「あなたにとっての歌姫は」と聞かれて。

彼女の存在を強く意識し始めたのは1982年-中学1年生の時だった。


時はバブル前夜、80年代の訪れとともに、ジャイアンツの聖域4番バッターは世界の王貞治から若大将・原辰徳に継承され、70年代後半お茶の間を席巻していたピンクレディ、キャンディーズ、 山口百恵が相次いで解散・引退し、代わって松田聖子、中森明菜らのアイドル全盛期。クラスの男子達は、やれ聖子派だの明菜派だのと言い争い、女子達はたのきんトリオで盛り上がり、ベストテン番組の1位予想と、土八ひょうきん族のシュールなお笑いネタが話題の中心だったあの頃。 ビーバップよろしく中学生デビューのヤンチャ男子は、プロレスやカンフー映画に影響されて挌闘ゴッコの真似ごとから一転、熱くなり過ぎて喧嘩沙汰なんてのは日常茶飯事。パソコンやスマートフォン、インターネットのない時代に思春期を過ごした俺達は、テレビやラジオと云ったメディアに多いに影響されながらも、ゆるい時代を過ごしていた。


そんな折にふと耳にしたのが、ラジオの深夜放送から流れて来る聞き慣れない奇抜なハイテン ションボイス。歌の印象から彼女には暗いイメージしか抱いてなかった俺は、軽妙な話し口調のギャップに驚かされたのと同時に、彼女の楽曲の本質を知るようになる。誰にも経験があるであろう思春期の心の隙間にぽっかり空いたパーツを埋めるように、その楽曲達が深く染み込むのに時間は要さなかった。大人の恋愛の歌、悲恋にどっぷりハマる歌、決意の歌、故郷を偲ぶ歌、風刺の効いた応援歌など、実に多彩でありながらそのどれもに深い情景を思い浮かべる事ができた。ベストテン番組で流れる流行歌でもなく、アーティスティックで独特な世界観を持つ彼女の歌の魅力に俺は取り憑かれてしまった。あれから40年、大人になった今でも色褪せる事はなく彼女の歌は心に響いてくる。当時を懐かしみ浸りたいわけじゃあなく、いつまでも変わらぬものと常に進化するものとの共存が程よく心地良い。俺にとっての歌姫は『中島みゆき』その人である。~永遠の歌姫を唄ってくれ~