消費税増収を巡る議論の裏側

消費税は社会保障財源、この原則は、国民が消費税増税を受け入れる大きな理由の一つでした。しかし、その増収分が具体的にどのように使われるかとなると、途端に複雑な議論が持ち上がります。

特に現在、4兆円に上る消費税の増収分を、医師らの賃上げに充てるべきだと医療界や厚生労働族議員が強く主張している状況は、彼らが自分たちの利益を優先しているのではないかという疑念を抱かせざるを得ません。

確かに、物価上昇の影響で医療機関の経営が厳しいという現実や、全産業平均を下回る賃上げ率（2.5% vs 4.1%）は理解できます。医療現場で働く方々の努力と貢献は計り知れません。しかし、ここで考えるべきは、医師という職業の平均年収の高さです。

厚生労働省の調査によれば、病院勤務医の年収は約1460万円、開業医に至っては約2630万円と、社会全体で見ても非常に高い水準にあります。この事実を前にして、さらなる賃上げを消費税の増収分から求める主張は、一般の国民感情とは乖離があると言わざるを得ません。

消費税は社会保障財源という大義名分を掲げながらも、その恩恵を医療分野に限定して回すべきだと主張する姿勢は、社会保障全体を見渡す視点に欠けているように見えます。

社会保障には医療だけでなく、年金、介護、そして喫緊の課題である少子化対策など、多岐にわたる分野があり、それぞれが財源不足に直面しています。財務省の説明によれば、国の社会保障経費は34兆円に上り、消費税収だけでは依然として13.9兆円もの不足が生じています。

この状況で、特定の分野、しかもすでに高水準の収入を得ている層の賃上げに優先的に資金を投入することは、他の社会保障分野のニーズを無視し、国民全体の利益に反する可能性が高いのです。

さらに懸念されるのは、医師の賃上げのために診療報酬を大幅に引き上げれば、それに連動して患者の窓口負担が増えたり、会社員らが支払う社会保険料率の引き上げにつながったりする可能性がある点です。

これは、与野党が一致して訴える現役世代の保険料負担の軽減という目標に真っ向から逆行するものです。国民の負担を軽減するどころか、むしろ増やす結果になりかねません。

社会保障の充実という言葉は、本来、国民全体の安心と生活の安定を目指すものです。しかし、今回の医師会の主張は、その大義名のもとに、自らの業界の利益を最大限に追求しているように映ります。

政治家や国民は、増えた消費税収の扱いを巡る年末の予算編成において、特定の団体の声に安易に流されることなく、国民全体の視点に立ち、真に社会保障全体を充実させるための賢明な判断を下すことが求められています。

そうでなければ、消費税は社会保障財源という原則は、一部の既得権益を守るための隠れ蓑と化してしまうでしょう。