トランプ減税の虚像 支持者を裏切る持たざる者への残酷な現実
トランプ米政権の減税・歳出法は、アメリカ・ファーストの名の下、多くの国民に恩恵をもたらすかのように見えます。しかしその実態は、トランプ氏の支持層が抱く期待とは裏腹に、中間層や低所得者層をさらに貧しくし、社会の分断を深める可能性が高いのです。
所得減税の恩恵は、所得税を多額に納める富裕層に集中します。米国では所得税収の9割近くを上位25%が負担しており、減税すれば恩恵が富裕層に偏るのは避けられません。
飲食店員らのチップ収入非課税化も、所得税を納めない低収入層には意味がなく、低所得者層が減税の恩恵から取り残される構造です。
一方で、社会保障給付のカットは、低所得者層に直接的な打撃を与えます。不法移民への不満が背景にあるとされる給付カットは、トランプ氏を支持する多くの持たざる者の生活を、より厳しくする可能性が高いのです。
すでに戦後最悪の格差が広がる米国社会において、この政策は、富める者をさらに富ませ、持たざる者をさらに苦しめる、矛盾した現実を突きつけます。
ここで、日本の税制を振り返ると、米国のトランプ減税とは異なる方向性が見えてきます。日本は、給与所得に対する所得税において、米国と同様に累進課税を採用しつつも、より高所得者層に負担を求める構造が強く、全体として富裕層には厳しい税制です。日本には世界でも有数の富裕層に厳しいシステムとなっています。
その中でも、株式の売却益や配当などの金融所得については、所得の多寡にかかわらず一律約20%の分離課税が適用される1億円の壁が問題視されています。
この点は、高額な金融所得を持つ富裕層にとって、税負担が軽くなる例外として議論されており、現在、野党や与党の一部から、この1億円の壁を是正し、金融所得にも累進課税を導入することで、さらなる格差是正を目指す動きが出ています。
つまり、日本は全体的に富裕層に負担を求める税制でありながら、さらにその公平性を追求しようとしているのです。これは、米国のトランプ減税が格差を拡大する方向へと進むのとは、明確に対照的な動きと言えるでしょう。
トランプ減税は、アメリカ・ファーストという言葉の響きとは裏腹に、その政策が多くの支持層を持たざる者として置き去りにし、社会の分断を深める皮肉な結果をもたらす可能性があります。米国の現状は、税制が社会に与える影響の大きさを改めて示しています。

