紙に負けない高精細な線を とことん画質にこだわった漫画電子書籍「全巻一冊」
ライター/ウェブ編集。2001年からウェブコンテンツ業に企画・ディレクションとして携わる。2012年よりフリーライターに。女性向けコンテンツのほか、アプリ、旅行、生活、クルマ、働き方など様々な分野で執筆中。趣味は狛犬巡り。日本参道狛犬研究会会員。
スマホやガラケーといった携帯電話だけでなく、Amazonや楽天など各社から電子書籍端末が発売されて早何年。デジタル端末で本を読むことが、当たり前の風景になってきました。
電子書籍が普及した近年、書籍のラインナップや多少の挙動の違い以外、大きな個性がある端末は登場していないように感じます。そんな中注目されているのは、2018年にクラウドファンディングで新たに誕生した「全巻一冊」です。
まるで分厚い本のような外観で、読めるのは全巻そろった漫画コンテンツ。本のように端末を開いて読むのが特徴です。また、他の端末のように通信でダウンロードするのではなく、1巻から最終巻まで入った「コンテンツカセット」を差し込んで読みます。
この端末を開発したプログレス・テクノロジーズの取締役・小西享さんに、開発の背景やこだわりについて話を聞きました。
電子“ペーパー”らしく、デザインを紙の本に寄せた
——すでに多くの電子書籍端末が販売され、スマホでの読書も日常的にみられる中、この端末を開発したのは、なぜですか?
もともと私たちは、大手メーカーのサポートとして請け負う設計業務がメインです。その中で「電子ペーパー」に携わる仕事をしていたのですが、“ペーパー”という名称なのに、ほとんど液晶画面のような取り扱いをされている点に違和感がありました。もっと紙の役割を全面に押し出さないと、と思ったのがきっかけです。
従来はハードウェアのことばかり考えて、機能を盛り込む開発が多かったんです。しかし、ハードばかりに気を取られていると、独りよがりな開発になることも。私たちは世の中が欲しがるニーズをつかみつつ、面白いものにしていきたいと考え、「全巻一冊」を作りました。
——いまや漫画だって、スマホで読む人も多いですよね。
そうですね。現在、若者のほとんどがスマホを使って漫画を読みます。特にここ10年で電子書籍の市場は大きく盛り上がりました。でも実際のところ、電子書籍の市場規模は3,000億円ほどに対して、紙の本の市場は1兆3,000億円もあるんです。「もっと価値あるものが出れば、電子書籍業界に一石を投じることができるのでは?」と考えた結果、紙の本に寄せたデザインになりました。
——KindleやKoboとは、だいぶ形が違いますね。
Kindleを見ると「電子書籍端末だな」と思うだけですが、全巻一冊はほとんど本のような形状です。お年寄りなど、まだ電子書籍になじみがない人にとっても、一歩踏み出しやすそうなデザインを目指しました。
——たしかに形状をみると、「電子書籍端末」と言われるより「本」と言われたほうがしっくりきます。でも、見た目より軽いですよね。
人間は、物の大きさを見て重さを予測します。だから、実際に手に取ってみると見た目より軽く感じてもらえるかと。逆に、この重さのままで薄くすると、重量は同じなのにより重く感じるんですよ。また、電池を入れる位置をずらしただけで、バランスが変わってきます。
——持った際の印象なども細かくチューニングされているんですね。見た目以外の特徴として、漫画全巻分をひとつのコンテンツカセットにまとめている点がありますが、このような製品にしたのはどうしてですか?
電子書籍を購入をすればするほど、古く購入したコンテンツは端末内で埋もれてしまいます。その状態ではコンテンツとして生かせていない。他にも、スマホにインストールした漫画を「読ませて」と言われても、スマホの中を覗かれるようでなんだか抵抗感がありますよね。一方で、友達の家に行って本が棚に並んでいるのを見ると「いいな、欲しいな」とうらやましくなると思うんです。
そこで全巻一冊は、どんなコンテンツを持っているかを紙の本のように見られる状態にしました。端末とは別の本型ケースにカセットを格納し、さらにブックカバーをつけているんです。コンテンツを端末内のデータとしてだけでなく、本棚に並べることもできる。スマホを見せるのとは違い、目につくところに並べられているコンテンツは、見られることへの抵抗感が少ないはず。あえて見せることで、コンテンツが生活の中で生きるデバイスにしたいなと思って、この形にしました。
——たしかに、本棚でいい存在感を放つサイズですよね。「電子書籍=ダウンロード」が主流のなか、あえてカセットという方式を採用したのはなぜですか。
ダウンロード販売にすると、データ量を軽くするため、どうしても画像を圧縮する必要があります。カセット方式を採用したのは、できるだけ原画の画質を損なわないため、データ容量をそこまでに気にしなくていいから、という理由です。
——全巻一冊で読める漫画にも、出版社の垣根を越えた作品がラインナップされていますね。ここまで作品をそろえるのはなかなか大変だったのではないでしょうか。
大変でしたね(笑)。特に出版社と関係があったわけではないので、まずお会いして情熱をお伝えして。「苦労して開発中なので……」とお願いしていました。
——では、いちから企業の窓口に問い合わせをして少しずつ交渉をされていたんですね。最初の突破口を開いたのは、どの作品ですか?
『北斗の拳』でしたね。開発中の端末も見ていただきました。
その後はクラウドファンディングを行い、最終的に2,300万円も集まりました。ここまで集まったのは『北斗の拳』の許諾がとれていたことも大きかったと思います。
——現在のラインナップは漫画ばかりですが、小説はリリースされないのですか? 全巻集めたくなるような人気のシリーズもありますよね。
ラインナップは漫画にしぼっています。活字ではなく“漫画だからこそ”という部分で、ほかのデバイスと差がでるようにチューニングしているのが「全巻一冊」の特徴です。
既存の電子書籍で使われている画像は、容量を軽くするために画質が落とされています。でも全巻一冊はそれらと比べて、とにかく画質がいいんですよ。10倍くらい大きいサイズのデータを使い、紙の本と遜色ないくらい完璧な線が表示されるようにしました。
——それは、作家さんに喜ばれそうですね。
はい。喜んでいただいていますね。『ゴルゴ13』のさいとう・たかを先生に実際の端末を見てもらったのですが、「線がきれいだね」と言っていただけて……。私たちもうれしかったです。
漫画家が描いたアート作品を再現するこだわりの画質
——30~50代男性をターゲットにされているとのことですが、実際の購入層も想定通りでしたか?
それが、想定よりも女性が多かったですね。基本は男性をターゲットにコンテンツをそろえていますが『シティーハンター』や『NARUTO』など女性に人気の漫画もあるので、バランスよく買っていただいています。
——お客様の声で印象的だったものはありますか。
Twitterで「一生の宝物になった」と言っていただいたのは、うれしいですね。その方は『NARUTO』の大ファンとのことでした。
——「こだわりの画質」という部分が、端末を手にしたユーザーにも伝わっているのがわかります。
さいとう・たかを先生がその画力のすべてを注いで描いた漫画『無用ノ介・サバイバル』が2月にリリースされるのですが、この中に付録として原画を収録しています。一般的な電子書籍の画質と実際に見比べていただければわかると思うのですが、目や顔の輪郭、影の線などのほか、文字だって画質によって違いが出るんです。
——比較データを拝見すると、本当に線が全然違いますね。さらに文字も……! こんな些細な場所にまで違いが現れるとは、意外です。
作品を描かれた先生からすると、ひとつひとつの絵がアート作品。そのことをちゃんと伝えたいと思っていました。その想いが伝わったからこそ、さいとう・たかを先生の原画収録につながったのだと思います。
——ほかの先生でも、この画質ならと許諾をくださる方がいそうですよね。画面をしっかり見ると、端末から気迫が伝わってきます。
多少画質が悪くても、人の目はある程度勝手に補正するんですよ。だから、漫画が紙から電子書籍に移っても違和感がないという人はいるかもしれません。でも、画質を落としたものを見ている事実は変わらないですし、こうやって比較して見ると差は明らか。読み手も目を肥やしておかないと、漫画でも作品の質が良いか悪いか、今後判断ができなくなってしまいますからね。
——音楽と一緒ですね。動画サイトなどで圧縮された音源に慣れてしまって、いい音がわからなくなるような。
そうですね。全巻一冊を読んだ若い人から「今までこんなにちゃんと、漫画を読んだことがなかった」とまで言ってもらえました(笑)。スマホで読んでいたときと違う感触を感じてもらえたようで良かったです。
——『銀魂』や『デスノート』など若者向けの作品もあり、さらに読者層が広がりそうですね。
現在は男性向け漫画がメインですが、今後は少女漫画も入れていきたいですね。有名な作品だけでなく、コアな作品も一緒に織り交ぜながらリリースしていこうと考えています。新しいデバイスや表現だからこそ、ひとつひとつ作家の先生から許諾をいただきながら進めているところです。今後の展開も期待してください。
NARUTOを「全巻一冊」で読んでみた
お話を聞いた後、楽天Kobo&Amazon Kindle歴5年以上、スマホで漫画を買う時はシリーズ買いをよくするという筆者が、実際に「全巻一冊」で漫画を読んでみました。
まず、その大きさにはびっくり。電子書籍リーダーは主に旅行用として使っていますが、これは難しい。しかしながら、家でゆっくり開いて読むスタイルには、バッチリだと感じました。
選んだ漫画は『NARUTO』。有名作品ですが一度も読んだことがなかったので、よい機会です。筆者が電子書籍端末で読んでいるのは、活字のみ。漫画はもっぱら移動中に、スマホで読むスタイルに慣れているからか、本当に紙の本を開いているような操作感が新鮮です。
見開きでレイアウトされたページの場合、スマホだと前後を行き来して確認することが多かったのですが、全巻一冊なら当初想定されたレイアウトで読むことができるので、ストレスが軽減されます。
もうひとつ特徴的と感じたのは、ページめくりの感覚。スマホは、かなりハイスピードでページがめくれます。それと比べると遅いですが、本来紙のページを開くときって、スマホのようなスピードでページ送りできないんですよね。読み続けると、あっという間に自分の感覚にフィットしました。スマホよりも脳の処理スピードに合わせながらページを進めている、と感じました。
いつでもどこでも、片手で……という端末とは違い、腰を据えて漫画が読める「全巻一冊」。作品の魅力とじっくり向き合えるからこそ、娯楽という一面だけでなく、作家の作り上げたアートとしても触れられます。また全巻そろっているからこそ、エンディングまで没頭できるのも魅力。最後の最後まで作品の世界を楽しみ尽くせる、そんな端末だと感じました。
少女マンガが主戦場の筆者としては、これからのラインナップに少女マンガが加わることを期待したいです。
(編集:ノオト )
※各作品は、出版元・発行元の著作物です。
©武論尊・原哲夫/NSP 1983, 版権許諾証 EJ-708
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©さいとう・たかを/さいとう・たかをプロダクション
©大場つぐみ・ 小畑健/集英社
©環望/TOブックス
<2月15日追記>
本記事において、本意ではない伝わり方にて、一部ご不快な思いをおかけする表現がございましたので、該当箇所を削除いたしました。なお、該当箇所を明示することで再度不快な思いをされてしまうと判断し、今回は該当箇所の掲載を控えさせていただきます。
ご不快な思いをおかけしましたこと、重ねて深くお詫び申し上げます。
本棚に飾ったところや実物を見ると更に欲しくなりそう(^ν^)
ちょっと調べたら、二年間は無償交換、その後は3000円で交換に応じるという記述を見つけました
>10MBチョコチップを贈る
ほかにすることはないのですか
今はkindleを使っていますが、迫力のある見開きページがスムーズに読めないのでストレスでした。
(SDカード)を販売するという形態なので、完結している作品しか販売できない
というのがやはりネックになる気がします。
それと漫画のラインナップに偏りが感じられるのも気になる印象です。
ただ、新しい電子書籍の形態として見守っていきたいと思いました。(^^
電子書籍と関係ないのに。
皆さんが言われる様に、完結した物だけと言うのがネックかも知れませんが、好きな漫画は何度でも読みたいですからね!
あと、これからは10巻区切りとかも出版?されるかも知れませんね。
今度探してみます。
書き換えの必要ないんだから専用ROMをスロットに入れる形式の方がPC等でのカジュアルコピーも防止できるのに。
それとも今は知名度を上げて本体を買って貰うために違法コピー上等ってスタンスかな?
2枚目の画像の所「全角一冊」になってます
個人的には本棚に憧れはないので並べて置いておけるという機能にはかなり懐疑的
~一部不適切な表現に関するお詫び・該当箇所の削除対応報告について~
いつもマイネ王をご利用いただきましてありがとうございます。
マイネ王運営事務局です
本記事において、一部ご不快な思いをおかけする表現がございましたので該当箇所を削除いたしました。この度はご不快な思いをおかけしましたこと、深くお詫申し上げます。
今後ともmineoをよろしくお願い申し上げます。
やっぱり紙の本が一番長持ちするんだろうな。
購入以外に貸本とかあると、もっと嬉しい(^o^)/
個人的に画質云々より目にどれだけ負担がかからないかが重要かな。
画質が良いのが結果的に負担減になっているのかもしれませんが・・・
あと、物理的に本を減らしたいと思う方なので端末内の本棚にたくさん並べて、リアルをスッキリさせたい笑
でもこういう風に色々と考えて切磋琢磨していかないと、良いものは育っていかないと思いますので、頑張って下さい(﹡ˆ﹀ˆ﹡)♡
( ´∀`)
最近はKindleの本も100MBを超える本が多くなり画質は良くなっていますが、新しく作られた本が中心ですので、特にコンセプト上古い作品が多いこのシリーズの大きな売りになると感じました。
電子世代としては、具体的にどの程度画質が良いか、例えばファイルサイズや解像度など数値化されると分かりやすいと感じました。
また問題は見開き表示でしょうか。額縁が大きく作品を分断してしまうので、この部分はタブレットの横向き表示の方に分がありそうです。
ただ、つなぎ目のない見開き表示も新しい作品が中心ですので、古い作品が多いこのシリーズにはあまり関係のない話なのかも知れません。
乾電池式なのは良いですね、分かっていらっしゃいます。
欲を言えば薄型で防水だったらいいですね、、夢が膨らみます。
まずは価格とコンテンツでしょうか。
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#マイネ王5周年おめでとう!
ありがとうございました。
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