もう少しだけでいい、あと少しだけでいい。

心臓のカテーテル焼灼処置を受けてからかなりの月日が経過した。
あれから心臓が変にバクバクいうこともなく無事に日々を過ごしている。
ありがたいことに、周りの皆さんの助けを借りてアタイは今日まで無事に生きてきた。自分だけの力じゃない。助けてもらえなかったら、今ごろアタイはこの世にいなかったかも知れない。

退院後、何回目かの通院。
「河嶋さん、河嶋桃さん」
ありゃ？診察の順番にしちゃエラい早いんじゃ？
「身長と体重測りますね」
今頃何を言ってるんだキミは？
「あたしもよく知らないんですけど、身長と体重のバランスを見ると、気をつけなきゃいけない病気のきっかけみたいなもんがわかることがあるらしいですよ」
へえ、そうなんだ。
「じゃあ体重を」
夏から運動を全くしていなかったから体重は増えているけど、標準かちょい少ないくらいか。
「次は身長ですね」
健康診断とかであるあるな身長計。
背中をピタッとくっつけて、上下するアレを頭のてっぺんに合わせたら自動計測で数値が出てくるヤツ。
「よいしょ」
掛け声のした方向に視線を向けると、小柄な彼女が踏み台に上って頭の位置を合わせようとしている。言ってくれたら自分でやるのに…
いや、自己申告じゃダメだからキチンと測定しようとしてくれるのはわかるんだけど、その踏み台を見たらなんか凹む。

「河嶋さ～ん」
今度は診察室から。
「調子はどうですか？」
発症したときはボロボロだったけど、おかげさまで元気にやってるよ。すぐに大学病院に繋いでくれたから、ここまで回復したんだと思う。ありがとね。たまたま飛び込んだクリニックだけど、ここに来て良かった。
「そう言ってもらえて嬉しいけど、なんだかんだ言って頑張ったのは河嶋さんですからね。ここまで回復して本当に良かったと思うよ～」
ゲラゲラ笑う医師に若干の違和感を感じながら（キミから見たら毎日来る患者の一人かも知れないけど、こっちは人生の一大事だったんだ！）アタイも一緒に笑う。
「さて、これからの治療方針だけど」
まだ何かあるのか？
「再発の危険性はまだゼロではないから、あと一ヶ月だけ血栓防止のために（再発したら心臓内に血栓が発生する）抗凝固剤を飲んで下さい。薬を飲み終えた状況で、もう一回検査して異常が無かったら…歳喰った患者さんなら薬を飲み続けるんですが河嶋さんはまだお若いから（言われてお尻がムズムズした）、服薬を継続しなくても大丈夫でしょう。もう少しの辛抱、かな」

もう少しだけ、あと少しだけ。
発症してからずっと、我慢の連続だったけど……

アタイの思うように、野山を徘徊したり遊び回ったりできる。
（コロナ云々でそうはいかないかも知れないけど、少なくとも普通に生活している人と同じ土俵に上がれる）

油断は禁物。
でも、立ち止まってなんかいられない。

パンツァー・フォー！