【出張】バディとの絆

【おことわり】
挿絵にノーヘルのものがありますが、実際はヘルメットを着用して作業しています。
↓これまでの流れはこちら↓
https://king.mineo.jp/reports/159535

『ほら～、西さん起きて！朝ご飯だ』
「昨日あれだけ飲んだのにどうしてそんな元気なんですか～っ」
『早起きは社会人の基本』
「加齢と共に早起きになるって言いますもんね」
近い将来、彼女には生きていることを後悔するくらい反省してもらおう。

「いつ来ても機械室って薄暗いから、あたしあんまり好きじゃないんですよね～」
当たり前だ。日当たりのいいところに機械装置を置く莫迦はいない。社長室やメインエントランスに据え付ける奴なんて世界中のどこ捜したっていないよ。

「じゃあ始めますか！」
彼女が作業にかかろうとする。
『待った！』
「へ？」
『へ？じゃない！西さん、お借りした工具箱の中身と数を確認した？』
「してませんでした。スミマセン…」
『亡くしたり装置内に置き忘れたりしたら大変じゃん』

気を取り直して。
「スパナ、10×12ください」
クリーパー（寝転がった状態で車みたいに下部スペースがあるところへ潜り込むための、小さな車輪が付いた台みたいなもん）で潜り込んだ西さんから指示が飛ぶ。
『10×12、どうぞ』
ドラマで見る外科医と器具出しの看護師のような絶妙なコンビネーション。所長がアタイに出張を命じたのはこういうことか…この子、技術も凄いけど相方をコントロールするのが凄く上手。使われているアタイも気分が乗ってきて、作業がどんどん進む。

「あれっ」
西さんの手が止まる。
『どうしたの？』
「う～ん…一ヶ所だけボルトが固着していて、どうしても外れないんですよ」
『ちょっと代わってみ』
「え～っ。河嶋さんこの隙間に入れるんですか？」
うるせえよ。
「ヘルメットの鍔が引っかかるとか♪」
野次を無視してアタイは機械装置の下に潜り込んだ。
ごんっ。
ヘルメットの鍔で引っかかる前に、眼鏡が激突した。
ほら、アレだ。大昔に穿いてたズボンを「ウエスト入るかな～」なんて思いながら穿いてみたらウエストやお尻どころか腿の辺りでつっかえた感じ？？
爆笑する西さんに苛立ちながら、アタイはクリーパーを外に放り出すと匍匐前進の裏返しバージョンで再び潜り込んだ。
『いち、にの、さん！西さん、取れたよ！』
埃まみれになりながら出てきたアタイを西さんが羨望の眼差しで見つめる。
『こういうもんは、力任せにやるんじゃなくて、コツ。タンスを担ぐのだってプロレスラーみたいな人じゃなくても、慣れれば標準体型の引越屋さんとか家具屋のおっちゃんでも運べるでしょ』
「え～っ。家具動かすなんてリフター使えばいいし、上げるんならユニック使えばいいじゃないですかぁ」
いちいち腹立つな、この子(^^)

ふむふむ。
彼女が作業中に示した故障状況から部品の品番、工賃を拾い出す。
「あ、それで合ってます」
「そこは分解清掃・調整でイケると思います」
「このユニットはASSY交換（ユニットごと！）」
ひと通り確認したら

一気に落とし込む。
入力やらプリントアウトをやってる間、西さんは手持ち無沙汰。最終チェックまでの間、部屋をウロウロし始めた。
「お散歩してきてもいいですか？」
アタイが行きたいよ。てかもうすぐ終わるからおとなしく待ってなさい。
「テレビ観ても…」
気が散るからやめて。
「あ、エッチなチャンネルありますよ」
うるせえよ。

『マジかっ！』
二人で拵えた見積書、所長と本社共々一発承認（大抵何かしらケチがつくんだけど）。
「あたしと河嶋さんのコンビプレー？チームワーク？で瞬殺じゃないですかぁ！」
『よっしゃ、これで飲みに行けるっ！』
ここらへんはズレているけど、まあいいや。

「あれ？河嶋さん。昨日と違う店に行くんですか？」
そうそう。これが旅（仕事だ！）の醍醐味。
「ここもいいお店ですね～。食べログで調べたんですか？」
『勘』
「へ？」
『のれんはググるんじゃなくて、くぐるもの』
(`･ー･´)ﾄﾞﾔ!
「河嶋さん、もう酔ってるんですか？」
あら？不発みたい。だめだこりゃ！

『あ、アタイちょっと買い物に寄るから、先に戻ってて』
「は～い」
部屋に戻って、彼女がお風呂タイムの間に…
「ちょっと河嶋さん、なんですかコレ！昨日躓いて転んだから電源タップを養生テープで……ヤバい、超ウケるんですけどぉ！アハハハ！」
そう。買ったのは養生テープだ。そんなに笑わなくてもいいじゃん。

『では、宜しくお願いします』
滞りなく見積書を提出したアタイ達は、帰りの特急電車に揺られていた。
「ねえ、河嶋さん」
『何？シンカンセンスゴイカタイアイスなら売ってないよ』
「違います！今回泊まっていたホテルが幾ら位するのか、って思って宿泊サイトで調べてたんですけど、QUOカードつきプランとかあるんですね！このプランを予約して経費で落としたら晩ご飯代も浮いて一石二鳥…」

経理の人間にそれを言うな、あほ。