『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』永濱 利廣 著 日本病の光と影
先日、ある投稿で紹介されていた『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』ですが、投稿では本の趣旨とは違ったことが書かれていたので、簡単に概要を紹介してみます。
長らく続く日本の低成長、そして私たちの給料がなかなか上がらない現状について、明快な筆致で分析されており考えさせられます。
この本は、22年の発売当時に問題になっていた「低所得」「低物価」「低金利」「低成長」というる四つの要素について、それぞれがなぜ生じているのかを丁寧に解説しています。
その上で、私たちの生活をじわじわと締め付ける「スクリューフレーション」(中低所得者層を苦しめるインフレ)という現代の新たな問題にまで言及し、最後に今後日本が取るべき具体的な施策が提示されています。
著者の立場が、政府と日本銀行のこれまでの政策、特に量的緩和の遅れや消費増税のタイミングの誤り、財政出動の不足に「日本病」の主要な原因があるとしている点は、賛否は分かれるかもしれませんが、主張は一貫しており非常に分かりやすいです。
アベノミクスについては比較的肯定的な評価を与えつつも、消費増税を厳しく批判している点からは、特定の政権を盲目的に持ち上げているわけではないという著者の客観的な姿勢も感じられました。
著者が考える解決策が明確に示されていることは、議論の出発点として大変価値があると感じます。
しかしながら、疑問に感じる点もあります。
特に気になったのは、著者が「政府と中央銀行の失政が全て」と強調するあまり、議論がやや一方的になっています。
例えば、著者は日銀による「異次元の金融緩和」が遅れたと批判していますが、実際にはこの異次元緩和は10年近くも続けられています。にもかかわらず、当初期待されたような経済の劇的な回復は実現していません。
この事実を考えると、金融政策だけで全ての問題が解決するわけではないのではないか、あるいは金融政策だけでは解決できないもっと根深い原因があるのではないかという結論が見えてきます。
政府や中央銀行の政策が重要であることは疑いようもありませんが、そこまで日本病の責任を負わせるのは、的外れです。
詳細に述べるなら、二つの点で疑問を感じます。
一点目は、「政府の借金を考える際に日銀保有の国債残高を除く」という議論です。著者は、経済学でいう「統合政府」の考え方に基づき、日銀が持つ国債は政府の借金と相殺されるから、実質的な借金は軽いと説明しています。
確かに、統合政府として見ればバランスシート上は相殺されます。しかし、異次元緩和で日銀が国債を買い入れる際、その対価として民間銀行の日銀当座預金が増えています。
この日銀当座預金は、日銀にとっては借金です。つまり、統合政府全体で見ると、変動金利である日銀当座預金に借金の借り換えをしているに過ぎず、著者が言うように、日銀が保有する分だけ借金が軽くなるという説明は、日銀側の借金部分を無視しています。
二点目は、日米のマネタリーベースの推移の見せ方についてです。本書の図表では、日本のマネタリーベースの拡大が米国よりも遅かったことが、日本経済衰退の一因とされています。
しかし、経済規模を考慮せず単純な数値で比較するのではなく、例えば人口1人あたりやGDP比で見た場合、日本はかなり早い段階(2000年代初頭)から、経済規模に対して大規模な金融緩和を行っていた可能性が示唆されます。
つまり、金融政策がもっと早く打たれていればという結論とは異なり、金融政策だけでは解決できない別の構造的な問題があることが示唆されます。
最後の章で、永濱 利廣氏が今後取るべき施策を具体的に提示している点は、本書の議論に一貫性を持たせていると思います。
しかし、第一次産業に大きな可能性といった提言が出てきた時には、それまでのマクロ経済政策の議論との繋がりが薄く、おかしな印象を与えます。
総じて、本書は日本病の現状と原因について、非常に刺激的な問題提起をしており、多くの方が共感する部分も多いでしょう。
しかし、その原因を政府や中央銀行の政策に集約しすぎる点や、具体的な経済学的な分析において、もう少し多角的な視点や異なる解釈の可能性も考慮すべきでしょう。



(画像)「日銀保有国債の永久債化も選択肢」 第一生命経済研究所 永浜利広首席エコノミスト
上がらぬ物価、日銀どう動く リフレ派3氏に聞く(2017年)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ20H4J_Q7A720C1000000/
「国債を買う量を増やすことは限界が近づいている。海外から『為替介入だ』と言われなければ、外債購入がよい。それが無理なら日銀保有国債の永久債化に踏み込むしかなくなる。」
この発言は、後の「日銀は政府の子会社」論と同類 と感じます
>> _カブ さん
(画像)安倍元首相の発言「日銀は政府の子会社」の何が正しく、何が誤解なのか(2022年)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/93af79b9aa5694e05451625b5c7a40d21404d17e
(記事筆者のコラム)
日銀が国債買い切っても負担なき財政再建はムリ(2016年)
https://cigs.canon/article/20160404_3570.html
>> _カブ さん
安倍元首相「日銀子会社」論の背景にある狙いとは【解説委員室から】(2022年)https://www.jiji.com/jc/v8?id=202205kaisetsuiin026
政府が中央銀行を抑え込もうとした構図は、現在のアメリカも同様 と考えられます
>> _カブ さん
(画像)日銀新体制の課題⑩:ETF購入策に出口はあるか⑤:ETFオフバランス化のスキーム(2023年)
https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20230222.html
日銀に回されたツケは、国民が払わされることになります
デモしない
自分から権利を主張しない
>> _カブ さん
そうですか…永濱氏がコンソル国債の提案を。米は発行再開して日本保有分をそれに置き換えるという話がでています。
>> _カブ さん
よくこんな前のレポートを探しましたね。この頃は経済原理を学んでいませんでした。いずれイールドカーブのスティープ化が顕著になりそうです

>日本はかなり早い段階(2000年代初頭)から、経済規模に対して大規模な金融緩和を行っていた可能性が示唆されます。格付け三社による日本国債の格下げが行われ、財務省が意見書を出したのが02年4月。この頃ですな。
その時の財務官が日銀前総裁の黒田さん(添付画像)だったわけですが、意見書の内容がMMTそっくりw
あの時、大和や武蔵級の超弩級な国債を投下してたらどうだったんだろうね?
丁度それから10年ぐらい前の92年にイギリスの日銀にあたるイングランド銀行がソロス一味に負けちゃった事があった(ポンド危機)
98年にはタイ・バーツがやられてアジア通貨危機ですよ。だからあれは仕方なかったかもしれない。
もっとも日本は日銀以外に年金基金、3共済(地共連+国共連+私学共済)、郵貯、かんぽの公的マネーが連動して動いて
ヘッジファンドが仕掛けて日本の国債を下げても、下がってところで巨額な資金に物を言わせて踏み上げるので、奴等は日本国の養分にしかならない。
その跡をスキップしながら付いてってお小遣いを貰ってるのがゴミの私なんですけどねw
消費税減税分+給付金以上は、すでに頂いております。ゲヘヘw
おまけ。
6年位からMMTの時期は去ったとか言ってる、すごい相場観の持ち主・黒田さん。
https://jp.reuters.com/article/world/-idUSKBN1XN03R/
>> がんばるじゃん@中世"JAP"ランド さん
国債先物取引かミニをされているのですか。超長期先物取引ならやってみたいです。黒田さんは若い頃ケインズの高弟ハロッドと留学中に会ったそうです。
ケインズ経済学の真髄をご存じのようです。
そのため、日銀の政策はMMTなどというものとは違うと明言されています。
>> sawa875 さん
日本株を選挙前は順張り、ショック時には超逆張りで売買してます。