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会社より頭脳を買う時代へ

これからの会社の買収は、違った形になるかもしれません。
狙われるのは会社の中心にいるエンジニアたちそのものです。

最近、米グーグルがAIのスタートアップ企業から、会社そのものではなくCEOをはじめとするトップクラスの技術者チームをごっそりと引き抜いたというニュースは、まさにそんな新しい時代の幕開けを感じさせます。

これは、単なる転職話ではありません。グーグルが支払う金額は、ライセンス料などを含めて約3500億円。まるで会社を丸ごと買収するような巨額のお金が、人のためだけに動いたのです。

このような頭脳だけの買収が、今後増えると見込まれます。理由は大きく二つあるように思えます。

一つ目は、スピードです。AIのような最先端の分野では、技術の進化がすさまじく速く、一年後には世界の景色がまったく変わっているでしょう。

自社でゼロから人材を育てていては、到底追いつけません。それならば、既にとてつもない技術を持っているチームを丸ごと迎え入れた方が、一瞬でトップレベルに立てます。時間をお金で買う、究極のショートカットです。

二つ目は、ルールの抜け道です。グーグルのような巨大企業が他の会社を買収しようとすると、市場を独り占めするつもりではと国から厳しいチェックが入ります。

手続きに時間がかかったり、最悪の場合は待ったがかかったりします。しかし、優秀な人材を雇うという形なら、この厳しいチェックを避けやすいのではないでしょうか。これは、ルールを守りつつも、賢く競争を勝ち抜くための新しい戦略のように思えます。

この流れは日本のIT企業にとって、他人事ではありません。むしろ、非常に大きな影響を及ぼす静かなる脅威となる可能性があります。

最大の問題は、日本の宝である優秀な技術者の流出です。 

日本の企業でAI開発に情熱を燃やす若きエンジニアが、世界的な巨大テック企業から例えば「あなたのチームに、今の年収の何十倍も支払います。世界を変えるプロジェクトに参加しませんか」と誘われたら、どう思うでしょうか。心が揺れ動くのは当然です。

これが日本中で起これば、国内のIT企業は最も重要な頭脳を失い、競争力をどんどん削がれていくことになります。 

グローバル企業が最新鋭のAIで世界を席巻する一方、日本はそれに追いつくためのエンジンそのものを失ってしまう、そんな未来さえあり得るように思えます。

では、日本の企業はどうすればいいのでしょうか。

お金の力だけで巨大企業と戦うのは困難です。だからこそ、別の魅力で勝負する必要があります。それは、技術者がここで働きたいと心から思える環境を作ることです。

例えば、年功序列ではなく実力で正当に評価される文化、失敗を恐れずに挑戦できる自由な風土、そして社会の課題を解決するといった、お金だけでは得られないやりがいを提供するのも一つの手です。

今回のグーグルの動きは、企業価値の中心が会社というはこから人という頭脳に移ったことを象徴しているように見えます。

それは日本のIT企業にとって大きな危機であると同時に、働き方や組織のあり方を根本から見直す絶好の機会でもあります。

この新しい時代の変化の波に乗り遅れるか、それとも乗りこなすか。今、日本のIT業界全体が、その岐路に立たされている気がしてなりません。


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