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「汗をかいた笑顔」の絵文字、汗の量は何ミリリットル? 数学のお兄さんに聞いた

「汗をかいた笑顔」の絵文字、汗の量は何ミリリットル? 数学のお兄さんに聞いた

たかや
ライター: たかや
1993年生まれ。ライター。記事の撮影はスマホのカメラを使うことが多いので、スマホがないと生きていけない。

こんにちは、ライターのたかやです。

SNSでコミュニケーションを取る我々にとって「絵文字」の存在は欠かせません。

とくに、「汗をかいた笑顔」の絵文字はおなじみですよね。おじさんが使いがちな「おじさん絵文字」として認知されているアレです。

僕もこの絵文字を何度か使用したことはありますが、ふと気になりました。

この「汗の量」どれくらいなの!?

パッと見ただけでも「汗の塊」としてはかなりの大きさです。

「トホホ…」と苦笑してるけど、いやこれ、

身体現象として、だいぶヤバイことが起きてない!?

こんなデカイ塊を一瞬で発汗しちゃって大丈夫なの!?

「トホホ…」じゃ済まない致死量なんじゃ!?


それでは、さっそく問題を問いてみましょう!

むかしから数学が苦手で、四則演算くらいしかできない僕ですが、自分なりに「汗の量」の算出を試みました。

数学が苦手な僕でも、1つだけ分かったことがあります。

「確実に間違っている」ということです。やはり素人の手には負えませんね。

そこで今回は、数学の専門家に協力してもらいながら、「汗をかいた笑顔の絵文字」の“汗の量”を算出してみようと思います。

「数学のお兄さん」に協力してもらおう

数学の専門家・横山さんの登場です。

横山 明日希(よこやま・あすき)
早稲田大学大学院数学応用数理専攻修了。株式会社math channel代表。日本お笑い数学協会副会長。数学の楽しさを伝える「数学のお兄さん」として、数学×恋愛…数学×お笑いなど、「数学」をより身近にするための講演やイベントを開催している。著書・『笑う数学』(KADOKAWA)、『文系もハマる数学』(青山出版社)、『数式図鑑』(ブルーバックス)など。
Twitter ID:@asunokibou

横山さんは、Twitter上でもユーモアあふれる数学雑学を投稿されています。

僕は「なんで10のあとにビックリマークが? 数字って驚くの?」と一切わかりませんでしたが、とにかく横山さんなら、今回の問題も解決に導いてくれるハズ!

どうやって汗の量を算出するの?

たかや
そもそも、「汗の量」の算出は可能でしょうか?
横山さん
可能です。しかも、そんなに難しくないですね。
たかや
そうなんですか!? 僕はどこから手をつけていいのかすら分からなかったのに…。
横山さん
そこから整理しましょうか。今回、計算の順序は大きく分けて4つです。

たかや
おぉ…わかりやすいですね!
横山さん
では、順を追って説明していきましょう。

①絵文字の顔を、人間の顔に置き換える

横山さん
まず、この絵文字だと、顔がまん丸で現実的じゃありませんよね?
たかや
たしかに。鼻もないし。
横山さん
なので、原寸大の人間の顔に置き換えて、現実的な数字を求めていきましょう。

横山さん
つまりこういうことです。
たかや
気持ちわるッ!
横山さん
算出するにあたって、この顔を平面的に見たときの「縦幅」と「横幅」が必要です。たかやさん、ちょっとご自身の顔の大きさを測ってみてもらえますか?
たかや
あ、はい。わかりました。
たかや
定規で測ってみたところ、縦が21㎝、横13㎝でした。

横山さん
顔の大きさは人によって異なりますので、今回はたかやさんの顔をモデルにします。
たかや
検証のためだから仕方ないとはいえ、僕が「おじさん絵文字」の代表みたいになって複雑だ。
横山さん
顔のサイズが決まったので、次は汗のサイズを求めましょう。

②汗の形を分解する

横山さん
サイズを求める前に、「汗の形」をどう捉えるかで悩みますよね。
たかや
はい。「汗みたいな形の求め方」なんて授業で習ってないし。
横山さん
なので、ここは思い切って図形を2つに分解します。

横山さん
このように、片方は「円錐(えんすい)」に、そしてもう片方は「球冠(きゅうかん)」という形になります。
たかや
円錐は知ってるけど、球冠は初めて聞きます。
横山さん
「球冠」とは、半球よりも球体に近い立体のことです。ひっくり返すと王様の冠みたいじゃないですか。なので「球冠」と呼ばれています。
たかや
へ~。この形にも名称があったとは。
横山さん
つまり、この「円錐」と「球冠」の体積を足せば、今回の答えである「汗の量」を算出できます。

③分解した汗それぞれの体積を求める

横山さん
この顔の横幅に、汗の塊が何個ぐらい入るかをざっくり考えると…

横山さん
大体4つ分ぐらいですね。
たかや
え? ちょっと待ってください。「ざっくり」とか「大体」とか、数学って、そんなアバウトでいいんですか?
横山さん
たかやさんは「フェルミ推定」という言葉をご存じですか?
たかや
もちろん。知りません。

横山さん
例えば、「一生のうち、トイレで過ごす時間はどれくらい?」といった問題がフェルミ推定です。拙著『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』もよろしくお願いします!

たかや
さりげなく宣伝を入れた!
横山さん
今回はあくまで「正解がない答え」を出します。なので、材料となる値も目算でざっくりと決めるしかないんですよね。算出した答えが明らかに現実的じゃなければ、そこから誤差を調整していけばいい…っていうのがフェルミ推定の考え方です。
たかや
へぇ〜。面白いですね。
横山さん
フェルミ推定の良いところは「解決の道筋がひとつではない」ということ。世の中のいろんなことを俯瞰的に見るための訓練にもなるので面白いですよ。

横山さん
さて、話を戻しましょう。
横山さん
「顔の横幅13cmに、汗は4つ分ぐらい入る」と考えると、13÷4=3.25。端数は切り捨てて「3」としましょう。つまり、球冠の直径は3cm。
横山さん
そして、球冠の直径と、円錐の高さがパッと見で同じなので、

横山さん
円錐の高さも3cmとします。

横山さん
円錐の底面は3cmはないけど、さすがに1㎝よりは短くないので、2㎝にしようかな。
たかや
ほんとにざっくり計算してる。でも、それぐらいのほうが数学苦手な僕でも安心します。
横山さん
あとは、円錐の体積の公式「底面積×高さ÷3」に当てはめて考えると、

横山さん
汗の上半分(円錐)の体積は、3.14㎤です。
たかや
おぉ、あっという間に!

たかや
体積の公式とか久しぶりに聞いたな~。
横山さん
円錐なら中学3年生で習いますからね。では、同じように「球冠」の体積も求めていきましょう。

横山さん
これが「球冠」の体積の公式です。
たかや
呪文???

急に高度な計算式が出てきて笑うしかない

たかや
さっきまで「これなら僕でもイケる?」の気分でしたが、一気に突き放されました。
横山さん
複雑に見えますが、やることは簡単です。球冠の高さ(h)半径(r)さえわかれば、あとは公式に代入するだけなので。

横山さん
半径(r)は、円錐の底面の半径と同じ長さなので「r=1」がすぐ出ます。あとは、高さ(h)の値ですね。
たかや
おお…。

横山さん
ここで活躍するのが、中学三年生で習った「三平方の定理」です。
たかや
あ~、その「aの二乗」とか懐かしい。

横山さん
で、aは先ほどの円錐の底面の高さと同じなので「a=1」。そしてcは球体の半径と同じ長さ。球冠の長さは3cmと仮定したので、その半分、つまり「c=1.5」です。
横山さん
a(=1)とc(=1.5)を「三平方の定理」に当てはめて計算すると、b≒1.1となります。
横山さん
なので、b(=1.1)と球冠の半径(=1.5)を足せば、2.6。つまり、球冠の高さ(=h)は2.6となります!
たかや
……。
横山さん
たかやさん、大丈夫ですか?

たかや
あ、すいません。久々に頭を使ったせいか、鼻水が大量に出てきて。
横山さん
どういう体質なんですか?

横山さん
求めた高さ(=h)を、体積の公式に当てはめて計算すると……
横山さん
球冠の体積は13.45㎤ですね!

④求めた体積を足す

横山さん
あとはもう、円錐の体積(3.14㎤)と球冠(13.45㎤)を足せば…
たかや
足し算…! それ知ってますぅ…!

横山さん
汗の量は16.59㎤(=16.59mL)です!
たかや
うおぉ! やったー!
横山さん
がんばりましたね、たかやさん!
たかや
はい! 正直、終盤は追いつくのに必死でしたが、なんとか…。

本当に16.59mLでいいのか?

横山さん
算出できたのですが、ただですね…
たかや
ただ?

横山さん
この答えだと、美しくないですよね。
たかや
へ?
横山さん
16.59mLって、大さじ1くらいの量なんです。
たかや
そう考えると、そんなに多くはないですね。
横山さん
汗のサイズと、顔のサイズを比較して考えてみると、どう考えても「大さじ1」以上の量があります。

横山さん
概算が間違っていたかもしれませんね。先ほどは「顔の横幅に汗がどれだけ入るか?」で計算しましたが、

横山さん
「縦幅」で計算しなおせば、また違った結果が出ます。
たかや
……つまり?
横山さん
もう一度計算し直しましょう。
横山さん
縦幅基準で考えると球冠の直径も5cmぐらいになるので、そうすると半径が2.5cmで、円錐の底面の半径を2㎝ぐらいになり、そこから高さを6㎝と見積もれば円錐の体積は25cmとなって、球冠の高さは4cmになって、あとは公式に当てはめれば…
たかや
また鼻水出てきました。

横山さん
83.76mLです。
たかや
スゴイ…! 一気に増えた…!
横山さん
さきほどの「16.59mL」よりも納得のいく量ですし、これを結論としましょう。

こうして、この世界に新しい答えが生まれた

たかや
ただ、数字を見てもいまひとつピンとこないんですが…。
横山さん
私は汗の専門家ではないのでハッキリと言えませんが、数学的に考えても、結構すごいことになってますよ。

「83.76mL」は大体これぐらいの量

横山さん
人の「顔だけ」の表面は身体全体の中で3~5%を占めているらしいのですが、頭皮部分を含めても、多く見積もって10%くらいが顔付近の表面積であるとします。また、人が一日にかく汗の量は「700〜1000mL」とも言われています。つまり「83.76mL」は、人が一日にかく汗の大体10分の1になります。

たかや
そう考えると、結構な量ですね。
横山さん
そして、顔だけ汗をかくというのは考えにくくて、当然全身から出てますよね。「顔だけで約80mL」なら、全身からは「800mL」もの汗が同時に出ている計算にもなる。
たかや
くそヤバイですね。
横山さん
しかも、この絵文字では「一瞬で」汗をかいているので「顔から一瞬で、一日でかける汗の量を分泌している」って見方もできます。
たかや
じゃあ、この絵文字を10個連続で打ったときには…

横山さん
顔からは約800mL、身体からは8Lの汗が出ている計算になります。
たかや
出すぎ。

まとめ

というわけで、無事「汗をかいた笑顔の絵文字」の“汗の量”を算出できました。もしかしたら、世界初の試みかもしれません。

横山さんいわく、「今回はあくまでも概算なので、もっと厳密に計算すれば答えも違ってくる」とのこと。なので、「この記事での見解」程度に留めておいてください。

そして、今後LINEなどでこの絵文字が送られてきた際は、

「コイツ、実は一瞬ですげぇ量の汗をかくヤバい奴なんだよな」

と思ってもらえると、絵文字も喜んでくれるのではないでしょうか!

以上。

(編集:ノオト


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304 件のコメント
255 - 304 / 304
数学苦手ですが面白かったです!
フェルミ推定は日常生活で使えそう。
大変、参考になります!!
かなりマニアックな算出。でも、それらしい答え、83.76mL、人が一日にかく汗の大体10分の1。。。かあー。
大変、参考になります!!
くだらないけどすごいですね
着眼点にいつも驚きます笑
面白かったです✨
面白かったです。
面白かったです。有難うございます。
予想以上に専門的で面白かったです!
難しかったけど面白かったです!!
こういうの面白いです。
面白かったです!
よー、わからんかったなー。
😅気になってました笑
とても分かりやすかった
参考画像が絶妙に気持ち悪くて笑いました🤣
おもしろかったです!子供と拝見させてもらいました^^
面白かったです笑笑
すでにタイトルだけで引き込まれました。
またアホなことを真剣に検証するこのコーナーが大好きです。
ということで😅の汗の量はわかりました。
次は🤣の涙の量、お願いします😊
すごい計算ですね!何事も真剣にやるのがおもしろい!
しょうもなさがちょっと笑えました😅
イグノーベル賞に推薦されそう。
おもしろい!この絵文字よく使います笑
おもしろい!!よく使う絵文字ですが、これを見て汗の量は〜?なんて発想が浮かびませんでした。脱帽です😅
(^ ^;Δ フキフキ ←顔文字だとどれくらい?笑
素晴らしい
おもしろい!
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#マイネ王9周年おめでとう!
楽しい記事ありがとうございます。
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