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【読み物】走れ、駐在さん!➀一本の電話が変える運命

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このお話はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

文学少女モードの河嶋さん、久々の登場です😁

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…夜勤明けで、微睡み始めた俺を邪魔する奴がいる…

「パパ、起きて。なんか大事な電話みたい」
妻の切羽詰まったような言葉で俺は目覚めた。
『…何かあったのか?』
妻が申し訳なさそうに告げる。
「いや、あの…事件の一報とかじゃないんだけど…五十嵐巡査部長からの電話なの」
五十嵐巡査部長。俺が警察学校に入った時の教官。
何年かの交番勤務を経た俺が、交通機動隊に配属された時の教育係。俺の警察官としてのキャリアは、あの人により始まったからこそ今の俺がいると言っても過言ではない。
俺は慌てて電話口に出た。
『お待たせしました。日比野です』
「久しぶりだな…調子はどうだ?」
いつもと変わらない、渋くて落ち着いた声。普段は温和だけど、怒ると手が付けられない人。今日はどうやら『優しいモード』のようだ。
『ご無沙汰しています。おかげさまで仕事も順調です。あの、五十嵐さん…どうかされたんですか?』
「…何をそんなに警戒してるんだ」
『いえ、あの…五十嵐さんからお電話いただくなんてあまりなかったような、と言いますか初めてでは…』
五十嵐さんは悪戯がばれた子供のようにクスクスと笑った。
「そうだ。日比野の言うとおり、俺からお前に電話をかけたことなんてない。今日が初めてだ」
『やはり、そうでしたか…』
「それはそうとよ、来週辺りウチに遊びに来ないか?」
五十嵐さんが思いがけない言葉を口にする。
『えっ?どういうことですか?確か五十嵐さん、駐在所勤務でしたよね』
「それも今年度で終わりだ」
確かに。年齢で勘定するともう定年。月日の経つのは早いもんだ。
「だからな、俺の最後の姿をお前に見せておこうかと思ってよ…駐在所に部屋は幾らでもあるから、嫁さんと娘の未来(ミライ)ちゃん連れて二、三日遊びに来いや」
『とは言いましても、勤務が…』
「そんなもん、どうにでもなる!まあ、今ここで返事しろとは言わないから。いい返事を待ってるぜ」
そう言うと、五十嵐さんは一方的に電話を切ってしまった。

この一本の電話から、俺の人生は大きく変わることになる。


「おい、日比野」
『はい、何ですか課長』
「五十嵐巡査部長殿からの話、聞いただろ」
『ええ、まぁ…あまりにも唐突で一方的な話だったのでまだ何の返事も…』
「俺にも連絡があってな、俺からオッケーしておいた」
『何でそんなことを本人以外が決めるんですかっ』
 課長は立ち上がって腕組みをすると、ドヤ顔で俺に告げた。
「上司の命令だ。いいから行ってこい」


「五十嵐巡査部長がいらっしゃる駐在所って田舎にあるって聞いてたけど、えらい山奥に入っていくのね…ねえパパ、道はここで合ってるの?」
『ナビの設定も間違えていないはずだから、もうすぐだと思うんだけど…もう町には入っているから…それよりママ、未来の具合はどう?』
「う~ん、さっきから喉が鳴っているような気が…喘息発作の前触れでなきゃいいんだけど」
『じゃあちょっと休憩しようか…あ、その先を曲がったら展望台があるって』
俺たちを乗せた車は、展望台の駐車場に滑り込んだ。発作が起きるといけないので、俺は未来を抱っこして展望台の階段を上る。妻が俺に続く。
『へぇ…凄い景色だな』
「綺麗ねぇ…」
妻がそう言って大きな伸びをする。
「きれい、きれい」
未来が妻の真似をして精一杯背伸びしてみせる。言葉を覚え始めてから、娘の未来は何でも妻の真似をするようになった。
「あれ?未来の喉…」
『音が止まってる…』
未来は、展望台のベンチによじ登り両手を大きく広げると深呼吸した。
「パパ。ママ。ここ、いいところ。みらいはすきっ!」
「空気が綺麗だと、発作も起こりにくいのかもね」
妻がそう呟いたとき、俺は駐車場に誰かが入ってくるのを視界の隅に捉えた。ゆるゆると駐車場に進入してきたのは、いわゆる小型ワゴンタイプのパトカー。
「あ、パトカーだ!」
そう言って駆けだそうとする未来を抱きかかえると、俺は展望台の階段を駆け下りた。パトカーから降りてきたのは、紛れもなく五十嵐巡査部長その人。
「あ、おまわりさんだ!」
「こんにちは、未来ちゃん」
『お招きいただきましてありがとうございます。暫くお世話になります。しかし五十嵐さん、娘の名前をよく覚えて下さって…』
「あれだけ親莫迦全開の年賀状貰ったら、名前と顔くらいすぐに覚えるさ」
「いやあ、あの年賀状をデザインしたの、実は私なんですね…なんか恥ずかしいな…アハハ。あ、ウチの主人がいつもお世話になっています。妻の仁美と申します」
「ねえねえパパ、おまわりさんのおなまえ、いがらしさんっていうの?」
五十嵐さんが未来の前で片膝をつく。
「レディに挨拶もしないだなんてとんだ失礼を。わたくし、中山県警西住町駐在所の五十嵐と申します。よろしくお願いします」
俺が同じことをしたら逆に失礼とかふざけているとか思われるんだろうけど、五十嵐さんの凄いところはこういうことをやっても全く嫌味がないところ。というか逆に格好いい。
「ひびのみらいです。こちらこそよろしくおねがいします!」
未来は胸に手を当てて、恭しくお辞儀をする。
『あいつ、いつの間にあんなことするように…』
「あ、あれ?多分私が部屋のお掃除をしながら歌劇団のDVD流しっぱなしにしてるからだと思う…まさか未来がそれを見ていたとは…参ったなこりゃ…」
妻はそう言って頭をぼりぼり掻いていた。
『それはそうと、よく僕たちがここにいるってわかりましたね』
「Nで手配してたからな」
『…!駄目でしょ、そんなことにNシステム使っちゃ!』
「冗談だよ。まあ、簡単に言うと警察官の勘ってやつだ。お前のことだから、早めに来るに違いない…で、この道を登ってくる大抵の奴は、疲れてくる上に道が合っているかどうか不安になるからここら辺で小休止を考える訳だ」
そこまでお見通しでしたか…恐れ入ります…
「あと、嫁さんの歌劇好きは続いてるみたいだな。舞台みたいな挨拶はあれで良かったのか?」


この時点で、俺は五十嵐さんに完全に支配されていたようだ。


9 件のコメント
1 - 9 / 9
いよっ!久々の文学少女😁
また楽しませてもらうよー
今回は何話完結かなー😉
結末が読めたような気がする.......
ストーリーの世界に引き込まれました!ほんと、文章お上手~~
ひゅ~~~ 
未来ちゃん、しっかりしてますね。かわいいです。
続きが楽しみです。

>> なかっぴ さん

予定では三話です🍑

ボチボチ進めますよ😁

>> りんごのひとりごと@ぐ〜たら居士 さん

ふふふのふ😁🍑
想像通りの結末になるかどうか🤔

第一話をアップした時点で最後まで書き上げているので、結末が変わることはありません😃

>> まきぴ~ さん

『日比野未来(ひびの・みらい)』
けっこうお気に入りの登場人物です😃
一日を一生懸命生きて、それを積み重ねるから未来がある
名前の由来はそんな感じです

別の読み物に、未来ちゃんとお父さんがしれっと登場しています😁😁

>> ポンコツ河嶋桃@ほんなら、さいなら🤗 さん

>想像通りの結末になるかどうか🤔

私は登場人物が皆優しくて、ホノボノ、ハッピーエンドが好きなので、私の想像通りの結末であって欲しいと願っています。^_^
😃

いつもありがとうございます。

続きもよろしくね。
ここまでは普通の展開…
さて、この後のイベントはいかに。
4回転半位ひねってくるのだろうか?🤔