の日常トークが人気
——リスナーは、どのようなシチュエーションで聞いているのでしょうか?
時間帯でいうと22~24時が最も多く聞かれています。寝る前や余暇の時間など、家で聞くシチュエーションが非常に多いですね。あと、少しずつ増えているのが、歩いているときや車の中など移動時間。デザイナーやエンジニア、漫画家の方が作業しながら聞いているパターンもあります。
男性2人の漫才のような掛け合いトークは、単純作業をしている時を楽しい時間に変えられる効果がありますよね。一方、寝る前の余暇の時間であれば、「何か良いインプットをしよう」という意識が働くこともあります。朝はいろんなジャンルのマーケターにインタビューする番組など、仕事や勉強に役立ちそうなコンテンツが聞かれやすいですね。聞いている場面によって求められるコンテンツが変わるので、最適なものをレコメンドする工夫をしています。
また、普段聞けないような珍しい職業の方やマイノリティの方のトーク番組は、人気が出やすい傾向があります。例えばホストやホステス、風俗嬢であったり、LGBTの方であったり。卑猥なコンテンツはNGですが、少し変わった職業による日常の話は人気ですね。
——配信者やリスナーに限らず、何か意外な活用例はありますか?
飲み会での会話をそのまま配信している方々がいました。飲み会って、「この前こんなことがあって……」と、最近の面白い出来事を披露する場でもありますよね。それを録音しておけば話ごと思い出が残るし、参加できなかった人に送って「○○の話、面白かったよ」と共有することもできる。飲み会での話を配信すれば面白コンテンツになるんだな、という発見がありました。
あとはオンラインサロンなどコミュニティの中で、各自が収録した番組を共通のハッシュタグを決めてアップしている方々もいました。交換日記のような感覚で、最近行った面白いイベントや本の紹介をしています。Radiotalk上でゆるく繋がっている感覚になれるのかもしれません。
——なるほど、Radiotalkを一つのコミュニケーションツールとして使っているわけですね。
目標は、Radiotalkからカンヌ受賞者を輩出?
——新たな企画、今後の予定などあれば教えてください。
新型コロナウイルス感染症対策の影響で、気軽に人と会えない状況が続いていますよね。そこで、「離れた場所にいる人とオンラインで話して配信できる機能」を4月下旬にリリースします。誰かと話すことは、精神衛生的にも効果があるようです。在宅勤務によって話す機会が減った人も多いでしょう。ラジオ配信を対話のきっかけの一つとして利用してもらえればうれしいですね。
そのほか、本来は有料で購入する「ジングル音」を無料で利用できる機能、配信したトークの再生回数と再生率を表示するアナリティクス機能を追加しました。
今後は配信者が活躍できる場所を広げていきたいですね。例えば「M-1グランプリ」のトーク版、フリートークのフェスみたいなイベントを開催したいと思っています。芸能人だけが出られるトークライブとは違う、一般人ならではの面白さもあるはずなので。
——音声コンテンツが注目されているとはいえ、まだ「素人のラジオなんて誰が聞くの?」という意見が多いかもしれません。今後どう使われてほしいのか、Radiotalkにかける想いについてお聞かせください。
玉石混交ではあるものの、すでに20万件以上のコンテンツがあるので、必ずあなたにとって最適なものが見つかるはず。それを適切にパーソナライズするのが我々の役目だと思っています。著名なマーケター、時事問題を解説している人、女子高生による等身大の恋愛話、芸人さんの漫才……などなど、ありとあらゆるジャンルのコンテンツが配信されているので、まずは探してみていただけるとうれしいです。
配信者については、地上波のラジオに出演したりお金を稼いだりすることがゴールではありません。最近では、新聞や報道などのジャーナリズムにおける功績を称えるピューリッツァー賞にも新たに「音声報道部門」が設置されました。将来的にはRadiotalkからカンヌライオンズ(国際クリエイティビティ・フェスティバル)受賞者を輩出したいですね。
ラジオを「聞く」から、ラジオを「話す」へ
実は筆者も昨年からRadiotalkを始めました。とんねるずやコサキンの深夜ラジオを聞いていた世代からすると、「スマホ1つで自分のラジオ番組が作れる」って、夢のような世界ですよね。個人的には、Twitterよりも気軽にアウトプットできている気がします。
一方で、「友達にも言えないことをRadiotalkで話す」という使い方は意外でした。若い世代は、ラジオ=新しいコミュニケーションツールと認識しているようです。
「ラジオを“聞く”から、ラジオを“話す”に変えていきたい」と語る井上さん。2020年は音声コンテンツブームが来るかもしれません。
(編集:ノオト )
取材協力:Radiotalk
さっそく検索してみまーす^^
一般の方がどんなおしゃべりをされるのか今度聞いてみます。
なかなか、発信する勇気が無い。
有るかもと