社長令嬢

どよ～ん。

後輩ちゃんが、だれがどう見てもわかるくらい凹んでいる。
『どうした？何かあったの？』
「河嶋さん、あたしの車はご存じですよねぇ」
知ってる。大斎原を目指すときに、どピンクの車で来たことは忘れられない。
「ぐすん…そんなに大きなダメージじゃないんですけど…昨日バンパーを軽く擦ったんです。擦った後をそのままにしてたら、下手くそなヤツだと思われそうで…でも、修理の見積もり取ったら結構な金額で…」
スマフォで撮った写真だから解像度はアレだけど、見た限り大した傷じゃない。
『この程度なら、ウチの連中にお願いしたら昼休みか終業後にマッハの勢いで修復してくれるぞ。で、この傷…どこで擦ったの？』
「家のガレージにある灯籠です…」

ちょっと待て。

普通の家ならば、ガレージに灯籠を置くヤツはいない。
て言うか確か後輩ちゃん、家を出て一人暮らしをしているはずでは？？
「駐車場借りると結構な金額になるんで、両親にお願いして実家の敷地内に車を置かせてもらえることになったんです」
？？
ならば、実家の近所で一人暮らしを始めたのか？
「一人暮らしって言うか……何でしょう、『スープどころか釜揚げうどんも冷めない距離？で独立したんです」
余計に意味がわからない。落ち着いて、順序立てて説明してくれるかな…
「あたしの親、実はとある会社の社長なんですね……で、子どもの頃から『親のすねかじりで生きていけると思ったら大間違いだ。学校を卒業するまでは好きにしたらいい。そこまではどんな夢でも叶えてやる。但し、学校を卒業した後は自分の力で生きていけ。後のことは知らん』って言われてたんです」
で、実家に車を置く話との関連性が理解出来ない。
「就職してすぐ、あたしは家から追い出されたんですぅ。とはいえ、いきなり外界で一人暮らしっていうのは両親も不安だったみたいで」
だからどうした。
「で……実家の敷地内にある家を借りて…あ、モチロンお家賃は払ってますよ！光熱水費は自分で契約して」
『後輩ちゃんに幾つか質問がある』
「はい、何でしょうか」
『何故ガレージに灯籠があるんだ？』
「ああ…それは手入れをしなくなったお庭に父が車を放り込んでいたからです。あたしも置かせてもらえませんか？ってお願いしたらお家賃＋αで承諾してくれて」
『ちょっと待って。じゃあ、後輩ちゃんは親御さんの住んでいる敷地内で一人暮らしをしている？そういうことでいいのかな』
「そういうことです。敷地内に空いてる家があったんで」
『空いてる家？そこに誰かが住んでたの？』
「あたしが子どもの頃はお婆さんが住んでいましたね」
『親族？』
「いえ、違います。血縁関係は無いはずです。ただ…」
『ただ、ナニ？？』
「あたしのことを『お嬢様』って呼んでましたね。どこの誰かは知らないですけど。アハハハ」

それって『住み込みの家政婦さんが住んでた家』じゃね？
営業所に配属されたとき「どこか凄い家のお嬢さんらしい」って聞いてたけど…


夕刻だけのアルバイトを雇う余裕すらなかった河嶋飯店（仮）からすると理解出来ない。

お金って寂しがり屋でさぁ……
独りでいたくないから、みんながいるところにどんどん集まっていくんだって。