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儚い恋と、故郷の海。

何年前のことだろう。
日々の生活に埋もれて、すっかり忘れていた。


どうでもいいような、あるあるな恋バナ。

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「河嶋……ちょっと時間ある?」
『へっ?あ、まぁ……少しだけならいいけど』
高校生活も間もなく終わりを告げようかというその頃。
一日の授業を終えて帰り支度を始めたわたしを、カレは唐突に呼び止めた。
「ちょっとだけ伝えたいことがあるねん」

いつの頃からだろう。カレのことを何となく意識するようになったのは。
きっかけはよくある話。
クラスで席が隣同士だった、ただそれだけ。
飛び抜けて成績がいいわけでもなく、スポーツ万能でもない。全てにおいて『平凡』という表現がピッタリくるような男の子。
ただ一つだけ、他の子とは違っていたこと。
それは『底抜けにお人好しだった』こと。
それって褒め言葉か?と言われそうだけど。
人の気持ちにそっと寄り添うような優しさと、周りの人を包み込むような広い心を持った奴。
わたしがカレに惹かれるようになるまで、そう時間はかからなかったような気がする。
わたしのクラスはノリがいい子ばかりだったから、みんなでよく遊びに行った。電車で都会に遊びに行ったり、夏はキャンプに行ったり…
カレは決して先頭に立つようなことはしなかったけど、いつも誰かを支え、盛り上げていた。
キャンプの夜なんか、花火そっちのけでカレのことずっと見てたっけ…
そんなカレに突然呼び出されたわたしは、ドキドキしながら高校からほど近い海岸まで自転車を漕いだ。

「河嶋…卒業したら大阪に出るって聞いたけど……」
『うん、大学に進学するから…家から通える距離じゃないし…大学の近所にアパート借りたから、当分そこで一人暮らしってことになるのかな』
Pコートが汚れることなんかお構いなしに、防波堤に寝転がりながらわたしは答えた。
「そっか…じゃあ、俺が大阪に遊びに行くときは河嶋の家に泊めてもらってもいい?」
『あほかっ!確か君、大阪市内に親戚がいるって言ってなかったか?伝手を頼って泊まるんならそっちにしなさい』
「そうは言うけど、親戚の家に泊めてもらうのって何か気を遣うし……」
『…わたしにも気を遣え』
「ほんまやな。ごめんごめん!お気を悪くなさらずに!」

わたしの進学話が一段落すると、何か気まずい感じの沈黙が二人を支配した。防波堤に寝転がったまま、二人で空を見上げる。

「あのさぁ」
唐突に声を上げたカレ。
動揺を隠せないまま、カレにぎこちなく微笑む。
『急にどうしたの?いつもの君らしくもない』

「河嶋って、好きな子とかいる?」

いるよ。君の目の前に。
それが誰かなんて、君の前ではゼッタイに言えないけど。
『……いる』
「ええっ!なんか意外な答え!で、どんな人?」
君だよ。
いい加減気付いてくれ。
これ以上乙女に恥をかかせるな。
『君の知らない人だ』
「…そっか。そうなんだ」

カレが急に立ち上がってスタスタ歩き始めたと思ったら、今度は急にこちらを振り向いた。

「実は……俺……あ、隣のクラスにいてるサチコちゃんって知ってる?」
知ってる。文化祭の時、二人で楽しそうにしてたじゃん。
「先週、あの娘に告白されてん」

……!

わたしは、言葉を選びながら重い口を開いた。
『……答えはどうしたの……?』
「明日、返事するって答えた」
『なんて答えるかは?』
「まだ決めてない。なぁ、河嶋はどう思う?」
何故その質問をわたしにするんだ?その意図がわからない。というかあまりにも残酷だ。
君はわたしの想いなんて知らずに言ってるんだろうけど……
『その答えは、人に聞くもんじゃなくて自分の心に問いかけるもんじゃないかな…サチコちゃんのことをどう思っているのか、自分の気持ちに正直になって…』
自らの思いとは真逆の言葉が次々と紡ぎ出される。
違う、そうじゃない!

君のことを想い、恋い焦がれる奴はもう一人、
いま君の目の前にいるんだ!

「河嶋にそう言ってもらって、なんか頭の中が整理出来たような気がする。変な話してごめんな」
『この貸しは卒業式までには返してもらうから』
「わかった。明日、学食で腹一杯喰わせてやるから」
『安っ!でも…まあいい。君には特別サービスってことにしておこう。で、決心はついたの?』
「うん」
『だったら、さっさと家に帰って飯食って風呂入って歯磨きして寝ろ。さあ、決意が鈍らないうちに!』
「あれ?一緒に帰ら……」
『いいから早くっ!』
「わかった…でも、最後に一つだけ」
『何?』
「河嶋も、好きな人と……」
『わたしのことなんかどうでもいいから、さっさと行けっ!』
慌てて自転車を漕ぎ出すカレを見送ったあと、わたしはぼんやりと海を眺めていた。

鉛のような色をした冬の海。
空も日が沈み、わたしの心のように影を拡げていく。
カレはおそらくサチコちゃんの告白を受け入れるだろう。
カレはわたしの願いも叶うといいね、と言おうとしていたけど、その願いはもう叶わない。

でも、それでいいんだ。
カレが幸せになるんだったらそれでいい。
わたしの想いは叶わなかったけど、いつかわたしのところにも『ほんとうの幸い』は訪れる筈だから。
今日のところは、カレの素敵な未来を希うことにしよう。

だって、
カレの笑顔を見ることが、
わたしの幸せでもあるから。

その日、わたしは初めて
嬉しくて泣いたような気がする。

すすり泣くわたしの声を打ち消すように、波が砂を洗い続けていた。



たまにしか帰らないけど、
故郷の海は、
今でもわたしを優しく迎えてくれる。


この曲を聴いていたら、急に昔のことを思い出した。


どうやったらこんな髪型になるんだろう…


47 件のコメント
1 - 47 / 47
今日は実話で来ましたか........。
ホワイトデーも近いことだし、アオハルの想い出もいいものだすなぁ........。
ポンちゃん、可愛いとこあるのね...( ̄▽ ̄;)

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春は分かれと出会いの季節...('◇')ゞ
スレ違いですねー。
>『君の知らない人だ』
ここで違う台詞を吐いていたら、カレはサチコちゃんを選ばなかったんだろうな…
些細な一言が人生の岐路になる…
あ”、、、別れか...
だが、あながち「分かれ」でも間違いではない別れのシチュエーションもありそうな。。。💧

今も残る恋の記憶は、二度と来る事のない青春の一ページ。。。(・・;)
ぎゃ~~~~。切ない~。 
絶対両想いですよね。
なんて、控えめな。ええ人や。

>> なかっぴ さん

いちおう乙女の端くれなもんで(^^;)
可愛いとこ……
一応あったんでしょう…たぶん

>> 永芳 さん

卒業して、みんなと別れて未開の地へ…
それ以後の話は、別のスレでやりましょうか(^^ )

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

これは、これは大変失礼いたしました。
でもポンちゃんとなら、毎日楽しく過ごせそうだなー。
大酒飲みのところを除けば...( ̄▽ ̄;)

>> ob2@風邪と共に去りぬ🤧 さん

違う台詞を吐いたら、きっとカレは悩んだでしょうね
カレはサチコちゃんと幸せな家庭を築いているので、それで良かったんだな、と
あのとき吐いた一言は間違っていなかったと思っています
だって、それがカレの幸せになったんだから…

>> 永芳 さん

青春とは、過ぎ去りし日々の中にしか存在し得ないもの
だとしたら、アタイの青春は実り多いものだったのかな、と

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うわー素直になれなくてドつぼにはまる、このジレジレ感。きっとこの先もふと思い出して、あの時言ったらとか思ってベッドで暴れてふと我に返る寂寥感とか。身に覚えありすぎです。

スカウターでは桃ちゃんの乙女心56万ですよ。

写真は今日の天気です。

>> まきぴ~ さん

アタイは、故郷の町を出て大阪の大学に進学した
カレは、実家の家業(漁師)を継いだ
カレがアタイを選んだところで、結局すれ違いになって上手くいかなかったんだろうな、と今になって思います
カレは、サチコちゃんと一緒になって良かったんだって

あの時のアタイの選択は間違っていなかった
幸せそうな家族を見て、そう思いますよ(^^)

>> なかっぴ さん

毎日大宴会で…
飲み代合わせたら家計のエンゲル係数がエラいことになりますよ(^^;)
なかっぴさんの読みはドンピシャです

ゴミ出しの日に、山のような一升瓶が転がります(^^ )

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

>あのとき吐いた一言は間違っていなかったと思っています
敢えて言わせていただくと、「一言*は*」でなく「一言*も*」だと思います。
※当事者はそう客観視できないとは思いますが…

>> 杏鹿@………………………… さん

今夜、ベッドでジタバタします(^^ )
海岸の町でも、雪降る町でも乙女心は繋がっているんですね

MADADA.jpg

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

過去に囚われすぎて心の自由を失わないと良いですけどね...(~_~;)

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

ポンちゃんカッコイイ!
めっちゃイケメン。惚れてまうやろ~(;・∀・)

>> ob2@風邪と共に去りぬ🤧 さん

ですねー
知り合ってから今まで積み重ねてきた言の葉…
カレがどんな感じでそれを受けとめてくれていたんでしょうね

>> 永芳 さん

『何も言わなくて後悔するくらいなら、言って失敗した方がいい』
当時はそのことを学んだ気がしていました
後になって星の数ほど失敗したんですが、後悔はしていません
よかったと思っています(^^)

>> なかっぴ さん

どうせ振られる我が身なら
後腐れないように、綺麗にフラれようと思っただけです
格好いいものではないですよ(^^;)
ベスト、ではなく当たり障りなくベターな感じでフラれただけ
結局アタイも逃げてるんですよ

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

確かに、地元に残られるカレと大阪に来られる桃さんとは、すれ違い絶対ですよね~。 
私は、多分化石的に古風だったので、大阪に来られるカレとか、絶対お家にお招きとかできないタイプで、、、
桃さんもそんな感じで「泊めて!」に「あほかっ」って書いておられたので、その時点で、けっこうカレとは難しかったのかもしれないな~とも思いました。
間違っていませぬ! 
「なぁ、河嶋はどう思う?」

愚問の極みでしたね。

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伝わる保障はないが、伝えなければ伝わらない事がある...
前向きに生きなきゃね(^^♪

(「もう二度とこない一瞬」のかけがえのなさ♪
自分の一つ一つの選択の積み重ねが人生を形作っている)

>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

彼は 告ってるよね
アタイももちゃんは さらりと受け流した
だから サチコちゃんを選ばざるを得なかった
彼も 泣いていた

深読み?

ただ 目指す所が 違っていたから どうにもならなかったのだと思いました

結果オーライですが…………

何か せつないですね

でも いい思い出
(*´・д`)-д-)))ソゥソゥ

思い出が有る事が
すばらしいと思います✌️

ありがとうございました
ポンちゃん
心辛かったね。なんで相談役なのか?
ドラマみたいやったよー🥲🥲
ドキドキ💓しながら読んでたよぉ〜

ハカヤロウー😩
さけんだかな?

青春の頃はいつまでもいい思い出でのこしといてねー

>> まきぴ~ さん

呼び出された時点で、何かあるとは思っていました
『今日で全てが終わる』なんてね

でも、よ~く考えてみると
カレ、結構ずるいっていうか姑息(^^;)

>> parlng さん

フラれるんだ、とは思っていたんですが
『話を振られる』とは想定外……
カレのそういう不器用なところも好きだったんですけどね

>> niko6マーミー さん

誰よりも近い関係
でも、一緒にはなれない

なんか安物の青春ドラマみたいだ😄
この文章が書ける感性はなかなか結婚に縁が無いタイプですね
生涯独身の女性に多いタイプですが、それはそれで人生としては悪く無いですね
なかなか、ではなく全然です(^^;)
かわいい~~~~♡ 青春ですね!

関係ないけど、うちの娘(小6)の話をしても良いですか?
好きな男子は居ないと言っているんですけど、親の勘では多分居るんですよね。で、その男子を含むグループで毎日電話しながら、ネットゲームをしているんです。

スピーカーで話してるから丸聞こえなんだけど、たまにその男子が
男子「おい、○○(娘の名前)好きな人とかいるん?」
娘「いない!」
とか即答してるんです(笑)。

深夜に
男子「おい、○○(娘の名前)まだ起きてる~?」
娘「え?なに?」
男子「めっちゃヒマ」
娘「そういう事あるよね~」
などと二人でいちゃいちゃ会話しているのを聞いて、勝手に親の私がドキドキしています(笑)

幼児の頃から娘はその男子が好きで引っ付き回していたんですよねー娘本人は覚えてないでしょうけど。
その男子も今や声変わりして、背が高くなってカッコよく成長しています。

なんかこのスレの話見て、似たものを感じました。ステキ(笑)
> 『君の知らない人だ』
> 「…そっか。そうなんだ」
彼の気持ちを酌め…汲めていないような(・_・;)
そこは、彼に抱きついて『ここに居るよ…』が正解に近かったのでは?!?
人間誰しも甘酸っぱい思い出があるね。

 薬屋のアヤノちゃんのお話はやっぱりノンフィクションだったわけだ。

>> さと さん

好きな子いるん?って聞く時点であからさまに意識してますよね
たぶん20年後位に急に思い出して、お布団の中で悶絶しますよ(^_^)

>> ギリアム・イェーガー・ヘリオス さん

大阪に出た直後はそう思ってたんですが……
数年前にカレとサチコちゃんの幸せそうな姿を見たときに『ああ、これで良かったんだ』って……

>> じんで@肘の君 さん

(゚Д゚)

全く意識してませんでしたが、似たような感じかも…

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>> ポンコツ河嶋桃@🐢大洗女子カメ㌠🐢 さん

石橋を叩いて渡らない?!

ちゃんと渡るために叩いているのではなく、渡る意思自体があやふやなまま叩いて(頭で考えて)(結果を予測して)、特に自分が望んでいないという事を理解しているから一歩引く...その繰り返し?!


思い切って一歩前に踏み出す事で、予想だにしない新しい未来が切り開かれたりする(かも知れない)。
>俺が大阪に遊びに行くときは河嶋の家に泊めてもらってもいい?

これが、彼の精一杯の告白だったと思います。
本当に泊まりに行きたいんではなくてね。

不器用だったんだよね。 彼も、桃さんも。
席が隣、というのは、恋が生まれやすいのかもしれませんね。
中学時代はそんなことがありましたが、高校は工業高校で男子オンリーだったので、まるでそんな思い出はなく、しかし、隣だった野郎とは今でも友人として40余年付き合っており…僕も彼も未だ独り身。

そういう若い時期を、異性と過ごさなかったせい?なのか、今だ自分の周りには独身野郎がゴロゴロいまして。
。・゚・(ノД`)・゚・。

>> おれんぢ式部@🪳バル㌠🪳 さん

高校は普通科、大学から機械工学系なアタイです

当時、周りは野郎ばかりで女性はチヤホヤされていましたが……
あれ?全然その記憶がないや(^^;)
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