不肖ポンコツ河嶋姉弟の非日常生活・２

【前回までのあらすじ】
心臓カテーテル処置の予後がいいことを口実に、暴走一人旅を企図した愚姉を阻止せんといち早く行動を開始した優しい我が弟のお話。

蓮（弟、仮名。以下同じ）くんとドキドキな（嘘）一夜を過ごしたアタイ達は早々に宿を飛び出した。

【その１・城みちるに乗られたヤツ】
「で、桃姉どこ行くん？」
『珍しいもん食べたないか？』
「食べたいけど…何か嫌な予感する」

正解！
アタイが興味津々だったのはイルカ。歌手じゃないぞ。
何かで聞いた話だけど、イルカとクジラの区別は体長だとかなんとか。4m越えるか否かで決まるそうな。誰から聞いたかすら覚えていないけど。
4mの基準はまあどうでもいい。地元のヒト向けに少量パックが冷凍販売されてるだけだったから、余所者が食い散らかすもんではない。とっとと退散。

【その２・廃墟】
「なあ、桃姉」
『ん？』
「串本の海中公園過ぎた辺りから、なんか廃墟っぽい建物多くない？」
『高度経済成長期時代に、中流家庭は皆家族旅行！レジャー！みたいな時代があったから、その頃に立ったモノかも知れへんね。ニーズの変化とか時代の流れについていけずに潰れちゃったんかも。今はスキューバダイビングとかあるけど昔はみんなが「海！景色！泳ぐ！海鮮！」やったからね。飽きられてもしょうがないんちゃう？』
「桃姉の頃も…」
『あほっ！アタイが知ってる海言うたら桜（妹）とアンタと婆ちゃん（母方。瀬戸内の島にいた）の家に行ったときしか知らんわ！』

【その３・恋人岬】
「桃姉、僕をこんなところに連れてきてどないするつもりやねん。ていかここがどうやったら恋人と繋がるんか意味わからん」
『よう見てみ。波が左右からぶつかり合っているやろ。恋人同士お互いの想いをぶつけ合うみたいなんが由来らしいで、よう知らんけど。詳しく知りたいんやったらググるか観光マップでも貰っておいで』
「僕よりも桃姉…痛ててててててっ！首絞めるんは反則や！ごめん、ごめんって！！」
『わかれば宜しい。で、蓮はどうなの？病院勤めなんだから女の子は沢山いるんじゃないの…恋人の一人でもいるんじゃね？』
「ん～。食堂でお昼ご飯一緒に食べたり、たまにお弁当作ってくれる子はいるけど」
本人は気づいていないかも知れないけれど、その子は明らかにキミに好意を抱いている。そこに早く気づけ莫迦者！
『で、それ以外は？』
「鬼滅の映画見に行ったりとか…」
『グズグズしてたら他の子に先越されるで』
「あ、そうか。それで桃姉」

その後、恋人岬に似つかわしくない悲鳴が上がったのは言うまでもなく。

【その４・すさみ～おうち】
（若かりし頃、前後不覚になるくらい酔っ払って大阪市内から夜中発の海釣り列車に乗り込んで周参見駅まで乗り過ごしたことがある。紀伊半島恐るべし。両親と会社にメチャ怒られた）
紀勢自動車道が一部開通してからずいぶん便利になった。
道の駅？でお土産的な物を買い込む。
「桃姉、なんでこういうところで野菜とか買い込むの？」
アタイは蓮の方を見て微笑んだ。
『昨日、今日と付き合ってくれたんだからお礼ぐらいちゃんとするから。今晩おうちでご飯食べて行きなよ』
「そういうことかっ！」
そういうことだ。あと、お正月用になんやかんやと買い込んで車に積み込む。
「桃姉も疲れたやろうから、そろそろ僕が運転交代するわ」
遠慮しながらも実は結構ヘトヘト。助手席に乗り込んだアタイは、あっという間に寝落ちした。

ふと目が覚めかけた時。
運転しながら蓮がブツブツ呟いている。
「無茶するのはエエけど、もし怪我でもしたらどないすんねん…桃姉の代わりになるヒトなんか何処にもおらんねんから…」

蓮、本当にありがとね。
アタイは暫く寝たふりをしながら、彼の言葉をひとつひとつ噛みしめていた。

（おしまい）