養子。

心房細動、っていう奴のせいで休みの日は何にも出来ない。
兎に角しんどくて何もせず寝たまま。クリニックの医者曰く『しんどい？血流が最大で三割近く減るからそんなもんです。無理しないで下さいね』だとさ。
というわけで、一日ゴロゴロしたまま過ごす。手許のスマフォかベッド付属の小さなテーブルに置かれたノーパソ（めちゃ軽いから重宝している）に向かう一日。
なので本日も宜しければグダグダ話にお付き合い下さいね。

世の中には、困ったヒトがいる。
中途半端な知識を身に付けて、莫迦の一つ覚えみたいにあちこちで披露する奴。

アタイの実家は、所謂『本格派』のホの字もない町中華料理屋。一応駅前から続く道沿いにあるんだけど、わざわざ車でなんか誰も来ないし、近隣に大きな会社があるワケでもないから必然的にお客さまは近所のおっちゃんおばちゃんばっかり。
陽気にワイワイやってくれるのはいいんだけど、隣近所のプライバシーも何もない。客同士で話題になるのは近所の噂話かエロトークばっかり。

ある日、高校の同じクラスに、英里ちゃん（仮名）という女の子が転入してきた。田舎の学校で転校して来るって案外珍しい。英里ちゃんとはすぐ仲良しになって一緒にお弁当食べたりしてた。懐かしいな～。
それから何ヶ月かしてからだったと思う。アタイはいつものように町中華のお手伝い。今日も繰り広げられるグダグダ噂話。その中で、英里ちゃんの話が出た。
『あの子な、お父ちゃんのホンマの子とちゃうんやて。奥さんの連れ子とか養子らしいで』
だからどうした。英里ちゃんは優しくていい子だ。いつも家族のことを楽しそうに話してくれる。
法律上親子で、仲良く暮らしてんだったらそれの何が悪い？
閉店後、父ちゃんが呟いた。
「さっき話題になってた英里ちゃんって桃の同級生の子か？」
そうだよ。英里ちゃんが養子だからって明日会ってもなんにも変わらない。英里ちゃんは英里ちゃんだ。
「連れ子だの養子だのって話、俺はどうも好かん。桃はどう思う？」
アタイも好かん。そもそも夫婦だって血縁ないし。
「桃に一つエエ言葉を教えたる。

『盃は血よりも濃い』

っていうやろ？血が繋がってても憎しみあうより、望んで親子になる方がよっぽど幸せ、やで」

父ちゃん、今すんげえ良いこと言ったつもりなんだろうけど、盃とかナントカってそれは任侠の世界だ。意味と使いどころを完全に間違えてるから……

その時曖昧な笑みで返したアタイは、本日に至るまでその間違いを訂正出来ずにいる。