【小ネタ】おどうぐばこ

まだあったんや、と思った。

小学校の机に必ず入っていたもの。
そう、ハサミとかの工作道具を入れておくあの箱。
「そういえば桃姉、学校で買わされたおどうぐばこが気に入らんとか言って変な箱使ってなかったっけ？」
姪っ子の『おどうぐばこ』を懐かしそうに眺めていたわたしに、妹が茶々を入れてくる。
『あれは学校推奨品のおどうぐばこが中途半端なサイズで使いづらかったからだ！』
「確か乾物かお茶の葉が入ってたブリキの缶を……」

『うるさいっ！あの缶はサイズ感が丁度良かったから重宝してたんだ。缶の中に仕切りとか作って……』
「で、今も工具箱の中は神経質なくらいに整理整頓されてるってワケだ」
『アレは工具を紛失しないよう、置き場所を決めてあるだけ。作業に入って、中に置き忘れでもしたらエラいことになるからね』
「この子のおどうぐばことは正反対やね」

姪っ子のおどうぐばこ、開けてみたら中は混沌とした状態。どこにナニが入っているかなんて、本人でもわからないだろう。
ハサミとか色鉛筆に、何故かどんぐりとか松ぼっくりまで。中から虫さんがコンニチハしても知らないよ。
中身を眺めていたわたしは、あるものに気づいた。

コレ。
フエキくんの糊。どうぶつのりって名前だったかな。
そうそう。わたしがチルドレンの頃に、コイツを買ってもらおうとしたっけ……🤔

もともとおどうぐばこに入っていたのは、同じフエキ糊でもこっち。至ってシンプル。
工作とか好きだったから、糊はたくさん使う。で、なくなるたびにあの糊を母ちゃんに買ってもらおうと企んだんだけど……

『母ちゃん、おどうぐばこの糊使っちゃったから、新しいのん買うて』
「糊の容器持って帰っておいで」

ほんでもって、
「ほい」
空いた容器に洗濯のりをムニュムニュっと詰められて終わり。
こんな状況が続いたら、いつまで経ってもフエキくんにはたどり着けない。ご近所さんの障子を全て張り替えるくらい糊を使っても、わたしのもとにフエキくんは来ないのだ。

どうしてもどうぶつのりが欲しい。
わたしは一計を案じた。
そうだ！
糊の容器を捨てちゃえば、新しいものを買って貰えるハズだ。
糊を使い切ったその日、わたしは小学校の隅にある焼却炉に糊の空き容器をポイッとしてから帰宅。
『母ちゃん、糊使い切ったから新しいのん買うて』
「容器は持って帰ってきた？」
『うっかり捨てちゃった😰』

母ちゃんは一瞬何かを案じた後、
「ほいだら買い物行ってくるわ。お留守番してもらう間、冷蔵庫のシャーベット食べてて」

しめしめ。これでおどうぐばこの糊はフエキくんになるハズだ。わたしはニヤニヤしながらシャーベットを堪能する。
ここで母ちゃんが前と同じ糊を買ってくるんじゃないかという不安はなかった。所詮はチルドレンの浅知恵、そこまでリスクなんて考えない。

シャーベットの容器が空になった頃、母ちゃんが戻ってきた。
「食べたらスプーンとか流しに入れといてや」
『ほ～い』
ルンルンでお片付けしたあと、わたしは自分の部屋でフエキくんとのご対面を心待ちにしていた。買い込んだ食料品なんかを冷蔵庫に仕舞ったあと、母ちゃんがフエキくんをわたしの部屋に持ってきてくれるハズだ。
「糊買うてきたでぇ」

『へっ？』

違うよ母ちゃん。そうじゃないだろう。
母ちゃんから手渡された、コレジャナイ感満載の糊とは……

わたしがさっきまで食べていたメロンシャーベットの容器に詰められた洗濯のり。

『えええぇぇぇっ！』

小学生が想像する遥か斜め上をいく発想。
母ちゃんがいつどこでそんなことを思いついたのかはわからないけど……
フエキくんに会えなかったショックは一瞬にして消し飛んだ。暫くして笑いが込み上げてくる。ナニこれ、めちゃんこ面白いやん。


姪っ子のおどうぐばこに入っていたフエキくんを暫く弄くり回していたら、妹がそのことを思い出したようだ。
「そう言えば桃姉、メロンシャーベットの容器に洗濯のり入れて使ってたなぁ」

妹よ、あのメロンシャーベットにはキミの知らない真実が隠されていたのだ。
きっと妹は、わたしが面白がってやっていたと思い込んでいるんだろうなぁ😰😰😰